山田祥平のRe:config.sys

スマホが見たスマホの向こう側

 スマートフォンベンダーとして、今もっとも注目すべき企業のファーウェイ。そのファーウェイから発売されたWindows PC「Matebook」は、スマートフォンに比べてPCは遅れているという同社の言い分を具体的な製品として作ってみたといったところか。個人的な印象としてはスマートフォン全盛のトレンドの中で、PCに対するオマージュ的存在ではないかと感じるくらいのでき栄えだ。製品出荷前の実機を試用する機会を得たので、そのファーストインプレッションをお届けしよう。

所有感の高いピュアタブレット

 Matebookは、12型ディスプレイを持つ640gのピュアタブレットだ。試用したのはCore m5、メモリ8GB、SSD 256GBのもの。下位SKUもあるが、4GBメモリだったり128GB SSDだったり、Core m3だったりと、価格差なりのお得度が薄く、選ぶとしたらこれ一択ではないだろうか。Windows 10を搭載しているが、発売日のタイミングの関係で、バージョン1511がプリインストールされている。

 似たようなサイズ感のPCとしては、着脱式2in1の「LAVIE Hybrid ZERO」がある。11.6型だが、そのタブレット部分の重量が410gだから、その驚異的な軽さを知っていると持った時の感覚にそれほど驚きはない。その差のほとんどはバッテリ容量の差ということになるのだろう。LAVIEが単体で3時間程度しかバッテリ駆動できないのに対して、Matebookは9時間程度駆動できる。しかも、厚みはLAVIEの7.6mmより薄い6.9mmだ。

 画面解像度は2,160×1,440ドットで、このことからも分かるようにアスペクト比は3:2となっている。3:2を採用している製品としてはMicrosoftのSurfaceが知られているが、とにかくこのアスペクト比は使いやすい。縦にしても横にしてもちょうどいい。16:10も比較的よく見るようになり、少しずつ16:9が駆逐されてきているのはうれしい限りだ。

 ピュアタブレットしてMatebookを見た場合、ファーウェイがPCは遅れているというのにも納得してしまう。実にエレガントな仕上がりだ。当然ながらWindowsタブレットPCとしてまったく問題ない。Surfaceに匹敵するほど素のWindowsで、まるでリファレンス機、リードデバイスのように仕上がっている。このことにはパワーユーザーほど好感を持つだろう。後発としてはうまいやり方だ。

 片手で支えるとしても640gは、さほど重量感を感じないでいられるギリギリのところにある。驚くのはその潔さだ。本体の側面、つまり、6.9mmの厚みの部分には、左側部にイヤフォン端子、右上に電源ボタン、右側部上部にボリュームコントロールボタンと指紋センサー、右側部下部にUSB Type-C端子を備えるのみ。まさにスマートフォンだ。

 このボリュームコントロールボタン上下の間に位置する指紋センサーは秀逸だ。Windows Helloに対応し、指で触れるだけでサインインができる。そのスピードたるや、本当にちゃんと測定しているのかと思うくらいのスピードだ。しかも、画面がオフになっているスリープ状態でも、このセンサーに指を触れるだけでスリープが解除されデスクトップが現れる。この気持ち良さは、今まで体験してきた指紋センサーの中では屈指のでき栄えだと思う。

 試用した実機では、手で支えてタブレットとして使っていると、背中側がかなり熱くなるのが気になったが、特にそれで不安定になることもないようで、快適に使える。

本体を台なしにするキーボードオプション

 ファーウェイでは、この製品を2in1カテゴリに位置付けている。もっとも、2in1として活用するためには、外付けのキーボードが必要だ。そして、同社では専用オプションとしてキーボードを用意している。

 ブック状になっていて、タブレット本体を挟み込むようにしてカバーとして機能する。まさにブックカバーだ。そして背表紙にあたる部分の内側に端子が装備され、マグネットでタブレット本体と接続される仕組みになっている。

 このキーボードが約450gある。本体と合わせて約1.1kg弱。背面も覆うようなブックカバー形状にした結果、重量の点で不利になっている。机上に置くような場合は、背面部を折り込むことで、タブレット本体の支えになり、クラムシェルノートのような形態で使うことができる。つまり、オプションのキーボードを含めて2in1であることが分かる。

 キーボード面にはスライドパッドも装備されている。ボタンがないタイプでかなり大きいものだが、タイプ中に手が触れて誤作動することもほとんどない。また、すべすべとした表面処理は、指をすべらせるのにも最適で、2本指でのスクロールなどでも使いやすい。さすがに新規参入だけあって競合他機を研究し尽くしている感がある。

