笠原一輝のユビキタス情報局

「ネットブック向けWindows 7では
上位SKUへ移行できる仕組みが必要」
~バルマー氏が発言




 米Microsoftの証券アナリスト向けに同社の戦略を説明する“Microsoft Strategic Update Meeting”が、2月24日(現地時間)に米国で開催された。その模様はMicrosoftの株主向けのWebサイトで公開されているが、その中でMicrosoftのスティーブ・バルマーCEOはWindows 7のネットブック向けのSKUは、現行のWindows XPベースのSKUと同じ価格帯に設定されること、さらにはOEMメーカーに対して現在のネットブックの価格帯を損なわないような上位SKUへ移行できる仕組みを検討していることを明らかにした。

 また、この中でバルマー氏はWindowsクライアントの競合相手についても言及し、特に昨年シェアを伸ばしたAppleに対して警戒感を抱いていることと、まだ登場もしていないGoogleのデスクトップOSも潜在的な競合相手になると発言し注目を集めた。

●Windows 7のネットブック向けSKUは現状のULCPC版と同じ価格帯になる

 今回バルマー氏は、Microsoftがネットブックに対してどういうイメージを抱いているかを具体的に説明した。

 「ネットブックに関しては多くの質問を頂戴した。弊社は1年前にネットブックに関する戦略を決め実行してきた。その結果、ネットブック市場で90%を超える非常に高いマーケットシェアを占めるようになった」と、同社のネットブック向けのOS戦略が一定の成功を収めたと自己評価した。

 また、「ネットブックに否定的な意見を持っている人も少なくないが、私はそう考えていない。ネットブックを除いたPC市場は小さくなっていないのが現実だ。だからこそ、ネットブック向けのOSに関しては、フル機能を備えたコンシューマ向けSKUやビジネス向けのSKUと比べて、どう位置づけるべきかは注意深く検討する必要がある」と述べ、SKUの位置づけを真剣に検討しているという姿勢を明らかにした。

 その上でバルマー氏はWindows 7のネットブック向けSKUの位置づけを説明した。「現行のネットブック製品ではほとんどWindows XPベースのSKUが採用されている。これに対してWindows 7では、もう少し異なる位置づけになると考えている。Windows 7ではコストを優先したいユーザーは低価格のSKUを、高機能が欲しいユーザーはより高い価格のSKUをという具合に、より上位へ移行できる仕組みを提供できるか考えていきたい」と話し、ネットブック向けのSKUの考え方そのものが従来のULCPC版とは異なっていることを明らかにした。

 さらに、質疑応答ではネットブックOSの価格設定が現行のWindows XPベースのものと比べてどうなるのかという質問を受けて「Windows 7のネットブック向けのSKUは、現行のWindows XP(筆者注:ULCPC版のことだと思われる)と同じ価格帯に設定される。他の価格帯ではどうなのかという質問が当然出てくるだろう。我々は現在ネットブックに対してオファーしている価格帯を維持していくことは重要だと認識している。OEMメーカーやエンドユーザーに対してより上位に移行したいユーザーにチャンスを与えたい」と述べた。

●Windows 7の上位SKUに対しても“ネットブック”価格を用意する可能性

 こうしたネットブックに関するバルマー氏の一連の発言は、特に日本のエンドユーザーにとっては重要なものだ。

 この中にはいくつかのポイントがある。まず、Windows 7のSKUの中で現行のULCPCのWindows XPの代わりとなるWindows 7 Starterに関しては、筆者が以前の記事で分析した通り、ULCPC版のOSと同じ価格設定になる。

 それ以上に重要なことは、バルマー氏がネットブックの価格帯を維持しつつも、OEMメーカーやエンドユーザーに対してより上位のSKUなどに移行する選択肢を与えたいと述べている点だ。エンドユーザーであれば移行というのはSKUのアップグレードパスを用意するという意味になるが、「OEMメーカーに対しても」と発言しているのは、OEM向けのライセンスプログラムに対して上位SKUにネットブック向けの特別価格があることを示唆していると言えるだろう。

 つまり、従来のULCPC版では、WindowsのもっともベーシックなグレードであるWindows XP Home EditionないしはWindows Vista Home BasicのULCPC版しか用意されていない。しかし、バルマー氏の言っていることを素直に解釈すれば、Windows 7ではより上位のグレードであるHome PremiumやProfessionalなどの上位SKUに関しても、ULCPCのような価格設定がされる可能性があると言えるだろう。つまり、先週の記事の中で指摘したような、Windows 7 Home PremiumなどにもULCPC版を用意すべきではないかということをMicrosoftが検討している可能性があるということだ。

