山田祥平のRe:config.sys

実質と実効と実感

 あけましておめでとうございます。元旦の更新ということで、どうか、今年(2016年)もこの連載をよろしくお願いします。

 というわけで、新しい年の始めにあたり、2016年初の雑感など。

実効値が表舞台に

 2016年がやってきた。と言いつつどうも実感がわかない。ご多分にもれず、この原稿はまだ年の明けない2015年の暮れに書いているわけで、紙媒体の原稿ならともかく、Webでは原稿が書き上がったらすぐに編集者に共有して数時間後には公開というパターンがほとんどなので、ちょっとした違和感がある。とりあえずは実質的な書き初めだ。

 さて、先日、ドコモが実効速度計測の結果を発表した。総務省が定めたガイドラインに基づき計測したものだという。ここで言う「実効速度」とは、一般的な利用環境で計測された通信速度ということになっている。詳細についてはリンクを参照して欲しい。

 計測方式は、計測員による実地調査で、オフィス街、繁華街メッシュについては正午から18:00まで、住宅街は15:00〜21:00に計測されている。

 結果はAndroidとiOSが別に記載されているが、

  • Androidの実効速度(下り) : 53Mbps〜91Mbps
  • Androidの実効速度(上り) : 13Mbps〜28Mbps
  • iOSの実効速度(下り) : 49Mbps〜89Mbps
  • iOSの実効速度(上り) : 14Mbps〜30Mbps

となっている。iOSについてはiPhone 6s、AndroidについてはAQUOS ZETA SH-01H、Galaxy S6 SC-05Gでの計測であることが明記されている。いずれにしても受信時最大300MbpsというPREMIUM 4Gの理論値とは大きな隔たりがあることが分かる。

 理論値と実効値が異なるのは当たり前で、どんなに速くても大勢で使えば遅くなる。でも、それが理解できない層もいるわけで、実効速度を広告などにきちんと明示するのは悪い流れではない。

 モバイルシーンでは端末代金の「実質ゼロ円」というのも見直しの時期にきているようだ。こちらは端末代金と通信サービス料金を明確にし、実際にユーザーが支払っている金額をガラス張りにしようという流れだ。2年間にわたって戻ってくる端末代金補助金は、1年間で機種変更すれば残りの1年間分は消えてしまうのは、どうにも理不尽だったが、それをどのような形で収束させるのかは気になるところだ。

 モバイルシーンの今年のキーワードは、「実質」の撤廃と「実効」の露出という、ちょっとおもしろい組み合わせになっている。

分かりにくいままのプロセッサ性能

 PCシーンはどうだろう。Intelがプロセッサナンバーを導入したのは2004年のことなので、既に10年以上が経過している。クロック周波数だけがプロセッサの性能を表す要素ではないことから適用されるようになった施策だが、今なお、各社のPC製品のスペック表を見ると、動作周波数が明記されている。

 例えば、今、手元にある2台のレッツノート。SZ5とSX1で、片方は最新、もう片方は2012年の発売だ。3年の隔たりのあるこの2機の搭載プロセッサは、

  • Core i7-6500U プロセッサー(動作周波数 2.5GHz、最大3.1GHz)
  • Core i7-2640M プロセッサー (動作周波数 2.8GHz、最大3.5GHz)

となっている。動作周波数だけを見ると、後者の方が速そうなイメージがあるが、実際には、前者は第6世代のCore、後者は第2世代のCoreで、処理性能は比較にならない。でも、そんなことは普通の人には分からない。もし、3年前に購入したSX1のユーザーが、そろそろPCを買い換えたいと思って後継機種を物色している時に、この部分のスペックを見ただけでは、性能が下がっているんじゃないかと思っても仕方がないだろう。

 実際、ぼくはメーカーが稼働保証をしていないWindows 10 TH2をSX1に入れて使っているが、使う気にならないほど遅いとは思えない。最新のPCを日常的に触っていると、Skylakeの素性の良さがとても分かり、例え直近世代からのリプレースでも後悔しないくらいだと思うのだが、そのあたりのことが消費者にうまく伝わっていないんじゃないか。

 公道を走るクルマと違って、PCには制限速度はない。そして、速ければ速いほど快適に使えるし、特に、パワーユーザーのように、理不尽に待たされることの理由を想像できない層にとっては、打てば響くような処理性能は決して無駄にはならない。

 一般的なノートPCで使われているこうしたハイエンドのプロセッサがある一方で、別のフォームファクタでは、Atom x7-Z8700などが使われている。こちらは、動作周波数1.6GHz、最大2.4GHzだが4コアだ。Coreとどっちが速いのだろう。さまざまなユーセージモデルがある現在、PCの性能をひとことで表すのはなかなか難しいが、そろそろ前世代、前々世代に比べてどのくらいの性能向上が実現されたかを示す指標が欲しいところだ。ベンチマークテストの結果を吟味しないとよく分からないようでは、ちょっと不親切だと思う。そういう意味ではIntelにも誰にでも理解できる「実質」、「実効」の明確化を求めたい。

実質最新Windows

 Windows 10についても触れておこう。Microsoftは最後のメジャーバージョンアップとしてWindows 10を昨年(2015年)7月末にリリースした。これはWindows 9かもしれず、11月にリリースされたTH2が実質的なWindows 10だといってもいい。いずれにしても、同社は、1年間の時限つきとは言え、Windows 7以降に対してWindows 10へのアップグレードを無償で提供する。そのおかげで、3年前のWindows 7プリインストールだったSX1も最新のOSを稼働できている。

 MicrosoftはSurfaceなどのファーストパーティハードウェアを除き、基本的にOEMのハードウェアを通じてWindowsを供給している。OEMはWindows X搭載をスペックとしてこれまでPCを製品化してきた。

 Microsoftの理想は、製品にプリインストールされているWindowsがどのバージョンであろうと、それは常に最新のWindowsであることだ。OSのバージョンが古いことで製品が型落ちにならないのが望ましいと思っている。

 だが、実質的には、各社製品にプリインストールされているWindowsのバージョンは固定され、初期設定が終わってからユーザーはWindows Updateで最新のものにしなければならない。これまでのようにアップデートに別途費用がかかるわけではないが、ちょっとしらけてしまう。メーカー側としては、特定バージョンのWindowsで出荷前の動作確認をしなければならないので、使い始める時にどのバージョンのWindowsが動いているかが不定というのはちょっとした脅威だ。

 それがカンタンにできるのだったら、Androidだって、世の中の全ての製品が、とっくの昔にMarshmallowになっているだろう。

 でも、近い将来はそうならなくちゃならない。そのためにも実質的な「プリインストール」の概念を変えていかなくてはならいのではないか。

今手にできる「実質」を伝えて欲しいマーケティング

 新年を機に、理論と実質を考えてみた。もちろん理論値が上がらなければ実効値も上がらない。そのために日夜努力を続けるエンジニア諸氏には敬意を払いたい。そして、それを活かすも殺すもマーケティング次第だ。願わくば実質的なテクノロジを反映した魅惑の笛を吹いて欲しい。ならば喜んで踊ろう。それが2016年初の実感だ。

(山田 祥平)