大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

BulldozerコアとAPUをテコに市場シェア倍増を目指す
〜日本AMDのラザリディス社長に聞く



ニック・ラザリディス社長

 「今後2〜3年で、日本国内におけるシェアを倍増させたい」−−。日本AMDのニック・ラザリディス社長はそう語る。今年1月にはFusion APU製品群をラインアップ。ここにきてBulldozerコア採用製品の投入へと続き、市場からの注目が高まる日本AMD。今年7月にはエンタープライズ事業本部を新設し、法人向け営業体制を強化することで、今後の日本におけるビジネス拡大にも強い自信をみせる。だが、8月からは米国本社のCEOが交代するなど、新たな経営体制への変化も気になるところだ。

 昨年(2010年)11月に社長に就任してからまもなく1年を迎えようとしている日本AMDのニック・ラザリディス社長に、新体制を迎えたAMDの現状と、同社の日本における取り組みについて聞いた。

−−2010年11月に社長に就任してから1年が経過しようとしています。この1年間、日本AMDの社長として、どんな点に力を注いできましたか。

ラザリディス 最も注力してきたのは、本社が掲げるグローバル戦略を、日本の中でもきちんと実行していくという点です。

 日本はAMDにとっても重要度が高い市場です。この市場において、優秀な人材を獲得し、さらに社内の優秀な人材を育成していくことに力を注ぐ一方で、大手ベンダーのほか、中小規模のリセラーなどを含めたパートナーとの関係を強化してきたことも、この1年の取り組みにおいて重要なポイントでした。

 また、ブランド認知度を高めるということも重要な要素ですが、単にAMDのブランド力を高めるだけではなく、ソニー、東芝、富士通といったパートナー企業が当社製品を利用することで成功していただくこと、パートナーが発売するPCを利用するエンドユーザーに、よりよい体験をしていただくことに主眼をおいた。つまり、どんな形で、我々の製品を搭載したPCを使用していただいたのか、それによってどんな価値を提供できたのかということを重視してきました。CPUそのもののスピードや、周波数の競争という観点からの訴求も大切ですが、むしろ、CPUとGPUを組み合わせたことによるメリットを提案してきたのもそのためです。

−−それらの活動成果はどうなっていますか。

ラザリディス もちろん、日本国内におけるシェア拡大、売り上げ拡大、利益の計上という点は、私にとっては重要な指標です。例えばシェアという点から見てみましょう。調査会社のIDC Japanによると、2011年度第2四半期の当社の市場シェアは7.3%となりました。これは第4四半期から第1四半期への成長率よりも高い成長率を記録した結果です。また、日本AMD全体でみたCPUの出荷台数は50%増と大幅に伸びた。市場全体では4%増の成長ですから、当社は10倍以上の成長を遂げたといえます。

 さらに、日本AMDの社員数も拡大しており、営業、マーケティング、オペレーションというそれぞれの領域において、経験豊富な人材を獲得してきた。業績、ブランド、人材、戦略という4つの重点分野における強化が、いい形で相互に連動し、それが成果につながっています。2010年の日本AMDは、利益にフォーカスし、すべての四半期で継続的に利益を出すことを目標とし、これを達成してきた。

 2011年はその実績をベースにさまざまな新製品を積極的に市場投入している。今年初めには、Eシリーズを発表し、6月にはAシリーズを発表しました。いずれも、高い性能を持つCPUとGPUを統合した「Fusion APU」製品であり、これが市場から高い評価を得ている。CPUとGPUの組み合わせにおいて、高い水準でバランスをとったパフォーマンスをユーザーに対して提供できるのもAPUだからこそ成しえるものです。今や多くのPCユーザーが、音楽、動画を多用しています。こうした環境で最も効果を発揮するのがAPUということになります。

 すでに、全世界におけるAPUの出荷は、1,200万個を越えています。そして、BulldozerコアベースのInterlagosプロセッサやFXシリーズといった新たな製品も投入します。この1年を振り返ると、よい人材が集まり、すばらしい製品を出荷でき、その結果、パートナー企業に満足してもらい、エンドユーザーにも満足してもらうという、極めて良好なサイクルに入っています。

 ただ、当社がいくらすばらしい戦略を掲げても、それを、パートナーと歩調をあわせた形で推進していかなくては意味がありません。当社が目指す企業戦略の軸は、顧客体験を最大化していくというものであり、顧客満足度を最大限に高めることに尽きます。そのためには、優れた製品を投入するだけでなく、倫理性、柔軟性を持ってパートナー企業とお付き合いをすることも大切です。業界内には柔軟性を持たない企業があり、パートナーに対して、指示をし、牛耳るような形での関係構築を求める例もありますが、それは適切ではありません。緊密なパートナーシップをもとに、ビジネスを作り上げていくことが大切です。

