大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通が、スレートPC事業拡大を意気込む「自信」のウラ
~個人向けAndroid端末も視野に入れる



 富士通は、法人向けスレートPC「STYLISTIC Q550」シリーズを4月中旬から順次発売する。

富士通パーソナルビジネス本部・齋藤邦彰本部長

 「富士通が長年に渡って蓄積してきたタブレットPCのノウハウを、ふんだんに注ぎ込んだ製品。この製品をきっかけにして、Windowsを搭載したスレートPCの世界をリードしていくことになる」と、富士通 パーソナルビジネス本部・齋藤邦彰本部長は自信をみせる。

 同製品の生産は、島根県斐川町の島根富士通で行なう「MADE IN JAPAN」の体制とし、「3月からスレートPC専用ラインを2本設置して量産する予定」(島根富士通・宇佐美隆一社長)だという。

 そして、今回の製品は法人向けとするが、今後、個人向けの展開も視野に入れていることを明かす。その際には、Windowsに留まらず、Androidの選択肢もありそうだ。

 富士通のスレートPCへの取り組みを聞いた。

●20年の歴史を持つタブレットPC事業

 富士通は、1991年から、スレート型およびコンバーチブル型を含めた法人向けタブレットPC事業を開始している。すでに20年間の実績を持つ事業だ。

 当初は「Poqet Pad」の名称で展開したが、1994年には現行ブランドである「Stylistic」に変更。これまでに全世界で約100万台の累計出荷実績を持つ。

 特に北米のタブレットPC市場においては、Hewlett-Packardに次いで第2位のシェアを獲得。約24%のシェアを持ち、法人需要を中心に存在感を発揮している。

 北米でPC事業を担当する富士通アメリカのKevin Wrenn上席副社長は、「北米市場においては、富士通のタブレットPCに対して高い信頼がある。長年の実績が評価されており、長期に渡り、富士通のタブレットを買い換えて利用している企業や公共機関も多い。タブレットPCを切り口に、北米市場で富士通のPCの存在感を高めるといった手法も検討していきたい」と語っていたほど、タブレットPC事業には強い自信を持っている。そして、「2011年度には、北米のタブレットPC市場で首位獲得を狙う」と意気込む。

 だが、富士通が展開してきたタブレットPCの市場規模はまだまだ小さい。富士通のPC事業全体でも、構成比は5%以下に留まっている。

 ところが2010年、iPadが登場したことによって、法人需要においてもスレートPCへの注目度が高まってきた。

 「法人ユーザーから、富士通はスレートPCを出さないのかといった問い合わせが増えてきた。我々の方に風が吹いてきたという実感がある」と齋藤本部長は語る。

 今回の製品は、こうした追い風に乗って、富士通のPC事業をタブレットPCの領域からも拡大するという狙いがある。

●タブレットPCのノウハウを生かす

 STYLISTIC Q550シリーズは、富士通がタブレットPCで実績を持つ法人需要を対象としたものだ。

STYLISTIC Q550

 「市場に普及しているスレートPCの多くは、法人向けの端末として利用するには課題が多い。セキュリティが4桁のパスワードで管理されていたり、保守やサポートが引き取り修理のみといったように限定されているといった点がその理由。また、大量導入には適していない部分も多い。さらに、法人需要では、既存のWindowsによるシステムとの親和性を求める例が多く、その点でもWindowsを搭載したスレートPCが必要とされている」(齋藤本部長)とする。

 法人で利用されている豊富なビシネスアプリケーションを活用でき、高い信頼性やセキュリティ、保守・サポート体制を実現できるスレートPCを実現するのが、今回の新製品の基本コンセプトとなる。

 指紋センサーやスマートカード、セキュリティチップを搭載し、Windowsと高い互換性を持つセキュリティ認証を実現。暗号化機能付きSSDを標準搭載して、より強固なセキュリティ環境を実現している。また、マルチタッチ機能による直感的な操作環境の実現に加え、富士通が独自に開発したタッチ文字入力機能を搭載。ペン入力対応モデルを用意することで用途に応じて選択できるようにした。

