山田祥平のRe:config.sys

パケ死寸前




 移動体通信事業各社が大容量通信時における帯域の制限に向けて本腰を入れつつある。つい先だっても、KDDIがスマートフォン向けの通信速度制御の運用を発表したばかりだ。コンピューター的なデバイスが使うトラフィック量が、通信事業者が想定してきたそれを大幅に上回ることが明らかになりつつある。これに伴い、米国で先行しているような定額通信制度の見直しも視野に入ってきているようだ。

●ユーザーはパケットを使っていいのか、悪いのか

 限りある電波資源を有効に、そして平等にという点で、移動体事業各社の言い分は、しごくまっとうなものかもしれない。だが、その一方で、「下り最高××Mbps」などと謳って高速サービスをアピールして高速大容量、いわゆるモバイルブロードバンドを喧伝したり、TV CMなどで、スマートフォンのある便利で豊かな生活を訴求するといったことをしているわけで、消費者としてはは、ふんだんに帯域を使っていいのか、使ってはいけないのか、いまひとつ分からなくなってしまう。

 想定されるトラフィック量は、サービスコストにも大きな影響を与える。各方面から話を聞くと、現在のトラフィックは、数%のユーザーのトラフィック量のために、その他のユーザーがコストを負担しているらしい。それが現時点における移動体通信のパケット定額制なのだそうだ。

 ということは、その数%のヘビーユーザーがいなくなれば、あるいは、相応の負担をせざるを得ない料金を徴収できる仕組みを作れば、カジュアルなユーザーにとってのパケット定額制料金はもっと安くなったりするのだろうか。

 気になって、自分のスマートフォンにおける直近のパケット使用量をチェックしてみた。キャリアはドコモで「パケ・ホーダイフラット」というサービスに加入しているので、料金は5,200円で、毎月定額だ。この5,200円という料金は、1日あたり170円程度の金額だ。つまり、1日使い放題で170円となり、使ったパケット料が多ければ多いほど、パケットあたりの単価は安くなる計算だ。だから、必要なトラフィックであれば、使わない方が損になる。

 数値は下記のようになっていた。

6月 2,436,075パケット
7月 4,927,507パケット
8月 1,438,445パケット(8/18まで)

 こうして見てみると、8月のパケット量は、このままいくと、2,000,000パケット前後で収まるだろう。けれども、自分自身の使い方としては、7月の約5,000,000パケットというのが日常的な量ではないかと思う。6月は、都市部での活動が少なかったことや、8月のお盆付近の活動を考えての推定だ。

 ちなみに、パソコンでのインターネット接続は、都市部にいる限り、WiMAXで何の不自由もないので、スマートフォンのテザリング機能は使わずにすませられている。だから、この数字は純粋にスマートフォンだけで消費したパケットだ。

 このパケットという単位もなんとかしてほしいものだ。1パケットは128Byteなので、掛け算すると610MB程度。つまり、1日あたり20MB程度を使っていることになる。だから、普通に使っている分には、直近3日間で3,000,000パケットを超えたことによる帯域制限に引っかかることもないだろう。

 でも、たとえば、昨日は、人と会って、とあるYouTubeの映像が話題になり、その場で当該映像を手元のスマートフォンで2回視聴した。たったそれだけで、昨日のパケット量は276,000パケットとなった。普段はYouTubeを見ることなどないので、1日あたりの平均量に、8MB程度が上乗せされたことになる。仮に映像のサイズが4MB程度とすれば、YouTubeを1日20本見る生活を3日続ければ、帯域制限の対象となってしまうヘビーユーザーということになってしまうわけだ。そして、その程度のことをするカジュアルユーザーの帯域を制限しなければならないくらい、事業者が最初に設定したトラフィック量の限界が低かったということだ。

●ボトルネックはどこだ

 移動体通信事業者が、無線通信の広帯域化に熱心な理由の1つは、各端末で高速通信ができるようにしてユーザーに快適と便利を提供するためであると同時に、有限資源である電波を、より有効に使うためでもある。同じ電波を使ってやりとりできる帯域が広ければ、必要な通信は、より短い時間で終わるため、多くのユーザーが帯域幅の広い通信を享受できる。つながっていることと、データがやりとりされていることとは別なので、ユーザーは用事が終わったから切るといったことを意識せず、バックグラウンドで接続された状態を維持しつつ、自動的に必要な通信だけを短時間で効率よく済ませることができる。つまり、今の広帯域化競争は、通信をスピードアップして、ネット利用の新たなユセージモデルを提供するというよりも、電波の有効活用的な意味合いが強いともいえる。まさに、インフラ事業者ならではのアプローチだ。

