大河原克行の「秋葉原百景」

ラオックス ザ・コンの新たな挑戦


 電気街からPC街へと変貌した秋葉原は、さらに新しい時代を迎えようとしています。全5回の予定で、秋葉原の“今”をレポートします。毎週月曜日に掲載予定。(編集部)



◆リニューアルオープンは50点の出来!?

リニューアルしたラオックス ザ・コンピュータ館
 「うーん、こりゃあ、50点だなぁ」

 この言葉を聞いたとき、なにかトラブルが発生したのかと思った。まだ、リニューアルオープン後、わずか40分しか経っていない段階でのコメントだったからだ。

 ラオックス ザ・コンピュータ館の店長であり、同社秋葉原営業統括部長を兼務する松波道廣取締役の第一声はまさに予想外のものだった。

 10月26日、東京・秋葉原でパソコンショップとしては、最大規模の店舗面積を誇るラオックス ザ・コンピュータ館がリニューアルオープンした。

 新たなコンセプトは、SOHO、中小企業のための店舗--。'90年のオープン以来、いまのパソコンショップの原型をつくり、秋葉原をパソコンの街へと変えた基幹店舗のリニューアルは、業界内でも大きな注目を集めた。

 ラオックスの谷口好市社長もこれまでのザ・コンを振り返り、次のように話す。

 「ザ・コンは、いくつかの大きな役割を果たした。ひとつは、ユーザーに対して、パソコンを広く認知させる役割を担ったこと、そして、秋葉原にパソコンのお客を呼んだこと。さらに、全国のパソコンショップの原型となる店づくりを提案できたこと」と話す。1階や入り口にパソコン関連書籍を展示するという展示手法は、いわば「ザ・コン方式」といえるもので、いまや、全国のパソコンショップの多くが採用している展示方法だ。

 パソコンショップの大きな流れをつくった、そのザ・コンが、ここにきてリニューアルしなくてはならない理由はなんなのか。

 松波取締役は、こう話す。

 「ザ・コンとして、ひいては秋葉原としての差別化ができなくなったため」。

 秋葉原に多くのパソコンショップができ、総合店舗であるザ・コンの特性が発揮しづらくなってきたのは否めないだろう。だが、秋葉原のなかでの競合ならば、まだザ・コンしての優位性を発揮できる。秋葉原にきたら、とりあえずは、ザ・コンに寄ってみるという顧客が少なくないからだ。

 問題は、秋葉原以外の店舗との競合だ。松波取締役もその点を指摘する。

 「全国各地に、ザ・コンと同じような店舗ができはじめた。各社がザ・コンをお手本にしているのだから当然のことだろう。そうなると、わざわざ秋葉原までこなくてもいいという顧客がではじめた。ザ・コンと他の地域の店舗との差別化ができなくなってきた」

 秋葉原の陳腐化は深刻な問題である。先週のWindows XPの深夜発売のニュースでも、秋葉原よりも有楽町の映像を採用していたTV、一般紙が目立った。過去にはこんなことはなかった。それを見ただけでも、秋葉原の勢いが衰えていることがわかる。

 「ザ・コンのリニューアルは、当社だけの問題ではない。秋葉原全体のリニューアルまでも視野に入れたものだ」

 こう松波取締役が断言するのも、秋葉原の「いま」を熟知していること、そして、過去に秋葉原をパソコンの街に変えたという自負があるからだろう。

◆3~4割が領収書のお客だった

 では、なぜ、リニューアル後の店舗がSOHO、中小企業のための店なのだろうか。

 「もちろん、別の候補もあったが」と前置きしながら、「e-Japan重点計画でも中小企業の情報化は、今後の大きな課題となっている。これから、中小企業の情報化は急速な勢いで進展するだろう。だが、中小企業が、いざ情報化に乗り出そうとすると、相談する場所がまったくない、というのが実態だ。これでは、いくら政府が音頭をとっても、情報化は進展しない。ザ・コンは、SOHO、中小企業の経営者が相談できる場所として位置づけたい。『あそこに行けば、相談できる』、というようになればいい」

