山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Amazon「Kindle Paperwhite」(ストア編)
~E Ink搭載の新型Kindleで日本版Kindleストアを使う



Kindle Paperwhite

11月19日 発売
価格:8,480円



 10月25日からついにサービスインした日本版Kindleストア。端末の投入についてもあわせて発表され、E Ink搭載の「Kindle Paperwhite」とその3Gモデルが11月19日、カラー液晶の「Kindle Fire」「Kindle Fire HD」が12月19日より出荷開始されることが発表された。これですでにリリースされているiOS版、Android版のアプリなどと合わせ、日本でのKindleコンテンツの利用環境が一気に整うことになる。

 今回日本向けの出荷が発表された端末はいずれも、従来の日本向け価格に比べるとかなり安価に設定されているのだが、中でもドル/円のレートを考慮するとひときわ安く設定されているのが、8,480円という価格で発売される「Kindle Paperwhite」だ。前回のレビューでお届けしたように、海外で販売されている「Kindle Paperwhite」はすでに日本語メニューが利用できるので、現時点で設定を切り替えれば日本版Kindleストアをいち早く利用できる。

 今回はストア編と題し、この「Kindle Paperwhite」による日本版Kindleストアの試用感、および日本語書籍の閲覧環境についてのレビューをお届けする。端末のセットアップ手順や、ハードウェアの特徴などについては、前回のレビューをご覧いただきたい。

 なお、本稿で用いているのは日本語版の正式発表前にAmazon.comから購入した個体であり、国内向けの出荷にあわせて何らかの変更が施される可能性は少なからずあるので、その点は了承の上ご覧いただければと思う。

本稿執筆時点のファームウェアのバージョンは「5.2.0」となっているホーム画面。日本語コンテンツが並ぶ。書影の下にある「…」は、本のページ数の多さと、既読位置を表しているiOSやAndroid向けにリリースされているKindleアプリでも日本語コンテンツが利用できる。これはiPhone向けKindleアプリのホーム画面。なお、比較のために同じコンテンツを並べているが、端末上のコンテンツ配置まで同期されるというわけではない(以下のスクリーンショットはすべて同様)
これはAndroidのスマートフォン(Xperia acro HD)でKindleアプリのホーム画面を表示したところ。下段に注目タイトルが並ぶことや、ストア機能へのリンクがあることがやや異なるiPad miniでの表示。ちなみにiPadでも同様の画面レイアウトAndroidのタブレット(Nexus 7)での表示。スマートフォンとはややレイアウトが異なり、下段の注目タイトルがない
PC向けの閲覧ソフト(Kindle for PC)は現時点で日本向けに公開されていない。英語版をダウンロードしてインストールすると日本語化されているが、本稿執筆時点ではログインできないようだ

●ストアはテキスト主体で地味めのデザインだが、迷いにくい構成

 「Kindle Paperwhite」で日本語版Kindleストアを利用するには、セットアップの段階でAmazon.co.jpのアカウントを入力すればよい。すでに海外のアカウントを使っていれば切り替えれば済むし、購入済みのコンテンツを統合する方法も用意されている。これから出荷される日本語版については、あらかじめ購入時のAmazon.co.jpのアカウントが登録されているものと考えられるので、アカウントの入力や切替といった手間は一切ないはずだ。

 電源を入れ、ホーム画面の上部メニューバーの中央にあるカートアイコンをタップすれば、日本版Kindleストアに接続できる。ストアのトップページは上段/中段/下段に分かれており、上段には「小説/文芸」「コミック」など計5ジャンルへの直接リンクと、全てのジャンルへのリンクが並ぶ。中段はベストセラーや注目タイトルへのリンク、下段は「おすすめ」の書影という構成だ。下段を除いてテキストがメインで、サムネイルを中心とした競合製品に比べると地味だが、1ページ内に全カテゴリおよびコーナーへの入り口が集約されているため、すぐに理解でき、迷うことがない。

