山田祥平のRe:config.sys

新型iPod touchの期待はずれとATOKの憂鬱




 カメラやマイクを内蔵しているというのを理由に購入を決めたiPod touchの新型が手元に届いた。残念ながら、現時点では企画倒れ。でも、いいニュースもある。ジャストシステムが、iPhoneおよびiPod touch用のアプリとして、ATOK Pad for iPhoneの提供を開始した。

●マイクとカメラはアプリの対応待ち

 プアマンズiPhoneと言われることも多いiPod touchだが、ぼくは、このデバイスをけっこう気に入っている。なんといってもiPhoneよりも軽いし薄い。音楽プレーヤーとしても使いやすい。もちろん3G通信機能を装備し、通話もできるiPhoneの方が便利なことはわかっているのだが、オサイフケータイなど、日本のガラケー独自の機能を捨てきれず、さらにこれ以上、モバイルデバイス通信の固定費を増やすわけにもいかずといったところで、touchを選ばざるを得ないのが実情だ。通信に関してはガラケーのルータ機能を使ってまかなっているが、それなりに満足している。それに、64GBのストレージを持つモデルはiPhoneにはない。

 旧型iPod touchを新型にするにあたって、ちょっとは考えた。なにしろ、OSが新しくなっているので、UI等は同じだし、基本的には機能も似たりよったりだ。変わった感じがしないだろうとも考えた。

 ただ、極端に画素数が少ないとはいえカメラがついたし、マイクも内蔵された。これで、使いたくても使えなかった一部のアプリが利用できるようになると言い訳しながら購入に踏み切った。旧型は、発売直後に購入したものを、昨年の秋に、地面に落としてしまい、外観にはキズもないのに稼働しなくなったために買い直したものだ。発売当初は32GBモデルしかなかったが、64GBモデルが追加されていたので、そちらを選んだ。だから、今回の買い物では、ほとんど変わるところがないので、見送ってもいいかなと悩んではいたのだ。

 手元に届いたiPhod touchは、手に持ってはっきりわかるくらいに旧型よりも軽く薄くなった。気に入らないのはロックボタンで、正面から見て左上にあったものが、右上に移動している。ボディを右手で持つことが多く、タッチやフリックの操作は右手の親指を使うのだが、ちょっと人差し指をのばせば届いていたロックボタンの位置が右側にずれたのは、慣れるまでにちょっと時間がかかりそうだ。それに、上というよりも、奥裏側に位置するようになったのも操作の迷いを招いてしまっている。

 ロックボタンの位置はiPhoneとiPadで共通だ。また、イヤフォン端子が左上なのも同様だ。でも、iPod touchは、イヤフォン端子が下にある。ロックボタンだけが他のデバイスと同じ位置になったのだ。似たようなデバイスなのに、ちょっとだけ違うというのは、気になるところだ。ブラウザのSafariなどは、戻るボタン、進むボタンがiPadは上で、iPod touchは下にあるなど、こうしたルック&フィールの違いをAppleはいったいどう考えているんだろうか。

 さて、期待のマイクとカメラだが、これがまったくの期待はずれだ。アプリの対応がまったく間に合っていないため、活かすことができない。

 たとえば、今まで使えなかったボイスメモは使えるようになった。これは、iPod touchの標準アプリだ。録音ボタンを押せば、ちゃんと録音ができる。

 では、Googleアプリの音声検索はどうかというと、これが使えない。マイクのボタンを押しても「マイクが見つかりませんでした」とダイアログを表示するだけだ。iPadでは、けっこう便利に使えている音声検索だけに実に残念だ。

 一方、カメラはどうかというと、スチルもムービーもちゃんと撮れる。コンパクトカメラはいつも持ち歩いているので、ここに画質を求めるわけではなく、メモ程度に使えればいい。パンフォーカスだが、これまた特に不満はない。

 カメラを内蔵するようになって、バーコードリーダーやAR系のソフトが使えるんじゃないかと考えていた。だが、これまた認識してくれない。いくつか試してみたが、これらのアプリは、マイクとカメラの存在をチェックしているのではなく、デバイスがiPod touchなのかiPhoneなのかをチェックしているだけのようだ。そして、iPod touchはマイクやカメラが内蔵しないデバイスであると決め打ちし、これらの機能を使えなくしているように見える。

