山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

東芝「dynaPad N72」で電子書籍を試す

〜12型にして重量約579gの軽量Windows 10搭載タブレット

東芝「dynaPad N72」。本体色はサテンゴールドで、キーボードは標準添付となっている

 東芝「dynaPad N72(以下dynaPad)」は、Windows 10 Home搭載の大画面タブレットだ。デジタイザペンを使った紙のような書き心地と、キーボードを使った文字入力の容易さ、さらに本体とキーボードを足して1kgを切る軽さが特徴の製品だが、12型という大画面は、雑誌を原寸に近いサイズで表示するのに適するほか、3:2という画面比率を活かして単行本の見開きを表示するなど、電子書籍を閲覧するのに適したデバイスとしても期待がかかる。

 B5原寸大(182×257mm)を表示できるiPad Proと比較すると、表示領域は実測値で169×254mmと幅がややスリムなため、完全な原寸表示は難しいが、雑誌などのコンテンツをなるべく大きく表示できる点においては、9〜10型のタブレットに比べて強みを持つ。タブレット部だけで579gという軽さも大きな魅力だ。

 今回はこのdynaPadを、iPad Proと比較しつつ、電子書籍用途を中心にチェックしていきたい。本稿の趣旨上、セールスポイントであるデジタイザーペンやキーボードについては軽く触れる程度となるので、あらかじめご了承いただきたい。

12型にして600gを切る軽さ。画面比率は3:2

 まずはiPad Pro、およびSurface Pro 4と仕様を比較してみよう。ここでは3製品全てにラインナップがある128GBモデルを基準に、各製品の仕様を比較している。iPad ProおよびSurface Pro 4は、ほかのストレージ容量およびグレードもあるが、今回は省略している。

 なお本製品はキーボードも標準で付属するが、以下の表におけるサイズおよび重量はタブレット部単体の値であり、キーボードは含んでいない。価格についてはキーボードも込みとなるため、他製品と価格を比較する際は注意してほしい。


dynaPad N72 iPad Pro Surface Pro 4
発売元 東芝 Apple 日本マイクロソフト
発売年月 2015年12月 2015年11月 2015年11月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) 299.4×203×6.9mm(タブレット部のみ) 305.7×220.6×6.9mm 292.1×201.4×8.4mm
重量 579g(タブレット部のみ) 713g 767g(Core m3モデル)、786g(Core i5モデル)
OS Windows 10 Home iOS 9 Windows 10 Pro
CPU インテル Atom x5-Z8300(1.44GHz) 64bitアーキテクチャ搭載第2世代A9Xチップ、M9モーションコプロセッサ インテル Core m3/i5/i7
RAM 4GB 2GB 4GB
カードスロット microSD - microSD
画面サイズ/解像度 12.0型/1,920×1,280ドット(192ppi) 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) 12.3型/2,736×1,824ドット(267ppi)
通信方式 802.11 a/b/g/n/ac 802.11 a/b/g/n/ac 802.11 a/b/g/n/ac
バッテリー持続時間(メーカー公称値) 約7時間 最大10時間(Wi?Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生) 最長約9時間の連続ビデオ再生が可能
価格(発売時点、税込) 119,880円 121,824円 134,784円(Core m3モデル)、150,984円(Core i5モデル)
本体色 サテンゴールド シルバー、スペースグレイ、ゴールド シルバー

 こうして比べると、同じ12型クラスの3製品の中で唯一、重量が600gを切っており、iPad Proに比べると134g、Surface Pro 4に比べると188gも軽いなど、かなりのアドバンテージがある。初代iPadが9.7型にして680gあったことを考えると、その軽さも分かるというものだ。

 本体の厚みはiPad Proと同じ6.9mmであり、Surface Pro 4(Core i5モデル)に比べると1.5mmも薄い。また価格についても、キーボードが付属しながら本製品がもっとも安価だ。ただしCPUはCherry Trail世代のAtom(Atom x5-Z8300)ということで、Core m3やCore i5を搭載したSurface Pro 4に比べるとやや見劣りする。動作速度については後述する。

 また解像度は1,920×1,280ドットと、フルHD以上ではあるものの、画素密度で見ると192ppiということで、iPadの264ppi、Surface Pro 4の267ppiの両製品と比べるとやや弱い。しかし、3:2という画面比率はiPad Proほどではないものの、画面比率16:10が多くを占めるAndroidタブレットに比べ、本のページを表示した際の余白が小さく、電子書籍には適した仕様と言える。また視野角もかなり広く、実用性は高い。

