大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

2011年度はプレミアムラインを強化し、VAIOらしい製品を出す
〜年間1,000万台に挑むソニーのVAIO事業を赤羽副本部長に聞く



ソニー コンシューマプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部・赤羽良介副本部長

 「2011年度はVAIO事業にとって、邁進する1年になる」−−。

 ソニー コンシューマプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部・赤羽良介副本部長はこう切り出した。2010年度におけるVAIOの出荷台数は、前年比28%増の870万台。増収増益という評価される業績ではあったものの、市場からは「もっとソニーらしい製品を出してほしい」という声が挙がっていたのも事実だ。

 「2011年度は、プレミアムラインを強化する。つまり、ソニーらしい付加価値を打ち出した製品を続々投入することになる。ぜひ楽しみにしていてほしい」と赤羽本部長は明るい口調で語る。そして、年間出荷目標は全世界1,000万台と、同社初の大台にも王手をかける。ソニーの2011年度のVAIO事業戦略について聞いた。

●2010年度は普及価格帯の製品で成果

−−2010年度のVAIO事業についてはどう自己評価をしていますか。

赤羽 数値の観点から見れば、健全な成長を遂げた1年であったといえます。2010年の重点ポイントは、成長領域の製品を強化するということでした。普及価格帯製品であるEシリーズの強化がその最たるものですが、2009年7月に設置した「第2事業部」のなかで普及価格帯の製品開発に取り組んできた成果が、2010年に花を開いたといっていいでしょう。

 プレミアム製品は市場全体の停滞も影響し、前年並みという実績でしたが、普及価格帯の製品は前年比3割以上の大きな成長を遂げています。特にインド市場においては、前年比2倍という実績をあげました。新興国への展開では、まずはプレミアムブランドとしてのポジションを確立したのちに、普及価格帯の製品で一気に攻勢をかけるというのがVAIO事業の手法ですが、インド市場においては、ちょうど2010年が普及価格帯の製品によって攻勢をかけるタイミングに入ったところでした。「GO VIVID」というキャッチフレーズのもとに、Eシリーズでは、ブラック、ホワイト、ピンク、ブルー、グリーンによる5色のカラーバリエーション展開を行ない、これがインドのユーザーからも高い評価を受けました。

 VAIOは、現在、57カ国で展開しています。日本でも出荷台数ベースでは前年比10%前後の成長となっていますが、海外での事業成長が全体の成長を押し上げる結果となっています。

−−第3四半期までは前年実績を大きく超えていますが、第4四半期(2011年1〜3月)の出荷台数は180万台と、前年実績の200万台を割り込んでいますね。

赤羽 第3四半期時点では上方修正も考えていたほどでしたが(笑)、第4四半期に入り、Intelのチップセットの不具合の問題、さらには東日本大震災による販売減などが影響しました。また、2010年11月以降、欧米市場におけるPC需要の停滞が顕在化し、これが第4四半期まで続いたことも影響しています。

●2011年度にはVAIOらしい製品を続々投入

−−ソニーらしい製品が出なかったという指摘もありますが。

赤羽 2010年度のVAIO事業の最重点課題は、ビジネスを安定的に回すことができるように、これまでソニーが弱かった普及価格帯の製品を強化するということでした。リソースの多くをそこに割きました。その点で、ソニーらしい製品がない、VAIOらしい製品が出なかったという指摘につながっているのかもしれません。しかし、そう感じている方々に対しても、「これはVAIOらしい製品だぞ!」と思ってもらえるものを、2011年には続々と投入していきます。

−−すでに「Ultimate Mobile PC」と呼ばれる薄型ノートPCと、ディスプレイ部をスライドさせることで、タブレットとしても、クラムシェル型のノートPCとしても利用可能な「Freestyle Hybrid PC」を投入することを明らかにしていますね。

赤羽 どちらも年内の発売を予定しているものです。Ultimate Mobile PCは、モビリティを追求したフラッグシップといえる製品で、まさに妥協を許さないモビリティを目指したものになります。薄さ、軽さを追求すると、どうしても性能が犠牲になる。だが、ユーザーの要望は、薄さと軽さを実現しながらも、パフォーマンスでも最高のものが欲しい、バッテリも長時間駆動して欲しいというものです。低電力型のCPUに留めるのではなく、必要とされる性能を持つCPUを搭載しながらも、長時間のバッテリ駆動も実現します。