Kindleストアのトップページ。テキスト主体のやや地味めなデザインすべてのジャンルを表示したところ。「小説・文芸」「人文・思想」「社会・政治」「歴史・地理」「コミック」の計5ジャンルはトップページからも直接リンクが張られている

 各ジャンルやベストセラーをタップすると、書籍のリストが表示される。ページをめくって気に入った書籍があればタップして詳細ページを表示し、「1-Clickで買う」をタップして購入する。決済処理が行なわれると同時にダウンロードされ、読めるようになるという流れだ。購入プロセスにおいてIDやパスワードの入力は一切不要で、また誤って購入した場合はキャンセルも効く。

 ざっと使った限り、表現は分かりやすく、クリックした先の画面が意図しない内容だったりということもないので、良い意味で「普通」に使える。レスポンスはきびきびしており、タッチの空振りもみられないので、操作していてストレスがたまらない。例えばソニー「PRS-T2」はページめくりは速いのだが、メニュー操作はかなり待たされることが多い。そのため、本製品を使ったあとでPRS-T2を操作すると、もっさりと感じられたほどだ。無線LANが切断状態でタップした時の再接続が、競合端末に比べて速く感じられるのも好印象だ。

 些細なことだが、敢えて気になった箇所を挙げるとすれば、ストアを表すアイコンがショッピングカートの形をしていることだろうか。ショッピングカートアイコンはカートの「中身」を表示するための記号であることがほとんどで、Amazonのサイトでも例外ではないが、本製品では異なる意味で使われている。ストアトップに戻ろうとして誤ってホームアイコンをタップしてしまうケースが多かったのは、筆者のうっかりよりも、このアイコン形状に起因する問題のように思われる。慣れれば問題ないとはいえ、UIのセオリーからすると、できれば避けてほしかった。だが、問題点はそれくらいだ。

リスト画面では、1ページに6つのコンテンツが表示される。上下スクロールではなく、このページをめくって前後のページに移動する。ちなみにこれはベストセラーの画面だが、ほかのカテゴリや検索条件でも画面構成はほぼ同じタップすると書籍の詳細ページが表示される。下段にはカスタマーレビューが表示されている。ページを遷移せずにこのページ内でレビューが読めるのは大きい
「1-Clickで買う」をタップすれば決済処理が行なわれ、即ダウンロードされる。あとはホーム画面に移動してタップして開けばよい無料サンプルをダウンロードして読み終えると、ストアに移動するか、あるいはすぐに購入するかの選択肢が表示される。個人的には、購入予定の本は「ほしい物リスト」に追加するよりも、サンプルをダウンロードしておいた方が忘れにくいのでおすすめだ

【動画】購入フロー。ホーム画面からストアに移動し、キーワード検索で、筒井康隆著「家族八景」を探して購入し、ダウンロード完了後に本を開くまでの様子。テキストコンテンツということもあるが、「1-Clickで買う」をタップしてから最初のページを開くまでの所要時間はわずか25秒

●カスタマーレビューとおすすめ度の星マークを重視した表示

 さて、Kindleストアを他のストアと比較した際の強みとして、大量のレビューを保有していることが挙げられる。レビューはAmazonのカスタマーレビューと共用になっており、日本語ストアオープン直後の現時点で多くの書籍にすでにびっしりと評価が付けられている。これらを参考にしながら買い物ができるのは、Kindleストアの大きな強みだ。他の電子書籍ストアはレビュー欄に閑古鳥が鳴いていることが多く、口コミを参考にしようにも口コミそのものが存在しないからだ(対抗し得るのはブクログのデータを利用しているGoogle Playブックスくらいだろう)。

 この「強み」をKindle側がはっきり意識していることが分かる箇所は、上記のリスト画面の端々に見られる。1つはリストの通常表示において、電子書籍の「価格」が表示されていないにもかかわらず、おすすめ度の星マークだけはしっかりと掲載されていること。PC版、およびAndroidのKindleアプリだと、このリストは4行表示で価格も表示されているのだが、Kindle Paperwhiteから表示すると3行に減っており、価格の行が抜け落ちるのだ。おそらく3行という制限があるために価格の行を外したと考えられるが、おすすめ度の星マークは載せておきながら価格を外すというのは、なかなか興味深い判断だ。