 もっとも、バルマー氏のこの発言が、それと同じようなものであるのかはわからない。しかし、エンドユーザー向けだけでなく、OEMメーカー向けにもと述べている以上、Home PremiumやProfessionalのような上位SKUに対しても、なんらかの仕組みが用意される可能性が高まってきたと言えるだろう。

 もちろん、現時点では具体的なプログラムの詳細(例えばハードウェアに対してどのような制限がつけられるのかなど)がわからないため、それが日本のユーザーにとって満足のいくものかどうかはわからない。しかし、Microsoftとしても、ネットブックが置かれている現状に対して、そのマーケットを壊さないような施策を打っていきたいと表明したことは評価して良いのではないだろうか。

●WindowsクライアントOSの潜在的なライバルとしてGoogleの名前に言及

 また、バルマー氏はWindowsのクライアントOSが置かれている現状についても説明し「我々はAppleとLinuxを注意すべき競合相手と認識している」とし、ここ一年でシェアを増したAppleとLinuxをWindowsのライバルとして挙げた。

 注目されたのは、そのLinuxの動向の中で、特にGoogleのAndroidの名前を挙げたことだ。現時点では、Androidは携帯電話向けのOSとして認識されているが、すでに半導体メーカーの中にはAndroid向けにARMコアのネットブック向けCPUの開発に着手したところもある。例えば、NVIDIAのTegraは、ARMベースのCPUとGPUが1チップになっており、これを使ってある程度の性能を持つネットブックを開発することも不可能ではない。

 だが、バルマーCEOはこうしたネットブックでの危険性だけを心配している訳ではないようだ。「我々はGoogleがデスクトップOS向けの競合相手として以前よりもその危険性が高まっていると考えている」と話し、ネットブックや携帯電話のような現状のAndroidがカバーできそうなエリアだけでなく、クライアント向けWindowsの競合相手としてGoogleを見ているという認識を明らかにした。

 バルマー氏のこの発言が何を意味するかは捉え方次第だろう。1つの可能性は、AndroidがARMアーキテクチャのプロセッサとともに、デスクトップPCやノートPCとしても使われるようになるというものだし、もう1つにはGoogleがx86ベースのAndroidを開発していると予想しているのかもしれない。

 以前もこの連載でも触れたが、AndroidのビジネスモデルはMicrosoftにとっては非常に危険なビジネスモデルだ。Androidの開発費はGoogleが検索などの広告から上がってきた収益から出されており、直接ソフトウェアの売り上げからOSの開発費を捻出しなければならないMicrosoftにとって対抗する術がない。Androidのx86版が本当にあるのか、筆者にはわからないし、そうした確たる証拠も今のところ見たことはない。ただ、その開発自体はそんなに難しいことではない。すでにPC用のLinuxは存在しているのだから、あとはGoogleがやると判断するのか、それだけの話だ。だから、いつ現実になったとしても不思議ではない。

バルマーCEOのWindowsクライアントOSに関するスライド。Windowsの最大のライバルは、海賊版のWindowsだという(出典:Microsoft Strategic Update Meeting 2月24日の資料)
 筆者でもそれが危険だと判断できるのだから、Microsoftが同じようなことを想像しても不思議ではない。もっとも、それはMicrosoftにとって良いことだと筆者は考えている。以前も指摘した通り、Microsoftにとっての不幸はライバルがいないことだ。ライバルがいる時のMicrosoftは死にものぐるいで、新しいソフトウェアのイノベーションに取り組む会社だ(だったといってもいいのかもしれないが)。

 なのに、不幸なことに、今は「正しいライセンスで使われていない海賊版こそが我々のメインの競合だ」(バルマー氏)という現状だ。だとすれば、Googleがそうした道をとってくれるなら、再びPC用のソフトウェアにも競争が発生し、新しいイノベーションが期待できる日々がやってくるのではないだろうか。筆者ならずとも業界の多くの関係者がそうしたGoogleの、そしてMicrosoftの姿を見てみたいと期待しているのではないだろうか。

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【2月9日】Windows 7がネットブックブームの終わりを招く
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0209/ubiq246.htm
【2月4日】Microsoft、Windows 7のSKUを6つに決定
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0204/ms.htm
【2月4日】【元麻布】Windows 7のラインナップが明らかに、実質値上げか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0204/hot596.htm

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(2009年2月26日)

[Reported by 笠原一輝]


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