山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Google「Nexus 6P」で電子書籍を試す

~最新のAndroid 6.0「Marshmallow」を搭載した5.7型スマートフォン

Google「Nexus 6P」。5.7型のAndroidスマートフォンで、メーカーはHuawei。アルミニウム、グラファイト、フロストの3色のほか、スペシャルエディションとしてゴールド(128GB)も発売が予定されている

 Googleの「Nexus 6P」は、5.7型の大型画面を持つ、Huawei製のAndroidスマートフォンだ。Marshmallowこと最新のAndroid 6.0を搭載する本製品は、iPhoneのTouch IDとほぼおなじ使い勝手の指紋認証を搭載するほか、新規格であるUSB Type-Cを採用するなど、新しい技術がふんだんに盛り込まれている。

 電子書籍界隈では、E Ink端末など専用デバイスよりも、スマートフォンで読書を楽しむユーザーが確実に増えつつある。電子書籍に限らず、日々持ち歩くデバイスはなるべく少なくしたいのが人情であり、画面サイズやバッテリの持続時間が不利でも、もう1台専用端末を携行するのではなく、スマートフォン1台で済ませようと考えるのは自然だろう。なかでも本製品のように大きめの画面を持つスマートフォンは、電子書籍ユースに比較的向いた製品であり、興味を持っている人も多いはずだ。

 本稿では、Google Playストアで購入したSIMフリーモデルをもとに、従来モデルのNexus 6、および競合となるiPhone 6s Plusと比較しつつ、電子書籍ユースで本製品を使った場合の使い勝手をチェックしていく。

筐体サイズはiPhone 6s Plusとほぼ同一ながら画面はひとまわり大きい

 まずは仕様の比較から。本連載の性格上、通信規格などよりも、画面表示など電子書籍におけるポイントを中心に項目をリストアップしていることを予めお断りしておく。

Nexus 6PNexus 6iPhone 6s Plus
製造元Google/HuaweiGoogle/モトローラApple
発売年月2015年9月2014年11月2015年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ)77.8×159.3×7.3mm82.98×159.26×10.06mm77.9×158.2×7.3mm
重量178 g184g192g
OSAndroid 6.0Android 5.0→6.0iOS 9
CPUQualcomm Snapdragon 810 v2.1
2GHz/オクタコア/64bit
Qualcomm Snapdragon 805
2.7 GHz クアッドコア
64bitアーキテクチャ搭載A9チップ
組み込み型M9モーションコプロセッサ
RAM3GB3GB2GB
画面サイズ/解像度5.7型/2,560×1,440ドット(518ppi)5.96型/2,560×1,440ドット(493ppi)5.5型/1,920×1,080ドット(401ppi)
通信方式802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
価格(発売時点)74,800円(32GB)
80,800円(64GB)
75,170円(32GB)
85,540円(64GB)
98,800円(16GB)
110,800円(64GB)
122,800円(128GB)

 最初に知っておきたいのは、本製品は型番にこそ「6」という数字が入っているが、画面サイズは6型ではなく、5.7型ということだ。Nexusシリーズの場合、従来モデルにあたるNexus 6が5.96型であるなど、基本的に末尾の数字がほぼその画面サイズを表しているが、本製品をこのルールに当てはめると、ややサバを読み過ぎという印象がある。6型だと思ってオーダーしたところ画面が小さくてびっくり、ということもあるだろう。

 といったわけで、先代のNexus 6に比べて画面が一回り小さい本製品なのだが、こうして比較すると、iPhone 6s Plus(および先代のiPhone 6 Plus)を大いに意識していることがよく分かる。筐体サイズの違いは幅がわずか0.1mm、高さが1.1mmのみ。それでいながら画面サイズはiPhone 6s Plusの5.5型に対して本製品は5.7型。かつ解像度は1,920×1,080ドット(401ppi)に対して2,560×1,440ドット(518ppi)と、あらゆる部分でワンランク上を狙ってきている。

 もちろんこれはあくまでスペック上の話で、また本製品は背面上部のカメラが飛び出ているため最厚部での比較となると不利なのだが、今回の電子書籍用途のように画面サイズと解像度が重要視されるケースでは、同等の筐体サイズで画面が一回り大きく、かつ解像度が高いというのは大いにプラスになる。5.5型では小さく感じられるというユーザーにとっては魅力だろう。