 「北米市場での実績をもとに、顧客の声をフィードバックして開発している。どの程度のセキュリティレベルを、法人ユーザーが欲しがっているのかを理解した上で実現した」と語る。

 着脱式のバッテリを採用し、ユーザー自身がバッテリを交換できるようにしたこと、標準バッテリと長時間バッテリを用意し、選択の幅を広げたこともユーザーの声を反映したものだ。また、引き取り修理に加えて、訪問修理を用意。最長5年間の保守対応が可能にしており、安心して業務に使える環境も提供する。

 さらに利用者の手に自然とフィットするように配慮したエルゴノミックデザインを採用。「長年の実績から、持ったときにどこに重心を置くとバランスがよく、持った時に軽く感じることができるか、表面の質感をどうすれば最適かといったノウハウを蓄積しており、それをもとに開発している。また富士通化成が開発した0.7mm厚のマグネシウム合金を利用することで、『ウスカル』(薄さと軽さ)でも一歩先をいくことができている」と胸を張る。

 クレードルやBluetoothキーボードなども用意して、幅広い用途への対応を図る。

 「法人ユーザーが利用するユビキタスフロントの端末として、スレートPCの事業を拡大したい」とする。

●日本で生産する強みが発揮されるスレートPC

 そして富士通の最大の特徴が、島根富士通による「MADE IN JAPAN」の展開だ。自社設計と自社生産によって実現される保守性と信頼性は、富士通ならではのものだ。

 STYLISTIC Q550シリーズは、島根富士通に設置される2本の専用ラインで、3月から量産が開始されることになる。

 「部品点数が少ないため、通常の14人体制のラインで生産するのではなく、7人の専用ラインを設置。将来的に、需要が増大すれば、PCとの混流ライン化も図っていくことになる」と、島根富士通の宇佐美隆一社長は語る。

島根富士通の宇佐美隆一社長3月からスレートPCが生産される島根富士通

 島根富士通では、CPC(カスタムメイドプラスセンター)と呼ばれる施設を持ち、法人ユーザーの要求仕様にあわせたアプリケーションのインストールや、I/O関連インターフェイスの搭載および非搭載への対応ができるようになっている。

 要求仕様に合わせたコンフィグレーションの変更にも柔軟に対応できる体制を整えていることも、MADE IN JAPANならではの特徴といえる。

 そして、宇佐美社長は次のようにも語る。

 「STYLISTIC Q550シリーズでは究極のコスト追求ラインを実現しようと考えている。開発当初から、ノートPCに比べて3割程度の加工費削減を掲げ、それに向けて、開発部門と情報交換を進めてきた。部品点数の削減や試験工程の見直しにまで踏み込みんだものになっており、将来的には、その成果を他のラインにも展開していきたい」とする。

 品質とコストを高い次元でのバランスを確立するという狙いも、この製品に込められている。

●個人向けスレート端末の開発はどうなるのか?

 富士通では、スレートPCにおいて、今後3年間で150万台の出荷を計画しているというが、齋藤本部長は、「早い段階で、富士通のPC出荷量全体の10%を獲得したい」と意気込む。

 北米では、タブレットPCの専門販売組織を持っており、ここで得たノウハウを生かして、EMEA、アジアパシフィック、日本での販売拡大に弾みをつける考えだ。

 日本では生保業界などの特定業種からの引き合いがすでに出ており、北米でも教育分野、医療分野からの引き合いがあるという。

 一方で気になるのが、個人向けスレート端末の投入だ。

 齋藤本部長は、「まだ具体的に話せる段階にない」と前置きしながらも、「法人ユーザーのように強固なセキュリティや、既存システムとの継続性を重視する必要がない一方、より速い起動やモビリティ性を考えれば、個人向けスレート端末のOSは、Windows OSにこだわる必要はないだろう。Androidを搭載した製品の方がむしろ適している場面が多いともいえる。そうした点を考慮しながら開発を進めている」とする。

 まずは、法人向けスレートPCを投入した富士通だが、次の一手として、個人向けスレート端末の展開はすでに視野に入っているようだ。