■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
日本マイクロソフトは、2011年6月23日付けで、同社サイトのトップページをリニューアルした。「コンシューマに徹底的にフォーカスする」という今回のリニューアルは、実は、米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOの号令のもとに、世界規模で行なわれたものだ。すでに米国では5月23日からリニューアルされており、英国、ドイツなどでの先進国市場でもリニューアルが完了。日本では東日本大震災の影響もあり、1カ月遅れでのリニューアルとなった。
そこで、日本マイクロソフト セントラルマーケティング本部デジタルマーケティング&アナリティクスグループの浜野努グループマネージャと、オンラインマーケティングマネージャの岩本麻樹氏に、同社サイトのトップページのリニューアルの背景と狙いについて聞いた。
日本マイクロソフト セントラルマーケティング本部デジタルマーケティング&アナリティクスグループの浜野努グループマネージャ | 日本マイクロソフト セントラルマーケティング本部デジタルマーケティング&アナリティクスグループ オンラインマーケティングマネージャの岩本麻樹氏 |
●コンシューマにフォーカス
日本マイクロソフトの今回のサイトリニューアルは、これまでにない大規模なものだ。
その変化を一言に集約すれば、「コンシューマにフォーカスしたサイト」への変更だといっていい。
周知のように日本マイクロソフトが取り扱う製品の幅は、ミッションクリティカル型のエンタープライズシステムから、Windows PCやスマートフォン、Xbox 360によるゲーム専用機まで幅広い。その幅の広さゆえに、トップページのフォーカスが不明確になりがち、とも言えた。
実際、これまでの同社トップページでは、コンシューマ製品とコマーシャル製品がバランス良く配置されていたと言える。ところが裏を返せば、そのレイアウトは、個人ユーザーにとっても、企業ユーザーにとっても、使いにくいことにつながっていたという反省もあるのだ。
今から約1年前。米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは、本社のWebデザインチームに対して、「microsoft.comは、コンシューマを重視したプラットフォームにすべきだ!」との指令を出した。
今回のサイトリニューアルは社内で「MS.COM 16」と呼ばれる16世代目のサイトリニューアルだ。このリニューアル案を持ち込んだチームに対して、バルマーCEOが下した答えが、コンシューマへの徹底したフォーカスだったのだ。
同社の調べによると、サイトのトップページを訪れるユーザーの約6割が「個人のお客様」や「おすすめ情報」をクリックするコンシューマユーザー。その数値からいえば、バランスをややコンシューマに偏らせることは当然といえば当然だ。だが、バルマーCEOの言葉に示されるように、そのバランス感は「コンシューマ6割」では留まらない。むしろ、コンシューマがメインというサイト構成へのシフトなのだ。
これまでのサイトのトップページ |
●全社的にコンシューマフォーカスに動き出す
バルマーCEOがこうした指示を出した背景をより理解するために、もう1つの出来事に触れておきたい。
それは、2011年4月に米国で発表された新組織「コンシューマー・チャネル・グループ」の発足だ。
同グループは、コンシューマPCを発売するOEM先、リテールショップ、代理店、移動体通信業者に対する販売、マーケティングを統合する部門であり、これまで別々に行なわれていたWindows PC、Windows Phone、Xbox 360、Officeといったコンシューマ関連製品の販売を統括することになる。
この統括役に抜擢されたのがクリス・カポセラ氏。次世代の経営幹部候補として注目集めるエースを投入した格好だ。
ここからも、Microsoftがコンシューマ分野においてテコ入れを図っていることがわかる。
コンシューマ分野をリードするAppleやGoogleに比べて、存在感が薄くなりつつあるMicrosoftが、この分野で一気に巻き返しを図るための体制づくりを進めているのだ。
7月1日付けでは、日本でも同様の組織が新設されることになり、グローバルでのコンシューマ事業の強化が、7月からの同社新年度での重要なテーマとなる。