 では従来モデルのNexus 6と比べた場合はどうだろうか。本体サイズを見比べると、均等に小さくなったわけではなく、全長はほぼ同等ながら横幅だけが5.18mmも短くなっており、主にスリム化に注力していることが分かる。あくまで相対的にだが、Nexus 6よりも片手で握りやすくなっていると言える。

 価格については、この3製品だけを見比べるともっとも安価なのだが、海外では499ドルの32GBモデルが国内では74,800円に設定されており、やや(というよりも、かなり)割高だ。5.7型というサイズにこだわりがなく、もっと安価な製品を探しているのなら、5.5型のZenFone 2などを選ぶという手もあるだろう。メモリカードスロットがどうしても必要というユーザーも同様だ。

製品本体。筐体サイズはiPhone 6s Plusとほぼ同一だが、画面サイズは5.7型と一回り大きい
iPhone 6s Plusと比較しても左右のベゼルがかなり狭い。後述するが、これが電子書籍の操作上はややネックになる
背面。中央の丸い部分が指紋認証。上部のカメラ部はやや出っ張っている
このサイズのスマートフォンは上部に指が届きにくいため、電源ボタンが上部ではなく側面にレイアウトされているのは、使い勝手を考えるとありがたい
右側面に電源ボタンおよび音量調節ボタンを備える
筐体はアルミ製で高級感がある。下部には製造元であるHuaweiのロゴがある
ホーム画面。アイコンは左右に5つ並ぶ

指紋認証、USB Type-Cなどハードウェアも見どころが多い

 本製品はMarshmallowこと最新のAndroid 6.0を搭載するのが大きな特徴だが、ハードについても見どころが満載なのでざっと紹介しておこう。まずは指紋認証。丸型のセンサーに指を触れることでパスワードやパターンの入力なしにロックを解除できる機能で、iPhone/iPadシリーズのTouch IDと(ホームボタンを兼ねていないことを除けば)機能および使い方は同じ。背面中央という位置は購入直後は違和感があるものの、本体を握る際の指の配置を考えるとむしろこちらのほうが合理的であり、慣れると使いやすく感じるようになる。

 もう1つは1,230万画素の背面カメラで、敢えて背面上部に厚みを持たせただけのことはあって、画質は非常に高い。電子書籍用途ではあまり使い道はないが、レンズが明るく暗所での撮影に強いため、撮影したドキュメントを台形補正して保存するというスキャナ用途で威力を発揮したりと、スマートフォンではあまり写真を撮らないという人にとっても活用できるシーンは多い。

背面に指紋センサーを搭載。パスワードやパターンの入力なしに本体および対応アプリのロックを解除できる
指紋認証の登録画面。指先を何度かなぞって登録する手順は、iOSのTouch IDとほぼ同様
複数の指紋を登録できる。背面中央ということで、両手の人差し指は登録しておくのがよさそうだ
背面上部に1,230万画素のカメラを搭載。本体よりもやや厚みがある
横から見たところ。厚みがなるべく目立たないデザインになっているが、カメラを下にしてデスクなどに置く場合は気を使う。側面にあるのはSIMスロット

 もう1つ、コネクタにMicro USBではなく新規格のUSB Type-Cを採用している点も見逃せない。これまでMicro USBコネクタでは不可能だった、表裏を問わないケーブルの差し込みが可能になったことで、Lightningと同等の使い勝手を実現している。急速充電をサポートしており、10分間の充電で最長7時間使うことができるのも魅力だ。うっかりの充電し忘れが多い人にとっては大きな利点となることだろう。

 USB Type-Cは現時点ではまだ馴染みのないコネクタということで、手持ちのガジェットのコネクタをMicro USBに統一している場合、専用ケーブルを持ち歩かなくてはいけない不便さはあるが、本製品は長短2種類のケーブルが付属しているので、1つは自宅用に、1つは持ち歩き用にと別々の役割を持たせられる。このあたりは使い方によく配慮していると感心させられる。