 携帯電話基地局が送受信する電波の物理的な帯域をこれから拡げるのはたいへんだ。方法として占有周波数帯域を拡げるのがいいのは分かっていても、電波は有限資源なので、おいそれとはいかない。だから、従来と同じ帯域幅で、より効率のいい通信をできるようにするのが手っ取り早い。それに、基地局のバックエンドはほとんどの場合、有線のネットワークだ。想像にすぎないが、このネットワーク帯域が逼迫していることは想像しにくいし、たとえそうだとしても、それを今の数倍〜10倍にするのは、それほど難しいことではないはずだ。今、各事業者らが帯域の逼迫を訴えるに際して、通信ルートのどの部分を指して言っているのかは定かでないが、無線LANサービスなどにトラフィックを逃がすことで、ある程度問題が解消されるということは、やはり、基地局―端末間のトラフィックの増大によるボトルネックが問題になっているのだろう。

 スマートフォンが増えてトラフィックが増大するのは自明だし、そんなことは、何年も前から分かっているわけで、民族大移動のようにスマートフォンへの移行を喧伝しながら、すでに移行して楽しく便利に使っているユーザーに対して、帯域が足りないので今後は制限しますとか、定額はやめにしますというのは、どうにも納得がいかない。

●まるで航空運賃のように常識を逸脱した正規パケット料金

 ちなみに、ドコモの場合、1パケットあたりの正規料金は0.21円だ。この金額がパケホーダイダブルなどの2段階定額制では0.084円に割引される。具体的には60%オフの金額だ。ちなみに、海外利用では定額プランに加入していても、正規料金が適用になるが無税なので0.2円となる。海外パケホが使えない地域ではこの料金を払うしかない。

 たとえ、60%オフであったとしても、0.084円/パケットという金額は絶対的に高額だ。1円未満の金額であり、しかもパケット単位なので、ピンとこないかもしれないが、ぼく自身が平均的な1カ月で消費する約5,000,000パケットを計算してみると42万円になる。正規料金なら100万円だ。それを定額天井額の5,200円ですませられるのだから、割引率としては……と、計算するのもばからしくなる。

 電気やガス、水道料金で数十万円分を使おうとすれば、いったいどれほどの浪費が必要か。これらのインフラが従量制でサービスできているのは、基本単位あたりの単価が、常識と大きくはかけはなれていないからだ。

 ぼくの場合、このトラフィック量にはWiMAXに逃がしているモバイルPCでの通信は含まれない。もちろん、自宅のインターネット接続も別トラフィックだ。ちなみに、スマートフォンで約5,000,000パケットを使った7月のWiMAX利用は116,604,953パケットだった。約14GBだ。

 常用しているモバイルデータ通信は、3GとWiMAXだけなので、合計約15GBが1カ月あたりの平均的なトラフィックとなる。ドコモのLTEサービス「Xi」の料金体系は約5GBまでが定額、それを超えると2GBごとに2,625円が加算されるという設定なので、決して想定外の使い方ではないと思うが、この価格ではLTEに一本化というのは絶対に無理だ。この段階制定額料金イメージは、今後、ドコモのみならず、各社の料金プランのベースとして参照されることになるのだろう。ちょっと高すぎる気もする。

【お詫びと訂正】初出時、パケット-バイト数換算および「Xi」料金体系の記述に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

 というのも、今後、モバイルデータ通信トラフィックが、さらに増えることになるのは間違いないからだ。データはクラウドに置き、端末に同期させてそれを参照することが一般的になる。それができないアプリやサービスモデルは邪悪なものとされるだろう。

 今後は、スマートフォンやPCローカルのみに存在するデータは禁じ手となる。これまでローカルストレージに依存してきた音楽データも、当たり前のようにクラウドに置いてストリーミングで楽しむようになる。撮影した写真はユーザーが意識しなくても、知らない間にクラウドにアップロードされている。GoogleもAmazonも、そしてAppleも、携帯電話事業者のハラハラはどこ吹く風と、トラフィックの増大を招く魅力的なサービスの提供に熱心だ。

 今さら、まさか、こんな時代がやってくるとは思ってもみなかったとは言ってほしくない。でも、それに近いことを言っているのが今の携帯電話事業者だ。彼らがこのジレンマを、これからどのようにして収束させていくのかに注目したい。