大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
タブレット/スマートフォンの戦略生産拠点、富士通周辺機を訪ねる
~先進的な自動化ラインで高品質、高効率を実現
(2014/7/9 06:00)
富士通周辺機株式会社は、富士通のタブレット、スマートフォン、PC周辺機器などのユビキタス機器を製造する富士通100%出資の子会社だ。2014年4月からは、栃木県大田原市の富士通モバイルフォンプロダクツを吸収合併。同社のスマートフォンの生産は全て富士通周辺機で行なわれることになった。
タブレットの生産を開始したのは2010年8月。現在もタブレットやコンバーチブル型PCの主力生産拠点として、最上位機である「ARROWS Tab QH77/M」などの生産を行なっている。そして、同社の特徴は、生産拠点には珍しく、設計、開発機能を持ち、製造、サポートまでの一貫したモノづくりを実現できる点だ。また、ロボット導入による徹底した自動化を推進している点も特徴。自動化によって、ほかの生産拠点に比べて、生産性を2倍に高めるという成果もあげている。このほど、富士通周辺機を取材する機会を得たので、同社の取り組みを追ってみた。
今年30周年を迎えた富士通周辺機
大阪・伊丹空港から高速道路を使って約50分。兵庫県加東市ののどかな田園風景の中に、富士通周辺機はある。
最寄りの駅はJR加古川線の社町駅。日中は1時間に1本が停車するだけであり、しかも富士通周辺機までは1km以上の道のり。東京や大阪市内、神戸からアクセスするにも、近くに中国自動車道の滝野社インターチェンジがあるため、自動車の方が便利な場所だ。
富士通周辺機が設立されたのは、1984年4月。今年(2014年)で設立30周年を迎えたところだ。
もともとはメインレーム用のディスプレイサブシステムの開発、製造を目的に設立された拠点であり、兵庫県明石市の富士通明石工場内に開発部門を設置するとともに、本社工場として加東市に製造拠点を設置。設立当初から開発と製造の両輪を持つ体制としたのが大きな特徴だ。
1986年には、プリント板の製造を開始、1987年にはレーザープリンタおよびインパクトプリンタの製造を開始。1994年からは液晶ディスプレイ装置の製造も開始した。
さらに、1997年には、富士通が全国5拠点に展開しているリサイクルセンターの1つとなる富士通西日本リサイクルセンターを開設し、使用済みIT機器のリサイクルを行なっているほか、2002年には富士通西日本テクノセンターを開設し、PCの修理事業を開始した。
また、2007年には、携帯電話の製造を開始。2008年には携帯電話のリペアセンターを開設し、携帯電話の修理業務をスタート。さらに2010年からはタブレット端末の生産を開始し、現在は、主力生産製品の1つとして、Windows搭載タブレットの上位モデル、Windows搭載コンバーチブル型ノートPC、Android搭載タブレットの生産を行なっている。
2014年4月には、富士通モバイルフォンプロダクツを吸収合併。同社のスマートフォンの生産は全て富士通周辺機が行なわれるようになった。
いまや、富士通のユビキタス事業において主力拠点と言えるポジションを担っているのが富士通周辺機ということになる。
加東市、明石、那須の3拠点体制
現在、富士通周辺機は、タブレットやスマートフォン、ディスプレイの開発、製造を行なう兵庫県加東市の本社工場のほかに、富士ゼロックスからのODMにより生産を行なっている高速連帳プリンタや、各種製造設備、各種試験装置の開発および製造に加え、精密部品加工などを行なう兵庫県明石市の明石事業所。携帯電話の修理を行なう栃木県那須の那須分室の3拠点体制となっている。
本社工場の敷地面積は75,980平方m。延床面積は34,960平方mの規模だ。また、明石事業所は、184,000平方mの敷地面積を持つ富士通明石工場の東1番館の一部と、東3番館、4番館、中9番館を使用。富士通周辺機が利用している延床面積は21,836平方mとなっている。那須分室は、185,000平方mの敷地を持つ富士通那須工場内の第2棟の一部と第3棟を使用。携帯電話のリペアセンターとして延床面積11,574平方mの規模で運営している。
開発、設計機能を持つ製造拠点ならではの強みとは
先にも触れたが、富士通周辺機の最大の特徴は、開発、設計機能を持った製造拠点であるという点だ。
一般的に製造拠点と言えば、製造機能だけを持ち、開発機能は持たない。富士通のPC事業に関しても、開発、設計機能は川崎工場(工場といっても今は製造機能はない)が持ち、島根富士通、富士通アイソテックが製造を行なうという分業体制となっている。
