大河原克行の「秋葉原百景」

フィギュア専門店が変えるアキバ


 電気街からPC街へと変貌した秋葉原は、さらに新しい時代を迎えようとしています。全5回の予定で、秋葉原の“今”をレポートします。毎週月曜日に掲載予定。(編集部)



◆もはやパソコンだけの街ではない

ボークス秋葉原ショールーム
 「秋葉原は、もうパソコンの街とはいえないですね。あえて、言うならば、コンテンツ、ソリューションの街ですよ」

 フィギュアショップとしては、秋葉原最大規模を誇る株式会社ボークス営業部・大倉憲久部長は、こう切り出す。

 秋葉原の過去の歴史を振り返れば、「電子パーツの街」から「家電の街」へと変わり、それが「パソコンの街」へと変わってきた。時代の変化とともに、秋葉原の街自体が大きく変化しているのは誰もが認めるところだ。

 そして、ここ数年の新たな潮流として見逃すことができないのが、フィギュアショップを中心とした店舗の増加である。

 いまや、秋葉原が、フィギュアショップの一大ゾーンを形成している、と断言できるほど専門店が増えている。

 「秋葉原は、フィギュアの街だとは、畏れ多くて、とてもいえない」と大倉部長は笑いながらも、「ただし、フィギュア専門店が見逃せない動きになっているのは誰もが認めるところ。こうしたフィギュア専門店とパソコンショップ、家電店を訪れるユーザーに共通しているのは、あらゆる意味でのコンテンツを求めるユーザーだということ。そして、自己表現できるモノを求める人たちが秋葉原を訪れはじめていることだ」と話す。

 ここでいう「コンテンツ」、「ソリューション」には、幅広い意味がある。

 音楽ソフト、映像ソフト、ゲームソフト、ビジネスソフトといった各種ソフトウェアコンテンツや、ラオックスがザ・コンピュータ館で展開しようとしているSOHO・中小企業向けのソリューション提案も含まれる。そして、もちろん、フィギュアやアニメグッズなどもここでいうコンテンツの重要なアイテムの1つである。

 一方、「自己表現」という意味では、自作パソコンや店舗オリジナルパソコンの人気が高いことなども、その1つだと位置づける。フィギュアも同様に自己表現の手段の1つだという。

 「当店では、自分で自由に顔、胴体、足など何万通りもの組み合わせができるカスタマイズドールの人気が高い。自己表現をするという点では、自作パソコンも、カスタマイズドールも同じだと考えている」

 電気店、パソコンショップ、そしてフィギュアショップという異なる業態が軒を並べる現在の秋葉原を、1つの言葉でくくろうとするならば、コンテンツあるいはソリューションの街といえるかもしれない。これが、秋葉原の新しい代名詞になるのかもしれない。



◆これまでとは違うアプローチでの出店だった

 もともとフィギュアショップが秋葉原に目を付け始めた背景はどこにあったのだろうか。

 大倉部長は、「社長には、秋葉原出店は、勝算があると説明していましたが、内心、どうなるか、冷や冷やでしたよ」と、秋葉原出店当時の様子を振り返って笑う。

 同社は、'98年9月、秋葉原のラジオ会館6階に約100坪でショップをオープン、今年9月には、ラジオ会館7階にもフロアを拡大している。その新たに拡張した7階とは、8月までパソコン発祥の地「Bit-INN」が入っていた場所だ。いまでも、什器の一部には、Bit-INNが使用していたものが使われているという。

 当時、秋葉原にフィギュアショップは、ほとんどなかった。それがボークスの出店以降、相次ぎフィギュア、アニメ系ショップが出店しはじめたという経緯がある。

 大倉部長は、「ボークスにとっては、初めて顧客がいる場所に出ていった戦略的店舗だった」と秋葉原出店の理由を説明する。

 もともと関西に地盤を持つボークスは、秋葉原出店以前、東京への出店は、吉祥寺、渋谷、新宿の3か所に限定していた。

 「吉祥寺、渋谷、新宿の場合は、ここにボークスという店がありますから、お客さんは、電車に乗ってぜひやってきてください、というアプローチだった。ところが秋葉原に関しては、ここには、当社のお客さんになりそうな人がいそうだから出店して見ようという発想だった」