タブレット部の外観。画面比率は3:2と、Surface Pro 4と同様だ
右側面。イヤフォンジャックとMicro USB(デバイス接続用)を備える。向かって右はデジタイザーペンを固定するための凹み
左側面。Micro USB(充電用)、HDMI、microSDスロットを備える
上部には電源キーのほか音量大小キーを備える
正面。ベゼル幅は広くもなく狭くもなくといったところ
背面。縦向きを前提としたレイアウトであることが分かる

薄型軽量ながら剛性は十分。キーボードの実用性も高い

 本製品は12型ということで、iPad Proには及ばないものの画面サイズは非常に大きく、それ故に筐体サイズも大きい。にも関わらず、実際に手に持つと軽く感じるのは、実際に軽量であるのはもちろんだが、筐体がカーボン製であるのが大きな理由だと考えられる。アルミ製でずっしりと重いiPadシリーズに比べ、本製品を持った際の感覚は、ソニーのXperiaシリーズに近い。剛性面も、やや不安があったかつてのREGZA Tabletと異なり、本製品はかなり頑丈な印象を受ける。

 挙動については、iPad ProやSurface Pro 4のキビキビ感はさすがになく、ワンテンポ遅れる印象が強い。Webブラウズで10個ほどのタブを同時に開いた場合、Surface Pro 4のCore i5モデルでは、十数秒で読み込みが終わるが、本製品はCPUの使用率が100%に張り付いたまま、1分ほど何もできなくなってしまう。これはやや極端な使い方だが、そういったヘビーな用途向けの製品ではないことは理解しておきたい。

 一方、解像度についてはiPad Proには及ばないものの、1,920×1,280ドットを確保していることもあり、通常の使い方では特に粗くは感じない。ズームアップすると粗さが分かるが、通常の使い方であれば問題ない。実写サンプルも掲載しておくので参考にしてほしい。

iPad Pro(右)との比較。高さはほぼ同等だが、横幅がややスリム
厚みは同じ6.9mmだが、この写真のように、本製品の方がわずかに薄いように感じる
画面をズームアップして比較したところ。左が本製品、右がiPad Pro。解像度で言うと本製品が192ppi、iPad Proが264ppiということで、これだけズームアップするとやや差はあるが、ページ全体を見た場合はそれほどの違いは感じられない
AmazonのFire HD 10(右、10.1型)との比較。Fire HD 10は、読書利用を前提とした端末の中では大きい部類に入るが、本製品はそれよりも遙かに大きい。ただし価格差は約4倍だ
シャープのGALAPAGOSホームモデル(右、10.8型)との比較。過去に国内で発売された読書用端末としては、最大クラスの製品だが、こちらもやはり本製品の方が大きい。重量も765gのため、本製品の方が軽い
AmazonのKindle DX(右、9.7型)との比較。Kindle DXの本体サイズが、本製品の画面サイズよりもわずかに大きい程度

 キーボード部についても触れておこう。本製品のキーボードは、溝の部分にタブレットをはめ込む構造になっており、安定性は極めて高い。キックスタンドを採用したSurface Pro 4が、少し後ろに押すとすぐパタンと倒れてしまいがちなのとは好対照だ。ただし角度は固定なので、用途によっては不便に感じることもあるだろう。膝の上などで使おうとすると、キーボード部の軽さゆえのバランスの悪さもやや気になる。

 ただし、打鍵感は秀逸だ。ストロークは1.5mmとかなり深く、Surface Pro 4のキーボードやiPad ProのSmart Keyboardとは一線を画する。タッチパッド部の左右ボタンのクリック感の安っぽさはやや気になるが、キーピッチも19mmと広く、文字入力においては、このキーボードとデジタイザーペンの2つが使える点において、競合製品と比べてもかなり優秀なツールという印象を受ける。

 また、分離させてタブレットとキーボードを重ねると磁力でくっつくので、バッグやケースの中に入れても重ねた両者がずれることはない。このあたりのギミックはよくできていると感心させられる。デジタイザーペンを取り付けておける凹みが設けられているのも便利だ。

