大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PCメーカー、量販店が語る地デジチューナ搭載PCへの期待
~「パソコンも地デジカ」キャンペーン参加各社に聞く



 ウィンドウズ デジタルライフスタイル コンソーシアム(WDLC)が展開している「パソコンも地デジカ」キャンペーンは、PCメーカー、周辺機器メーカー、ソフトメーカー、そして放送局や量販店を巻き込んだものとなっている。

 WDLCが実施する共同キャンペーンは、今回で5回目。26社が参加し、2010年4月27日から2011年7月までの長期に渡るキャンペーンとなる。

 まずは、今年9月30日までを第1クールとして、「Watch PC? パソコンも地デジカ」をキャッチフレーズに、寝室や書斎、子供部屋などのセカンドルームにおけるアナログTVを、地デジ視聴機能搭載のパソコンに置き換えることにより、新たな地デジ視聴環境の普及促進と、デジタル放送受信機としてのPCの認知促進を図るのが狙いだ。

 放送局各社は、PCで利用できるガジェットを用意。PCメーカー各社は、これを2010年夏モデルに搭載。さらに、ソフマップ秋葉原本館、ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba、ビックカメラ有楽町本館、ヤマダ電機LABI新宿東口館では、「Watch PC? パソコンも地デジカ」による専門コーナーを設置し、PCによるTV視聴を切り口とした提案に、本腰を入れはじめた。

 2011年7月の地デジへの完全移行は、PCメーカーにとっても需要拡大に向けた大きなチャンス。PCメーカーおよび量販店各店に、地デジパソコンの普及に向けた意気込みを聞いた。


富士通パーソナルビジネス本部副本部長・三竹兼司氏

 富士通パーソナルビジネス本部副本部長・三竹兼司氏は、「リビングへの地デジTVの普及は広がっているが、これからの課題は個室の地デジをどうするか。この領域の地デジ化にはまだまだ遅れが感じられる。ここにPCメーカーならではの提案の鍵がある」とする。

 富士通では、「FMVでいよいよ3D、ますます地デジ」をテーマにデスクトップPCを中心とした地デジ視聴提案を推進する。

 「デスクトップの主力製品となる一体型PCの「ESPRIMO FH」シリーズがTV視聴提案の中心的役割を果たす。3Dモデルも用意しており、3Dと地デジという組み合わせで、新たなPCの使い方を提案できる」と自信を見せる。

 「今後はノートPCにおいて、いかに地デジ対応の提案を行なうか。機動性が高いノートPCに、地デジのアンテナを接続することでそれが失われるという課題もある。ワイヤレス技術などを活用することで、こうした問題を解決しながら、ノートPCの地デジ化を図っていきたい」と語る。

NECパーソナルプロダクツ執行役員常務の高塚栄氏。WDLCの理事を務める

 NECパーソナルプロダクツ執行役員常務の高塚栄氏は、「放送局各社が開発し、この夏モデルに各社のPCに搭載されるテレビNaviガジェットは、コンテンツをどう見せるかという視点に立って開発されたものであり、PCメーカーが開発するガジェットとは工夫のレベルが違う。その点でも、PCの使い方をより一歩進展させるものとして期待している」とコメント。「PCの使い方は、地デジとの連携によって、さらに多様化する。そうした動きに対して、PCならではのパワーを生かした使い方提案を前面に打ち出す必要がある」と語る。

 NECでは、“3Dパソコン”において、2Dから3Dへの変換機能を搭載するなど、PCならではのCPUパワーを生かした提案を進めている。「PCにしかできない楽しい使い方をお見せしたい」と意気込む。

マウスコンピューターの代表取締役社長・小松永門氏

 マウスコンピューターの代表取締役社長・小松永門氏は、「今年の注力ポイントは、地デジ、3D、ゲームの3つ。とくに地デジでは、Core i3以上の製品では、BTOで選択できるようになっており、約20%のユーザーが地デジチューナを搭載している」と語る。

