富士通は8月20日、秋冬モデルと呼ばれる新製品を一斉に発表した。この新製品のなかでも、最も売れ筋モデルになると位置づけられているのが、ノートPCのBIBLO NFシリーズである。このほど、FMV BIBLO NFシリーズの生産工程を見学する機会を得た。生産を担当するのは、島根富士通。国内生産にこだわる島根富士通の強みは何か? 新製品の生産ラインを紹介するとともに、島根富士通の強みを追った。 ●のどかな田園地帯から、世界の最先端へ
島根県の出雲空港から車で約15分。島根富士通は、島根県斐川郡の静かな田園地帯のなかにある。 工場を訪問する人たちを対象に、同社を紹介するビデオのなかでも、「のどかな田園地帯から、世界の最先端へ」というキャッチフレーズが使われているように、工場のまわりは、田んぼに囲まれたエリアで、近くには“日本三美人の湯”の1つとして有名な湯の川温泉もある。 '90年10月に操業した島根富士通は、国内生産にこだわる富士通のノートPC専門の生産拠点として、プリント基板から装置組立までの一貫生産を行なっているのが特徴だ。 '90年10月の操業開始時には、FM TOWNSやFMRシリーズを生産。'93年8月には、FMVシリーズの生産を開始。'94年8月には、PC累計生産50万台を達成している。その後、'95年6月には、デスクトップPCの生産を福島県伊達市の富士通アイソテックに移管することで、ノートPCの生産に特化。同年8月には、累計出荷100万台を達成している。'99年3月には、コンベア組立ラインを撤去し、全面的にセル組立ラインへと移行。2003年6月には、累計生産1,000万台を達成した。 さらに、今年(2008年)2月には、累計出荷2,000万台を達成し、222台限定の記念モデルを発売。その壁紙には、「富士通のパソコンは島根県斐川生まれです」と、島根県斐川町で生産されているという、国内生産へのこだわりを記念モデルでも訴求した。 現在、FMV-BIBLOシリーズをはじめ、企業向けノートPCのFMV-LIFEBOOKシリーズ、タブレットPCのFMV-STYLISTICシリーズを生産している。
●島根富士通の強みは人材に尽きる
今年6月に、島根富士通の社長に就任した宇佐美隆一氏は、「島根富士通の強みは何かといえば、それは人材に尽きる」と断言する。 今年度も新卒者を採用するなど、地元採用を中心に質の高い労働力を確保。社員の年間継続率は99%に近く、熟練の技術を持った社員が、MADE IN JAPANの生産を支えている。 「人材の強化にはますます取り組んでいく考え。製造現場での経験だけでなく、ローテーションの1つとして、本社事業部や本部で勤務経験をするといったことも検討していきたい。これまでにも、製造現場だからこそわかる“気付き”によって、ノートPCの設計変更を島根富士通側から提案するといったこともあったが、生産現場の社員が、設計、開発の現場を知ることで、こうした領域にもっと踏み出していける。それが、製品の品質向上、納期短縮、生産コストの圧縮にも直結する。開発、生産が、一体感を持つという意味でも、重要なポイントになるだろう」とする。 これまで新入社員などを中心としてきた人材育成プログラムも、生産ラインを統括する統括リーダーといった職種にまで大きく広げ、キャリアパスを明確に示していくことにも取り組んでいきたいとする。 さらに、島根富士通の取り組みとして見逃せないのが、トヨタ生産方式(TPS)を導入している点。TPSは、2005年4月から導入し、コンサルタントによる工場指導を開始。2007年3月には、これを全面展開することで、製造から物流までの徹底的な改善と効率化を実現。リードタイムの削減や品質向上などへとつなげている。 今後は、間接部門においてもTPS活動を活性化させることによって、オペレーションおよび生産部業務の見直しにも着手していく考えだ。 「すでにTPSの導入開始から4年を経過した。今後は、工場だけのTPSではなく、購買、物流、営業までを含めた全社的な展開へと広げていきたい。原油高の上昇などを背景にした物流コストの上昇が見込まれるだけに、物流コストの領域にまでTPSの効果を広げていくことは不可欠になる」とする。 また、「今は、TPSを模倣することが中心となっているが、島根富士通ならではの特性を捉えたカスタマイズも必要になってくるだろう。何年か先には、島根富士通に最適化した生産プロセスを確立したい」と語る。 ●世界をリードする製造会社への挑戦を掲げる 同社では、「世界をリードする製造会社への挑戦」をビジョンに掲げ、「世界トップ品質の提供による顧客満足度の向上」、「中国・台湾勢に対抗できるコスト競争力の強化」、「スピーディでフレキシブルな製品供給体制の強化」を基本方針に、グローバルで戦える競争力を強みとしてきた。 「世界をリードする製造会社への挑戦、という方針は変えない。その上で、富士通のグローバル化の進展にあわせた進化、ものづくりの上流にまで遡った改善提案、人材育成の強化といった点に取り組んでいきたい」とする。 ●マザー工場としてのノウハウ蓄積に取り組む 一方で、「今後、島根富士通は、マザー工場として展開していくことも視野に入れなくてはならないだろう」と語る。 現在、欧州向けのノートPCは、富士通シーメンスで生産しているが、それ以外は、すべて島根富士通に集約されている。これを消費地に近いところで展開していくことも、今後は、検討材料になっていくだろう。 「島根富士通と同じコピー工場を自前で持つということはない。だが、マザー工場として、日本でのものづくりノウハウを、海外でも展開できるように、今から準備をしておく必要はあるだろう」 QCD(クオリティ、コスト、デリバリー)の観点から、島根富士通ならではのノウハウを横展開していくことができる体制を目指すという。 一方、島根富士通自身の生産ラインの強化にも取り組む。 プリント基板製造では、少ロット化の促進などによって、滞留時間の削減が課題だ。 「基板製造ラインでは、どうしても装置の前での滞留時間が長く、在庫負担が大きくなる傾向が強い。2008年度から2009年度にかけては、少ロット化によって、現在、2日間のバッファ分を半分ぐらいにまで削減したい。これを実現するには、発想を大きく変える必要があるだろう」とする。 少ロット化にあわせて、段組替えの時間短縮は大きな課題だ。宇佐見社長は、ここにもメスを入れていく考えのようだ。 また、組立ラインでは、混流化が大きな鍵だという。 タブレットPCは、液晶部の組立手番が多く、通常モデルの生産ラインが13人体制であるのに対して、20人体制となっている。 「通常モデルとタブレットPCでも混流生産ができるラインを構築したい。そのためには、タブレットPCの液晶部分を別ラインで構築するなどの取り組みも必要だろう。現在、12ラインのうち、半分が混流ラインとして稼働しているが、将来的には12ラインすべてを混流ラインにしたい」とする。 一方で、TPSによる効果も生産現場では数多くの改善結果となって表れている。 組立ラインは、約7割のスペースに削減されたほか、その他の省スペース活動で、TPS導入以降、約1万平方mのフロアが空いたという。そこに、外部に持っていた部品倉庫を移転。倉庫賃料がそのまま削減効果となっている。また、出荷場の省スペース化も実現し、出荷時の滞留在庫数も削減したという。 こうした取り組みが、島根富士通の競争力強化につながっている。 では、島根富士通におけるBIBLO NFシリーズ新製品の生産工程を写真で追ってみよう。 ●プリント基板の生産ライン
●PC組み立てライン
□島根富士通のホームページ (2008年8月25日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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