その点でも、今回のトップページのリニューアルは、こうした動きに準拠したMicrosoftのコンシューマ事業を再加速させるための仕掛けの1つであり、全社リソースをコンシューマにシフトすることを示す象徴的な取り組みだともいえよう。
●デフォルトでは個人ユーザー向けサイトを設定では、コンシューマフォーカスのリニューアルとはどんな内容なのだろうか。
最大の変化は、デフォルトでは個人ユーザー向けサイトが設定されていることだ。
microsoft.comに接続すると、まず表示されるのは個人ユーザー向けの情報である。
個人向けと法人向けの2種類のホームを用意 |
トップページには、個人ユーザー向けの製品情報、おすすめ製品、最新ニュースなどが表示され、個人ユーザーが必要とされる内容ばかりだ。一方で、企業ユーザーの場合、右側に表示されている「法人のお客様」をクリックすれば、コマーシャル向け製品などの製品情報などが表示される。クリックする右から左に移動する様子がWindows Phone 7で提供される「メトロ」のユーザーインターフェースに似ていることから、社内では「Metro Based UI」とも言われているという。
つまり、企業ユーザーの場合はデフォルト状態からは、自分でクリックしなければ必要な情報を得られないという状況になっており、それほどまでに個人ユーザー中心のサイトづくりとなっているのだ。
「企業ユーザーの場合、日本マイクロソフトのトップページを経由せずに、TechNetやMSDNに直接訪れるケースも多い。より個人ユーザーがわかりやすく、迷わず目的の場所にいけるページ構成を前提にした」(浜野氏)というのが、このサイト構成を採用した背景の1つともいえる。
なお、今後の計画では、「スティックファンクション」と呼ばれる機能が追加されるという。これは、最後にコマーシャル向けサイトを見たユーザーについては、その履歴からコマーシャル向けサイトがデフォルトで表示されるというものだ。これによって、企業ユーザーは、次から自動的にコマーシャル向けサイトを最初に閲覧できるようになるという。
●グローバル共通の2つのサイト構成
サイトのレイアウト |
サイトのレイアウトは、グローバルで共通のものになっている。
コンシューマ向けサイトの構成は、上段にトップページバナーが用意され、日本マイクロソフトのいち押しメッセージが表示される。ここには3種類のパナーが掲載され、入れ替わり表示される仕組みだ。
これまでにもトップページバナーは毎日3種類が表示されていたが、平日はソリューション系製品が多くなり、企業向け中心の構成。週末は個人向け製品が表示されるというような区分けとなっていた。
リニューアル後は、個人向け製品で3種類、そしてコマーシャル向けサイトでも3種類のトップページバナーが用意されていることから、合計6種類のバナーが2つのサイトで表示されることになる。
トップページバナーの横には「目的から探す」という表示がある。ユーザーがサイトを訪れた際に目的を達成しやすいような仕組みを提供するものだ。今後は、訪れたユーザーに対して、日本マイクロソフトの製品、サービスに関して、新たな気づきを与えられるものへと改良を加えていく予定であり、内容の変更も予定されているという。
中段には、「おすすめの製品」が表示される。個人向けにおすすめ製品を紹介し、「人気の製品」の項目では月に2回、それ以外の製品は月1回の割合で更新される。
ここではMicrosoft Storeと連動し、オンラインでも購入できるようになっているほか、Bingバーのダウンロードといった無料コンテンツの利用、評価版のダウンロードも可能になっている。
下段には、「便利な使い方」、「人気のダウンロード」、「最新のニュース」が並ぶ。
「便利な使い方」は、製品をより快適に使用してもらうためのTips集になっている。WindowsやOffice、Xbox、Bingといったように製品ごとに切り分けており、そこから検索することができる。
「人気のダウンロード」は、ダウンロードセンターと連動したものになっており、ここからMicrosoft Updateを通じたアップデートなども可能だ。
そして「最新のニュース」では、日本マイクロソフトに関する最新ニュースを掲載。ニュースリリースのほか、樋口泰行社長など日本マイクロソフト幹部が交代で書いている「The Official Microsoft Japan Blog」の更新もここから通知されることになる。
