山田祥平のRe:config.sys

【IDF特別編】Intelがやってきたことは、まだまだ序の口




 

 今、1日に100万台のPCが売れている。そして、この数字はまだまだ伸びていく。なぜなら、新興市場がどんどん伸びていくからだ。未だに何十億人もの人々がコンピュータを持っていないという事実。1人1台の時代はこれからだ。さあ、もういっぺん。

●ソリューションプロバイダーとしてのIntel

 今年もIDFの季節がやってきた。Intelが、この先の戦略を開発者向けに語り、多くの技術セミナーを並べて啓蒙をすすめる恒例のイベントだ。毎年、同じ場所で同じ時期に同じ体験をするというのは、とても刺激になる。個人的には、このIDFと年初のCESがそうで、双方ともに10年以上通い続けてる。

 今年のIDFだが、目新しいという点では、コードネーム「Sandy Bridge」で呼ばれてきた新プロセッサに関する話題がある。飛躍的な性能向上はPCの世界を一変させると前評判も高いし、Intel自身の鼻息も荒い。でも、その話はちょっとおいておきたい。もっと大事な話があるからだ。

 印象的だったのは、初日の基調講演において、社長兼CEOのポール・オッテリーニ氏が言及した「1つのデバイスだけがオールマイティじゃない」という言葉だ。ご存じの通り、ここのところのIntelは「コンティニュアム」(連続体)をスローガンに、その戦略を進めている。サーバーからデスクトップ、モバイルノート、ネットブック、MID、携帯電話、TVまで、さまざまなデバイスにおいて一貫性と相互運用性を提供するというビジョンだ。Intelはベストなシリコンを作る会社ではあるが、このスローガンのもとに、人々の暮らしに影響を与えるさまざまなスタックを提供するソリューションプロバイダーとしての企業として今を戦っている。

 オッテリーニ氏は、すべてのプラットフォーム上で、魅力的なアプレットが動くようにしたいとアピールする。だからこそ、コンティニュアムはIAがその基盤とならなければならない。一度フレームワークを書くだけで、どんなデバイスでも展開できるようにするためだ。

 オッテリーニ氏によれば、今、50億のデバイスがインターネットにつながっているそうだが、その半分以上が携帯電話のようなスマートデバイスなのだという。そして、その数は、これからすぐに2倍になる。そこでベストな経験を提供しようというのがIntelの考えだ。

 PCで使うソフトウェアがWordとExcel、PowerPointだけという時代ではなくなりつつある。もちろん、これらはオフィスにおける作業の効率化に欠かせないソリューションではあるが、こうしたソフトウェアを使うのは会社の業務を遂行するときだけで、人々の暮らしの中では、さほど重要な位置にはいなくなっている。

 その代わりに、人々は、さまざまなデバイスでアプレットを使う。以前、このコラムで、汎用ブラウザから専用ブラウザの時代に向かっている今に言及したことがあるが、人々は、Excelが携帯電話で使えることよりも、スマートフォンで頻繁に使うメモ帳アプレットが、デスクトップPCやモバイルPC、タブレットなどでも使えたらいいなと思っているし、そして、そのデータがクラウド経由で同期できることを望んでいる。iPhoneアプリやAndroidアプリ、そして、日本ならiアプリが、ほかのデバイスでも使えたら楽しいし便利だと感じているはずだ。

 ぼくは、オッテリーニ氏の基調講演を聴き、ようやく、Intelがそのことに気がついてくれたことをうれしく思った。プラットフォームを串刺しにする一貫した相互運用性は、Intelのようなハードウェアとソフトウェアの双方を統合化できるソリューションプロバイダーにしか提供できないだろう。暮らしのソリューションプロバイダーとして、ソフトとハードの両面から人々を支えるという点ではアップルも同様だが、Intelは、そのアップルを支える重要なパートナーでもある。

●コンシューマーに向き直るIntel

 ポール・オッテリーニ氏に続いて登壇した主席副社長のダディ・パルムッター氏は、革新的なアイディアを現実に変えることが人類の夢であり、コンピューティング体験もまた、同様だと話を切り出した。

 アーキテクチャ事業本部長としてのパルムッター氏の話は、Sandy Bridgeに関する話題が多かったものの、その高い処理能力が、どのように人々の暮らしに影響するか、きちんとフォローアップされていた。うれしいのは、この人の口から「若者の暮らしはいつもレースだ。コンシューマーはリアルタイム、ハイクオリティのコンピューティングを求めている」という言葉を聞けたことだ。個人的には、常々、初心者にこそ打てば響く高性能コンピューターが必要だと訴え続けているのだが、それを担保してくれたような心強さを感じた。

 2日目の基調講演も、Intelの強烈なメッセージが声高に響く。上席副社長兼ソフトウェア&サービス事業部長のリネイ・ジェームズ氏は「私たちはテクノロジを使って体験を作り、それで暮らしのあり方を変えていく。その体験をIntelのソリューションで、よりリッチなものにしていきたい」とアピールした。

 また、インテルアーキテクチャー事業本部 副社長兼組込/通信事業部長のダグ・デイビス氏は「Intelはすべてのものの中に入りたい」と、今後のAtomプロセッサの方向性を示唆した。ちなみに、Atomの出荷後、40%はIntelにとって新しい顧客だったことに言及し、単一のアーキテクチャで複数のセグメントをカバーすることの優位性を強調していた。

●アンドゥすれば失敗は繰り返さなくてすむ

 「1つのデバイスだけがオールマイティじゃない」、「コンシューマーはリアルタイム、ハイクオリティのコンピューティングを求めている」、「私たちはテクノロジを使って暮らしのあり方を変えていく」、「Intelはすべてのものの中に入りたい」。

 個々の基調講演のスピーカーが口にした、これらの言葉は、本当に心に響いた。エンタープライズの方ばかりを向いているように見えたIntelが、人々の暮らしを見つめ直そうとしていることに、ある種の覚悟が感じられたからだ。Intelはこれらの言葉を忘れないでほしいと思う。

 これからパーソナルコンピューティングは、やり直しの時代に入る。これまでの四半世紀にやってきたことを、新たな技術基盤の元に、もう一度繰り返せるのだ。今まではリハーサルに過ぎない。やり直せれば、失敗を繰り返さなくてすむ。大事なことは、何が失敗で、何が失敗ではなかったかをしっかりと認識することだ。今のIntelは、それをきちんとわかっていると思う。今年のIDFは、Intelにとって、新たな時代の始まりの礎として、忘れられないものとなるだろう。