山田祥平のRe:config.sys
さらばパケット難民~通信が変われば展示会も変わる
(2014/1/10 06:00)
インターネットに繋がらないデバイスは携行していても荷物になるだけだ。でも、繋がるはずのデバイスが繋がらなければ、もっと大きなストレスになる。大規模な展示会ではありがちな現象だが、今年のCESはどうか。毎年、悩まされる通信事情をレポートしておこう。
CES期間は使いものにならない通信インフラ
2000年以降、毎年、仕事始めの恒例取材となったCESも、これで13回皆勤したことになる。思い起こせば、この13年で、現地の通信事情も大きく変わった。最初のころは、固定電話回線に頼らざるを得なかった。ホテルの電話は市内通話が数ドル/通話だったので、通話時間による課金はなかったため、ホテルにチェックインして部屋に入ったらモデムを使って接続、チェックアウトするまでそのままという使い方をしていた。
そのうち、部屋には有線LANが引き込まれるようになり、やがてそれはWi-Fiへと変わった。だが、巨大なラスベガスのホテルでは、無線の死角が随所にあり、割り当てられた部屋によってはWi-Fiが使いものにならないことも経験している。さらに、会期中は通信速度も極端に遅くなる。
会場では、プレスセンターに行かなければインターネットが使えなかった。だが、Wi-FiもIPアドレスの取り合い、有線LANもケーブルの取り合いだ。繋がったとしても、通信速度が遅すぎて、ほとんど使いものにならなかったりもする。
3Gのデータ通信が使えるようになってからも、常時繋がってはいても、いわゆるパケ詰まり現象に悩まされた時期が続いた。いずれにしても、CES期間中のラスベガスは通信的に鬼門なのだ。パケット難民はもちろん、夕方以降は、電話も繋がらないで途方に暮れているケースも散見される。
そんな悪状況に一石を投じたのが、UQコミュニケーションズによるWORLD WiMAXのサービスインだった。これが2011年のCESから使えるようになった。日本のWiMAXユーザーは、米国内の事業者ClearによるWiMAXを、なんと無料で使えるようになったのだ。
Wi-Fiも3GもあてにならないCES時期のラスベガスで、WiMAXは本当に快適なインターネット接続を提供してくれる。残念ながら2013年以降は有料になってしまったが、それでも1週間24.9ドルとリーズナブルな金額だ。今年も、WiMAXローミングで乗り切ろうと、ホテルの部屋での接続のためにWiMAX内蔵PCを持って来た。WiMAX内蔵PCでは、WiMAXとWi-Fiが排他なので、モバイルルーターのWAN側をPCに接続し、WiMAXを共有すれば安定した自分専用のWi-Fiネットワークを構築できる。
インターネット共有にはソフトウェアによるものなど、いろいろな方法があり、PCにもう1つWi-Fiアダプタを装着してもいいのだが、モバイルルーターの直結がもっとも安定するというのが経験則だ。
ところがぼくが渡米する前から先行してラスベガスに到着していた各社の取材陣から、このWiMAXが、クレジットカードの認証エラーで使えないという情報が流れてきた。到着後、チャレンジしてみたが、事前情報通り1週間契約ができない。
有料化以来、Clear社との個別契約になっているので、このトラブルは、UQコミュニケーションズの責任ではない。だが、なんとかならないかという声が同社を動かし、Clearに調査を依頼。会期前の1月6日には復旧した。いつからこの状態だったのか、その原因は何だったのかは、まだ調査中だそうだが、正月明け、しかも、日本も米国も土日という状況の中で奔走してくださったUQコミュニケーションズの対応には感謝したい。
まさかのWiMAXトラブルに代替手段を確保
それでも1月4日に到着した時点でWiMAXを使えないとなると、ほかの通信手段を確保しなければならない。米国出張は年に数回あるので、ずっと、AT&Tのプリペイド回線を確保していた。毎年100ドルを入れておくと、1年間電話番号が確保される。ところが、これのデータ通信パックが2013年以降、5ドル/50MBという高額なものになってしまったので、2013年のIDF取材のときにT-Mobileのプリペイド回線を購入した。こちらは、100ドル入れておけば1年間電話番号が確保され、さらに3ドル/日で200MB/日のLTE通信ができるというそれなりにリーズナブルなサービスだ。
このSIMを、年末に入手した北米版のNexus 5に装着し、米国到着後に通信をしてみたところ、秋にはできていたテザリングが3ドル/日のプランではできなくなっている。スマートフォン単体なら200MB/日で問題ないが、ほかの通信もここに頼るとなると心許ない。ただ、グローバル版のXperia Z1に装着すれば問題なくテザリングできているという事例もあり、状況がよく分からない。
iPadとVerizon回線
実は、暮れのうちに、宿泊するホテルの目の前にあるショッピングセンター内のアップルストアピックアップで、Verizon版のiPad Airをオーダーしてあった。2013年は、iPad miniの購入をホテル配送で受け取ったら、ホテルが手数料として7ドルも請求したので、それをケチってのストアピックアップだ。
