山田祥平のRe:config.sys

触って叩けるディスプレイの向こう側

 「世の中に指紋の付いていないディスプレイなんてない」。そんなことを誰かが言っていた。そのくらいタッチは自然なUIとして受け入れられている。極端な話、近い将来、タッチできない画面は淘汰されてしまうのではないか。だが、そこにはもどかしさもあるわけで……。

スマートデバイスが浸透すればするほどPC復権のチャンスが生まれる

 スマートフォンやタブレットなど、スマートデバイスの浸透によって、PCの将来が危ぶまれている。スマートデバイスは、これまでPCに慣れ親しむことができなかったユーザーにも手を伸ばした上に、PCを駆使してきたユーザーにも“n台目のデバイス”として受け入れられ、ここ数年で一気に市民権を得た。そして、このままPCがフェードアウトしてしまうのではないかという論調があるわけだ。

 もちろん、ビジネスの現場ではそうはならないだろう。相変わらず、Excelで計算をして、Wordで文書を作る。これはタッチ云々というよりも、レガシーな仕事をレガシーなお膳立てでしなければならず、そのためには古式ゆかしきPCがどうしても必要になるからだ。

 一方、コンシューマはどうかというと、当然、スマートデバイスだけで用が足りることに気がついてしまった層は、PCはもういらないと思い始めているかもしれない。つまり、スマートデバイスがPCを殺すという展開だ。

 でも、ぼく自身は、けっこう楽観的にこの状況を見ている。というのも、これまでPCに慣れ親しむことができなかった層が、スマートデバイスを使うことでデジタルなユーザー体験が暮らしを豊かにすることを実体験として理解し、さらにリッチなユーザー体験を望むようになるに違いないと思っているからだ。

 例えば、夏休みに出かける旅行の計画を立てるといった行為1つとっても、これをスマートフォンやタブレットだけで済ませるのはなかなか大変だ。少なくともぼく自身はカンベンしてほしいと思う。

 中高年は1つの旅行を3回に分けて楽しむという。1回目は計画を立てるとき、2回目は旅行の本番中、そして3回目は旅行から戻っての写真や記念土産など思い出の整理の時だ。このうち旅行の本番ではスマートデバイスが大活躍するはずだ。もはやスマートデバイスを持たずに旅行をすることなど、考えられないほど役に立ってくれると思う。

 一方、準備や思い出の整理はどうかというと、これらのためには、やっぱり大きな画面とそれなりの処理能力を持つデバイスがあった方がいい。

 訪問する場所が決まり、観光の計画を立てながら、ホテルや飛行機を予約し、旅程表を組み立てていくといった作業をするなら、やっぱりPCが欲しくなる。また、旅行から戻ってきて大量の写真を眺めながら、ああでもない、こうでもないと話をするにも大きな画面が欲しいし、まして、思い出の整理のために、画像ファイルを取捨選択といった作業をするのにスマートデバイスでチマチマとやるなんて考えたくない。

 自分で組み立てる旅行でなくても似たようなものだ。数あるパックの旅行をしらみ潰しに調べて、行きたいところが含まれるツアーのいくつかを吟味し、それを価格を含めて比較検討して、Web経由で申し込む。申込時には、いろいろと個人情報を入力する必要があるだろう。

 こういう作業を考えると、やはり、リビングには1台くらい、なんとなく家族が共有して使えるPCがあってもいいんじゃないかと考えるのが自然な流れだ。かつて挫折を経験したものの、スマートデバイスでこの世界を改めて知ったユーザー層も、今度は大丈夫と考える可能性は高い。

リビングの脇役としてのPC

 ところがPCはどうか。Windowsはタッチの世界を取り入れたものの、クラシックなデスクトップに頼る部分がまだまだ多く、その操作はタッチだけでは一筋縄ではいかない。太い指では操作しにくい要素がたくさんあるからだ。もし、タッチができる環境にあるなら、タスクバーボタンの順序をタッチだけで入れ替えてみてほしい。あるいは、エクスプローラーの左右ペインの境界をドラッグ操作で調整してみてほしい。マウスならあんなに簡単にできたことが、タッチではなかなか難しいことに気が付く。

 日本マイクロソフトから発表され、近日発売になる「All-in-One Media Keyboard」は、リビングに置かれたタッチ対応PCとペアで使うデバイスとしては秀逸だ。何より参考価格が3,940円と、比較的廉価なのはうれしい。

 この製品はキーボードとタッチパッドを備えたデバイスだ。PCなどとの接続は、ナノサイズのレシーバーをUSBポートに装着し、2.4GHzの無線で通信する。重量は単4形電池4本を含んで434gもあるが、外出時に持ち歩くことを考えなければ問題ない。重量が重いことで、かえって膝の上に載せて使うカジュアルな使い方でも剛性が確保できていい。

 キーボード部の右側には比較的大きなタッチパッドが配されている。これまで慣れ親しんできたクラムシェル型ノートPCの多くは、タッチパッドがスペースバーの下部にレイアウトされているものがほとんどだった。これは、キーボード操作と、タッチパッド操作を交互に行なうときに、手の位置移動をできるだけ少なくするためだった。

 でも、昨今の大きく広くなったタッチパッドは、キーボードの打健時に、手のひらがパッドに触れてマウスポインタが意図しないタイミングでジャンプするようなアクシデントを引き起こしやすい。それをストレスに感じて、わざわざマウスを使うユーザーもいるくらいだ。

 でも、このキーボードでは、そんなことは起こらない。タイプするときと、タッチパッドを操作するときでは、明確に人間自身のモードが切り替わるからだ。手の位置を固定できないといったことは考えない。また、左ボタンに相当するボタンがキーボードの左側に装備されていて、左手でこのボタンを押しながら、右側のパッドを操作するといった使い方もできる。これによって、ドラッグ操作もたやすくできるようになっている。

 このキーボードで大量に文字を入力する作業をしようとは思わないが、タッチ対応の画面があっても、ちょっと細かい作業をしたいと思ったり、検索ボックスに検索キーワードを入力したり、申し込みのフォームなどに住所や名前、クレジットカード番号を入力するような用途には実に重宝する。

スタンダードPCとしての15型タブレット

 少なくとも日本においては15型クラスのノートPCは、いわゆるメインストリームのスタンダードとして受け入れられてきた。おそらく、今なお家庭でWindows XPが使われているとしたら、ほとんどがこうしたPCなのではないだろうか。これらのPCは、ノートPCでありながら、一度も家の外に持ち出されることはなかったに違いない。

 ただ、古くなったそのPCの代替機を探そうとすると、意外に見つからないことに気が付く。例えば、タブレットが流行だからといって探してみると、8型や、大きくても10型程度、先日発表されたSurface Pro 3が12型で最大クラスだ。

 それを超えると、今度は20型を超えてしまう。そのくらいのサイズがあると使いやすいというのは分かっていても、リビングの傍らに置いておくにはちょっと大きすぎる。だからこその15型スタンダードノートPCだったのだ。

 比較的保守的なユーザーの多くは、15型画面を持つ据置タブレットを探しているようにも思う。ちょっと重いかもしれないがタブレットとしても使える上に、本体が縦位置でも横位置でもちゃんと自立して、必要なときには、今回紹介したAll-in-One Media Keyboardのようなデバイスで操作をするのだ。

 でも、そういう使い方を想定したPCが、なかなか見当たらないのは、ちょっともったいない。iPadに装着して使えるキーボードデバイスが各社からいろいろと出ていて、好調に売れていることを見れば、なんとなく、そのトレンドはあるようにも思う。

(山田 祥平)