 アプリケーションの作り方として、これでいいのかとも思う。初代から現在までのシリーズ中にモデルが10機種程度だからこれでもよさそうなもんだが、自作を含め、さまざまなコンフィグレーションの存在するPC系のデバイスでこういうアプリの作り方をしていたら大変だ。というわけで、今は、各アプリの対応待ちだ。早期の対応を望みたい。

●憂鬱続きのATOK

 ATOK pad for iPnoneは、ジャストシステムによるメモ帳アプリだ。ATOKの名前を冠しているが日本語入力システムではない。PCにおける黎明期の日本語ワープロソフトは、エディタ部分とかな漢字変換部分が融合し、切り離して使うことができなかったが、今回のアプリも、それと同様だ。あくまでも、このアプリは簡単なテキストエディタとして提供されている。

 そして、このエディタでは、ATOK以外の日本語入力システムが使えない。といっても、ATOK以外の日本語入力システムは、iOSデフォルトのものだけだ。それが使えない。多くのユーザーがこのアプリをATOKという日本語入力システムとして購入するだろうけれど、ATOKとエディタは切り離せない。すなわち、このエディタ以外の部分では、iOSデフォルトのものを使うしかないわけだ。

 ちょっとしたメモを書く以外にも、日本語を入力しなければならない機会はたくさんある。検索にしてもそうだし、フォームへの文字入力などもそうだ。Twitterでつぶやくのだってそうだ。

 当然、そのような用途は考えられている。このエディタで書いたメモは、メールを始め、各種のアプリに「送る」ことができるのだ。また、入力した文字列をコピーしておいて、別のアプリにペーストすることもできる。

 だが、別のアプリからこのエディタを呼び出すことはできない。メールを読んで返事を書きたいとしよう。その場合の操作手順は次のようなイメージになる。

1. あらかじめ、ATOK pad for iPhoneを起動しておく。
2. iOSでは起動中のタスクの切り替えが容易になったので、メーラーの返信画面でホームボタンをダブルタップすると、起動済みのATOK pad for iPhoneが見つかるので、そのアイコンをタップ。
3. エディタが起動するので、+ボタンをクリックして新規メモを開き、返事の内容を書く。
4. 返事の内容を書き上げたら、編集を完了し、送るアプリの選択ボタンをタップする。
5. メール、SMS、Twitter、Evernote、クリップボードが選択肢として表示されるので、そこからクリップボードを選ぶと入力した内容がコピーされる。
6. ホームボタンをダブルタップしてメールの返信画面に戻り、文面中にコピーした内容を貼り付ける。

以上のような手順で、ちょっとまどろっこしい。4〜5の手順では、通常の文字編集画面と同様に入力済みの文書をホールドするとコピー/ペーストのコンテキストメニューが表示されるので、それを使えば少しは手順がシンプルになる。新規にメモを作らなくても、同じメモの内容を消去して再利用すれば、3の手順も省略できるかもしれない。

 とにかく、日本語入力ができる場面では、めんどうくさがらずに、必ずこのアプリを使うようにするべきだ。そのために、iOSデフォルトの日本語キーボードをオフにしてしまってもいい。微妙なUIの違いは混乱のもとだし、何よりも、学習結果が予測変換に反映されるので、日本語入力は一本化したほうが得策だ。

 PCで使うATOKのように「い」と入力してタブキーを叩くだけで、「いつもお世話になります。」くらいの長文が出てくればいいのだが、このアプリでの予測変換の候補は、ほぼ文節単位の短いものだけだ。モバイルATOKから派生したアプリだそうだが、ここは1つ、もう少し、至れり尽くせり感が欲しかったところだ。

 ジャストシステムとしては、ATOKを日本語入力システムとして提供することをあきらめてしまったわけではなく、今回は、苦肉の策としてのエディタアプリ化なのだそうだ。今後も、Appleに対して、情報の開示を求めていく方針だという。

 そもそも、iOSの各国語入力は、キーボード入力と変換機能が一体化されているため、変換機能だけをすげかえる実装で提供するのは難しい。かといって、iOS標準の入力システムそのものをすげかえられるようにしてしまうと、キーロガーなどを埋め込んだ邪悪なアプリを世に出してしまう可能性もあるだけに、交渉は難航しそうだ。

 かつて、ATOKが、デバイスドライバとして、エディタから独立したときのように、アッと驚くアイディアで、快適な日本語入力を実現してほしいと思う。標準のキーボードから読みの情報だけをもらい、それを漢字かな交じりに変換した結果をクリップボードを駆使して文字入力画面に送りつけるようなことができたらなと思う。