付属のキーボード。全体的にオーソドックスなキー配列で使いやすい
ストロークはかなり深く、Surface Pro 4のキーボードやiPad ProのSmart Keyboardとは一線を画する。タッチパッド部の左右ボタンのクリック感がやや安いっぽいのが残念
キーボードにタブレット本体を取り付けた状態。まさにノートPCといった外観だ。この状態で999gと非常に軽い
横から見た状態。角度は調節できない。また重心がやや後ろ寄りなので、膝の上などで使う場合は注意を要する
キーボード部に設けられた溝に差し込む方式。Windows 10のContinuumに対応しており、合体させるとタブレットモードからデスクトップモードへと切り替えるためのダイアログが表示される
Bluetoothなどの無線接続ではなく、専用の接点を使って信号のやり取りを行なう
タブレット部とキーボード部を重ね合わせると磁力でぴったりと固定される
側面から見たところ。磁力はそれほど強力ではないが、バッグの中などで容易に外れるほどではない
ワコムと共同開発によるアクティブ静電結合方式のデジタイザーペンが付属。本体側面に取り付けることが可能

電子書籍はWindowsストアアプリの充実度が課題

 さて、電子書籍端末としての利用についてだが、本製品はWindows 10 Homeを搭載していることから、デスクトップモードとタブレットモードを切り替えて使える。電子書籍端末として使うならばタブレットモードを選ぶことになるが、残念ながら本製品の性能云々よりも前に、現時点ではWindowsタブレットに対応した電子書籍アプリの数そのものが非常に少ないという問題がある。

 そのため、既に自分が使用している電子書籍ストアのアプリを入れれば、購入済みのライブラリを呼び出してすぐに読書が楽しめる……という状況には程遠い。このあたり、iOSやAndroidにはまだまだ及ばない印象だ。ひとまず、Windowsストアから入手できる、総合系の電子書籍ストアアプリについてざっとチェックしていこう。

通常のデスクトップモード。プリインストールアプリの数はかなり多い
タブレットモードに切り替えるには、アクションセンターからアイコンを選択するか、もしくはキーボード部から取り外すことでもモードが切り替わる

 まず、大画面を活かした表示が期待される雑誌系では「マガストア」が挙げられる。ライブラリの表示や購入、見開きでの閲覧については大きな問題はなく、ページめくりの操作についても違和感なく行なえるのだが、最大の問題は、縦向きでの単ページ表示をサポートしないことだ。そのため、雑誌を原寸大で表示するという、本製品最大のメリットが活かせない。

 これはタブレットモードでの挙動で、デスクトップモードに切り替えることで縦向きの単ページ表示が可能になり、ページめくりも問題なく行なえるのだが、挙動はやや不安定で、縦向きのままロックができない、不意に横向きになってそのまま縦向きに戻せない、そのままアプリごと強制終了するなどの症状があり、実用性は低い。

 ただし横向きに限定すれば、デスクトップモード、タブレットモードともに、そこそこ安定している印象なので、見開きでの表示で利用するのであれば、候補に入れていいだろう。なおマガストアはストリーミング方式なので、オフラインで閲覧できず、またページめくりも全体的にもっさりした動きになることは、注意した方がよいだろう。今回は試していないが、本製品のデスクトップからアクセスできる、U-NEXTの雑誌読み放題サービス(月額料金制)などを利用するのも1つの手だろう。

「マガストア」のホーム画面。購入済みコンテンツが本棚に並んでいる
ストアに移動して本を購入することもできる
横向きでは見開き表示が行なえる。全画面表示にも対応する
見開き表示をオフにするとなぜか横幅を基準にページが拡大される
単ページ表示に対応しないので、縦向きにしても本製品の画面サイズを全く生かせていない。ここまで欠点が露骨だとむしろ潔い
デスクトップモードに切り替えると縦向きの単ページ表示も可能だが、挙動は不安定で強制終了することも

 続いてイーブックイニシアティブジャパンの「ebiReader Lite」。eBookJapanに対応したアプリで、購入済みライブラリの中から読みたいコンテンツをタップして開き、タップもしくはスワイプでページをめくりながら読む……という基本的な挙動は問題ないのだが、ネックなのはこれがダウンロードではなく、ストリーミングで行なわれていることだ。

 つまり実体としてはブラウザビューアで表示しているだけで、iOSやAndroid版に比べてレスポンスがとにかく悪い。特に起動直後のホーム画面では購入済みライブラリではなく、必ず無料コンテンツの一覧が表示される設計になっており、大量のサムネイルの読み込みが終わるまで、数十秒は何もできず固まった状態になるのはいただけない。

 またアプリ自体が落ちる確率も高く、テキスト系などサポートしないコンテンツも多いことから、積極的にはおすすめしにくい。これなら、まだデスクトップモードでWindows向けの「ebi.BookReader」を使った方が、ダウンロード型であることから挙動もきびきびしており、またebiReader Liteでは対応できないテキストコンテンツも読むことができる。