とりあえず、受け取り前に、日本から持参した初代iPad miniで試してみることにした。持ち歩いてルーターとして使うことを考えると軽量なminiの方が負担がないからだ。Verizon版だが、最後の利用後5カ月が経過してSIMが無効になっている。確かに、出発前に日本で契約しようと試行してもSIMの有効期限が切れているというメッセージが表示されるだけだった。
そのminiを持って、アップルストアに赴き、SIMが失効したので新しいSIMが欲しいと告げると、店員が、もう1度アクティベイトすればいいという。そんな馬鹿なと思ったが、その場で試すと確かにアクティベイトのプロセスが走る。どうやら仕様が変わったようだ。
5カ月で失効という仕様が変わったのは嬉しいが、今度は、日本のクレジットカードが通らなくなっている。これでは、せっかくオーダーしておいたiPad Airを受け取っても、Verizonの回線が使えないことになってしまう。
この時点では、オーダーしたAirを受け取らずにホテルに戻り、次善の策を考えることにした。
まず、Nexus 5に装着したT-Mobileの契約を、70ドル/月に変更し、4G通信を無制限にし、2.5GBのテザリングができるようにした。帰国と同時に忘れないで元に戻しておく必要があるが、ひとまず、全通信をこれに頼ることにした。
それとは別に、miniのVerizon回線をなんとかしようと考えて、近所のウォルグリーンに赴き、VISAのギフトカードを20ドルチャージで買ってきた。これは、レジで購入するときに、金額を伝えると、その金額がチャージされた状態でクレジットカードとして使えるギフトカードが入手できるというものだ。チャージ分の20ドルとは別に手数料として4.95ドルが必要だ。ただし、追加チャージはできない。有効期間は2020年までと長いので、お金に余裕があれば、数百ドル入れておけば、何かと便利に使えそうだ。
いったん失効したiPad miniのVerizon SIMは、このクレジットカードを使うことで、無事に復活した。これなら大丈夫だろうと、もう1度、アップルストアに赴き、Verizon版iPad Airを受け取り、やはり、そのクレジットカードを使ってSIMをアクティベイトし、接続できることを確認した。
試しにminiとAirのSIMを交換しても、問題なく通信ができた。つまり、2枚のSIMを使い分けなくても、1枚のSIMで、その日の状況によって、miniとAirを使い分けることができるわけだ。実験ということで、両方とも5ドル/24時間のプランを試してみたが、これなら次回の米国取材時には、もっと大きな額を入れたギフトカードを入手して備えることにしよう。ちなみに、ドラッグストアなどで入手できるこの手のクレジットカードには、追加チャージができるプリペイドクレジットカードもあるのだが、その場合、1カ月4.95ドルのチャージがあって無駄になってしまうので、ギフトカードを選んだという次第だ。
iPadは世界の共通語
これで、VerizonとT-Mobileの両回線が確保できた。あとは、AT&TのSIMを入手し、同じAirやminiでの通信ができないかどうかを確認したいところだ。日本国内の格安MVNO SIMでの接続実績もあるし、1台のハードウェアで全世界の通信事業者をカバーできるというのは実に心強い。それに言葉もおぼつかない見知らぬ土地で、通信を確保したいときにも、iPadは共通語として機能してくれる。
ただ、今年のCESは、米国内でのLTEサービスが充実してきていることもあって、あっけないほど快適な通信がNexus 5のT-Mobile回線でできている。例年なら、パケ詰まりでにっちもさっちもいかなかった環境でも、意外にスルスルとデータが流れる。ホテルの部屋も同様で、特に不満のない速度が確保できている。
Nexus 5は、Bluetoothテザリングをオンにし、日本で使っているGalaxy Note 3をそこにぶらさげて丸1日移動し、PCを使うときだけ、Wi-Fiテザリングするようにしていれば、15時間程度はバッテリが持つようで、念のためにとカバンに忍ばせているモバイルバッテリの出番がない。だが、日によっては朝6時台の暗いうちにホテルを出て、22時を過ぎないと帰れないということもある。そんな場合は、miniやAirのバッテリ駆動時間はルーターとして秀逸なので、うまく使い分られるようにしようと思っている。
今年のCES雑感については、追って紹介することにしたいが、話題の4K合戦は別にして、このイベントが米国市場に向けた米国のイベントであることを再確認した印象を持った。コンテンツなどを提供する事業者、いわゆるOTTが静かなのだ。その背景に何があるのか、もう少し情報を咀嚼するのに時間がかかりそうだ。
いずれにしても、LTEの浸透で、鬼門だったCESの通信事情は一変したように感じている。このことが、全米の通信事情にも当てはまるのなら、この国で生きる人々のライフスタイルに、大きな変化が起こりそうにも思う。