■山田祥平のRe:config.sys■
iPadの登場のおかげかどうか、モバイルルーターの新製品が今おもしろい。ルーターがあれば、3G版を選んで追加の回線契約をしなくても、既存の接続方法を使いWi-Fi経由でインターネットに接続できる。今回は、日本通信の「b-mobile WiFi」と、バッファローの「Portable Wi-Fi」を試すことができたので、そのインプレッションをお伝えしよう。
●その後の全部入りケータイ携帯電話の機種変更をして1週間。無線LANアクセスポイントにもなるN-04Bを使ってきたが、ようやく手になじんできて、それなりの快適さを感じている。従来は、Bluetoothで携帯電話をモデム代わりに使っていたのだが機種変更をしてからは、無線LANで繋ぐようになった。
というのも、無線LANを待ち受け状態にするには、待ち受け画面のアイコンを開くだけでよいのだが、そのときに、待機状態だったBluetoothがオフになってしまう。無通信が5分続くと無線LANの待ち受けが解除されるのだが、そのときBluetoothが再びオンに戻ることはない。
ぼく自身の使い方としては、ポケットから電話機を取り出し、無線LANを待ち受け状態にして、端末をポケットに戻す。カバンからPCを取り出して、スリープから復帰させ、パスワードを入力してログオンする……ころには無線LANが携帯電話とつながり、インターネットが使えるようになっている。PCを使い終わったら、そのままスリープさせてカバンにしまう。このときに携帯電話側を操作することはない。5分たてば待ち受けは自動的に(既定値は15分だが、ちょっと長いと思う)解除されるからだ。この使い方では、つい、Bluetoothをオンに戻すのを忘れてしまう。かくして、無線LANばかりを使うようになってしまった。
予想通りだったのはバッテリの持ちだ。すこぶる悪い。調子に乗って、PC、iPod touchから頻繁に無線LANを使っていると、バッテリがみるみる減っていく。Bluetoothで使っている分には、充電を忘れても、翌日、なんとかギリギリ最後までバッテリは持つ。そのくらいで十分合格点なのだが、無線LANでは、朝10時頃にフル充電状態で持ち出しても、夕方あたりにバッテリ残量が不安になる。
その点以外はすこぶる気に入っている。これで電話とは別に携帯しているiPod touchも常にインターネットに接続できるようになったので、ついつい長く接続してしまう。だから、余計にバッテリが持たないのかもしれない。
こうして外でのインターネット接続は、使える限りはWiMAX、場所によってはドコモの公衆無線LAN、それ以外は無線LAN経由のFOMAネットワークとなった。WiMAX以外はドコモへのワンストップ支払いとなる。
ドコモへのパケット定額料(10,395円)の支払いと公衆無線LAN利用料、moperaへのプロバイダー使用料等の合計額は11,235円だ。ここから、携帯電話でのiモード通信の上限額4,410円を引くと6,825円となる。これが「インターネット代」となる。
単独契約の定額データプランなら5,985円で済み、840円安上がりだ。さらに、今ならキャンペーン料金が適用され、1年間、4,410円で使える。でも、もう1台端末を持ち歩き、その充電までケアする手間を考えれば、差額をガマンしようということになってしまう。
実は、もっと安くあげる方法もある。速度をガマンして、128Kbpsに制限すればいいのだ(mopera 128K)。そうすればフルブラウザ使用時の上限額の5,985円で済む。高速接続が必要なときはWiMAXがあるし、無線LANもある。ガマンできないほど遅いわけではないので、これでもいいのかなと思っているところだ。
●廉価でコンパクト。敷居の低い日本通信のb-mobile WiFi端末の機種変更によって、音声通信からiモード、インターネット接続まで、すべての接続を1つの契約にまとめることができたわけだが、そうこうしているうちに、各社からモバイルルーターの魅力的な製品が相次いで発表された。
最初に使ったのは、日本通信のb-mobile Wi-Fiだ。SIMフリーなのでキャリアを選ばないが、今回は、同社のb-mobile SIMで試した。これは、ドコモのFOMAネットワークを使うSIMで、1年または半年使い放題でそれぞれ29,800円、14,900円となっている。さらに、1カ月使い放題も用意され、こちらは2,980円だ。契約が切れたら、自宅のブロードバンドなどを使って追加のチャージができるし、オートチャージもある。ただし、帯域は300Kbpsに制限されている。