 秋葉原出店の発案者であり、出店に関する責任を任されていた大倉部長は、これがプッシュ指向の出店であったことを強調する。



◆林立するフィギュア、アニメ系ショップが相乗効果を生んでいる

オリジナルフィギュアを扱ったショールームの様子
 ボークスが当時、力を注いでいたのが「ゲームヒーローコレクション」シリーズだった。

 ゲームソフトのキャラクターをフィギュアとして製品化、これがゲームソフトを購入しに秋葉原にやってくるユーザーを獲得できると読んだのだ。

 「店舗を探していたら、ちょうどラジオ会館というすばらしい物件が見つかった。家賃はちょっと高かったが(笑)、これならいけると思った」

 店舗は、「ショールーム」という同社特有のやり方を踏襲、内装は、こだわりにこだわり、通路を広く、きれいな店舗構成とした。その結果、ラジオ会館内の店舗らしくない、ひいては秋葉原らしくない店舗ができあがった。

 開店初日。約500人が行列を作り、店内に入りきれないという人だかりとなった。この時、フィギュアの世界が秋葉原に根づく大きな第1歩が記されたといっていい。

 「予想を越える、驚くほどの結果だった。その後も秋葉原の店舗は、年間売上計画を10~20%増しで推移するという結果になった」

 その後、ユーザーがゲームソフトと一緒にキャラクターフィギュアを購入するという仕組みが定着、一方で、新たなフィギュアユーザーを秋葉原の地に徐々に増やしていった。

 ボークスでは、大阪・日本橋、名古屋・大須の各電気街にも店舗を出店しているが、いずれも好調な売れ行きを見せている。それも同じ現象だと大倉部長は分析している。

 「現在、数多くのフィギュア、アニメ系ショップが林立しているが、どの専門店も独自の差別化をもっている。それが相乗効果を生んで、秋葉原にフィギュアを求めるユーザーが繰り返し訪れるという構図を作っている」

 最近では、気に入ったフィギュアを見て、「これは何のキャラクターですか」と質問するユーザーが増えたという。つまり、フィギュアを購入してから、ゲームソフトの存在を知ってソフトを購入する、という逆転現象まで起こっているという。



◆秋葉原デパートリニューアル後にもフィギュア販売店が入居

 その一方で大倉部長は、こうも指摘する。

 「ここ1~2年は、ゲームキャラクターではなく、オリジナルのフィギュアが売れている」

 なかでも、人気なのが先にも触れたカスタマイズドールだ。いわば、ゲームキャラクターとは連動しないフィギュアが売れ始めているわけで、この動きは、出店当初の狙いとは別に、フィギュアだけを求めるユーザーが秋葉原に訪れていることの裏づけのひとつともいえそうだ。

 しかし、大倉部長はこうもいう。

 「いやいや、フィギュアだけのユーザーが増えたという見方はしていませんよ。やはり、秋葉原全体の相乗効果が重要である」と。

 「フィギュアと電気店、パソコンショップを訪れる方々がそれぞれにいることで、1つの商圏を形成し、相乗効果も出ている。もちろん、電気店の方々のなかには、フィギュアショップの存在を嫌がる人がいることも知っている。でも、それは、パーツ店にとっても家電店の存在、家電店にとってのパソコンショップの存在と同じで、新しいものに対しては、敬遠したがるということと一緒です。それよりも、一部の大手家電店がこの流れをつかんでホビー専門店を強化しているという動きの方が正しいのではないでしょうか」

 そういいながら、「とはいえ、20年後ぐらいに、秋葉原に新しい業態が参入してきたときには、私自身が、あれはけしからん、と言っているかもしれませんが」と冗談をとばす。

   JR秋葉原駅前のラジオ会館は、もはやフィギュアのメッカとなった。そして、その近隣には、家電量販店のホビー専門店もある。さらに、先週、秋葉原デパートのリニューアルが決定し、ここにフィギュア関連の販売店が入居することも明らかになっている。

 秋葉原電気街の玄関口であるJR秋葉原駅前が、まさにフィギュア店の集中ゾーンとなっているのだ。

 秋葉原の新しい顔が、ここにきて明確に形づくられようとしているのは間違いない。

ボークスのオリジナルドール「スーパードルフィー」シリーズ。球体間接を使った全高60cm近い大型のフィギュア。ドルフィーとはドール+フィギュアから来た同社独自の造語 もう1つのオリジナルドールシリーズ「ドルフィー」。30cm前後の小型のもので、同社のオリジナルドールとしてはこちらが元祖

フィギュアを自作する際の素体。PCで言えばさしずめ「マザーボード」といったところか? 専用の服や靴など、アクセサリー類も販売されている。1,000円程度のものから10,000円を超えるものまで、値段はさまざま フィギュア製作ガイドの展示なども行なわれている

□ボークスのホームページ
http://www.volks.co.jp/

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(2001年11月26日)

[Reported by 大河原 克行]


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