 ただ、このキーボード、デバイスとしての機能は秀逸でも、使い勝手は最悪だ。まず、膝の上で使うには不安定すぎる。画面の仰角は2段階でほとんど自由にならない。天井の蛍光灯の映り込みを回避するのは難しい。また、カバンなどから取り出して、立ったままタブレットを使おうとした時に困る。本のようにカバーを裏側にまわすと、接続部分がはずれてしまう。当然、本体とズレが生じてしまい、きわめてすわりの悪い状況を招く。

 もっと最悪なのは、このキーボードカバーで本体を挟み込んだ時、背面側が多少長く作られていて、前面側を押さえ込んでマグネット固定するようになっていることだ。不用意にカバーが開いたりすることがないように工夫されているのだが、このカバーが電源ボタンを長押しした状態にしてしまい、強制終了させてしまう。

 かと言って、このボタンをむき出し状態にしていると、カバンの中で、しょっちゅうスリープが解除されてしまうことになるだろう。それを回避するためのカバーなのに、カバーがいたずらをしてしまっているというわけだ。

 その重量、そして、その使いにくさを考えると、通常はピュアタブレットとして使い、キーボードが必要な場合には、ほかの外付け製品を使うことを考えた方が良さそうだ。ただし、確実にテーブルなどのある環境でしか使わないと分かっているなら、キーボードデバイスとしての使い勝手は良い。でも、モバイルでそれはあり得ない。スマートフォンのトップベンダーなのに、こうした問題が発生してしまうことを予測できなかったのだろうか。おそらく、このカバーを設計した人は、持ち歩いて利用することがほとんどなかったに違いない。せっかくの秀逸な本体をオプションが台なしにしている、そして技術者の努力をデザイナーが台なしにしている典型的な例だ。

待たれるWAN搭載

 入出力端子としてType-C端子1つのみという思い切った仕様は、ピュアタブレットとして考えた時には想像するほど不便を感じない。充電もここから行なう。ACアダプタには5V/2A、9V/2A、12V/2Aの3パターンの記載がある。スマートフォンの充電器かと思うほどコンパクトなものだが、最大で24Wの給電ができるようだ。ただ、USB PDの規格には9Vは存在しないし、12Vに2Aはないので充電仕様については不透明な部分がある。QualcommのQuick Charge対応充電という可能性もあるが仕様としては明記されていない。

 ドライブについては利用時に注意が必要だ。というのも、SSDは256GBあるうち、Cドライブに約80GB、Dドライブに約157GBが割り当てられている。Dドライブはデータ専用という心遣いなのだろうが、Windowsの個人用フォルダはCドライブにあり、OneDriveの同期用フォルダなども個人用フォルダ下にあるため、全てをCドライブに集約しようとすると容量不足に陥りやすい。どちらのフォルダも場所をDドライブに変更できるので、分かっているユーザーには問題がないが、知らないユーザーは困ってしまうだろう。

 スマートフォンで有名なベンダーがモバイルPCを作るにあたって、LTE通信機能内蔵モデルを出さなかったのはあり得ないという論調もあるようだ。確かに1カ月あたり3GBを1,000円未満で使えるようになった今、LTEが付いているのと付いていないのでは、使い勝手は大きく変わるだろう。これについてはファーウェイ内部でもまだ検討が続けられているという。

 そこをサポートできればSurfaceに対する大きなアドバンテージとなるはずだし、iPadなどとも競合できる。現行製品でLTEサポートを提供している他社PCは、旧世代のモデムチップを使い、対応周波数やCAの点でもものたりない。ファーウェイのスマートフォン並みの通信能力を装備した製品の登場を期待したいところだ。

 ちなみにMatebookには、MateTransと呼ばれるユーティリティがプリインストールされている。スマートフォン側にも、同様のユーティリティをインストールしておき、双方をBluetoothペアリングしておくことで、Matebookからスマートフォンのテザリングをオンにすることができる。また、ファイルのやり取りなども簡単にできる便利なユーティリティだ。

 ただし、このユーティリティ、製品発売後もGoogle Playに登録されていない。ファーウェイのサイトからダウンロードし、提供元不明のアプリとしてインストールしなければならない。ファーウェイ製のスマートフォン以外でも正常に機能することが確認できたが、この辺りはもう少しなんとかならなかったものかと思う。