 もちろん、これまでのVAIOシリーズでも、薄さと軽さを追求した製品がありました。かつて、その製品を購入したユーザーから、こんなメールをいただいたことがあったんです。「これほどまでに軽くて、薄いVAIOを購入できたことで、鞄を手提げから肩掛けに変えることができました。さらに、軽快に自転車に乗って通勤できるようになりました。爽快な気分で自転車に乗っています」というものでした。これには感動しました。VAIOを購入したことでライフスタイルが変わった、そしてそれが大きな喜びとなっている。私は、こういう製品を作りたいんです。Ultimate Mobile PCも、人々のライフスタイルを変える製品にしたい。「期待した通りのものが出たきた」、「待っていたのはこれだったんだ」といっていただける製品を出しますよ。そして、これがVAIOらしさを表現した、他社の製品とは違うものだということを直感的に理解してもらえると思います。

Ultimate Mobile PC Freestyle Hybrid PC

−−Freestyle Hybrid PCはどんな位置づけの製品になりますか。ソニーでは、Sony Tabletの製品開発で動いていた3つのプロジェクトの1つが、Freestyle Hybrid PCだとしていますが。

赤羽 確かにSony Tabletとして開発していた製品の1つが、結果としてFreestyle Hybrid PCになりました。タブレット端末はコンテンツ消費に適したデバイスですが、VAIOというブランドが付くPC製品群は、マネージビリティ、プロダクティビティ、クリエイティビティという点での要素が重視されます。Freestyle Hybrid PCは、そうした機能を持ちながら、キーボードでの入力と、タブレットによるタッチインターフェイスとを両立させ、あらゆる場面で利用できるものにします。キーボードとタッチの操作環境をスムーズに変えられるという点に工夫を凝らしていますから、その点にはぜひ期待していてください。ストレスなく利用できるFreestyle Hybrid PCを実現する予定です。

●なぜPシリーズを生産中止にしたのか?

−−一方で、モバイル環境での利用に適していたVAIO Pシリーズが生産中止になりましたね。

赤羽 VAIO type PおよびPシリーズは、発売直後からモビリティという環境での新たな提案を行なうことに成功し、それが受け入れられましたが、昨今のようにスマートフォンやタブレット端末が広がりを見せるなかで、1つの役目を終えたと考えています。ソニーでは、VAIO Xシリーズや今後登場するFreestyle Hybrid PCによって、新たな時代のモビリティを提案できると考えています。Pシリーズを進化させるのではなく、違うアプローチからモビリティへの提案を進化させたいという想いが、この決断につながっています。

−−ところで、赤羽副本部長が考える「ソニーらしさ」、「VAIOらしさ」とはなんですか。

赤羽 まず外せないのは、高性能、薄い、軽いという基本性能では負けないという点です。その上で、使い勝手を高める新たな提案を行なっていくことでしょう。例えば、Sシリーズ向けに用意したシートタイプの専用外付けバッテリー「リチャージャブルバッテリーパック」は、動作している最中でも着脱が可能であり、しかも、バッテリー単独でも充電できる。こんな提案を行なっているのはソニーだけです。

 2つめには、カスタマーサポートの領域でも他社にないものを提供できるという点。VAIOに搭載されている「ASSIST」ボタンが、その最たるものでしょう。これを押せば「VAIO Care」が起動し、VAIOの健康状態をチェックしてくれますから、快適に利用できる環境が常に維持できる。また、ウイルスの影響などでWindowsが起動しなくなった場合でも、HDDに格納したデータなどを取り出すことができる機能もソニー独自のものです。