「ebiReader Lite」。eBookJapanで購入したコンテンツを読めるが、ストリーミング方式ということで挙動は遅く、オフラインでの閲覧もできない
ページめくりはタップとスワイプに対応。左側の余白が右に比べてやや広めに表示される
サイドバーから続巻を購入できるなど機能は充実しているのだが、とにかく挙動が遅いのがネック

 こうした中、唯一及第点と呼べるレベルに達しているのが、紀伊國屋書店の「紀伊國屋書店 Kinoppy」だ。こちらはiOS/Androidと同じダウンロード型のアプリで、本棚を模したホーム画面で購入済みライブラリが表示されるので、タップして開き、タップもしくはスワイプでページをめくりながら読むことができる。

 コミックはもちろん、テキストコンテンツの表示もサポートしており、フォントサイズなどの変更も行なえる上、なによりダウンロード型ということで挙動もキビキビしており、オフラインでの閲覧も可能だ。もし本製品の購入をきっかけに新しく電子書籍ストアを使い始めるならば、現時点ではこれを選ぶのが妥当だろう。

「紀伊國屋書店 Kinoppy」。こちらはiOSやAndroidと同じくダウンロード式で、オフラインでの閲覧も可能
コミックは上下のバーもなく、違和感のない表示が可能。ページめくりはタップとスワイプに対応する
読書周りのオプションも、iOSやAndroidとおおむね同水準の機能が用意されている
こちらはテキストコンテンツ。タップもしくはスワイプによるページめくりに対応する
フォントサイズのほか、行間、余白を調整できる
これは見開きレイアウトでの表示だが、単ページ表示への切り替えも可能
コミックで単ページ表示に切り替えたところ

 このほか、いわゆる総合系ストアではないが、iOSやAndroidではおなじみの、集英社「少年ジャンプ+」も、電子書籍カテゴリのアプリの中で評価が高く、お目当のコミックがある人は要チェックだ。また自炊データの閲覧用であれば、以前MADOSMAのレビューでも紹介した「Cover」が利用できる。登録冊数に上限はあるが、それを有料アドオンで解除してしまえば、数百冊以上の自炊データが快適に使える。安定性は文句なしとまではいかないが、PDFとZIP圧縮JPGの両方が扱え、かつ右綴じに対応したアプリは貴重だ。

「Cover」はPDFとZIP圧縮JPGの両方が扱えるので、DRMフリーのPDFや自炊データの閲覧に適する。単ページ表示もご覧のとおり問題なし
綴じ方向の切り替えやお気に入り登録など機能は多彩だ

 なお総合系のストアについては、従来のWindows向けビューアソフトを使ったり、ブラウザビューアを使う方法もあるが、タブレット利用に最適化されていないが故のボタンの小ささなどの問題に加えて、全画面表示に制限があるなど、なにかしらの問題があることが多く、あまり積極的にはおすすめできない。

 今回はあらゆるストアを試したわけではないが、iOS/Android版に比べると、シームレスな使用感という意味ではまだまだというのが全体的な感想だ。今回の「紀伊國屋書店 Kinoppy」と同水準のアプリが、ほかの電子書籍ストアからも登場することを期待したい。

これはKindle for PCをタブレットモードで使ったところ。左右に不自然な余白ができてしまう
コミックは左右に一定の幅を残して縮小されるため、結果的に上下左右に黒帯ができてしまう
無理に拡大しようとしても左右の黒帯に遮られてしまう

電子書籍用途では、現時点ではハード云々よりもアプリ待ち

 以上ざっと見てきたが、現時点ではハード云々よりも前に、Windowsストアにおける電子書籍アプリのラインナップが少なく、また完成度もイマイチなことから、「紀伊國屋書店 Kinoppy」や「Cover」など一部のアプリを除き、現時点では電子書籍端末としての快適な利用は難しい。12型にして579gという軽さは、ほかにない魅力だけに、なんとももったいない印象だ。

 本製品はもともと電子書籍用途を大きくアピールしているわけではなく、デジタイザペンによる紙のような書き心地と、キーボードによる文字入力の容易さ、さらにトータル1kgを切る軽さこそがセールスポイントである。とは言えこの軽さなら、購入したユーザーは電子書籍の端末として使ってみたいと考えるのは自然だ。

 東芝は、昨年末に自社ストア「BookPlace」の運営から手を引いており、そのことが影響したかは分からないが、「迷ったらこれ」という選択肢が少なくとも1つは欲しかったところ。本製品は息の長いシリーズになると考えられるので、Windowsストアでのアプリの充実も含めて、今後に期待したいところだ。

(山口 真弘)