山田祥平のRe:config.sys

デバイスが人生を変える

~パナソニックの全自動DIGA「DMR-BRX6000」を使う

 全録レコーダは時代に逆行している。全ての放送番組は、きっと近い将来、オンデマンドでいつでも見れるようになるだろうからだ。それでもぼくは愛用し続ける。10年ぶりに取り戻した全録環境を叶える全自動DIGA DMR-BRX6000について話をしよう。

Xビデオステーションの夢再び

 「こんなデバイスが欲しかった」と思って手に入れた機器が、思った以上にうまく機能してくれて、自分の暮らしに大きな影響を与えることになるケースがある。昨今では、iPhoneなどにそういう気持ちを持っている方も少なくないだろう。

 ぼくにとって、そうしたデバイスの1つがソニーのXビデオステーションだった。2005年、つまり10年前のことだが、それはもう夢のようなデバイスだった。なにしろ8つのチューナを内蔵し、アナログ放送をパターン録画することができたのだ。ぼくはそれで、毎朝7時からと8時まで、そして、19時から24時までの全VHF局を録画して、放送時間に縛られないTV視聴を楽しんでいた。

 視聴ユーティリティが依存していたIEのバージョンアップにより、ユーティリティが使えなくなり、さらにアナログ放送が終了したことで、この便利なデバイスを使わなくなってしまい、その夢のような生活は終わった。代わりに、一般的なレコーダで、「ゴールデンのドラマ」をおまかせ録画するだけに切り替えた。それはそれで満足していたのだが、あの夢のような日々にはとうていかなわない。

 今回入手したパナソニックのDIGA DMR-BRX6000は、同社の全録ビデオレコーダとしては第3世代に相当する製品だ。「全録」としているが、パナソニックでは現在、この手のレコーダを「全自動」として訴求している。分かりやすさを優先した結果なのだろう。

 パナソニックでは、時間帯を指定して設定したチャンネルをベタ録りすることを「チャンネル録画」と呼び、「通常録画」と区別している。BRX6000は、チャンネル録画用に8チューナと3TB HDD、通常録画用に3チューナと3TB HDDを内蔵したレコーダで、言ってみれば1つの筐体に全自動レコーダと一般レコーダの2つが共存しているような製品だと言える。ただし、通常録画用チューナは3つのうち2つまでを全自動録画用に使い、内蔵HDDも3TBの大部分を割り当てることができるようになっている。

 ぼくはこれにさらにHDDを追加した。3TBのベアドライブを2台買ってきて、USB 3.0で「裸族のお立ち台USB3.0 V2(CROSU3V2)」に装着して接続した。チャンネル録画用と通常録画用の2つのUSB端子が用意されているので、それぞれ1台ずつ増設できる。これで全容量は12TBとなった。本当は8TBのHDDを繋ぎたかったのだが、別の用途で使うつもりで購入したドライブを試してみたところ、残念ながら3TBまでしか認識しないという警告のメッセージが表示され使えなかった。

チャンネルあたりゴールデンタイム1クールを5倍1.5TBで蓄積

 チャンネル録画の設定は次のようにした。

・NHK総合 内蔵HDD
・フジテレビ 内蔵HDD

・テレビ朝日 外付けHDD
・Eテレ 外付けHDD

・TBS 通常録画用内蔵HDD
・日テレ 通常録画用内蔵HDD

チャンネルあたり約1.5TBが使える計算で、録画時間帯は毎日19~25時の6時間で、録画モードを5倍に設定したところ、各チャンネル約110日間の放送を記録できるようになった。ドライブが満タンになった時点で古いものから順に消えていくことになっている。

 この世代から、チャンネル録画でもDRモードでの録画が可能になったのが、購入に踏み切った1つの理由でもあるが、ここはあえてデフォルトの5倍速のままに設定した。画質は目で見てはっきり分かるくらいに劣化するが、とにかく1クール分をそっくり記録しておくということを目指してみた。仮にDRモードで記録すれば期間は3週間となる。これではちょっと少ない。

 残念なのは、Xビデオステーションでできていた細かい時間帯設定ができないことだ。チャンネルごとに時間帯を変えられないどころか、飛び石状の指定もできない。だから「朝は7~8時、夜はゴールデン、ただし朝のEテレは除く」といった設定は無理だ。

