山田祥平のRe:config.sys

日本メーカーの意地を見せるUltra dynabookの付加価値




 先週紹介したHPのFolioと、今回、じっくりと使ってみた東芝のdynabook R631は、Ultrabookのカテゴリも同じなら、処理性能的にも似たようなものだ。それなのに価格的に5万円以上の開きがある。だが、両者を手にとってみると、それだけの価格差は仕方がないと思えるのも確かだ。

●5万円分の付加価値

 dynabookとFolioは、Intel Core i5-2467M(1.60 GHz/ターボブースト時最大2.30GHz、3MB L3キャッシュ)という、同じプロセッサを搭載するUltrabookだ。メモリ容量4GBも同じだし、SSD 128GBも同じだ。スクリーンサイズはといえば13.3型で同じだし、解像度も1,366×768ドットで同等だ。

 極端な話、dynabookを1台買って点と点を往復するなら、それぞれの点に1台ずつFolioを調達した方がいいかもしれない。自分がどうノートPCを使うかをわかっているユーザーなら、そういう選択肢もありだと思う。だが、dynabookの付加価値に5万円程度の価値を認めることができるなら話は別だ。

 たとえばその重量。手に取ってみればまったく違うことが実感できる。重量は1.12kgと1.5kgでその差は380g。フットプリントもわずかだがdynabookの方が小さい。薄さも最厚部が15.9mmと20.3mmで、持ったときの印象が全然違う。

 さらに、dynabookはWiMAXを搭載している点もポイントが高い。モバイルPCとして考えたときに、フレキシブルに接続手段を選べることはとても大事なことだからだ。

 また、指紋認証をサポートしている点、そして、細かいことだが、タッチパッドの左右ボタンがきちんと独立したボタンになっていて誤操作が少ない点も評価したい。この薄さに、ボタンを装備するのはたいへんなことだとは思うのだが、東芝はどうしても、ここを譲らなかった。その覚悟はすごい。

 もちろん気になるところもいくつかある。たとえば、ファンの音が少し耳につくのだ。うるさいといったほどではないのだが、ちょっと耳障りな周波数なのだ。カフェなどの喧噪の中ではまったく気にならないが、静かな図書館や就寝前のベッドサイドなどではどうだろう。さらに、電源端子は背面に配されているのだが、プラグ形状がストレートだ。これはきっとL型の方が使いやすいんじゃないかと思う。

 また、指紋認証はとても便利だが、スリープからの復帰時に待たされることが多いのが気になる。場合によっては指紋をスキャンしてもデスクトップが表示されるまでに20秒近くかかることがある。Windowsの起動に10秒程度しかかからない機体が、スリープからの復帰にこれだけもたつくことがあるのは不思議だ。ほぼ瞬時に復帰という場合もあり、どうしても規則性が見つからず原因をつきとめることができずにいる。

 個人的な事情としては、愛用ユーティリティのkeymouxrが使えない点がつらい。あらゆるアプリでCtrlキーとのキーコンビネーションに、機能キーなど各種のキーをアサインできるユーティリティだ。たとえばCtrl+MにEnter、Ctrl+HにBackSpaceを割り当てたりすることができる。このユーティリティがあるとないでは作業効率が大幅にちがってくる。手持ちのPCは、ほとんど同じ環境になっているが、このdynabookだけで、これが使えない。うまく作動したりしなかったりと不安定だ。キーのフック関連で何か特殊な環境になっているのかもしれない。

●Ultrabookのミッション

 Ultrabookというと、どうしても薄くて軽いノートPCということで、モバイルPCの新しいカテゴリとしてとらえられがちだが、いくつかの製品を見てきて、そうでもないのかもしれないなと思うようになった。ベンダーの方にもわかってほしいのだが、今の時点ではモバイルという狭い視野で認識しないほうがいいのかもしれない。実際、13.3型のスクリーンは、その筐体のサイズを左右しフットプリントが大きくなる、たとえばカフェの1人掛けのテーブルで使うと狭苦しさを感じてしまう。電車の中で座れたとしても、膝の上で使うには大きすぎたりもする。

 でも、会議室などでミーティングをしながら使うには手頃な大きさだし、そのために持ち運ぶにしてもカバンの中での収まりは悪くない。特にdynabookの1.12kgは、カバンの中での存在感も希薄で、まるで書類が少し増えただけのような感覚で持ち運べる。

 でも、モバイルというカテゴリなら、10型程度で900g以下を求めたくなる。dynabookがそのスクリーンサイズに13.3型を選んだのは、モバイル専用のニッチさを嫌ったためで、東芝がその気になれば、そちらに特化した製品を作ることもできたはずだ。

 きっと第1世代のUltrabookは、ごく普通のユーザーにもPCを外に持ち出すことを体験させようという段階にあるのだろう。この段階では、外で使わなくてもいい。移動中に立ったまま使うなんてもってのほかだ。それはまだスマホの領域だ。カバンに入れて外に持ち出すだけでいいのだ。そして目的地に到着したところで、日常的に使っているのと同じ感覚でPCを使う。その便利さ、その楽しさを知らしめる段階だ。

 いわゆるモバイルユーザーなら、ずっと前からやってきたことだと思うが、一般的なユーザーにとって、それができるようなモバイルノートPCは高嶺の花だった。でも、Ultrabookの価格レンジならなんとか手が届くかもしれない。持ち出そうという気にさせるだけで、第1世代のUltrabookのミッションは成功だ。

 逆に、持ち出す気がまったくないのなら、15型クラスのA4ノートを選んだ方がコストパフォーマンスは高い。そのあたりのことをdynabookはよくわかっている。13.3型のスクリーンを選んだのも賢明だ。このサイズがあれば、カフェなどで友達と次の旅行の計画をたてたりする場合にも画面が小さすぎて困るということはない。もちろん、そのフットプリントのために、カップやグラスが林立するテーブルに濡れていないスペースを確保できればの話ではある。

●Ultrabookは足し算だ

 第2世代のUltrabookでは、Ivy Bridgeが使われるのでTDPも下がる。だから、あまり無理をせずにさらにモバイル指向を強めたUltrabookも作れるようになるはずだ。たぶん、NECパーソナルコンピュータや富士通、パナソニックといった国内ベンダーは、そのあたりをきちんと想定しているかもしれない。

 そしてそれを手に入れた層が実際に移動中にPCを使うようになり、バッテリの保ちに不満を感じるようになったころ、Windows 8が稼働する第3世代のUltrabookがマルチタッチスクリーンなどを搭載して颯爽と登場する。

 気の長い話だが、たぶんIntelの描いているシナリオはそんなところなんじゃないか。その頃には、クラムシェルという概念がなくなっていて、キーボード部分とスクリーンは別筐体で好きなものを組み合わせることができ、スクリーン部分はスレートPCとして使うのが当たり前になっているかもしれない。そういうことを想像すると、ちょっとときめく。

 でも、そういう製品をきちんと成立させるためには、今のUltrabookで潜在層を確保しておかなければならない。

 dynabook R631は、古くからのモバイルユーザーから見れば、多くの不満を感じる点があるかもしれないが、モバイルのエッセンスを凝縮しながらも、モバイルにありがちな無理をうぶなユーザーに強いない点で、絶妙なバランスを提供している製品だといえるだろう。モバイルの無理を許容するユーザーではない限り、Ultrabookはある種の付加価値だ。そこには引き算があってはならない。きっと足し算の論理がなければならないのだと思う。