コネクタはMicro USBではなく新規格のUSB Type-Cを採用
USB Type-Cのケーブル2本が同梱される
左から、USB Type-C、Micro USB、Lightningの比較。Lightningと同じくリバーシブル仕様だが、コネクタが少々大きいのがネック
10分間の充電で最長7時間使える急速充電をサポート
バッテリが20%台の状態から、1時間もあればフル充電が行なえる

518ppiという圧倒的な高解像度。細い線はかえって見づらく感じるほど

 次に、電子書籍用途に絞って、本製品で電子書籍を表示するとどうなるか、例を挙げながら見ていこう。

 画面サイズについては、5.7型ということで、スマートフォンとしては大型だが、電子書籍の専用端末に比べると小さい。画面比率も4:3ではなく16:9なので、幅は実測で70mmしかなく、コミックなど固定レイアウトのページは幅に合わせて縮小表示されることから、Kindleなど比率4:3の6型端末に比べると、実際の面積は半分ほどしかない。対角線の長さだけで比較すると5.7型と6型ということで差はあまりないが、表示面積で見るとかなりの差が差が付くことは気を付けた方が良い。

左が本製品(5.7型)、右がKindle Voyage(6型)。テキストコンテンツ(太宰治著「グッド・バイ」)を比較したところ。本製品のほうが画面サイズは小さいが、可変レイアウトなのでそこまでの違和感はない。単に1画面に表示できる文字数が違うだけだ
コミックを表示すると、横幅の違いから大きさの違いが露骨に出る
固定レイアウトのコミックでは画面上下に余白が生じることから、見開き表示にした比率4:3の6型端末と比べた場合、1ページの面積はほとんど変わらない

 もっとも、2,560×1,440ドットという解像度によって生み出される518ppiという画素密度は圧倒的である。iPhone 6s Plus(401ppi)を大幅に上回るほか、iPad Air 2やiPad Pro(264ppi)と比べると約2倍もの密度であり、コミックの表示においては単ページ表示はもちろん、見開き表示を行なっても細部がボケることなくきちんと読めてしまうのが空恐ろしい。

 ただその反面、明朝体など線が細いフォントは、200~300ppiクラスの端末と比較して、むしろ見にくい印象を受ける。ここで掲載している比較写真のようにズームアップするとそれほどでもないのだが、スマートフォンから手元まで数十cm程度の距離があると、かえって線が細すぎて見えにくいのだ。もちろんゴシックなどのフォントに切り替えるという選択肢もあるのだが、あまり解像度が高いのも考えものだと感じる。

解像度が高く細い線もしっかりと表示されるため、かえって見にくく感じられることも
左から、本製品(5.7型/2,560×1,440ドット、518ppi)、Xperia Z3 Compact(4.6型/1,280×720ドット、319ppi)、Fire HD 6(6型/1,280×800ドット、252ppi)の比較。ドットが見える他製品と比べて、本製品はエッジもシャープで、液晶とは思えないクオリティ
コミック(うめ著「大東京トイボックス 10巻」)の比較。テキストほどの差はないが、口元の曲線や肩や頬の斜線を見ると表現力の違いが顕著だ

ベゼルがスリムさゆえ誤操作が起こりやすいのがネック

 操作性については、Android 6.0とは言え、使い勝手が従来までとどこか異なっているわけではまったくない。電子書籍アプリについては、本稿執筆時点ではまだ一部のアプリが対応していないほか、頻繁に強制終了となるアプリもあるが(現状ではKindleがその状態である)、これは長期的には改善されていくことだろう。

 もっとも、本製品の仕様上、電子書籍を楽しむ上でかなり致命的なマイナスが1つある。それは左右ベゼルがスリムすぎることだ。本製品を手で握った際、ベゼルに指をかけたつもりが画面にタッチしてしまい、ページが意図せずめくられたり、文字列を選択してしまって辞書ウィンドウがポップアップする、というケースがよく起こるのである。通常の座った状態で読書をしている際はそれほどではないのだが、寝転がった状態で操作している場合など、やや無理がある持ち方をしている場合は、この症状が頻発する。