本製品のリスト表示。3行で価格表示が抜け落ちているが、おすすめ度の星マークだけはしっかりと載っている同じ画面をAndroid版で見たところ。4行で価格のほかおすすめ度の星マークも載っている。なお、iOSアプリはストア機能がないので同じ画面はない同じ画面をPC版で見たところ。折り返しがあるのでわかりにくいがこちらも4行表示で、価格もおすすめ度の星マークもきちんとある

 また、このリスト表示の画面を表紙のサムネイル表示に切り替えると、表紙+おすすめ度の星マークだけの表示になる。タイトルや作者の情報を非表示にしてまで、おすすめ度の星マークにこだわるのが面白い。さらに、検索結果の絞り込みでも、「星4つ以上」などおすすめ度での絞り込み機能が用意されている。Amazonでは以前からある機能だが、他のストアでは前述の理由から実装できない。ほかの検索条件と組み合わせて、例えば「過去30日以内×星4つ」といった具合にフィルタリングすることもできる。

 検索機能について、他のストアでは出版社名から検索したり、著者名を五十音順で検索する機能が用意されていることが多いが、あまりに量が莫大すぎて目的の本にたどり着けず、結局キーワード検索の方が早かった、ということが多々ある。Kindle PaperwhiteでKindleストアを利用した場合、ピンポイントで探す場合はキーワード検索、新しい本と出会いたい場合はこのカスタマーレビュー&おすすめ度の機能による検索と、役割がうまく分担されており、特集などの少なさをカバーしている。個人的には、こちらの方がはるかに有用だと感じる。

ベストセラーページを表紙の表示に切り替えた状態。タイトルや著者名すらないにもかかわらず、おすすめ度の星マークだけはある絞り込み機能を使って、小説/文芸カテゴリから「過去30日以内×星4つ」の条件で人気作品を表示したところ。ベストセラーなどとは全く異なる高評価作品が並ぶので面白い。ちなみに本稿執筆時点ではベスト20のうち星新一作品が1/3近くを占めるもちろんキーワード検索にも対応している。先の動画による購入フローも参考にして欲しい

 といった具合に、全般的に高評価で致命的な問題もなく、さすがKindleと言って差し支えない出来だ。唯一気になったのはシリーズものの表示で、漫画などでは1巻ごとに表示され、また購入後もシリーズでまとめて表示することができないので、巻数が多いシリーズだと表示がややうるさい。このあたりは、GALAPAGOS STOREやBookLive!など、シリーズでの集約が可能な国産ストアに一日の長がある印象だ。

 またストアの仕組み上、1冊ずつしか買えないので、他の国産ストアで見かける「コミック全巻まとめ買い」といったことは現状ではできない。このあたりは機能の過不足と言うよりも、設計思想の違いに起因する部分だろう。

●右綴じ/縦書き表示にも問題なく対応。読書周りの機能は豊富

 続いてコンテンツ購入後の挙動、つまり実際に本を読む機能について見ていこう。

 新規に購入した本は、ダウンロードが完了するとホーム画面に表示されるので、タップして開けばよい。他の端末で購入済みの本は「クラウド」の中に保存されているので、タップして「端末」にダウンロードしたのちタップして開く。基本的にはこの2通りのどちらかだ。

 本を削除すれば「クラウド」に戻され、「端末」上からは消える。必要になれば「クラウド」からダウンロードするだけ。つまりこれから読む本だけを入れておくのが端末という考え方だ。なお本体を初期化したり、アカウントを一時的に解除した場合もストアから購入済みの全コンテンツが「クラウド」に戻されるので失われることはない。もちろん、USBケーブルで転送した自炊本などのコンテンツはこの限りではないので注意しよう。