b-mobile Wi-Fiは、最大5台までの端末を接続できるコンパクトな無線LANルーターで、バッテリ室にSIMカードを装着して3G通信をWAN側に使う。b-mobileのSIMを装着すれば設定等は自動的に行なわれるようになっている。バッテリ込みの重量は80gで、かなり軽い印象を受ける。これならカバンにでも放り込んである限りは、その存在を忘れることができる。
設定は、ルーターのIPアドレスをブラウザで開いて行なうようになっている。工場出荷時はセキュリティ等の設定が一切なく、誰でも接続できるようになっているので、せめてパスワードくらいはきちんと設定しておいたほうがいいだろう。
カタログスペックでは、約3時間でフル充電となり、通信時駆動時間は4時間となっている。この値は体感的にも正味のものだ。電源ボタンの長押しでオンになると、すぐにFOMA網との接続が確立され、そのあとで、無線LANが有効になり、そのままつなぎっぱなしの状態になってしまう。午前9時に自宅を出るときにオンにして出掛ければ、4時間後、つまり、昼過ぎにはバッテリが空になってしまう。ずっと通信しっぱなしなので、本体がかなり熱くなる点も気になるところだ。
使うときだけ手動で電源を入れるという使い方なら十分なバッテリ稼働時間だといえる。ただ、電源を入れてから使えるようになるまでには、1分程度の時間が必要で、この時間はカバンからPCを取り出して、スリープから復帰して、ログオンするよりも長い。つまり、無線LAN通信ができるようになるまでの待ち時間が発生する。個人的には、この長さは待てないと感じた。ただ、同社直販価格で19,800円と、比較的廉価である点が救いで、手軽に入手できるという点に魅力を感じるユーザーも多いはずだ。
b-mobile SIMであることから、接続速度は実測でも300Kbps程度に制限されてしまうが、手元のドコモ携帯のSIMと差し替え、通常のAPNを使ってみたところ、数Mbpsを確保できたので、パフォーマンス的には問題なさそうだ。
●高付加価値製品として納得の高機能を提供するバッファローのPortable Wi-Fi DWG-PGバッファローのPortable Wi-Fi DWG-PGは、まだ発売前ということもあり、届いたのはSIMフリーの評価機で、バッテリ室内部には、ドコモの定額データプランを契約したSIMが装着されていた。
この製品は、バッファローがNTT BPと共同開発したもので、いくつかの販売ルートがあり、たとえば、NTT東日本からは、同等の製品が「光ポータブル」という名前で月額300円でレンタルされることになっている。バッファローの製品はドコモのSIMロックがかかったものだけだが、NTT東日本のルートではSIMフリーの製品も提供されるという。
こちらは、WAN側を無線LAN、3G通信、クレードル経由の有線LANと3種類の接続をフレキシブルに切り替えるインテリジェント性の高いモバイルルーターだ。同時接続機器は6台で日本通信のものより1台多い。重量は105gあり、外形寸法も、日本通信のものよりはちょっと大きめだ。でも、カバンの中に入れて存在を忘れるという点ではたいした違いはない。
最大の特徴は、WAN側の3種類の接続を自動的に選択し、自動的に切り替えることができる点だ。3Gは装着されたSIMカードでの通信になるのは当然として、より高速な無線LANが使えることがわかると、そちらに切り替えたり、自宅に戻って充電器を兼ねたクレードルにセットすると、そこに接続された有線LANにWAN側を切り替わるといったことができる。これは、NTT BPが独自に開発したコグニティブと呼ばれる機能によって実現されている。
試しに、無線WANにドコモの公衆無線LAN、3Gはドコモの定額データプランを設定した状態で地下鉄に乗ってみた。ブラウザでルーターのIPアドレスを開き、リロードしながらルーターのステータスを見ていると、駅に近づくと、まず3G接続が行なわれ、停車中にはドコモの公衆無線LANに切り替わり、発車すると、電波状況に恵まれた無線LANに切り替わってトンネル内では途切れるが、駅に近づくと3Gにつながるなど、状況に応じてダイナミックに接続先が変わっていることが確認できた。
