■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
NECは21日、同社の子会社である株式会社OCC海洋事業本部海底システム事業所および海底ケーブルの敷設船内部を報道関係者に公開した。
OCCは、海底光ケーブルの生産を行なう日本唯一の企業だ。2008年7月に、ロングリーチグループが保有していたOCCホールディング株式のうち、NECが75%の株式を取得して子会社化した。
NECは、OCCの子会社化により、従来は複数のケーブル会社から調達していたものを一本化。納期、価格の調整といった点での手間がなくなり、安定的な調達を図れる体制とした。また、NECグループとして、システム設計から海底中継器や端局、給電装置の製造、インテグレーションから、ケーブルの調達、敷設工事の受託まで、プロジェクト全体を通じて事業を請け負うフルターンキー型の海底ケーブルシステム事業体制を整えることができた。
なお、敷設工事は、NTTグループやKDDIグループなどが所有する船を活用し、アジア太平洋地域の海底ケーブルプロジェクトを中心とした事業展開を進めている。
海底光ケーブルは、国際的なブロードバンド環境を支えるインフラとして、その重要性はますます高まっており、現在、同社における海底光ケーブルの生産体制はフル稼働の状況だという。
OCCの設立は'35年。70年を超える歴史を持つ企業だ。資本金は22億5,500万円、2008年3月期の売上高は174億6,400万円。245人の従業員数が従事している。もともと同社は、'35年に海底ケーブルの国産化を目的に設立された日本海底電線が前身。ガッタパッチャ絶縁海底ケーブルの製造を目的に、大阪で操業を開始。さらに、日米間の国際海底ケーブルの国産化を目的に、'60年に設立した太陽海底電線と'64年に合併。日本大洋海底電線として再スタートし、'99年にOCC(オーシャン・ケーブル&コミュニケーションズ)に社名を変更した。光ケーブル事業に参入したのは、'86年の中継用海底光ケーブルの商用化が最初。'87年には陸上用光ケーブルの生産を開始した。
現在は、海底光ケーブルおよび関連製品、通信用陸上ケーブル、観測・探査用ケーブル、CATVケーブル、光ファイバーケーブルなどの製造、販売を行なっており、売り上げ構成比は、海洋事業が104億円(約60%)、陸上線事業が70億円(約40%)となっている。
OCC・代表取締役社長兼CEOの都丸悦孝氏 |
「海洋事業では、世界3大海底ケーブル会社の1社であり、独自開発による高性能、高信頼性のケーブル構造を実現している。一方、陸上事業では、NTTドコモ向けのメタルケーブルや、NEC向けのワイヤレス通信機器向けのパソリンク、マースエンジニアリング向けのアミューズメント向けインフラの導入などで実績を持っている。長年に渡る信頼性が当社の強み」と、OCCの代表取締役社長兼CEOの都丸悦孝氏は語る。
本社は、神奈川県横浜市のみなとみらいに置き、ケーブル生産を行なうOCC海洋事業本部海底システム事業所は、福岡県北九州市にある。また、陸上用の各種ケーブルの生産は、栃木県上三川町の上三川事業所で行なっている。
北九州市にある海底システム事業所は、'95年に竣工。敷地面積は、福岡ドーム4倍強にあたる186,000平方m。従業員数は92人、年間生産能力は2万km。累計生産距離は17万kmを超えており、地球4週半に達するという。生産したケーブルは、洞海湾側に着岸した敷設船に直接搭載することができる。
「北九州という場所は、NECの海洋事業が主力とする東南アジアに向けて、極めて好立地であり、敷設船を2船同時に着岸できる場所は、世界中を見渡しても、事実上、ここにしかない」(NEC海洋システム事業部・原田治事業部長)という。
現行主力製品である海底光ケーブル「OCC-SC300」シリーズは、3分割鉄個片構造という同社独自の手法を採用しているのが大きな特徴だ。一般的な海底ケーブルの場合、中心部にある光ファイバーを、空隙で抗張力層として形成。それをプラスチックやステンレスで溶接し、周りを絶縁および外被する手法でユニットを作り上げる。この手法だと、ファイバーユニット製造時に、ファイバーに熱影響が出る可能性があると同社では指摘する。
それに対して、OCCが提供する3分割鉄個片構造は、光ファイバーの周りを3つの鉄によって固定。その周りに、空隙による抗張力層を置き、さらに絶縁、外被という構造にする。
OCC・太田一取締役副社長兼COO |
「海底光ケーブルは、いかに光ファイバーを防護することができるかが鍵となる。空隙の中に光ファイバーを形成するのではなく、鉄個片で守ることができる当社の仕組みの方が高い信頼性を実現できる。堅牢な構造で、高速生産に適し、溶接などに伴う熱影響を抑え、省工程での生産が可能。高信頼性、高性能に加えて、コストメリットを兼ね備えた海底光ケーブルとして評価を得ている」と、OCCの太田一取締役副社長兼COOは胸を張る。
3分割鉄個片構造は、銅被工程のなかで一括工程で製造できるため、一般的な海底光ケーブルのように、ファイバーユニット製造工程と、銅被工程を別々に行なうことがなく、生産の効率化も図れるという。
「次期製品として、SC500(仮称)の開発に着手しており、今年中には第1弾の製品が完成する。来年以降、顧客に対してアプローチできるようになるだろう。15~17%のコストダウンが可能になると見ている」(太田副社長)という。
現在、OCCでは、大きく5種類の海底ケーブルを製品化している。無外装ケーブルとして、LW(ライト・ウエイト)ケーブル、LWS(ライト・ウエイト・スクリーンド)ケーブルの2種類。鉄でまわりを保護している外装ケーブルとして、SAL(シングル・アーマード・ライドゲージ)ケーブル、SAM(シングル・アーマード・ミディアムゲージ)ケーブル、DA(ダブル・アーマード)ケーブルである。
一見、重たい外装ケーブルが海底の深いところで利用されるように見えるが、実は逆で、深海部は環境が安定しているため、LWなどの無外装ケーブルが用いられる。これに対して、陸上に近い部分や水深が比較的浅い部分は、ケーブル破損からの保護が必要となるため、外装ケーブルが利用される。「無外装ケーブルと外装ケーブルの切り替えは、おおよそ水深1,500m程度」(太田副社長)という。
敷設場所の水深を想定し、この5つのケーブルを組み合わせて、種類を切り替えて設置していくことになる。一般的に40km~100kmごとに中継器が敷設されることになるが、生産工程では、設計図を見ながら、敷設順序の遅いものから生産を開始し、途中で中継器を接続し、それを船に積み込むことになる。
現在、NECグループでは、インドから西ヨーロッパまで全長1万2,000kmの「I-ME-WE」プロジェクト、日本と米国(ロサンゼルス)の全長8,000kmを結ぶUnity Cableプロジェクトを受注しており、これらのプロジェクトで使用される海底光ケーブルの船積みと生産がそれぞれ行なわれている。
では、写真を通じて、海底光ケーブルの生産工程および敷設への積み込みまでを追ってみよう。
(2009年 4月 22日)
[Reported by 大河原 克行]