山田祥平のRe:config.sys

打てば響けよコンピュータ

 スマートフォンにしてもPCにしても、日常的に手放せない道具である限り、それはやっぱり打てば響くような存在であってほしい。使うに際してストレスを感じるようなものであってはならない。

新しいのに速さを感じない

 約4年間使ってきたデスクトップPC環境がどうにも不安定になり、にっちもさっちもいかなくなって、Windows 10をクリーンインストールした。ところが、これがまた不安定で、ブルースクリーンを頻発する。何度かクリーンインストールを繰り返すも結果は変わらず、ついには、インストールを完了できなくなってしまった。

 古いHDDを新しいSSDに載せ替えてのインストールなのでディスクの不良ではないはず。どうも、マザーボードの故障のような印象だ。仕方がないので、不具合の発生したPCを引退させ、テスト環境として維持してきたセットをメイン環境に昇格させた。

 一通りのセッティングを終えて実用運用に入っているが、どうにも速さを感じない。HDDをSSDにしたので起動等のスピードは申し分ないが、いざ、稼働し始めてみると、以前とそんなに変わった気がしない。

 旧環境は第4世代Coreプロセッサ、新環境は第6世代Coreプロセッサだが、新旧環境ともにメモリは32GBで余裕はたっぷりある。タスクマネージャでCPU負荷を確認しても使用率は数%しかないので、重い作業をさせすぎということでもない。そもそもOSにしても、常用アプリにしても、その構成はほとんど同じなのだ。

 いろいろ気になって、手元のPCを比べてみた。たまたまメインメモリに8GBを搭載したPCが5台あった。

 プロセッサを確認すると、

A. Core i7-7660U
B. Core i7-7500U
C. Core i5-7200U
D. Core m5-6Y54
E. Core i5-5200U

となっている。

 この中でストレスを感じるくらいに遅いのはDだ。パナソニックの「レッツノートRZ5」だが、YプロセッサのCore m5だから仕方がないともいえる。普段持ち歩くPCはこれで、バリバリの現役だ。外出先では大活躍している頼もしい存在だけに、皮肉なことになっている。

 それなら、2017年夏発売のAと2015年春発売のEを比べたらどうだろうか。これがまた、2世代離れているにもかかわらず、使い心地に大きな違いがあるかというと、そうでもないのだ。

 もちろん、動画処理をさせたり、Windows 10 Insider Previewの大きな更新の際には、その差がはっきりわかる。打てば響く感という点では、操作に対するレスポンスが多少は違う。だが、ガマンできないほどではない。一般的な用途でストレスを感じることはまずない。

スマートフォンは1年でグンと速くなる

 その一方で、スマートフォンはどうかというと、2016年のSnapdragon 820搭載のGalaxy S7 Edgeと、2017年のSnapdragon 835搭載のGalaxy S8+を比べると、それはもう手に取ってちょっと触っただけで、速くなっていることを実感する。

 並べていっしょに使わなくてもわかる。Twitterアプリを開いて、タイムラインをスルスルとスクロールさせながら眺めるといった単純な処理でも、その違いは歴然としている。

 ついこの間まで、何の不自由もなく快適だと思って使っていたS7 Edgeを、今改めて触ってみると、どうにも遅く感じたりもする。これはHUAWEIのP9とP10を比べたときにも同じような印象を持つし、iPhone 7とiPhone 6sの比較でも同様だ。

 スマートフォンが1年で格段に進化するのに、PCはそうでもないと感じるのは、Windows OSと、iOSやAndroidなどのモバイルOSとの違いなのか、それともプロセッサのデザインによるものなのか。ベンチマークテストでは、PC用のプロセッサは飛躍的な進化を遂げているように見えても、実際の使用感ではそんなに大きな差を感じないことの理由はどこにあるのだろう。

 誤解を怖れずにいうと、今のWindowsは、プロセッサに対して、ものすごく遠慮するように作られているように思う。使うアプリが比較的軽いものの場合は、プロセッサが処理能力を持て余してしまう現象が起きているような印象だ。

 もっとも、Core m5で他機と同じようなことをさせると、プロセッサはフル回転に近いような様相を見せるし、2年前の第5世代Core i5でも余裕がそんなにあるわけではない。だからこそ、プロセッサに余裕があるなら、軽いアプリを動かすにも、余力があるなら、せめてフォラグラウンドアプリについては全力で動かしてほしいと思ったりもする。

 もちろん、コンピュータの快適さを実現するのは、プロセッサのみならず、ストレージの読み書きやメモリの速度など、さまざまな要素が絡み合っての総合性能だ。モバイルPCの場合、そんなことをしたらアッという間にバッテリが音を上げることになるだろう。省電力を目指さなければならない宿命は、せっかくの処理能力を持て余すジレンマにもなっているということだ。

 インテルは、8月21日に第8世代のCoreプロセッサを発表すると予告している。当然、現世代より大幅に処理性能も向上するだろう。COMPUTEXの際の予告では最大30%の性能向上が謳われているというから期待も高まる。

 その反面、プロセッサのSpeed ShiftやWindowsのパワースロットリングが、小気味の良い振る舞いをスポイルするようなことがあれば、せっかくの新プロセッサの処理性能がもったいない。そのあたりの良いソリューションを含めて新プロセッサが登場すればと思う。

コンピュータは早くてナンボ

 なぜコンピュータデバイスに高い処理性能を求めるのか。1秒でできることを2秒かかったところで、たいした問題ではないのかもしれない。けれども、2倍速いということは、丸一日かかる処理を半日でこなせるということでもある。

 一般人は日常的にそんな重い処理はさせないというのもわかる。でも、コンピュータを使う気持ちの良さにこだわるとどうだろうか。それに、コンピュータはコモディティ化するとともに、その仕組みや振る舞いをよく知らない、知ろうとしない普通の人々が常用するようになっている。

 コンピュータに深い知識を持つパワーユーザーは、コンピュータに待たされることを知っているし、待たされていることも理解できる。でも、普通はそうじゃない。重いアプリも軽いアプリも区別がつかない。ちょっとコンピュータが考え込むだけで、不安に陥り、余計な操作をしてしまい、あげくの果てには別のトラブルを引き起こしてしまうこともある。だから本当は、普通の人こそ、とびきり速いコンピュータが必要だ。

 コンピュータに制限速度はない。使って気持ちが良いのはやっぱり速いコンピュータだ。その一方で、モバイルPCは妥協の産物でもある。ただ、バッテリ駆動時間を長く保つためだけに高い処理性能が無駄になっているとしたらもったいない。

 重い仕事をサクッとすませてあとはひたすら眠るだけという省電力の方法論も大事だが、インタラクティブな操作にも、もう少し積極的に応える配慮がほしいなと思う。速いように見せかける工夫だって喜んで騙されるからさ。