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TVの未来は過去を視て待て




 複製技術時代のコンテンツの多くは、パッケージメディアとして配布されている。この形態では、送り手と受け手の関係は非同期だ。書店やミュージックショップに出かけ、欲しいコンテンツのパッケージを見つけたら、その対価を支払うだけで、それを楽しむ権利が手に入る。そして、そのコンテンツを楽しみ終わっても、パッケージは手元に残り、望むならば、繰り返し楽しむことができる。映画でさえその傾向にある。でも、それを拒んできたように見えるのが放送だ。

●メディアをコンバートすれば、時間の束縛から解き放たれる

 コンテンツはメディアが運ぶ。メディアというのは媒体だ。いわばコンテンツを運ぶ器であり、料理でいえば食器に相当する。雑誌や新聞であればメディアは紙だし、放送ならば電波である。紙と電波は、コンテンツを運ぶためのメディアとして古くから親しまれてきた。両者のもっとも大きな違いは、紙が消え去ることなくいつまでも残るのに対して、電波はその場で消えてしまうという点だ。

 手元に届いたコンテンツがその場で消えてしまうという点では、インターネットもそれに近いように見える。でも、インターネット全体を一冊の書物にたとえ、特定のページのURLをブックマーク、すなわち本に挟む栞と呼ぶ考え方が定着したのは、インターネットが常に双方向の通信を前提に動いているからだろう。インターネットではサービスを提供するコンピュータと、それを見るコンピュータは対等で、すべてのコンテンツ配信は、見る側のコンピュータがリクエストするし、見られる側は、リクエストされたことを明確に自覚する。

 でも、放送はそうはいかない。メディアを電波に限定すれば、放送はずっと一方通行の通信だった。たぶん誰かが視聴しているだろうことは想像できるし、それは事実なのだろうけれど、送り手側が具体的な数字としてそれを知る方法はない。視聴率などの数字はあくまでも統計学上の手法による推定値だ。それは限りなく実勢に近いかもしれないが真実ではない。一回単位で数字がわかるウェブサイトのページビューとはそこが大きく違うし、売れた部数が確実にわかり、場合によっては返本の憂き目にあうペーパーメディアとも性格を異にする。

 放送の送り手は、受け手の声が聞こえない上に、受け手の時間までも束縛する時間軸のあるコンテンツを提供している。それをいいことに、コンテンツを自分たちの都合で並べることができる。

 これは紙のメディアでも同様だが、紙の場合、受け手はあえてそのページを見ないという選択の自由がある。雑誌のようなメディアの場合、多くの読者は、一冊を最初から順に見ていくとは限らない。もっともおもしろそうだと思う記事を先に読み、あまり興味をひかない記事はあとまわしにするだろう。いや、それどころか、結局は読まずに雑誌そのものを捨ててしまうこともあるはずだ。だから、紙のメディアには時間軸がない。同じ雑誌メディアをある人は1時間で読み終え、ある人は3時間かかっても読み終えない。人それぞれで違うのだ。

 時の流れをコントロールできない放送への、受け手によるささやかな抵抗は、残しておきたい番組を録画することだった。TVを生で見る限り、時間軸の束縛から逃れることはできない。でも、録画してしまえば、放送コンテンツはペーパーメディアと同様に受け手の時間を束縛しなくなる。つまり、メディアの自前コンバートだ。ここ数年で一気に需要が広がったHDDレコーダーは、放送中の番組を一時停止したり、必要ならば巻き戻したりする、いわゆるタイムシフトによる視聴スタイルを一般的なものにした。ビデオカセットデッキは、消えていく放送コンテンツを残し、オンエアの時間に縛られない視聴スタイルを作ることに貢献したが、HDDレコーダーは、それをさらに進化させたのだ。

●XビデオステーションがTVライフを変える

 過去において、ビデオカセットデッキがぼくらのTVの見方に大きな変革を与えたのと同様に、HDDレコーダーはTVの視聴スタイルにさらなる変革をもたらした。

 けれども、レコーダーを使うには未来に起こる特定の項目を予約するという行為が必須で、そのためには、目を皿のようにしてTVの番組表を調べなければならない。レコーダーは、複数のチューナを内蔵したり、キーワードなどによる自動録画機能を提供したり、ネットワークを使ったリモート録画予約を実現したり、スポーツ中継の延長対応やEPG参照による番組編成枠変更への対処などを可能にすることで、未来の予約ミスをカバーするためのあらゆる手段を提案した。でも、そんなことに時間と手間をかけるなら、全部録っておければいいのにと、きっと誰もがそう思っていただろう。