ストアで「1-Clickで買う」をタップすれば決済処理が行なわれ、即ダウンロードされる購入完了。うっかり押してしまった場合はキャンセルも可能ホーム画面に移動するとコンテンツがダウンロードされている。漫画コンテンツは一般的にデータ量が大きいため、この画面のようにサムネイル表示が追いつかない場合がある
ちなみにAndroid版では購入直後の画面に「今すぐそれを読む」というボタンが表示され、ホーム画面に手動で遷移しなくとも自動的にコンテンツを表示できるのだが、本製品では自力で移動する必要がある「クラウド」と「端末」はホーム画面の左上をタップして切り替える。これは「端末」を選択しているところ。太文字で表示されているのだが、もう少し強調表示されていてもよいかもしれないこれは「クラウド」を表示しているところ。これらは端末にダウンロードされていないので、読むためにはタップして「端末」にダウンロードする必要がある
購入直後にキャンセルすると表示される画面。この場合、追って返金のメールが届く他の端末で読んでいたページ位置は自動的に同期される。このように同期するか否かを選択するポップアップが表示される場合もある(どのような条件下でのみ表示されるのかは不明)が、端末名と時刻が表示されているので判断しやすい

 読書機能は、右綴じ/縦書き表示にも問題なく対応している。タップもしくはフリックでページめくり、単語長押しで内蔵辞書(デジタル大辞泉など)による意味表示、範囲選択でハイライト/メモ/Wikipediaでの検索、翻訳などなど、機能は十分にして盛り沢山だ。範囲選択も行ないやすく、レスポンスも待たされることがない。TwitterやFacebookへの投稿にも対応している。ない機能といえば、ソニーReaderにある早送り機能くらいだろうか。

右綴じ/縦書き表示にも問題なく対応している。iOSのKindleアプリではハイフンがうまく90度回転していなかったり、縦書きの中で2桁の数字を横組みする、いわゆる「縦中横」が行なわれていないケースもみられたが、本製品でざっと見た限りでは問題は見られなかった画面上部およそ1/4のエリアをタップするとメニューが表示される。英語版にあるX-rayボタンは、日本語版の多くのコンテンツでは非表示になっているようだフォントサイズ、明朝/ゴシックの切り替え、行間、余白の調整が可能。縦/横書きの切り替え機能はないようだ
テキストコンテンツでは、ピンチイン/アウトで文字サイズを調整することもできる移動機能は、ページもしくはナンバーを指定しての移動のほか、目次があればジャンプもできるページにブックマークを付け(右上)、文章にハイライトを付け(中央)、さらにそこにメモを付けた状態(ハイライト左下)
メモやブックマークを一覧表示したところ。タップすれば該当ページに移動できる内蔵辞書で意味を調べることもできる。ここはデジタル大辞泉を使用このほか、シェア、Wikipediaでの検索、翻訳などの機能も使える
メッセージを入力してFacebookとTwitterでシェアできる。端末に両SNSのアカウントを登録していると強制的に両方に投稿されるので注意。せめて選択させて欲しいところだFacebookに投稿されたメッセージ。投稿の共有範囲は標準設定がそのまま使用されるTwitterに投稿されたメッセージ。自動的にハッシュタグ「#kindle」がつく。これはさすがにお節介というか、少なくとも日本向けのハッシュタグにしておくべきだろう
FacebookおよびTwitterからのリンク先は、書籍の販売ページではなく、コメントを集約したページとなるコンテンツを最終ページまで表示すると、完了および共有画面が表示される。最終ページに行き当たったこと自体わからないようなビューアもある中、合理的なフローだ読み終えたタイミングで評価を投稿することもできる

 E Inkにつきものの白黒反転については、6ページにつき1回か、1ページにつき1回かを選択できるのだが、漫画のように画像が含まれているページは、その前後で設定とは無関係に強制リフレッシュさせられてしまう。これはソニーPRS-T2、kobo Touchなど昨今のE Ink端末に共通する挙動で、本製品だけの仕様ではないのだが、多少残像が残ってでも白黒反転なしで読みたいニーズはあるはずで、今後の改善に期待したいところではある。ページめくりのパフォーマンスと合わせて、詳細は以下の動画でチェックしていただきたい。なお、自炊データについても同様に1ページ毎の白黒反転が発生する。

