山田祥平のRe:config.sys

Haswellが変えるモバイルノートPCのもたらす世界感

 Haswellこと、Intelの第4世代Coreプロセッサが正式にリリースされ、各社から続々と搭載機が発表されている。どれも意欲的な製品で、ずっとHaswellを待ってPCを買い控えてきたユーザーにとっては、買い物に迷うくらいのバリエーションが揃ったといってもいい。

弱点を克服したLet'snote AXシリーズ

 エンドユーザーにHaswellがもたらすもっとも大きな魅力は、やはり、バッテリ駆動時間の向上ではないだろうか。Intelが言うには従来の1.5倍の延長が適うという。プロセッサの処理能力が上がっても、キラーアプリがなかなか見当たらない以上、その恩恵は感じにくいのだが、バッテリ駆動時間の延長は、はっきりと目に見える形でユーザーに届く。

 1.5倍という値は、例えば、これまで10時間バッテリが保ったモバイルノートPCが15時間保つようになるということだ。これは大きい。モバイルノートPCの総重量は、バッテリの重量が大きなインパクトを与え、さらに、その容量が駆動時間を決めてしまうため、軽すぎるボディはバッテリに期待できない懸念もあったが、それが解消されることになる。バッテリが保たないノートPCは、保険のためにACアダプタまで持ち歩くことになり、携帯時の統合重量はさらに増えてしまう。10時間近くバッテリが保つのなら、そのうち数時間分はモバイルバッテリの代わりにスマートフォンを充電するために使ってもいいと考えるユーザーがいても不思議じゃない。

 パナソニックは、Haswellを使ってLet'snote AXシリーズを刷新し、「Let'snote AX3」として登場させた。バッテリ駆動時間は、従来のAX2が9.5時間だったのに対して、13時間となっている。Intelの主張のように1.5倍にはなっていないが、1.36倍なのだから許せる。JEITA測定法によるバッテリ駆動時間は、話半分で考えるとちょうどいいが、それでも6.5時間保つ計算だ。前機種とほぼ同じ重量である約1.14kgで1.36倍のバッテリ駆動時間を確保できたのは、まさにHaswellのおかげといっていい。それに、AX3はバッテリをホットスワップできる。バッテリが空になっても、作業をしながらバッテリを交換できるのだ。これならバッテリがすっからかんになるまで使えるので無駄もない。

 また、AX3は、液晶をIPSにし、さらに解像度をフルHDに向上させた。これもHaswellならではの力業だ。これによって、視野角は広がりきわめて視認性が高くなった。AX2の液晶は視野角はともかく、そのコントラストが多少低かったのが弱点の1つだった。視認性を良くするためには輝度を高くする必要があり、それがバッテリの負荷にもなっていたが、でも、手にとって見る限り、AX3ではそのような心配はなさそうだ。しかも、液晶表面はアンチグレア、つまり非光沢であるというのも頑固に実用を追求するLet'snoteらしい選択だ。並べてみたときの見栄えではツルピカ液晶の方がいいように見えるのだが、さまざまな環境で使ってみると、非光沢のありがたみを感じる。

超高解像度の切れ味とLIFEBOOK

 一方、富士通は、超高解像度液晶としてIGZOを搭載した世界最薄の「LIFEBOOK UH90/L」にHaswellを積んできた。コンセプトは「刀」とされている。

 解像度は実に3,200×1,800ドットに達する。これは、フルHDに対して2.7倍のきめ細かさだ。もちろん、この解像度をそのままWindowsで使うのは実用的ではない。ぼくは、ノートPCの画面を解像度と画面サイズによって決まるDPI値にしたがって、Windows全体をどのくらいスケーリングすればデフォルト想定値の96dpiと同等の大きさで各オブジェクトが表示されるかを算出。比較的近距離で使うモバイルPCであることで、それを15%縮小した値を設定するようにしている。その法則にしたがって、このLIFEBOOKを設定すると、232%スケーリングにすれば、普段使っている各ノートPCと同じ大きさで各要素が表示されることになる。

 超高解像度サポートは、Haswellで高まった内蔵グラフィックスの性能を活かしたものだ。高い解像度をサポートするには馬力が必要で、見ている分には美しくて気持ちがいいのだが、その駆動のためにバッテリは多めに消費されるし、処理も多少は重くなる。スマートフォンなどでも同じで、いたずらにフルHDを追いかけるよりも、HDでサクサク感を実現した「Xperia A」のような例もある。だが、グラフィックス性能の向上によって、この解像度での実用性を確保した。Haswellの使い道としては、こういう方向性もあるということだ。

VAIO Proがこだわるクラムシェルの潔さ

 ソニーはソニーで、「VAIO Pro 13/11」をデビューさせた。Pro 11の11.6型画面は、パナソニックのAX2と同じサイズだ。グローバル版ではタッチ画面のみの展開とされていたが、日本ではあえてUltrabookを名乗ることを辞し、タッチサポートなしのモデルを用意した。クラムシェルというオーソドックスなフォームファクタで2-in-1を実現している。これで11時間駆動というのはまさにHaswellさまさまだ。Let'snote AX3の13時間には届かないが、十分に実用的な駆動時間だと言える。

