大河原克行の「秋葉原百景」

ツクモが目指す「超専門店」化と相次ぐ提携の理由


 予定を延長して全6回でお送りした、このレポートも、今回でいったん終了とさせていただきます。取材にご協力いただいた皆様に感謝いたします。

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◆加速する九十九電機の提携戦略

「超専門店」の集大成
TSUKUMO eX.
 「驚いたでしょう。まだまだ、なにがあるかわからないよ」

 Windows XPのパッケージ版の深夜発売が行われた11月16日。カウントダウン直前からTSUKUMO eX.の前に姿を見せていた九十九電機・鈴木淳一社長は、コートの襟をたてながら、石丸電気との提携発表に関する質問に、こう答えて見せた。

 最近、九十九電機の動きがめまぐるしい。

 Webでの家電販売に関してはオノデンと提携する一方、石丸電気とは資本提携を含む提携を発表。さらに、11月には、ソフト流通のコンピュータウェーブと提携して、Web上でのソフトダウンロード販売を開始したばかりだ。

 オノデンとの提携では、パソコン専門店のサイトからも家電商品が購入できるという新たな道筋をつくることに成功、石丸電気との提携では、石丸電気店内に中古パソコンの引き取り窓口を設置することで石丸電気の買い換え需要を喚起するとともに、ツクモが得意とする中古商品の確保というメリットを生み出している。また、コンピュータウェーブとの提携では、サービス開始後1週間で100件もの利用者が出るなど、「予想を上回る出足」という状況だ。

 石丸電気との提携に関しては、石丸電気が九十九電機に出資するということから、オノデン、コンピュータウェーブとの提携とは、その意味合いや親密ぶりの深さが違うともいえるが、業態の幅を広げるという点では、同じメリットを生むものと捉えることができるだろう。

 だが、ここまで提携戦略を加速する背景はどこにあるのか。

 実は、鈴木社長は、2001年のテーマとして「クリック アンド モルタル ウィズ アライアンス」を掲げてきた。実際店舗とWebでの販売の両面戦略を推進する上で、提携を加速させていくというものだ。

 九十九電機第一営業本部販売促進部・後藤大和部長は、その戦略についてこう説明する。

 「当社にとっても、Webによる販売は重点課題。だが、Webでサービスを広げるには、提携による手法が最も早い。この分野はスピードが大切。提携戦略を加速するのは、サービス強化とスピード対応という2つの側面がある」

 つまり、Web事業の加速には、提携戦略が不可欠だったというわけだ。

 だが、鈴木社長が掲げるように、リアルの店舗でも提携戦略は加速する考えのようだ。実際に、石丸電気との提携はリアル店舗での協業が前面に出ている。

 「情報・通信のリーディングカンパニーを目指す当社にとって、情報・通信分野に関連するものであれば提携をしていきたいという姿勢はある。その提携先は、物販以外のものも十分考えられるだろう」という。

 今後は、インターネットプロバイダーやコンテンツブロバイダーなどといった、物販以外の企業との提携の可能性があるのかもしれない。


◆「超専門店」化が生き残りの道

 九十九電機は、情報・通信の領域以外には、提携の幅を広げる考えはないという。

 だが、後藤部長は、あえて矛盾する言葉を口にする。

 「石丸電気と当社は、異業種だと思っている」。

 確かに、石丸電気は家電量販店であり、九十九電機はパソコン専門店である。だが、同じ情報・通信という領域に入るのは間違いない。石丸電気では、パソコンタワーなどの専門店展開もしており、その分野では、バッティングする部分が出てくることになる。家電量販店におけるパソコンの売上比重が高まってきた現状を考えれば、さらに、その競合の比重は高まる。

 それでも、後藤部長が、「異業種」だと言い切る背景には、ここ数年、九十九電機が推し進めてきた「超専門店」化への取り組みが成功し、自らの業態を転換してきたという理由があるからだ。

 「超専門店」とは、ある分野に特化した専門店づくりを目指すとして、ここ2年ほど、同社が掲げてきた戦略だ。

 「秋葉原のパソコン専門店が、従来のやり方だけでは、差別化が出来なくなってきた。超専門店として、さらに特化した店づくりまで追求しなければ、生き残れないと判断した」ことが、その戦略の背景にある。

 かねてから取り組んでいるツクモ5号店での映像関連分野向けの専門店化のほかにも、昨年8月には秋葉原初となるロボット専門店「ツクモロボコンマガジン館」をオープン。さらに、ケースばかりを取り扱う「ツクモケース王国」、モニタばかりを展示販売する「ツクモモニタ王国」なども超専門店化の取り組みのひとつといえる。

 そして、その「超専門店」の集大成となるのか、TSUKUMO eX.だという。

 「秋葉原の多くの店が同質化するなかで、ツクモとしてどんな差別化ができるかを追求した結果が、自作という領域。自作を求めるユーザーに対して、すべてのものが揃うという店づくりを目指した」

 それまで徐々に蓄積してきた自作パーツに関する品揃え、バイイングパワー、接客ノウハウのすべてをこの店舗に投入したという。

 「6階のサポートフロアでは、日替わりでマザーボードメーカーの担当者が相談に対応するなど、秋葉原としての初の試みも行った。他店で購入したユーザーさえも、サポートはeX.で受けるといった動きも顕著になり始め、いまや、自作ユーザーのための駆け込み寺となっている」と後藤部長は胸を張る。

 こうした超専門店化の動きが、他の家電量販系のパソコンショップに対して、「異業種」とまで言い切れる理由になっている。

 もともと、メーカーブランド戦略が中心だった九十九電機は、約2年前には自作パーツの売上構成比は30%程度だった。それが、いまや70%を自作パーツが占めているというほどだ。

 その業態転換に向けては、社員の教育にも力を注いできた。ナショナルブランド製品の販売と、自作パーツの販売では、求められる知識が異なる。そのため個人個人のスキルアップに向けた勉強会や、社内のメーリングリストを活用した知識の共有化などにも取り組んだ。

 「もちろん、お叱りを受けることもあるが、多くのお客様に満足していただける接客が可能なレベルまできたと思っている」と、この2年間での店員の質的向上を訴える。それが、九十九電機全体の変化へとつながっている。


◆秋葉原は物づくり人の街

 秋葉原は大きく変化してきている。それは、この連載のなかで、何度となく触れてきた。九十九電機が、超専門店化とともに、提携を加速させているのも、その変化をとらえた結果だといえる。

 だが、後藤部長は、その変化を認めながらも、こう言及する。

 「秋葉原は物づくりの街という、普遍的な部分では変化していない」

 変化のなかでも、変わらない部分が存在するというのだ。

 「秋葉原を訪れる人のなかには、物を作る人が多い。過去に秋葉原でブームとなったマイコン、アマチュア無線、ゲームソフトなど、どれも使う楽しみとともに、作る楽しみを求めるユーザーがいる。だからこそ、秋葉原では物づくりにこだわる店の存在が重要である」

 秋葉原の変化と、そのなかにある普遍的なもの-これを見極めることが、秋葉原の街で生き残るには重要な視点だといえる。

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(2001年12月10日)

[Reported by 大河原 克行]


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