 「大手PCメーカーの多くが(ハーフ)HD対応であるが、マウスコンピューターのLuv Machinesシリーズでは、フルHD液晶を搭載するとともに、ブルーレイディスクドライブの搭載、大容量HDDを搭載できるなど、こだわりのスペックを実現しているのが特徴。これから地デジPCに対する需要はますます高まってくるだろう。マウスコンピューターならではの高いスペックによって、需要に応えたい」とする。

オンキヨー量販営業部部長の砂長潔氏

 オンキヨー量販営業部部長の砂長潔氏は、「プライベートスペースで利用するPCとして、TVとは違う魅力を訴求したい」と語る。同社が訴求するのは、臨場感あふれるサウンドとともに、地デジを楽しむという提案。E713シリーズでは、PCでは世界初となる「DTS Premium Suite」を採用。独自に開発した薄型スピーカーとともに、他社にはない高い音質を再現した。

 「地デジチューナも自社開発しており、その強みを訴求していきたい」と語る。すでに製品ラインアップでは、デスクトップPCのうち約半分、ノートPCのうち約30%が地デジチューナ搭載モデルとなっており、地デジチューナ搭載PCの販売量拡大に意欲をみせている。


 一方、量販店の間からも、地デジチューナ搭載PCの需要拡大に期待を寄せる声があがっている。

量販店のパソコン売り場に地デジカが登場。これによってPCで地デジ視聴の提案が加速している

 東京・秋葉原のソフマップ秋葉原本館では、4階フロアに「パソコンも地デジカ」コーナーを設置。地デジチューナ搭載PCの販売拡大を積極化する。エスカレーターをあがってすぐという場所にコーナーを設置していることからも同店の力の入れ具合がわかる。

 ソフマップ秋葉原本館フロア長の大原功大氏は、「2010年に入ってから、地デジチューナ搭載PCの販売が増加している」と前置きし、「デスクトップPCでは自分の部屋で地デジをみたい、ノートPCでは仕事の合間にちょっとTVをみたいという用途で購入するユーザーが目立つ。自分の部屋に置く場合にも、TV、レコーダ、PCの機能が1台で済むことから、場所を取らないで済むというメリットがある」とする。

 売れ筋となっているのはシングルチューナ搭載モデルで、「リビングに薄型TVがあるため、個室にはシングルチューナがあればいいという考え方が多いようだ」という。

 「ソフマップとしての強みは拡張性をアピールした提案ができる点。PC単体だけの販売ではなく、HDDやネットワーク機器との組み合わせによって、より快適な地デジパソコンの楽しみ方を提案したい」と語る。

ソフマップ秋葉原本館ソフマップ秋葉原本館4階パソコンフロアの「パソコンも地デジカ」コーナーソフマップ秋葉原本館フロア長の大原功大氏

 ヨドバシカメラ マルチメディアAkibaでは、1階のPC売り場に「パソコンも地デジカ」コーナーを設置。地デジカの黄色い看板は、フロア内でも目立っている。

 「鹿のイラストを使った地デジカの認知度が高まっており、この看板を見て『パソコンでも地デジが見られるのか』という質問をいただくことが増えている」とする。

 「TVの場合は、視聴することがメインとなるため画面の大きさや表示性能などが注目されるが、地デジチューナ搭載PCの場合は、インターネットに接続できたり、地デジを録画したりといった使い方ができ、むしろどんな用途で使えるかといった提案が重視される。PCならではの使い方を訴求することが必要だろう」と語る。

 同店では、チューナを搭載していないPCでも、外付けのチューナを接続すれば手軽にTV視聴ができるようになったり、録画用のHDDを簡単に増設できるといった周辺機器との組み合わせ提案にも力を注いでおり、このあたりもPCならではの拡張性として訴求していく考えだ。

 ただ、薄型TVに比べてTV視聴が難しいのではないかという先入観があり、その点を払拭することが課題だとする。「実際に説明をして、地デジ視聴が簡単であることをデモストレーションすると理解してもらえるが、そのあたりを多くの人に知っていただくことが今後の鍵」と語る。