 ベゼルがスリムな昨今のスマートフォンではこの問題はよく起こりがちなのだが、iPhoneのように画面に触れた際にそれがタップなのか否かを判定する機能が用意されていれば、この問題は回避できる。しかし本製品はどうやらそうではないようで、意図しないページめくりや、範囲選択などが起こりがちだ。

ベゼルが狭いため、なるべく画面に指がかからないように持っているつもりでも、意図せず文字選択をしてしまうケースがある
読書中にこのように辞書画面が頻繁にポップアップし、そのたびにキャンセルを強いられるのはややストレスだ

 こうした場合の対策として、主に3つが挙げられる。1つは電子書籍アプリの設定でページの左右の余白を広く取ってやり、端寄りに文字が表示されないようにすること。これにより、意図せず文字選択が行なわれて辞書がポップアップする症状は軽減できる。さらに根本的な解決方法として、辞書機能そのものをオフにするというのもありだろう。ただしこの方法は、ページが意図せずめくられてしまう現象は防げない。

 ページめくりをタップやスワイプではなく、音量ボタンを使って行なうのも有効な方法だ。KindleやKobo、自炊系のAndroidアプリであればPerfect ViewerやComittoNなど一部のアプリは、スマートフォンの音量ボタンを使ってのページめくりが行なえる。本体を背後からわしづかみに持ち、人差し指ないしは中指を使って音量ボタンを押すことで、ページめくりが行なえるというわけだ。あらゆる電子書籍アプリで使える方法ではないが、本製品に限ってはこちらの操作方法のほうが、タップやスワイプによるページめくりよりも快適に操作できる。

 もう1つは、アクセサリを活用することだ。縁に厚みがあるケースを装着してベゼルに指が触れにくくすれば、この問題は軽減できる。また背面に指を通すためのリングを装着して、エッジに指がかからない持ち方を心掛ければ、タップやスワイプが的確に行なえるようになる。

アプリによっては音量ボタンによるページめくりをサポートしている。これはKindleアプリの設定画面
本製品は右側面に音量ボタンがあるので、これを使ってページめくりを行なえばよい。ただし持ち方はこのようにわしづかみにならざるを得ない
背面に両面テープで取り付けるタイプのリングを使い、本体を保持しやすくすることで、ベゼルに指がかかりにくくするのも、有効な方法だろう

電子書籍ユースにおいては優良可で言うと「可」レベル

2010年発売の電子書籍端末、GALAPAGOSモバイルモデル(右、5.5型)と比べると、薄く軽くまた解像度も高いなど、5年間のハードウェアの進化は歴然

 電子書籍の専用端末やタブレットを使っている人からすると、スマートフォンでの読書というのは、おそらく画面サイズの小ささから、どうしても躊躇しがちだろう。とは言え、いま電子書籍のヘビーユーザーを自覚している人の中にも、かつてはガラケーで読書したりと、今以上に狭い画面で耐え忍んできた人も多いはずで、5.7型という画面サイズに加え、ドットが目立たない518ppiという解像度は、当時から考えると画期的であることには異論はないだろう。

 またスマートフォンで読書する最大の利点は、持ち歩くのが1台で済ませられることだ。専用端末やタブレットに比べて長時間の読書には適さないかもしれないが、外出先でのカジュアルな読書用途ではぴったりだ。アプリさえ入れれば手軽に電子書籍を始められるというハードルの低さも利点と言える。

 それだけに本製品の、ベゼルがスリムすぎるが故の誤操作の起こりやすさは、電子書籍ユースにおいてはかなり大きなマイナスである。よって本製品の電子書籍ユースでの利用は、決して不可ではないものの、優良可で言うと「可」レベルというのが、しばらく使ってみた評価だ。解像度の高さなど利点は多く、また発熱などの問題もない(長時間使っているとカメラ部を中心に熱を帯びてくるが、下の方を握るためあまり感じにくい)だけに、なんとももったいないというのが率直な感想だ。

 この症状は、先に述べたように設定やアクセサリによってある程度は緩和できるので、当面はそちらをおすすめするが、本来であればなるべくソフトウェア側での対応を期待したいところ。これらを含め、今回触れられなかった、スマートフォン全般で電子書籍を快適に読むためのTipsについては、別の機会にあらためてお届けしたい。

(山口 真弘)