一方、コマーシャル向けサイトでは、上段の「トップページバナー」と「目的から探す」はコンシューマ向けサイトと同じだが、中段は「おすすめの製品」の代わりに、「主要製品」となっている。企業向け製品の販売はライセンス販売が中心となっているため、製品の紹介や評価版のダウンロードなどが中心となっている。Windows 7 1つをとっても、コンシューマ向けサイトでは、Home Premiumが表示されるのに対して、コマーシャル向けサイトではBusinessが表示されるというように、取り扱う製品も区別されている。また、同社が最注力分野としているクラウド・コンピューティングに関するサービス紹介もここで行なわれている。
下段は、「法人・企業の方」、「IT担当者」、「開発者」の3つで構成。「法人・企業の方」では、企業規模や業種別から目的の情報に辿り着けるものとし、「IT担当者」では企業IT管理者が必要とする各種情報を、「開発者」では、MSDNなどの技術情報ページへと誘導するコーナーになっている。
コンシューマ向けサイトおよびコマーシャル向けサイトでは、共通したものとしてトップページメニューバーと、Bingの検索バーを用意。これは従来のものと変わらない。そして、最上段部分には、新たに5つの項目で構成されるメニューバーを用意した。ここでは、「シェアする」という項目が追加され、Twiiterなどへの投稿が可能になる。このメニューは、すべてのページで表示される仕組みになるという。
●顧客満足度向上と目的に到達しやすいサイトづくり
日本マイクロソフトでは、今回のリニューアルを前に、microsoft.comを訪れたユーザーに対して、新たなサイトデザインに関する満足度調査を行なった。
それによると、顧客満足度は7ポイント上昇、サイトを訪れて目的を達成できたかどうかの度合いを推し量るディスカバラビリティ(Discoverability)は9ポイント上昇。CTR(Click Through Rate)は、従来サイトに比べて7.5%向上し、サイトを訪れたものの、なにもせずに別のサイトに移動した直帰率は1.5%減少したという。
さらに、新たなレイアウトデザインに対して「好き」と答えた人は61%、情報量に満足と回答した人も52%に達したという。
「このほかにも、一目でMicrosoftの企業サイトであることが認知できるのかといった調査も行なっている。これまでの青を基調としたデザインをコンシューマ向けサイトで継続したことで、Microsoftの企業サイトであることが強く認知されている」(岩本氏)という。
なお、コマーシャル向けサイトは、コンシューマ向けサイトとの差を際立たせるために、黄色を基調としたデザインになっている。これは青の補色であるという点を考慮したものだといえそうだ。
今回のリニューアルでは、コンシューマ分野へのフォーカスとともに、目的に到達しやすい環境づくりにも力を注いでいる。
コンシューマ向けサイトのレイアウトでは、8種類のレイアウト候補の中から最も評価が高かったものが選ばれたというが、これも使いやすさを考慮したものだ。8種類のなかには、コンシューマ向け製品を投入している競合他社が行なっているような製品写真を1枚大きく掲載するという極めてシンプルなものも候補にあったという。
「もともとMicrosoftの製品は幅が広いだけに、企業サイトにおいては、目的に辿り着きにくいという声が出ていた。とくに日本の場合には、本社のコンテンツの翻訳だけでなく、日本独自のコンテンツを提供することが多く、本社サイトを除くと最もコンテンツ数が多い国となっている。そのボリュームは、2位の国に比べても3倍に達している。それだけにわかりやすいサイトレイアウトが最も求められている国ともいえる。その点でも効果のあるリニューアルになった」と、浜野努氏は語る。
英語サイトの表示フォントに準拠すると2バイトの日本語サイトでは文字が小さくなるという課題もあったが、これも今回のリニューアルではメニューバーなどに表示される文字が大きくなり、日本のユーザーにとっても見やすい環境が整ったともいえる。
「今回のリニューアルでは、クラウド・コンピューティングなどの法人向けサイトの充実も図るが、やはり最大の目玉はコンシューマフォーカス。コンシューマビジネスの成長を支援するサイトに育てたい」と、浜野氏は意気込む。
16世代目となる今回のサイトリニューアルは、日本マイクロソフトにとって、コンシューマビジネスを加速するための重要なツールになるといえよう。