ドコモの公衆無線LANは、802.1x認証に対応しているため、IDとパスワードを設定しておけば、ブラウザなどでの認証が必要ないため、まさにシームレスに切り替わってくれることがわかる、というか、わからない。つまり、普段は切り替わっていることをまったく意識しなくていいわけだ。
この製品の特筆すべき点は、そのバッテリによる待ち受け時間の長さだろう。カタログスペックでは、スタンバイ時30時間、一般通信時6時間とあるが、これは、決して大げさな数字ではない。朝でかけるときに電源をオンにしたままでカバンに放り込んでおき、夜遅く戻ってきても、まだまだ、バッテリには余裕がある。うまい具合にさぼる方法をよく知っている製品のようだ。
その証拠に、PCやiPod touchを使い始めても、すぐには接続せず、一瞬の間があく。これはたぶん無線LANの省電力のせいで、間欠的なブロードキャストがサーチのタイミングにあわず、クライアントからの発見が遅れるからなのだろう。そして、インターネットに出て行こうとすると、やはり、ほんの少し待たされる。こちらも1秒に満たない時間だが、きっと3Gへの接続などがおこなわれている時間だろう。
つまり、使っていないときには、支障のない程度に無線通信をさぼることで、消費電力を抑制し、30時間近い待機時間を実現している。電源オンから使えるようになるまでには、日本通信の製品と同様1分近い時間がかかるが、でかけるときにオンにして、戻ってくるまでオンにしっぱなし、いや、それどころか、充電中もオンのままという携帯電話的な使い方をする分には電源をオフにする必要がない。この使い勝手は秀逸だ。
それに、使う前にアクセスポイントを操作する必要がないという点は、まさに、その存在を忘れさせてくれる。通常の使用なら、もしかしたら携帯電話並みに丸2日持つんじゃないだろうか。
37,000円と、価格の点ではローコストを追求して手頃な価格を実現している日本通信の製品にくらべてかなり高価になるが、機能に納得すれば、それだけの価値はあると思った。3G回線は、ドコモの定額データプランと組み合わせるか、日本通信のb-mobile SIMを使うのがリーズナブルだ。今回は試せなかったが、SIMフリーのものなら、おそらくはイー・モバイルのSIMも使えるはずだ。
●せっかくのSIMフリーは海外でも使いたいこうした機器が出てきたことで、国内においては、3G接続のための環境の選択肢が一気に増えたことになる。iPadやiPod touch、そしてゲーム機などのWi-Fi端末を、自由にインターネットに接続できる。
今、話題にあがることが多い、SIMフリー、SIMロックの論議だが、個人的には、SIMでしばるのはあまり好ましいことではないと感じている。特に、特定事業者のサービスに依存することのない、この手の端末ならなおさらだ。
SIMフリーであれば、海外での使用も視野に入ってくる。海外に出かけたときに馬鹿高いローミング料金を支払わずに、現地で購入したSIMでデータ通信をまかなえれば、とても重宝する。
ただ、この手の話題では、必ず、技適等の各国電波法に関する問題が出てくる。本当に海外に持ち出して使ってもいいのか、いけないのか。そのあたりを日本通信の広報に問い合わせてみたところ「厳密には各国の法律によるが、日本(JATE)と欧州(CE)の認定のみが得られている携帯電話でも、その端末を提供しているキャリアからは、他の地域において国際ローミングサービスが提供されており、旅行者については、渡航先の各国でローミングサービスが提供されていれば、持ち出した端末を通信機として使うことは既成事実となっている」とのことだった。
実際、手元のドコモ端末も技適マークとCEマークがついているだけで、FCCのロゴは見当たらない。まして、アジア各国ごとのマークがあるはずもない。日本通信のルーターも同様だった。居住者が使うのはグレーかもしれないが、旅行者が使う分には既成事実として認められていると考えてよいのではないだろうか。
海外ローミングで、びっくりするような課金がされる現状では、海外でのデータ通信をローミングでまかなうことなど絶対に無理だ。ソフトバンクモバイルでは、主要国からローミングでのデータ通信の定額サービスを検討しているようだが、できる限り低価格で提供してほしい。SIMロックした端末を提供するのなら、そのくらいのサービスは提供してほしいと思う。以前に比べて、端末の価格はかなり高騰しているのだから。海外にでかけるとデータローミングをオフにするiPhoneユーザーが少なくない現状は、ちょっと悲しい。