2009年1月、富士通の野副州旦社長が、自社製品購入を促す「Buy FUJITSU」という言葉を盛り込んだメールを、社員宛に送信したことが話題となった。 このメールの意図は、必ず富士通製品を購入せよ、といった強制力があるものではない。社長が定期的に発信しているメールのなかで、社長自身の想いを伝えたものであると、富士通では説明する。 その言葉を裏付けるように、量販店での購入を促したり、社員や幹部に対して、一定金額の製品を購入するように、といった内容の通達は一切ない。 このメッセージの中に、「自分たちの会社を自分たちで守ろう」という言葉が盛り込まれていたように、まさに、社員の自主性に任せるものなのだ。 ●島根富士通では約1割の社員が購入 そのメールから約2カ月。社員の自主性を具現化するような動きが、富士通社内で起きた。
それは、島根富士通で実施されたノートPCの社内販売制度である。正規従業員500名の島根富士通で、なんと100台近いノートPCが社内販売で売れたというのだ。ちなみに、島根富士通の非正規従業員を合わせた従業員数は約1,500名となる。 島根富士通は、同社ノートPCの生産拠点。年間約200万台のノートPCを生産している。つまり、自ら生産したノートPCを、自ら購入しようというわけだ。 もちろん、これにも強制はない。ただ、仕掛けをちょっと変えたのだ。 もともと、島根富士通にも社販制度はあった。WEB MARTの仕組みを利用して、大手カメラ量販店のポイント値引き程度の割引価格で購入できるようになっていた。 ところが、社販制度は、ポスターで告知する程度で、ほとんどの人がその制度を理解しておらず、あまり利用されていないのが実態だった。 そうした中、富士通の本社部門であるパーソナルビジネス本部では、3月7日と14日に、島根富士通の従業員を対象に行なわれた家庭工場見学会のタイミングにあわせて、実際に展示機を持ち込んで、即売会を実施したのだ。 家庭工場見学会は、島根富士通の従業員の家族が工場を訪れ、働いている親や息子の姿を実際に見学するというもの。従業員の子供たちが工場見学する場としても好評という恒例企画だ。
実は、工場で働く人たちも、自分たちが作る完成品を見る機会は、それほど多くはないという。 エージングや梱包、出荷工程の担当者ならば、最終製品に近いところで作業をするため、完成した形がわかるが、例えば、基板製造ラインの担当者などは、どんな形で最終製品が出荷されているのかを、目にする機会は少ない。 その点でも、自分たちが、毎日作っているノートPCが展示されている光景を目の当たりにすること自体、新鮮だったともいえよう。 ●予想以上の販売実績 社販の反応は上々だった。 3月7日に行なわれた第1回目の社販展示会では、いきなり15台のノートPCが売れた。 「お母さんが、島根富士通で働いていてくれて、うれしかった」と、自分用のPCを購入してもらった女の子。PCが欲しいと思っていたタイミングに、この展示販売のタイミングが合ったようだ。 従業員も、お昼休みや途中の休憩時間を利用して、足を運んだ。 「何時までやっていますか。仕事が終わったらきますので」という若い従業員もいた。 14日に開いた第2回目の社販展示会では、前回の展示会の話を聞いた従業員も顔を出し、ますます盛況になったという。 前回の展示会では、その場で即決できなかった従業員が購入するといった動きもあり、その日の販売台数は45台と、驚くべき販売台数となったのだ。 ここには、自分たちが自信を持って作ったPCだからこそ、安心して購入できるという気持ちがある。MADE IN JAPANだからこその自信が、これだけの売れ行きにつながったともいえる。 その後も、島根富士通からは、社販で購入するという動きが相次いでいるという。展示会以降の累計販売台数は80台に達した。500人の社員に対して、1割以上が購入したという計算になる。 担当者は、「この勢いであれば、展示会から1カ月の販売台数が100台に達するのは間違いないだろう」と予測する。 野副州旦社長が打ち出した「Buy FUJITSU」が、強制力のない、現場主導で推進された好例といえるだろう。 パーソナルビジネス本部では、同様に、PC生産を行なっている製造拠点での社販促進の展開のほか、他の製品の製造拠点においても、同様の施策を展開することを検討しはじめる模様だ。 ●後日談 この話には、後日談がある。 本社部門であるパーソナルビジネス本部が、島根富士通において、わざわざ出向いてまで社販の展示販売まで実施したのは、「Buy FUJITSU」の促進が目的ではなかった。 実は、島根県内におけるPCのシェアが、富士通がトップではないという事実が発覚したからだった。 PCの生産拠点を持つ島根において、とくに立地している出雲地域においては、富士通のロイヤリティが高いというのが、富士通社内での認識だったが、数字はそれを裏切っていた。 これを問題視した同本部が、まずは社内での購入を促進させることで、県内における富士通のシェア向上を狙ったわけだ。これがきっかけとなり、結果として、「Buy FUJITSU」の実現につながったといえる。Buy FUJITSUは、こんな形で社内に浸透しはじめているようだ。 □富士通のホームページ (2009年3月25日) [Text by 大河原克行]
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