 ソニーのXビデオステーションは、TV好きがレコーダーに関して不満に感じていたことを、いとも簡単にすべて解決してしまう。全部録っておけば、何も悩む必要はないのだ。小手先のテクニックを駆使するよりも、物量作戦を選んだソリューションである。

 この製品には4つのチューナを搭載したモデルと、8つのチューナを搭載したモデルが用意されている。最初、説明を聞いたとき、ぼくのTVの視聴スタイルなら4チューナで十分だと思った。視たいTV番組の放送時間が重なったとしても、経験的に3つ以上の番組が重なることは過去になかったからだ。でも、8チューナがもたらすのは、同じ時間帯の異なる放送局の番組を録画ができるということではなく、予約という行為を排除できるという幸せであることに気がついた。

 東京では、NHK総合が1、NHK教育が3、日本テレビが4、TBSが6、フジテレビが8、テレビ朝日が10、テレビ東京が12と、合計7つのVHF地上波を受信することができる。これら地上波をすべて押さえられれば、TVを視るということに関してはほとんど困ることはない。そりゃ、BSチューナを持たないなど、不満を言い出せばキリはないが、それを補ってあまりあるほどに、この製品はTVライフを劇的に変化させる。

●全部録れれば悩みは無くなる

 発売前のこの製品の評価機が手元に届き、最初にぼくが取り組んだのは、パターン録画機能の設定だ。いろいろ悩んだあげく、毎朝7時から8時までと、19時から24時までの全VHF局を録画するようにした。これで毎日合計42時間分がHDDに記録される。

 ビットレートを選ぶこともできるが、とりあえずは標準の4Mbpsでよしとした。このレートでは1時間分が2GB未満となるので、一日あたりの録画容量は約80GB。8チューナモデルのHDD容量は500GBからなので、1週間分弱が収録できる。これだけ蓄積できれば不満はない。録画したデータは特に指定しない限り古いものから消えていくが、条件を指定して、削除しないようにもできるし、本当に残す必要があるなら、パソコンに転送して、DVDにでも焼けばいい。

 ちなみに、東京のVHF局のみという使い方ではチューナ8つのうち、ひとつが余る。本当なら、ここに外部入力としてBSチューナでもつなぎたいところだが、それよりも、どこかお気に入りの局をひとつ、もっとも低いビットレートで24時間記録するという用途に使いたいところだ。最長時間モードは1.25Mbpsだが、さすがに絵は荒い。でも、24時間分が約40GBとなり、1日で削除されるように設定しておけば、HDDを圧迫することもないだろう。ただし、残念ながら、現行の仕様では、こういう使い方はできないようだ。複数のチューナに同一のチャンネルを設定することができなくなっているからだ。

 低ビットレートと高ビットレートの2種類を記録しておければ、広いネットワーク帯域が確保できない場所からでも、インターネット越しに録画データを再生できるかもしれない。まだ、VPNを使った外部からの接続には成功していないのだが、可能性としては期待できる要素だ。さして処理能力の高くないプロセッサで8チャンネル同時録画といった暴挙に近いことをやってのけ、それと同時に2端末へのストリーミングとTVへの出力をこなしているのだから、帯域幅に応じたトランスコードまで望むのは酷というものだろう。もちろん、それができるのが理想ではある。

●パソコンがアプライアンスの使い勝手を高める

 従来のHDDレコーダーのような感覚で、どうしても特定の番組を、指定して録画したいというのなら、もちろんそれもできる。たとえば、特定のドラマを高ビットレートで毎週録画し、自動削除されないように設定しておきたいという場合は、個別に予約しておくのが簡単だ。予約自体はiEPGを使うので、自分の好きなTV番組サイトを選んでそのまま利用できる。ぼくは、TV録画用に従来使っていたソフトからiEPGへの関連づけを乗っ取られてしまったが腹もたたなかった。