ヨドバシカメラ マルチメディアAkibaヨドバシカメラ マルチメディアAkiba 1階の「パソコンも地デジカ」コーナー
地デジチューナを搭載していないPCについても別売りチューナのセット販売を提案ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba パソコン専門チーム ソリューション・プロフェッショナル 喜古 康明氏

 ビックカメラ有楽町店本館では、5階のPCフロアに「パソコンも地デジカ」コーナーを開設。店内のPOPにも「地デジカ」を多用して、地デジPCの訴求をフロア全体で行なっているのが印象的だ。

 同フロアのスタッフ全員が「パソコンも地デジカ」と表記したバッジをつけて、PCによる地デジ視聴に関する相談が、安心してできる環境を作っている。

 ビックカメラ有楽町店本館5階Windowsコーナー主任の立切達也氏は、「デスクトップPCにしても、ノートPCにしても、地デジチューナ機能を目立たせる展示をしている。2009年の秋冬モデル以降、地デジチューナ搭載PCの販売が増加。ここにきて、さらに問い合わせが増加している」と語る。

 2011年7月の地デジへの完全移行まであと1年余りとなったことで、地デジチューナ搭載PCをTVとして活用するという選択肢が出始めている。

 「1人暮らしや個室でPCを使っているユーザーが、PCが壊れてしまったのだけど、TVもアナログのままなので、それならばこの際、地デジチューナ搭載PCを購入しよう、というケースが目立ってきた。画像がきれいであることや、TV視聴に関する操作もストレスなくできるように改善されている点などに関心が集まっている」と語る。

 同店では、デスクトップPCに関しては、すでに半分以上が地デジチューナ搭載PCが占めているという。

ビックカメラ有楽町店ビックカメラ有楽町店本館5階の「パソコンも地デジカ」コーナー地デジ搭載モデルがあることを明確化した展示を行なっている
ビックカメラ 有楽町店 本館 5階 Windowsコーナー 主任の立切達也氏同フロアのスタッフはこのバッジをつけている。地デジパソコンについては安心して相談できるスタッフの証だ

 ヤマダ電機LABI新宿東口館では、3階PCフロアに「パソコンも地デジカ」コーナーを置いた。店舗の一番奥でゆっくりとTV機能を試しながら各社の製品を見比べることができるようになっている。

 「このフロアの中ではいい場所の1つ。このコーナーを、LABI新宿東口館という新たにオープンしたばかりの話題性がある店舗に設置したのも意味がある」と、ヤマダ電機LABI新宿東口館PCフロアー長の松岡浩次氏は語る。

 女性層の来店が多いことでも注目される同店。取材中にも女子高生をはじめとする女性層が、PCを興味深く見ていたのが印象的だ。

 「地デジチューナを搭載したPCが欲しいというニーズは高く、約6割のお客様が地デジチューナ搭載に興味を持ってもらえる。実際の販売比率としては、全体の3割程度に留まるが、チューナ非搭載モデルと比較して、3万円程度の価格増だったら、お客様もチューナ搭載モデルを選択してもらえるだろうと見ている。これから地デジチューナ搭載PCの販売は増加するのではないか」と期待を寄せる。

 実際、「パソコンも地デジカ」コーナーを設置してから、同店における地デジチューナ搭載PCの販売は、15~20%程度増加しているという。

ヤマダ電機 LABI新宿東口館ヤマダ電機 LABI新宿東口館 3階PCフロアの「パソコンも地デジカ」コーナーヤマダ電機 LABI新宿東口館 PCフロアー長の松岡浩次氏

 このようにメーカー、量販店の声を聞くと、地デジチューナ搭載PCは、PC市場拡大の切り札と見ていることがわかる。

 日本のPC市場はこの10年に渡って、まったく広がりを見せてない。2000年の国内PC出荷規模を、2009年の出荷規模が下回っているほどだ。

 2011年7月までの地デジ特需に、PC産業はどこまで参戦できるのか。これからが注目される時期になる。