 もともとザ・コンでは、領収書を欲しいという購入者が、他店舗よりも高いという経緯があった。レジを通る客の3~4割が領収書を要求していたというし、サーバーまで取り扱っていたザ・ネットワーク館では、さらにその比重が高まっていたという。

 これは、企業ユーザーが数多く訪れていたことの証でもある。

 「これまでにも、中小企業の方々や、大手企業の情報システム部門の方々、そして、システムインテグレータなどの同業者の来店も少なくなかった」と、顧客層を分析する。同業者の場合、緊急に本体や、周辺機器、パーツ、消耗品などが足りなくなったときに、常に在庫があるというザ・コンから商品を手に入れるという例が多かったようだ。

 いずれにしろ、領収書発行の多さが、SOHO、中小企業向け店舗へのリニューアルを、後押ししたのは間違いないだろう。

カウンターを中央に配した5階のビジネスIT化支援フロア
 その新たなコンセプトを集約したのが5階の「ビジネスIT化支援フロア」である。中央にカウンターを配置し、中小企業の経営者、担当者が気軽に相談できるようにした。また、業務システムを各種展示し、それらの相談にも対応できる体制をとった。

 このあたりの品揃えは、提携関係にあるソフト流通のソフトバンク・コマースのこれまでの流通実績などをもとにした商品選びと、かねてから、ネットワーク館などを担当し、ラオックスの企業向け販売のノウハウを蓄積し、自らも中小企業診断士の資格をもつ松波取締役の選択眼が生きたものといえる。

 「いまのところは、自分の会社のホームページを作りたい、という相談が多い。個人事業主の方も数多く来店している」と話す。

 後方部隊には、直接ユーザーの元に出向く部門もあり、店舗と訪販との連携かとれるようにしているのも、新生ザ・コンの強みだ。

◆SOHO、中小企業向けで本当に良いのか

列ができなかったリニューアルオープン当日
 しかし、SOHO、中小企業向けのパソコンショップというコンセプトは、本当に秋葉原全体を活性化できるのだろうか。そして、成功するのだろうか。

 10月26日のリニューアルオープンの日、午前9時に、店舗の前に行ってみた。お客の姿はなく、店員がスタンバイしているだけだ。午前9時30分、誰一人と並ばないうちに、店は、通常の開店時間よりも1時間前倒しで店舗を開けた。

 これで大丈夫なのか-老婆心ながら、心配になってきた。

 そこに、松波取締役がやってきた。その第一声が、「50点」発言だった。

 トラブルか、それとも早くも「敗北宣言か」。

 松波取締役は、店舗入り口の前に立ちながら、ゆっくりと話し出した。

 「正確にいうと、1~4階までは既存の店舗を集約したもの。ここは80点の出来。ところが初めての試みとなった5階は50点の出来。5階は、どんどん変えて行かなくてはならないと思っている」

 売り場の出来は、今後の改善余地があるとしても、オープン時に行列がゼロだったことは、ザ・コンのリニューアルの「汚点」とはならないのだろうか。

 松波取締役は、こう答える。

 「'90年のザ・コンのオープンの時もそんなに行列はできなかった。それどころか、あんな大きなパソコンショップを作ったって売れないよ、とまでいわれた。その一方で、鳴り物入りで作った店舗は、初日にはたくさんの人が並んだが、あとは苦戦しているという例が当社にもある。むしろ、人が並ばない方が成功する可能性がある。人が並ぶということは、多くの人が気がついているということ。商売は、誰も気がつかないうちに手を出して、先行すること。ザ・コンのリニューアルも同様だ」

 そして、これが秋葉原の活性化につながるものと断言する。

 「有楽町、新宿、そして郊外店には真似のできない店舗をつくるというのが、今回のリニューアルのポイント。これから、中小企業ユーザーが秋葉原にドンドン訪れるようになりますよ」

 ラオックス ザ・コンの挑戦、そして秋葉原の新しい挑戦が始まった。

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【10月26日】ラオックス ザ・コンピュータ館がリニューアルオープン
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011026/laox.htm

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(2001年11月19日)

[Reported by 大河原 克行]


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