 Xビデオステーションの録画設定や録画済み番組検索にはXVブラウザー、番組データの再生にはXVプレーヤーという添付アプリケーションを使う。このほかDLNAにも対応しているので、近頃のTVパソコンなら、専用アプリケーションをインストールしなくても、問題なく番組再生ができるだろう。

 潔さを感じるのは、添付されたリモコンによる使い勝手がお話にならないくらいに悪い点だ。これはもう笑ってしまうしかないくらいにお粗末だ。とにかく、大量に蓄積された番組の中から望みの番組を探し出すなど至難の業である。

 ところが、XVブラウザーを使ったパソコンでの番組ブラウズのルック&フィールははかなり気に入った。時間やキーワードでの一覧、過去のTV番組表としてのビュー、あるいは、任意の単語からの検索で、望みの番組を瞬時に探し出せる。しかも、コンテキストメニューには「TVに表示」という項目が用意され、これを使えば、指定した番組が、本体に接続されたTVに出力される。これだけで、リモコンの使い勝手の悪さは帳消しになる。リモコンがあまり好きではないぼくにとっては、むしろこちらの方がうれしい。一世代前のノートパソコンでも用意し、無線LANでつないでおけば、それが十分にインテリジェントなリモコンとして機能してくれるはずだ。

●TVはすでに同期メディアではない

 Xビデオステーションを使い始めて約10日。これまでもTVをライブで楽しむことはあまりなかったのだが、その傾向はますます強まった。それよりも何よりも、どの番組がどの放送局で何曜日の何時からやっているのかといったことを、ますます意識しなくなってしまった。

 今クールも各局の連続ドラマは全部見ているけれど、その素性がまったくわからない。広大なレンタルビデオショップで、興味をひくタイトルを物色しているのに近い感覚だ。このことは、プライム/ゴールデンタイムとか、オーディエンスセグメンテーションといった手法で番組を編成し、局ごとのカラーを前面に押し出そうとしてきた放送局の番組編成ポリシーを根底からくつがえすものだろう。

 幸か不幸か、あるいは、わざとかも知れないが、XVプレーヤーの早送り機能は実に不安定で、キーボードの方向キーを慎重に使ったとしてもCM飛ばしはけっこうたいへんだ。キーを一度押したときに送られる量が、そのときの本体の負荷によって不定なのだ。60秒間スキップといった気の利いた機能も用意されていない。放送局にとってはかろうじて面目が保たれる部分だろうか。

 ちなみに、Xビデオステーションは冷却用に2つの背面ファンを持つ。これがかなり耳障りな騒音を放つ。24時間365日フルに動かすことを考えると、冷却は重要だが、これではとてもリビングルームに置いてはおけない。まして、寝室に設置し、夜中も録画を続けることなど考えられない。だから、仕事場の隅っこに追いやり、アンテナケーブルとネットワークケーブルだけを接続してある。

 本当は、ヤフー!、MSN、楽天、Livedoor、Gooといった著名ポータルサイトが、それぞれ一局ずつと提携し、過去の番組をオンデマンド配信するくらいの世の中になってくれればそれでいいのだ。この製品がそんな世の中が到来するまでのつなぎにすぎないことを願いたい。

 個人的には近い将来、すべての放送番組は、放送という枠組みを超え、オンデマンドでいつでも見れるようになると信じている。XビデオステーションがもたらすTVライフは、そんな時代を彷彿とさせる。

 もちろん、この製品の寿命はアナログ地上波が停波することになっている2011年までであることはわかっている。あと5年。それまでに、同等の機能を持った地上デジタル対応Xビデオステーションが登場するのかどうか。それとも、放送局がすべての番組をオンデマンド配信するようになるのか。いったいどちらが先だろう。

 こうした製品の登場によって、TVの視聴スタイルはどんどん変わっていく。TVはもはや同期のメディアではなくなりつつある。放送各局には、コマーシャル依存のビジネスモデルを保ちながら、非同期メディアとしてさらにしたたかに生き抜く将来を熟考してほしい。

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【10月6日】【Hothot】史上最強!! PCユーザーのためのHDDレコーダ
〜ソニーのXビデオステーションを試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1006/hotrev274.htm

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(2005年10月28日)

[Reported by 山田祥平]


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