しかし、富士通周辺機の場合は、1984年7月に開発部門を設置。それから10カ月後の1985年5月に製造部門を設置しており、むしろ開発部門が先にできている。現在も800人の社員数のうち、約300人が開発者。そのうち、約200人の開発者がタブレットやスマートフォンなどのユビキタスプロダクト事業に携わる。
富士通周辺機の岡野年雅社長は、「1980年に入ってから、富士通グループでは、関西地区の優秀な技術者の獲得を積極化してきた。それを土台にして、富士通周辺機が明石工場内に開発部門を設置し、ディスプレイサブシステムの開発から製造までを担う拠点としてスタートした。その後、20年以上に渡り、開発者を採用し続けてきた。開発と製造を持つメリットは、当社ならではの特徴と言え、長年に渡り、大きな強みになっている」とする。
実は、富士通周辺機が携帯電話の生産や、タブレットの生産を担うようになった背景は、開発部門を持っていた体制を抜きには語れない。
2007年、富士通の川崎工場から突然の依頼があった。
「FOMA対応の携帯電話事業を立ち上げるために、開発に協力してほしい」。
川崎工場の開発者が、既存の通信方式であるPDC対応の携帯電話の新製品開発に追われる中、新たな通信方式であるFOMAに対応した携帯電話の開発人員が不足。その開発を富士通周辺機の開発者に託したわけだ。
現社長である岡野氏を中心に約80人の開発者が、急遽、川崎工場へ長期出張し、ここでFOMA対応端末の開発に取り組んだ。当時、200人の開発者を擁していた富士通周辺機の約4割が、川崎工場へ移っていった計算になる。
富士通周辺機に白羽の矢が立ったのは、ディスプレイ装置やプリンタの開発でエレキやメカの技術を持っていたのに加えて、表示に関する技術、そして、ファームウェアの開発技術を持っていた点が見逃せない。ハードウェア、ソフトウェアに関する技術を1カ所に持つユニークな拠点であったことが、川崎工場の目に止まったのだ。
そして、開発を終えた富士通周辺機の開発者たちは、加東市に戻ったが、同時に、携帯電話の生産も請け負うことになったのだ。
現在、富士通周辺機の携帯電話の生産ラインは12本。NTTドコモ向け、au向け、ソフトバンク向けの生産を行ない、月産45万台の生産能力を持つ。基板製造から、組立、試験、梱包までの全工程をインライン化し、現場で考案した治具の積極採用とともに、自動化を推進。MADE IN JAPANの製造拠点ならではの高品質とともに、効率生産体制を実現している。
富士通では、「那須で生産していた携帯電話の生産ラインを、富士通周辺機の自動化ラインに集約し、これを携帯電話の全製品に展開することで、生産性を2倍にできる」とする。
自動化などの取り組みが、コスト高と言われる日本でも、高い生産性を発揮することに繋がっているわけだ。
携帯電話の実績をもとに、2010年からはタブレットの生産を開始。ここでも富士通周辺機が持つ柔軟性が活かされている。
現在、携帯電話の一部生産ラインを活用し、Android搭載タブレットを生産しているほか、Windows搭載タブレットに関しては、別フロアに置かれた2本の生産ラインを活用して生産している。Android搭載タブレットを携帯電話の生産ラインで行なっているのは検査装置などがそのまま流用できるためだ。
ここでも基板製造からの一貫した生産体制と、自動化による成果が上がっていると言う。
携帯電話事業を統括する富士通モバイルコミュニケーションズの社長も務める、富士通 ユビキタスプロダクトビジネスグループ長の齋藤邦彰執行役員常務は、「富士通周辺機を一言で表すとすれば、悪く言えば雑食であること。多様性を持ち、多能工が多く、そしてさまざまな技術が入り交じり、開発と製造とが一体化したダイバーシティも実現している拠点である。技術力、高品質といった点で、信頼感を持って任せることができる拠点」と評価する。
富士通周辺機の高橋英明執行役員常務も、「開発部門と製造部門との連携による一貫したモノづくりによるコンカレント設計体制が当社の強みだが、それ以外にも、メインフレームのディスプレイシステムで事業をスタートしたように、基幹システムで求められる高信頼性を実現するモノづくりの一方で、コスト重視のコンシューマ製品の開発、製造ノウハウも持ち、多品種少量生産にも、量産にも対応できる。また、ライン設計やモノづくり設計、付加価値設備の整備といった製造ソリューションも提案できる。そして、解析技術、シミュレーション技術、高密度実装技術、品質工学や各種検証ノウハウにも強みを持つ。柔軟性が富士通周辺機の特徴だ」と胸を張る。
実際、Android搭載タブレットなどは、富士通周辺機で開発され、基板製造も行なわれ、組立に関しても独自の生産装置で生産された、上から下まで「MADE IN 富士通周辺機」と言えるものだ。