 3つめには、ソニーの各種製品群との連携です。VAIOをPlayStation 3やBRAVIAのキーボードとして利用したり、リモートプレイを行なったり、またVAIOに付属している3DメガネがそのままBRAVIAに利用できるというようにシームレスに利用できる環境が整っています。過去には、VAIOを中心に「VAIOワールド」を構築する提案も行なっていたことがありました。当然、マネージビリティという点では、VAIOは家庭の中心的役割になる存在ではありますが、今は、それだけではなく、あらゆる製品とつながることで、より快適で楽しい提案ができるといった位置付けでの提案を行なっています。そして、付け加えるならば、ソニーらしい製品というのは、人に見せびらかしたくなる製品であると(笑)。これはVAIOのすべてでこだわっているポイントです。

●いよいよ年間1,000万台に王手をかける

−−2011年度は、年間1,000万台の出荷計画を掲げています。1,000万台という規模はVAIO事業にどんな影響を及ぼしますか。

赤羽 出荷台数が1,000万台に到達したことで何かが急に変わるということはありません。しかし、1,000万台はPC事業に腰を据えて挑む、あるいは次の成長を考えるという点では最低限となる規模でしょう。つまり、世界のPC市場で生き残るための規模だといえます。1,000万台への事業計画は、もともと2010年度に到達することを目標に掲げていましたが、リーマンショックの影響もあり、それが1年遅れとなりました。とはいえ、1,000万台という規模では、世界のPC市場の中ではまだまだ上がいます。1つの通過点に過ぎないと捉えています。

 2011年度の市況を見ますと、西欧や北米での需要が低迷していることもあり、1,000万台の計画は、決して易しい数字ではありません。ただ、遠い数字でもない。極めて現実的な目標だといえます。そして、1,000万台という数字だけを見るのではなく、当然、収益性という点でも成長をしていかなくてはならない。2011年度は、増収減益の計画となっています。プレミアム製品に力を注ぐために、研究開発投資やマーケティング投資を積極化させますし、さらにSCMを含めた商品化プロセスに向けたシステム増強も行なう計画です。さらに、震災の影響が、さまざまな観点で出ていますから、それも収益性にどう影響するかも見極めなくてはならない。すでに原材料費の高止まりといった影響が出ており、これが収益性に大きく影響しようとしています。しかし、VAIO事業の黒字化は達成したいと考えています。

−−1,000万台達成を下支えする要素はなにになりますか。

赤羽 プレミアム製品ラインの強化が1つの鍵になります。まずは、Sシリーズが先陣を切る形になりますが、これから続々と登場するプレミアム製品がソニーのVAIO事業をドライブすることになるでしょう。付加価値戦略をVAIO事業の柱に据えて成長させたい。

 そしてもう1つは、新興国向けのビジネスを強化することです。2010年度もノルウェー、チュニジア、モロッコで事業を開始するなど、毎年新たな国でVAIO事業を展開してきましたが、今年度は特に新たな地域に進出する計画はありません。その分、それぞれの国での深堀りを行なっていきます。新興国では、「VAIO Shop」の名称で、VAIOを専門で展開する店舗が増えています。独立店舗のほか、ショップ・イン・ショップ形式で展開するものや、店内の一部コーナーをVAIO専門として取り扱うという例もあります。

 これらの店舗やコーナーに共通しているのは、VAIOの意思を深く理解した人たちがスタッフとして働き、ユーザーにその想いを伝えながら、製品説明を行なっているという点です。日本では、一部量販店において、VAIOオーナーメードによる専門コーナーを設置し、現在、これが74店舗にまで拡大しています。また、インドにおけるVAIO Shopは、前年比3倍まで増やしていく考えです。今後もこうした専門店展開を加速していきますよ。

インドのVAIO Shop。2011年は前年比3倍にまで増やしていくという(写真はソニー提供)

●2011年度は「邁進」する年に

−−最後に2011年度のVAIO事業への意気込みをお願いします。

赤羽 2011年度のVAIO事業を表現する言葉は「邁進」だといえます。その言葉を実現するために、VAIOが得意とするところをふんだんに取り込んだ「VAIOらしい」製品を投入します。しかも、単品だけで終わらせるのではなく、「立て続けに投入する」というのが今年の大きなポイントです。ソニーらしい製品は、Ultimate Mobile PCやFreestyle Hybrid PCだけには留まりません。ほかにも、ソニーらしいといえる製品を用意しています。買って、使ってもらって、良かったといってもらえる製品を投入します。ぜひ楽しみにしていてください。