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NVIDIA、性能が2倍となったGPU仮想化ソリューション「GRID 2.0」

NVIDIA GRID

 NVIDIAは17日、GPU仮想化ソリューション「GRID 2.0」についてのメディア向け説明会を開催した。

 まず、NVIDIA Japan NVIDIA GRID事業グラフィックス・バーチュアライゼーション リード・ソリューション・アーキテクトのジェレミー・メイン氏が登壇。

NVIDIA Japan NVIDIA GRID事業グラフィックス・バーチュアライゼーション リード・ソリューション・アーキテクト ジェレミー・メイン氏

 メイン氏は、「かつては会社が保有する端末があり、オフィスでのみ仕事が可能で、データもローカルに存在していたが、そういった世界は今や存在しない」と述べ、従業員は顧客のオフィスや自宅などリモートオフィスで業務が可能な環境を求めているとした。またITというのは、ユーザーがどこに居ようと最大の生産性を発揮できるように、必要なソフトウェアを提供するなどサポートできなくてはいけないと述べた。

 またビジネスユーザの生成しているデータ量は、個々のファイル単体の大きさの増大もあり、爆発的に増加しており、世界で1年間に3.5ZB、1TB HDD換算で35億個に相当するビジネスデータが生成されているという。

 これらの膨大なデータはどこからでもアクセス可能であるとともに、セキュアな状態で管理する必要がある。

 ユーザーはスマートフォンやタブレット、MacBookといった、使い慣れた端末で業務を行ないたいと思っており、どのような端末でも、あらゆるアプリケーションの使用をサポートできる環境を提供することで、生産性の障害を排除しビジネスの加速に繋がるとした。

従来の業務スタイルは機能しない
働く場所はオフィスとは限らない
膨大なデータとセキュリティ
あらゆるデバイスの業務利用
従業員の生産性を阻害する障壁を取り除く

仮想デスクトップインフラストラクチャ(VDI)

 そういった環境を提供するための解決策として生まれたのが、「仮想デスクトップインフラストラクチャ(VDI)」と呼ばれるコンピューティングモデルだ。

 しかし従来のVDIは、今やPCのコアコンポーネントであるGPUへのアクセスが欠如しており、GPUを利用する用途には対応できなかった。そのため、CPUによるGPUのソフトウェアエミュレーションを行なうことで解決を試みたものの、性能が低く、アプリケーションとの互換性も低かったため、ユーザーが従来利用していた環境から劣化したものしか提供できないか、あるいはアプリケーションの仮想化自体ができない場合もあったという。その結果としてVDIそのものがニッチソリューションとなってしまったと述べた。

従来のVDIはGPUが非搭載
Brian Madden著「The VDI Delusion」の1節。「多くのアプリケーションとユースケースはVDIと互換製がない」
GPUを必要とするユーザー層

 メイン氏は、GPUを使用したコンピューティングを必要とするユーザーの区分を挙げ、GPUへの要件が高い順にデザイナー、パワーユーザー、ナレッジワーカーの4つを提示した。

 デザイナーはAutodeskやSolidWorks、PCTといったソフトウェアを使用して3Dエンジニアリングや設計を行なっている層で、パワーユーザーは、前述のAutodeskのデータ閲覧や、PLMソフトウェアのTeamCenterの利用、またAdobe製品などを利用したアニメやデザイン設計を行なっている層、ナレッジワーカーは、3DアプリケーションやFlash/HTML5アプリケーションを利用している層をそれぞれ指す。

 またこれらの層に限らず、よりGPUの要件が低いタスクワーカーの場合でも、Office製品群やWindows OSを利用していれば、GPUでアクセラレーションが行なわれている。

 これらのGPUに対して高い需要を持っている層に対し、従来のVDIはその要件を満たした環境を提供できなかったとした。

「GRID」で全需要をカバーできるように

 メイン氏は、NVIDIAが提供するGPU仮想化ソリューション「GRID」によって、デザイナーからタスクワーカーまで、生産性、携帯性、安全性を含む全需要をカバーできるようになったと述べた。

 NVIDIA GRIDテクノロジーは、サーバーの中に存在するGPUを仮想化し、複数のVDIインスタンスで共有可能とするもの。メイン氏は「これによって、あらゆるリモート端末に対してデータセンターから“真のPC体験”を提供可能となった」とした。

 また、従来は各ローカルマシンが保持していたデータを、サーバーに集約することでセキュアに管理可能となった。

 ユーザー目線からの利点としては、シンクライアントやChromebook、Apple製品、スマートフォンなど、あらゆる端末、場所を問わず、自身のワークスタイルに沿った形で仕事が可能となることで、生産性の向上に繋がるとした。

 続いてメイン氏は、GRIDとそのほかの仮想デスクトップで提供されているグラフィックスオプションとの解説を行なった。

 初期のVDIでは、3Dアプリケーションを有効化する唯一の手段がソフトウェアによるGPUのCPUエミュレーションで、このようなソフトウェアでエミュレートされたGPUは、前述の通り、アプリケーションの互換性が低く、また複数ユーザーが同時利用した場合の性能低下が問題となっていたという。

 そういった互換性、拡張性の問題を解決するため、NVIDIAではハイパーバイザーと連携し、「GPUパススルー」を実現した。これはアプリケーションの互換性を解決し、高い性能を達成したが、1インスタンスにつき1GPUを割り当てるため、サーバーに搭載可能なGPUの台数に限りがある以上、サーバーごとユーザー密度が低くなってしまう。