富士通グループの中でも、ユニークとも言える多様性と柔軟性を持つのが富士通周辺機の持ち味だ。
いち早く自動化に着手した富士通周辺機
富士通周辺機の特色の1つに挙げられるのは、生産ラインの自動化にいち早く着手している点だ。
生産ラインでの自動化は、携帯電話やタブレットにおいて促進されているが、その自動化率は、全世界のIT機器の生産拠点と比べても先進的だと言えるだろう。
“らくらくスマートフォン”では、2013年度第2四半期時点では自動化率が22%であったが、2014年度第2四半期時点では45%に引き上げるほか、2015年度第2四半期には70%にまで自動化率を高める考えだ。
また、Windows搭載タブレットの現行機種である「ARROWS Tab QH77/M」の生産ラインにおける自動化率はすでに47%に達しており、今後、これを67%にまで引き上げる計画を打ち出している。
「Windows搭載タブレットの自動化率は5割近いが、Windowsコンバーチブル型PCの場合の自動化率はまだ20%。今後の自動化の適用目標率は、対象PCの生産物量を基準とした投資対効果を総合的に判断しながら、引き続き検討、推進を図っていくことになる」と同社では語る。
富士通周辺機が自動化にいち早く着手できた背景には、やはり開発部門を社内に持っていた点が見逃せない。
同社では、量産製造ノウハウを持つ第一事業部と、すりあわせ技術や品質保証技術を持つ第二事業部、メカトロ開発の技術を持つ開発統括部から選抜したエンジニアにより、自動機ビジネス部を設置。自動化に向けた専任体制を確立している。
自動機ビジネス部では、げんこつロボットと呼ばれる手先のように動作するパラレルリンクロボ、腕が動くように動作するアームロボ、ネジ締めなどに利用する直道システムといった複数の自動化装置を活用し、部品のシール貼りや、板金マウント、基板分割、ネジ締め、最終試験などに活用している。一部の工程においては、複数のアームロボットを活用したり、異なるロボットを組み合わせた生産も行なっている。
「ロボットそのものは市販されているものだが、それをどう組み合わせて、どう制御するのかといったところに当社のノウハウが集約されている。人間は間違うということを前提に、複雑な組み付け工程や検査工程といった自動化した方が品質が向上する点、あるいは異なる製品を流す場合の段替えの際にも効率性が高まる点などから、自動化を図っている」(富士通周辺機の高橋執行役員常務)とする。
そして、「自ら開発部門を持つということは自動化装置の開発にプラスとなるだけでなく、生産する製品の開発段階から、自動化に向けた検討を開始できる点が大きい。開発部門が活用しているVPS、生産部門で活用しているGP4といったITシステムを連携されることで、3D CADデータを共有し、設計段階から、量産化、自動化に向けたシミュレーションを行なうことで、最適化した生産準備が行なえる」(同)という点も、自動化の推進には欠かせない要素だ。
シミュレーションでは、自動化装置そのものの効果を事前検証することができるだけでなく、手作業を行なう作業者との連携によって、どのような生産ラインを構築すれば、効率的な生産ができるのかといったことも検証できる。
同社では、こうした自動化ノウハウを他社にも提供していく考えで、設計・製造受託サービスの1つとして、自動化製造設備のODMも開始している。
ウェアラブル機器の生産も視野に
設立から30周年を迎えた富士通周辺機では、経営理念として「確かな技術に感動のせて」を掲げた。ここでは、「我々は開発と製造を持つ利点を活かし、お客様、そして自らも感動する製品を作り続けます」とし、今後も開発と製造の両輪の強みを活かす姿勢を見せる。
富士通周辺機の岡野年雅社長は、「本社工場で生産する小型のものから、明石事業所で生産する大型装置まで、開発から一貫したコンカレント設計体制はこれからも継続していくことになる」と前置きし、「富士通のユビキタスビジネスの重要な拠点として、今後はウェアラブル機器などにも挑戦していきたいと考えている」とする。
また、「現在は100億円規模に留まっている富士通向け以外の自主ビジネスも拡大していきたい」とする。ここでは、精密加工や最終製品のモノづくりにおける生産受託だけでなく、ネジ締め機などの製造現場向けの自主開発製品、自動化ソリューションの事業拡大も視野に入る。
富士通周辺機は、その生い立ちから自己完結型のビジネスを推進できる点が強みとなる。それが他の生産拠点とは異なる点であり、だからこそ国内生産の体制でも生き残りが可能となっている。
この強みは、富士通のタブレットやスマートフォンの開発、生産にもプラスに影響している。富士通周辺機というユニークな存在が、富士通のタブレット事業、スマートフォン事業の競争力を高めることに貢献しているのは明らかである。