【動画】ソニーPRS-T2と、テキストコンテンツ(吉田修一著「悪人」)のページめくりを比較したところ。本製品は6ページごと、ソニーPRS-T2は15ページごとに白黒反転する。スワイプ、タップ(PRS-T2はタップ非対応のためボタン操作)の2種類の方法でページをめくっているが、反応自体は大きな差はなく、空振りもない
【動画】ソニーPRS-T2と、漫画コンテンツ(うめ著「大東京トイボックス 1巻」)のページめくりを比較したところ。テキストの時とは異なり、両製品とも1ページにつき1回白黒反転する。速度はわずかにソニーPRS-T2のほうが速いが、ソニーPRS-T2は余白が広いのが気になる
【動画】楽天kobo Touchと、テキストコンテンツ(吉田修一著「悪人」)のページめくりを比較したところ。両製品とも6ページごとに白黒反転する。タップ、スワイプとも、パフォーマンスは同等といったところ
【動画】楽天kobo Touchと、漫画コンテンツ(うめ著「大東京トイボックス 1巻」)のページめくりを比較したところ。両製品とも1ページにつき1回白黒反転する。kobo Touchは中程度の速度で8回タップする間に1回、高速で10回スワイプする間に3回も空振りしているが、Kindleは表示が遅れることはあっても空振りは発生していない

 ちなみに本製品は、漫画向けの特殊な表示モード「パネルビュー」も搭載している。これはページを拡大した上で4分割し、右上→左上→右下→左下とスクロールしながら見せていくモードだ。ソニーReaderに搭載されているページモードと同じだが、進行方向が右綴じ前提で固定されている(ゆえに漫画向けとしているのだろう)と、次ページへの移動時にページ全体の等倍表示が間に1ページ挟まることが異なる。

 なお、この「パネルビュー」は自炊データでは機能せず、Kindleストアで購入した漫画にのみ適用される。また、テキスト本の挿絵の上でダブルタップした場合もこのパネルビュー表示にはならず、単純な拡大表示になる。

全画面表示(左)でダブルタップするとパネルビュー表示(右)に切り替わり、画面の右上→左上→右下→左下の順に拡大したままスクロールする。細かい書き文字を読むにはいいが、漫画のコマがきっちりこの4等分に収まっていることはまずなく、実用性はあまりない。「ページをめくってもズームが維持される」程度の機能だと考えておいた方がよさそうだソニーPRS-T2の4分割ページモードとの比較(さきと同じページの左下を表示している)。ソニーPRS-T2が余白まで含めて4分割しているので空白部分がやたらと多いのに対し、本製品のそれは多くの面積を表示できている。ただコマ割りによっても見え方がまったく変わるので、一概に良し悪しは言いにくい

●容量、挙動とも、自炊ビューアには不向きな仕様

 最後に「自炊」データのビューアとしての使い勝手にも触れておこう。

 まず解像度については、658×905ドットにすればドットバイドットで表示される。従来のKindleとはサイズが異なっているので要注意だが、その点だけ注意すれば特に問題ない。また従来モデルから利用できなくなったZIP圧縮JPEGは、試した限りでは今回も動作しなかったので、自炊データのフォーマットは基本的にPDFということになる。

 ただ、そもそもの問題として、約2GB(ユーザー使用可能領域約1.25GB)という容量、そして外部メモリカードに対応していないことからして、本製品は自炊データを大量に入れて使用する用途には向いていない。1つの自炊ファイルが仮に50MBだったとして、計算上は25個のファイルを入れただけでいっぱいになってしまうからだ。