−−APU製品の市場投入によって、どんな影響を市場に与えることになりますか。

ラザリディス グラフィックとマルチメディアを駆使するユーザーが増加する中、そうした利用環境において、圧倒的な満足度を与えることができる製品だと自負しています。しかもこれだけの小型化を図っていますから、ノートPCでは高性能を維持しながら小型化を実現できますし、それは同様にデスクトップPCでも大幅なスペース削減に直結することになります。省エネ化という点でも先行するものになるといえます。

 また、CPUコアおよびGPUコアはプログラマブルな設計になっていること、さらにこれだけの小さなサイズに、DirectX 11や3D立体視をサポートしていることも、競合会社にはないものです。成長戦略を推進する上で重要な製品が、APU製品だといえます。

メインストリーム向けAPU、AMD Aシリーズ ローエンド向けAPU、AMD Eシリーズ

−−一方で、戦略上いくつかの課題といえる部分もあります。例えば、タブレット端末領域や法人向け事業展開は課題だといえる部分ではないでしょうか。これらの分野に対してはどう取り組んでいきますか。

ラザリディス AMDにとっては、まだまだ事業を拡大できる領域が数多くあるといえます。今指摘された領域もそれらの領域だといえます。タブレット端末への対応は、すでに1製品を用意し、一部パートナーがこれを採用して製品化していますが、今後の製品ロードマップでも示しているように、今後1〜3年間でさらに積極化していく考えです。メインストリームのCPU領域でも、低消費電力化を図っていくことになります。

 一方、法人市場をみますと、当社はサーバーに関しては長い歴史と実績があります。ただし、ここ数年間は、デスクトップPCやノートPCにフォーカスをしてきた経緯があったことで、その裏返しとしてサーバービジネスが課題だと捉えられがちです。今は、改めてサーバーにフォーカスを戻しており、今後、法人向け市場での展開が加速することになります。先日、Interlagosプロセッサを発表しましたが、これもサーバー領域にフォーカスを戻すという取り組みの1つだと捉えてください。サーバー分野では、仮想化やクラウド・コンピューティング環境での活用が促進され、市場からは低消費電力で、高密度な製品が求められています。Interlagosにおいては、新たに16コアの製品を投入することで、先進的な市場の要求に応えられる製品が強化できたと考えています。

 日本AMDにおいては、7月1日付けで大幅な組織再編を行ない、法人営業部門であるエンタープライズ事業本部を新設したほか、家電量販店とのパートナーシップの強化によるコンシューマ分野へのフォーカスや、コンポーネントビジネスにフォーカスした組織体制へと再編しました。これも日本におけるビジネスを加速する地盤の1つになります。

●組織再編の影響は

−−外部から見ていると、経営陣の交代も気になるところです。今年1月のDirk Meyer氏の辞任後、CFOのThomas Seifert氏が暫定的にCEOを務めていましたが、今年8月には米本社の新たな社長兼CEOに、Rory P.Read(ローリー・リード)氏が就任。その一方で対外的な顔となっていたプロダクツ・グループ担当シニア・バイスプレジデントだったRick Bergman氏が退社しました。また、日本AMDの経営トップもここ数年はなかなか落ち着きがない状態が続いています。

ラザリディス 企業にとって、人が代わるということはいいことだと捉えることができるのではないでしょうか。新たな人材が参加することで、その企業に新たな風が入ることになり、新たなアイデアが生まれ、新たな手法が採用されることになる。もちろん、代わりすぎることはいいことではありません。実は、AMDの離職率は業界内でも低い方です。ただ、その変化が経営陣で起こったために目立ったということです。前任となるMeyer氏は、すばらしい業績を残しています。利益率を上げ、新製品を出すための土壌を作り、これを市場にコミットした。しかし、取締役会はさらに事業の成長を加速させたいということを考えて、これまでとは違うリーダーシップを求めたわけです。

−−ちなみに、ラザリディス社長はレノボ出身ですが、同じくリードCEOもレノボ出身ですね。リード新CEOはどんな人物ですか。

ラザリディス ご指摘のように、レノボ時代には一緒に仕事をしていた経験があります。彼は、PC業界で豊富な経験を持っています。経歴を見てもわかるように、レノボで5年、IBMで23年の経験を持っています。つまり、AMDにとっての典型的なパートナー企業で働いていたわけです。これは私の経歴にも似ているのですが(笑)。最大の強みは、パートナー企業の視点から物事を考えることができるという点です。これはAMDにとって大変重要なことです。彼は、パートナーを知り、パートナーを理解することができる経営者であり、さらにオペレーションでも有能であり、ビジネスマンとしても強い人物だといえます。実行することを強く意識し、コミットメントをきちんと設定し、それを果たしていく人物だというのが私の認識です。

−−リードCEO体制になって、AMDはどう変わりますか。

ラザリディス これからのAMDは、パートナーに対するコミットメントを果たすだけでなく、それを上回る提案が行なえる会社になるでしょう。有言実行していくのが彼のやり方ですから、AMDそのものが自らの方向性を宣言し、それに対してコミットし、成長戦略を実行していくということになります。では、AMDが目指す方向性とはなにか。それは、最善の顧客体験を提供する会社であるということに尽きるでしょう。