 ちなみに、タッチのあり/なしで、重量は100g変わる。タッチありが870gで、タッチなしが770gだ。たった100gの差だが、本体重量を考えると15%近くがタッチのために使われていることになる。個人的には、タッチなしモデルの潔さに、買う気が満々だったのだが、ここにきてタッチはやっぱりあった方がいいかなと迷いも出てきている。

 タッチ画面だけではキーボードがなくてイライラさせられることは多いが、クラムシェルならいつでもキーボードは手元にある。キーボードとタッチパッドがあれば、タッチがなくても大丈夫とタカをくくっていたが、最近、意識的にWindowsのデスクトップでもタッチするようにしていると、フリックによるスクロールと、ピンチによるズーミングは、特にブラウザを使っているときに便利なことがわかってきた。もちろん、キーボードショートカットのCtrl+ +や、-、0などでズーミングしたり、スペースキーでスクロールさせたりすれば、それで済む話なのだが、慣れというのは怖ろしいものだ。

 キーボードの打鍵感が心配だったが悪くない。フカフカとして底突き感がないのだが、それがかえってストロークをカバーしているようにも感じる。実は、3日間だけ試作機レベルの実機を試用させてもらったのだが、短い原稿ではあるが、それなりの分量の文章を違和感なく書くことができたので、タイプのしやすさという基本的な部分については心配する必要はなさそうだ。クラムシェルである以上、ぼくらのような職業ではいかに効率よくテキストを入力できるかを期待する。この製品は、十分その期待に応えてくれそうな予感がする。

Connected Standbyはいつになる

 Haswellは、モバイルノートPCとしてのUltrabookを再定義するために生まれたといってもいい。IntelがUltrabookを提唱した2年前から、本命はHaswellだという声が聞こえてきていて、この2年間、なかなかノートPCを買い替えることができなかったというユーザーも多いはずだ。

 ただ、Haswellについては、Windows 8のConnected Standbyへの対応も期待されていたが、残念ながら、このタイミングでこの機能をサポートしている製品はわずかだ。パナソニックのLet'snote AX3とVAIO Pro 11は、実機で確認したところ、同目的の技術として、IntelのSmart Connect Technologyが使われている。

 VAIOの場合、あらかじめ指定した間隔、例えば15分に1回とか30分に1回といったタイミングでスリープから目覚めて必要な処理を行なうようになっていた。しかも、この機能をオンにしておくと、スリープがサポートされず、強制的に休止状態になり、いざ使おうとして液晶を開いても復帰に時間がかかってしまう。

 まだ、Windowsの各サービスが本格的にConnected Standbyに対応しているとはいえない今の時点で、この機能が本当に必須かというと、それは難しいところで、サポートのないことが致命的な欠点にはならないとは思う。どうせ、スマートフォンはいつもポケットの中にあって、SNSの更新や新着メールを知らせてくれるのだから、30秒に1回起きて、貴重なバッテリを無駄にしなくてもいいかもしれないとも思う。でも、将来的にクラウドストレージとの同期などができるようになれば話は違う。そのあたりが悩みどころではある。

気になるNECパーソナルコンピュータと東芝の動向

 このタイミングでは、NECパーソナルコンピュータと東芝がHaswell搭載のモバイルノートPCを出してきていないのが気になって仕方がない。個人的には「LaVie Z」がHaswellを搭載したら、どうなるかといったことが気になるし、東芝は東芝で「dynabook KIRA V632」や「dynabook KIRA V832」のような製品をHaswellで再デビューさせるようなことも十分に考えられる。また、ペンによる快適な手書き入力にこだわったV713なども東芝がHaswellで作ればどうなるんだろうかと興味はつきない。

 こんな具合に、Haswellは、モバイルノートPCの世界をリフレッシュする。スマートフォンやタブレットの普及によって、今、モバイルノートPCのプレゼンスは下がっている。でも、スマートフォンやタブレットを使えば使うほど、PCの良さを再確認できるというのも事実だ。もしかしたら、スマートフォンやタブレットを使うようになって、一度はもういらないと思ってしまっていたPCを、もう一度使ってみたいと思う層が出てくるかもしれない。その時に、Haswell搭載でバリエーションの広がった各社のノートPCが揃っていることは、ライフスタイルに応じた選択肢の広さという点でも嬉しく感じてもらえるはずだ。なにしろ、ようやく持ち歩きがいのあるモバイルノートPCのフォームファクタが登場したのだ。この10年間、夢にまで見た電車の中の誰もがカバンの中にPCを忍ばせているという状況が、もしかしたら、もうすぐ実現するかもしれない。

(山田 祥平)