山田祥平のRe:config.sys

Haswellがもたらす2-in-1が認めた「指よりマウス、キーボード」

 台湾・台北で開催されたCOMPUTEXにおいてIntelが正式にHaswellこと第4世代のCoreプロセッサを発表した。そして、その新世代プロセッサがもたらす世界として、声高らかに掲げられたのが2-in-1というコンセプトだった。今回は、その背景について考えてみることにしたい。

ついに正式発表された第4世代Coreプロセッサ

 個人的に、Haswellには大きな期待をしていた。今回は、発表前から秋葉原などの電気街で、すでに販売が開始されたり、さまざまなところで詳細な情報が公開されるなど、順番がおかしいような印象もあったのだが、とにもかくにも、正式な発表は、このアジア最大のコンピュータ関連見本市で行なわれた。

 開催初日の基調講演でステージに立ったIntelのThomas M. Kilroy氏(Executive Vice President General Manager, Sales and Marketing Group)は、第4世代Coreプロセッサを正式に発表するとともに、タブレットにもなりノートPCにもなる2-in-1フォームファクタの優位性を高々とアピールした。

 今は、マルチデバイスの時代であり、Intelも人々が個々に使うデバイスの数は、この5年で急増していることを認めている。だからこそに2-in-1なのだ。兼ねられるものは兼ねさせてしまえといったところだろうか。

 だが、実は、この2-in-1のコンセプトは、タブレットとノートPCという異なるフォームファクタが1つの筐体で実現できるということだけではなく、背景としては情報の生産と消費という2面性をも包含しているのではないかと思う。もちろん、情報を消費するだけならタブレットが便利だし、何かを入力しなければならないような場面では、レガシーなノートPCのクラムシェル形状は圧倒的に有利だ。

 とにもかくにも、情報を生産するという作業の多くの場面においては、どうしてもキーボードが欲しくなる。Intelアーキテクチャ下で稼働するOSとして、圧倒的なシェアを持つWindowsは、タッチ対応への道を歩み始めたばかりだ。豊富なストアアプリが選び放題という状況になるまでは、どうしても、旧来のデスクトップアプリにたよらなければならない。なのに、新しいOfficeのようなアプリを除き、Windowsデスクトップはもちろん、レガシーなデスクトップアプリの多くは、タッチのことなんて、これっぽっちも考えて作られていないのだ。

 だからこそ、人々は、ポケットにスマホ、カバンの中にノートPC、そして、情報消費のためだけにカバンのサイドポケットにタブレットを入れることを受け入れた。結果として3つのデバイスを持ち歩くわけだ。まさに苦行だ。

 それならばと、タブレットですべてをすませようとする層も増えた。iPadのようなデバイスに外付けのキーボードを接続、ある程度の情報の生産ができるようにし、生産にはノートPCが便利であることはわかっていても、カジュアルな情報消費を優先する方法論を模索しようとしたのだ。そこには、コンピュータ的なデバイスを操作する際には、情報を生産するよりも消費する時間の方がずっと長く、それなら消費に向いたデバイスに生産指向のアタッチメント、すなわちキーボードを付け加えようという論理がある。

 でも、長い歳月、Windowsのデスクトップアプリにドップリと浸かった環境を経験している限り、複数アプリの連携の点でiOSやAndroidはどうしても使い勝手が劣る。タブレットを情報の生産に使おうとしてきた先駆者たちは、いわば、IT的にはパワーユーザーの部類に入るわけで、そういう層のニーズを満たすのは難しいとは思うのだが、いわば背に腹は代えられない的成り行きで、1つのトレンドを形成してしまったように思う。

タッチ、キーボード、マウスの共存

 「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがある。Intelが打ち出してきた2-in-1コンセプトは、果たしてこのことわざを、いい意味で裏切ることができるだろうか。

 個人的には、マルチデバイスの時代はこれからさらに続くと思っていた。共存、あるいは、協調、そして連携といったユーザー体験のトレンドが加速し、適材適所でマルチデバイスを使い分ける方法論だ。だから、Intelが今回、2-in-1をここまで前面に押し出したのは、ちょっと意外でもあったし、本当にそれでいいのかという印象も持った。

 というのも、現行の最終製品群を見る限り、ノートPCをタブレットとして使うには、その重量が重すぎるからだ。iPadの重量は600g台半ばだが、それでも片手で支えてタッチ操作をするには重いと感じる。だから、iPad miniが広く受け入れられた。

 2-in-1のデバイスをタブレット兼ノートPCなのだと主張するのなら、タブレットとして使う際の使い勝手がどうかを考えなければなるまい。そもそも、本当に1kg近い重量の筐体を、片手で支えるタブレット独特のスタイルで使う必要があるのかということも考える必要がありそうだ。

 もちろんタッチに対応したスクリーンは重要だ。例え、クラムシェルのノートPCだって、スクリーンがタッチに対応していれば、さまざまな便利が手に入る。2-in-1をかなえるフォームファクタは、今のところスクリーン部分が脱着できるデタッチャブルタイプ、スクリーンにキーボード部分を格納できるコンバーチブルタイプ、スクリーンを裏側まで折り返せるYogaタイプがポピュラーだが、今後は、こうした背景を踏まえ、Haswellの省電力性などを駆使し、もっともっと重量を軽くすることなどを目指したさらなる工夫が必要になっていくだろう。

 そうならない限り、2-in-1 PCがタブレットとして使われることは、あまりなく、いつもキーボードがスタンド代わりになっている光景が続くような気がしている。

過渡期には過渡期のフォームファクタ

 その一方で、今回のCOMPUTEXで発表された第4世代Core搭載製品の1つとして、ソニーの11.6型スクリーン搭載のVAIO Pro 11の割り切りは興味深い。今がまだ過渡期であることを受け入れ、あえてクラムシェルというレガシーな筐体を選んだ。その結果、タッチスクリーンを装備しながらも重量は870gに抑えられている。NECのLaVie Zがタッチ対応なしの13.3型スクリーンで875gであることを考えると、そこには一歩の前進があるようにも思える。

 一般的に、スクリーンをタッチ対応させるだけで本体重量は100g増加するといわれている。とりあえずUltrabookを謳う限り、タッチ対応は必須とされているので、VAIO Pro 11では、その重量の1割以上がタッチのために使われていることになるわけだ。

 それでも、そのコンパクトで薄い筐体と、手に持ったときに感じられる軽快感には、ちょっとした感動を覚えた。この製品が日本で発売されるかどうかは未定だそうだが、少なくともグローバルでの発表とされているのだから、日本での発表は期待できるし待ち遠しくもある。少なくとも、レガシーなクラムシェルノートPCの使われ方に、大きなインパクトを与える可能性を持っている。過去においてVAIO type Pに魅力を感じていたようなユーザーで、これがタッチに対応していたらと考えていた層には歓迎される製品になるんじゃないだろうか。少なくとも、第4世代Coreプロセッサの恩恵で、アッという間にバッテリがなくなるということもなさそうだ。

 いずれにしても、Haswellこと第4世代Coreプロセッサによって、PCの時代は、確実に一世代進化する。気の早い話だが、この先、プロセスルールが進めば、フォームファクタのバリエーションはさらに工夫されるだろう。そして、そのころには、キーボードがなくても快適に使えるWindowsが提供されているかもしれない。

 ずいぶん長く続くが、あくまでも今は過渡期である。レガシーはそう簡単にはなくならない。Haswellは、そのレガシーPCを次のステージに引き上げるための微細ではあるが、大きなプロセッサだということだ。

(山田 祥平)