−−すでにリードCEOからは、日本AMDに対する要求は何か出ていますか。

ラザリディス 日本のチームがすばらしい成長を遂げていることを祝福してくれました。また、正しい軌道の上でビジネスを展開しているとも語ってくれた。成長を持続させるために、パートナーに対するコミットメントを果たし続けてほしいともいわれました。

−−日本AMDは、今後どんな点に力を注いでいく考えですか。

ラザリディス 現在の戦略を継続し、成長を持続していくことになります。パートナー企業がすばらしい製品を投入するお手伝いをし、多くのエンドユーザーがAPUによって新たな体験をすることを目指したい。新たな部門として、エンタープライズ事業本部を立ち上げましたので、この事業をきちっと育成していきたいところです。

 優れたサーバー向けCPUを得たことで、この分野での成果に関しては、早くも手応えを感じています。AMDの製品は高いパフォーマンスを得られるという認識が企業ユーザーの間で高まっています。とくに、Interlagosプロセッサは、他社製品よりも実コア数が多く、スループットパフォーマンスが高まるという点での期待感もあります。日本でも引き合いが高く、現時点では需要に供給が追いつかない状況にあります。2012年度に向けても需要は高まっていきますから、パートナーとの協業関係を強化しながら、供給体制を安定化させていきたい。

 法人向けビジネスでは、まさにアグレッシブなターゲットを設定しています。まずは、ほかのビジネスと同等のシェアにまで迅速に引き上げていくことが目標です。言い換えれば、ほかのビジネスよりは高い成長率を達成しなくてはならない。これも、Interlagosプロセッサというすばらしい製品がありますから、こうした高いターゲットを掲げることができるわけです。法人市場は、日本AMDにとって、大きなチャンスがある市場だと認識しています。

−−日本においては7%の市場シェアということですが、このままでは満足していないですよね(笑)。日本AMDの社長として、ターゲットはどのあたりに置きますか。

ラザリディス 今後2〜3年でシェアを倍増させることは十分可能だと考えています。なぜ私がその目標達成に確信を持っているのか。答えはシンプルです。よい製品、よい人材、そして、パートナーとの良好な関係がある。パートナーやエンドユーザーに対して、競合他社よりも優れた製品を提供しているということを実証できれば、成長を続けることができます。このどれかが欠けても成しえないが、今はすべてが揃っていると言えるでしょう。富士通、ソニー、東芝、Acer、HP、Samsungといったパートナーが私たちの製品を信じてくれていること、そして、AMDの製品を搭載した製品を市場に対して積極的に販売するとコミットしてくれていることが、その証です。

−−日本AMDの課題をあげるとすればなんですか。

ラザリディス 1つは、まだまだ小さな組織であるということです。小さいために規模のメリットが享受できない。ここはテコ入れをしたい。今後も、かなりの時間を費やして組織の強化を図っていきたいと考えています。2010年も社員数は増やしており、2011年もこれを継続しています。今年は日本AMDの営業部門においては30%の増員を行ないました。ビジネスそのものが50%の成長を遂げていますから当然の増員ともいえます。今後も、どれぐらいビジネスを加速させることができるかによって、人員をどこまで増やすことができるかが決まってくるでしょう。

 一方で、経済が非常に不安定な状況にある点は多くの企業にとって懸念材料だといえます。しかし、私たちは、経済成長がフラットであったとしても、成長できる要素がある。第2四半期の成果がそれを示しています。きちんと実行すれば、それによってシェアを奪うことができます。この課題をクリアすることに対しては自信を持っております。今、日本AMDは、自分たちのやり方、判断次第でこの課題を解決することができるポジションにあるからです。

 今後の日本AMDを象徴する言葉をあげるとすれば、それは「Growth(成長)」という言葉に尽きるでしょう。今日本AMDが手中に収めているシェアは小さいが、これは裏を返せば、成長する機会が大きいということです。エンドユーザーには、日本AMDという会社は、日常に使うのにパーフェクトにバランスされた製品を作る会社であるということを知ってもらいたい。リテールディーラーには、AMDはいいパートナーであり、自分たちのビジネスを伸ばす、役に立つ会社であると感じてもらいたい。そして、OEMメーカーには一緒に協力できる、柔軟性のある会社だということを理解してもらいたい。

 一方で、日本AMDの社員も私にとっては重要な相手です。お互いに協力することで目標を超えることができる会社であるということがすでに実証されている。この経験をもとに、さらにパフォーマンスをあげ、従業員の満足度を高めていきたい。すばらしい製品と社員が日本AMDには揃ってきた。日本AMDは、これからも「成長」に対して、貪欲に取り組んでいくつもりです。