 ユーザー密度問題の対策として、複数のインスタンスでGPUを共有できる「GPU共有テクノロジー」が発表されたが、高い性能は実現できたものの、CPUエミュレーションと同様にアプリケーションの互換性が低いままだった。

 それらに対し、2013年に発表した「GRID vGPUテクノロジー」では、アプリケーションの互換性など、GPUパススルーの機能や性能を実現しつつ、ユーザー密度の問題も解決しているという。

 仮想環境におけるグラフィックス性能とユーザー層毎の要件をマッピングしてみると、タスクワーカーはソフトウェアエミュレーションでカバーはされていたが性能が低く、対しデザイナーはGPUパススルーによってカバーされていたが、拡張性の問題を抱えている。こういったギャップを埋めるべくGPU共有が登場したが、全ての需要をカバーするには至らなかった。

 GRID vGPUによって、高い性能と互換性を持ったVDIインスタンスをデスクトップへ提供できるようになったという。

仮想デスクトップにおけるグラフィックスオプションの違い
ソフトウェアエミュレートのGPUとGRID vGPU環境の違い。3Dモデルを回転させていたが倍以上の動作フレーム数の差が見られた
グラフィックスポートフォリオ
GRID vGPUで全需要をカバー
NVIDIA GRID: Software 3D vs. GRID vGPU

GRIDの導入事例

 続いて、NVIDIA Japan エンタープライズビジネス事業部 ビジネスディベロップメントマネージャーの澤井理紀氏による、国外および国内でのGRID導入事例の紹介が行なわれた。

NVIDIA Japan エンタープライズビジネス事業部 ビジネスディベロップメントマネージャー 澤井理紀氏

 まず国外の導入事例として、米ミシガンで医療事業を展開するMetroHealthでの例を挙げ、同社ではGRID導入以前からVDI環境を導入していたが、GRIDへ切り替えたことにより、1日あたり医師で30分、看護師で50分を短縮でき、生産性の向上を達成したという。

 2点目はノースカロライナ大学での導入事例で、同大学ではSolidWorksやAutoCADなどのCADソフトウェアをVDI環境で提供することで、従来図書館に設置していた端末からしか利用できなかったそれらのソフトを、ネット環境さえあればどこからでもアクセスできるようにしたという。

 3点目は建築管理会社のSSOEで、7カ国29オフィスに分散したエンジニアが、建築データを利用する際に、従来は巨大なデータをローカルへ保存する必要があり、時間がかかる上にデータが分散しセキュリティ面のリスクを抱えていたが、GRIDを使用したVDI環境の導入で2つの問題を解決しているとした。

MetroHealthでの導入事例
ノースカロライナ大学での導入事例
SSOEでの導入事例
導入企業

 国内でも、日産自動車や、トイレ、バスルーム、システムキッチンなどを提供するTOTO、造船会社のマリンユナイテッドなど、CADなどの3Dアプリケーションを使用する企業で導入されているという。

GRID 2.0

 澤井氏は、Windows 10や、Vulkanなど新しいグラフィックスAPIなどが登場しており、よりグラフィックスへの要求が高まっているとし、このニーズに応えるために数十億ドルを研究開発に投資していると述べた。

 その研究開発の結果、9月15日より提供開始されたGRIDの最新版「GRID 2.0」に至ったと述べた。

今後もグラフィックスへの要求は高まっていく
数十億ドルを研究開発に投資

 GRID 2.0では、前バージョン(以下1.0)から、集約率、性能、プラットフォーム、OSが2倍になっているという。

 まず集約率については、GRID 1.0で16台、GRID 2.0で32台の仮想マシンを動作させた、同じ仕様で集約が異なるサーバーを用意し、ベンチマークソフトSPECviewperfのスコアを比較したところ、同等のスコアを記録したという。また実使用環境を想定し、地理情報システムアプリケーションのArcGISの動作を比較した場合でも、描画時間はほぼ同等を実現しているという。

 性能では、同じ台数の仮想マシンを動作させたサーバーで比較すると、GRID 2.0ではGRID 1.0に対し約2倍のスコア(SPECviewperf)を記録したという。

 また1インスタンスに割り当てられるフレームバッファ容量を8GBまで割り当て可能となり、より高い性能を必要とするユースケースでも対応できるようになった。メイン氏によると、8GBを割り当てた状態ではインスタンス数に制限が発生するため、集約率は低下してしまうが、この場合ではCUDAの利用も可能となるという。

 プラットフォームについては、従来から対応していたラックサーバーだけでなくブレードサーバーをサポート。OSについても、新たにLinuxをサポートし、選択肢が2つ(2倍)に増えた。

 澤井氏によれば、今回のGRID 2.0での性能と集約率の向上は、対応GPUが更新されたことが大きいという。GRID 2.0はMaxwellアーキテクチャを採用する「TESLA M60」、「TESLA M6」が対応している。

 ライセンス形態については、今までの導入事例ではオンプレミスのサーバーへ導入されており、その場合は使用用途やサポート内容よって、いくつかのプランから選択する形となる。

 しかし9月にMicrosoftがAzureでのGRID 2.0提供を発表したように、クラウドでのGRID提供の場合には、別途支払うのではなく、クラウドサーバーの利用料金と合算した形で提供されるのではとのことだった。

GRID 2.0では2倍に向上
内容
GRID 2.0対応GPU
集約率
性能
業界サポート
大量のパーツで構成されているトラクターの牽引部の3Dモデルも滑らかに動作
GRID 1.0 vs. 2.0 : FleX Demo

(佐藤 岳大)