 また、通常録画用チューナを使ったチャンネル録画は「追加チャンネル」扱いで、これをUSB-HDDに記録することができない。なので、普通に使う分には増設した3TB分が余計だったかもしれない。もっとも2つのチューナをチャンネル録画に使うことになり、残りのチューナが1個では足りるはずがない。

 本当は他のレコーダに任せてきた「ゴールデンのドラマ」のおまかせ録画も、こちらに移行させられればよかったのだが、このあたりは企画倒れになってしまった。チャンネル録画には8つもチューナがあるのに使えるHDDは内蔵3TB、外付け3TBなので、ある程度の期間保存し、かつ、5倍速を維持するのは難しい。このあたりを何も考えないで勝手に全ての領域を統合してくれれてこそ全自動ではないかと思う。

いつでもどこでもあの日の番組

 再生環境についてはおおむね満足している。「お部屋ジャンプリンク」、いわゆるDLNAで家の中のあらゆるところで再生できる。また、Android/iOS用には専用アプリが提供されていて、いったん自宅LAN内で登録しておけば、外出先からビットレートを抑えるなどして再生することもできる。

 Xビデオステーション時代は、溜まったドラマをノートPC本体やSDメモリーカードなどにコピーし、出張などに持ち出していたが、少なくとも日本国内のように高速なネットワークが保証される環境であれば、メディアを使った持ち出しなどは考えなくてもいいだろう。

 ちなみに最高画質720pでのビットレートは3.5Mbpsで、30分見ただけで1GBに達する。これではアッというまにモバイル通信の上限に達するだろう。そのため、パケット節約モードも用意され、こちらは180p150Kbpsで1GBあたり15.5時間楽しめる。だが画質はお世辞にもいいとは言えない。なお、試聴用のアプリはモバイルネットワークと宅内LANを識別し、宅内である場合は6Mbpsと2Mbpsの切り替えとなる。

 次の海外出張ではどのくらい快適に日本のTV放送を楽しめるかを検証したいと思う。

ザッピングの縦と横

 10年前、Xビデオステーションの時代には、約1週間分の全録を楽しんでいたが、以前のアナログ放送よりも格段に高い画質がほぼ同容量のストレージ消費で蓄積できるようになった。しかも100日強。3カ月をゆうに超える期間だ。この10年間におけるビデオ圧縮技術の発達とストレージのGB単価の下落は、これだけの変化をもたらした。

 Twitterで知った昨夜の番組や、あるいは、Facebookで教えてもらった話題のドキュメンタリー番組も、ずっと後になって時間ができた時に視聴できる。飲み屋で知り合いと話している時に話題になった番組も、その場でスマートフォンを使って見たりすることもできる。

 思うに、10年前のぼくのTVへのスタンスは、日々送られてくる番組の中から、自分の選んだものをとにかく見ておこうということだった。ちょうど書店に立ち寄っておもしろそうな書籍や雑誌を探す感覚だ。TVをつければ何かが映る放送であるという感覚ではとらえていなかった。

 だから、毎日のようにダビングして外に持ち出し、いろんなデバイスで時間のスキマを見つけては視聴していた。アナログ時代だからこそできたことだ。

 たぶん、あの当時スポーツジムのランニングマシンを使いながら、持ち出したビデオをNECのVoToLや 東芝のGigabeatでドラマを見ている姿は、自分以外に見かけなかった。今ではiPadやiPhoneで同様のことをしている人をたくさん見かける。電車に乗っていても同様だ。

 自分の中のTVへのスタンスは、今、もう少し受動的なものに逆行しているようにも感じている。何かを選んで見るという感覚ではあるが、立ち読み的なことができるようになったのだ。単なるザッピングではチャンネルという横方向のシフトしかできないが、全録機なら時間をまたぐ縦方向のザッピングがかなう。そこにはコンテンツへの出会いという「偶然」が待ち受けているかもしれない。

 「偶然」を期待するには効率の悪すぎるTVだが、全録機はその効率を少しかさ上げしてくれる。その気になれば放送と同じ画質も可能だと思うと地デジも捨てたもんじゃない。それが10年間の重みというものだ。

(山田 祥平)