 これがKindleストアから購入した漫画コンテンツであれば、ファイルサイズが自炊データと同程度でもクラウドと切り替えながらやりくりすることはできるし、またメールを利用してKindleに文書を転送できる「パーソナルドキュメント」を使えば、クラウド上に文書ファイルなどを最大5GBまで保存しておける。しかしそれでも大容量のmicroSDが使える機種には見劣りするのは明らかだ。

PCとUSBケーブルで接続し、エクスプローラーでDocumentフォルダを表示したところ。テキストコンテンツ(「悪人」)が1MB未満、テキストと画像の混在コンテンツ(「自炊のすすめ」~)が約10MB、漫画などほぼ画像のみのコンテンツ(銭 壱巻/大東京トイボックス1巻)が約20~50MB程度。本によって容量は前後するが、参考にして欲しいKindleのホームページで「My Kindle」の「Kindleライブラリ」を表示すると、クラウド上にあるコンテンツがすべて表示される。ここでは購入済みコンテンツのほか、メールで転送したドキュメントなどが一覧表示でき、特定端末への配信や削除が行なえる

 といったわけで、手持ちのいくつかのデータを入れて楽しむ程度ならまだしも、本格的に自炊ビューアとして使うのはちょっと難しい。しかも前述のようにページごとに強制的に白黒反転させられるうえ、PDFの設定にかかわらず右綴じに対応しないとなれば、なおさらだ。

 もっとも、microSDなどのメモリカードを利用できるE Ink端末についても、あまりにたくさんのデータを詰め込むと、実用レベルでは耐え難いほどレスポンスが低下することがあるので、そのほかのE Ink端末ならば快適かというと、一概にそうとは言えない。今回は検証できていないが、他社製品も含め、公式のストアから購入した漫画コンテンツについても(フォーマットに依存するにしても)こうした懸念はあるので、そうした意味でローカルにあまり多くのデータを保存できない本製品は、1つの解といえるのかもしれない。

●普通に本が買えて読めるってすばらしい

 以上、ストアおよびビューアまわりを見てきたが、一言でまとめるならば「普通に本が買えて読めるってすばらしい」という表現が適切だろうか。フロントライトを別にすれば競合ストアの端末にない突出した機能があるわけではなく、前述したページ早送り機能のように、競合ストアの端末の方が優っている機能もある。

 だが、ストア機能もひっくるめて触ってすぐに使い方が理解でき、ストレスなく使えるユーザインターフェイスの完成度は、競合ストアの端末に比べて頭1つ抜きん出ている。中でも秀逸なのはワンクリックで購入できることで、本を1冊買うたびにIDやパスワードを要求される一部ストアに比べると、使い勝手の良さは段違いだ。ビューアについてもおかしな挙動はなく、タップの空振りもないので、端末の存在を意識せずに読書に没頭できる。

7台目の端末にダウンロードしようとしてアラートが表示された状態

 また、1アカウントあたりの登録台数に制限をかけている国内の大手電子書籍ストアと異なり、Kindleは登録可能な端末台数に制限はない(そのかわりに1つのコンテンツを同時にダウンロードできる台数に制限がある。標準では6台)のも、安心して使える要因の1つだ。手持ちのあらゆる端末にアプリを入れ、加えて本製品のような専用端末を導入しても、7台以上の端末に同じコンテンツをダウンロードしようとさえしなければ、競合ストアのようにログインが弾かれることはない。この安心感は非常に大きい。

 日本語ストアオープン直後の現段階では、電子書籍のラインナップおよび価格面では絶対的と言えるほどの差別化ポイントはないわけだが、ストアの仕組み自体は海外で立ち上がってからの約5年間で枯れたものになっており、細かいところまで目配りが行き届いている。本製品で満足できなければ、現時点で発売されているほかのE Ink端末を買っても満足できることはおそらくないはずで、安心してお勧めできる製品と言っていい。次期モデルに望むことがあるとすれば、他社に50g近く差を付けられている端末の軽量化くらいで、あとはコンテンツの拡充を楽しみに待つことにしたい。