笠原一輝のユビキタス情報局

LGA775からLGA1156へ変わるIntelのメインストリーム




 CeBITではIntelの新しいCPUソケットであるLGA1156(開発コードネーム:Socket H)を搭載した新世代マザーボードが展示されている(その模様はこちらを参照していただきたい)。すでに明らかになっているように、Intelは2009年の後半(情報筋によれば第3四半期)にLynnfiledの開発コードネームで知られるLGA1156対応クアッドコアCPUを投入し、2010年前半(情報筋によれば第1四半期)にClarkdaleの開発コーネームで知られるGPUを統合したLGA1156対応デュアルコア版を投入する計画になっている。

 これらの製品が投入されることにより、長らく続いたLGA775(開発コードネームはSocket T)の時代は徐々に終焉へと向かい、本格的にNehalem世代へと移行することになる。

●複数のSKUが用意されるIntel 5シリーズチップセット

 すでに以前の記事でも触れたように、Intelは2009年の第3四半期にLGA1156プラットフォームを立ち上げる。LGA1156プラットフォーム向けのCPUはクアッドコアがLynnfiledとなりデュアルコア+GPUがClarkdale、チップセットはIbexpeakの開発コードネームで知られるIntel 5シリーズとなる。ちなみに、すでに発表されているCore i7向けのチップセットX58も、このラインナップの一部ということになるが、そもそも構造が違っているので、ブランド名こそ同じだが全く別の製品と理解しておいた方が良いだろう。

 Intel 5シリーズチップセットには複数のSKUが用意されており、以下のような製品が用意されている。

【表1】Intel 5シリーズチップセットのSKU構成(筆者予想)
  P57 P55 H57 H55 Q57
登場時期 10年第1四半期 09年第3四半期 10年第1四半期 10年第1四半期 10年第1四半期
2x8 PCI Express対応(Clarkdale利用時)
内蔵グラフィックス サポート
PCI Express 2.0ポート数 8 8 8 6 8
SATAポート数 6 6 6 6 6
ポートマルチプライヤ
USB 2.0ポート数 14 14 14 12 14
PCIデバイス 4 4 4 4 4
Brainwoodサポート
QST
Intel Management Engine ファームウェア
AMT6.0
Rapid Storage Technology

 基本的には以前の記事でお伝えした通りなのだが、いくつかの点で解説が必要だろう。

 今回のIntel 5シリーズ Chipsetより、ノースブリッジの機能(内蔵GPU、メモリコントローラ、PCI Express 16レーン)はCPU側に入るため、基本的にチップセットに実装される機能は従来サウスブリッジ側にあったI/O関連の機能となる。従って、差別化ポイントもSATAのポート数、USBポート数、そしてvProなどで利用される管理機能の有無などになる。

 だが、実際には表を見て分かるように、従来と同じように外付けGPU用となるP57/55、内蔵GPU用としても利用できるH57/55、Q57というSKU構成に別れている。これは、LGA1156の特徴である、CPU側にはGPUコア、チップセット側にはディスプレイコントローラを内蔵し、その間をFDI(Flexible Display Interface)という専用のインターフェイスで接続しているためだ。P57/55ではそれらの機能が無効にされて出荷されることになり、仮にClarkdaleを挿した場合でも内蔵のGPUは無効になり、外付けGPUを挿さない限りは利用できないことになる。

●P57/55でも引き続きSLIのソフトウェアライセンスの仕組みは継続の方向

 逆にP57/55のみに許されている機能もある。それがClarkdale利用時にPCI Express x16のレーン数をx8、x8と分割する機能だ。これを利用すると、AMDのATI CrossFireとNVIDIAのSLIを利用することが可能になる。もっとも、PCI Express x16のコントローラはCPU側に実装されているので、メーカー側がH57/55などでそうしたデザインをするのは不可能ではないだろう。従って、IntelがこうしたSKU構成をとっている裏には、CPU側にチップセットのSKUを判別してx8/x8という構成に出来ないようなロックが入っているか、あるいは可能だが稼働保証はしないのとちらかということになる。

 なお、P57/55におけるSLIのサポートだが、CeBITで取材した限りでは多くのOEMベンダーが、NVIDIAからIbexpeakにおいてもSLIのソフトウェアライセンスの仕組みは継続すると聞いている、という証言を得た。また、いくつかのベンダーではnForce200を搭載していなくてもSLIをサポートすると看板などに書かれている場合があった。このため、基本的にはX58に続きP57/55でもSLIが利用できる方向だと考えていいだろう。

 また、表1にあるBrainwood(ブレインウッド、開発コードネーム)というのは、現在のIntel Turbo Memory(開発コードネーム:Robson)の後継となる製品だ。Intel Turbo MemoryはHDDとSSDの隙間を埋める製品で、HDDのあちこちに点在しているアプリケーションやOSの起動時に読み込まれるファイルをフラッシュメモリにキャッシュしておき、アプリケーションの起動を高速にするためのものだ。HDDはアプリケーションやOSの起動で多用されるランダムアクセスが遅いので、ランダムアクセスが高速なフラッシュメモリをキャッシュ代わりとするのだ。これにより、SSDのアプリケーションやOSの起動が高速になるメリットと、HDDの大容量というメリットを手に入れることができるのだ。Brainwoodは、16GB、8GB、4GBと3つのSKUが用意されており、Intel 5シリーズと組み合わせて利用できるのだが、利用できるのはすべてのSKUではなく、P57、H57、Q57の7が付くSKUのみとなる。

GIGABYTE Technologyのブースに展示されていたGA-IBPの説明書きにはSLIサポートと明確に記述されていた

●2010年の第1四半期にはすべてのセグメントにLGA1156のプロセッサを投入

 Ibexpeakの製品は、すべての製品が一挙にリリースされるわけではない。以前の記事でも説明したように、まずはクアッドコアのLynnfiledと一緒にP55が第3四半期にリリースされ、GPU内蔵デュアルコアのClarkdaleと残りのP57/H57/H55/Q57の各製品は2010年の第1四半期に発表が予定されている。このため、今回CeBITでIntelが許可したのはP55搭載マザーボードの静的デモで、動作するデモは認めなかっただけでなく、その他のSKU(P57/H57/H55/Q57)を搭載したマザーボードの展示は認めなかったのだ。

 どうして2段階でのリリースになっているのかと言えば、2つ理由がある。1つはLGA1156対応CPUのリリースが、GPU内蔵デュアルコア版だけが遅れることになったので、まず第3四半期にクアッドコア版がリリースされ、2010年の第1四半期にGPU内蔵デュアルコア版がリリースされるからだ。

 もう1つは、IbexpeakのSKUは当初はここまで多い予定ではなかった。しかし、OEMベンダー、特にマザーボードベンダー側から、さまざまなセグメントに対応する必要のため、より多くのSKUがほしいという要望がでたため、より詳細なSKUを増やすことになったのだ。しかし、その場合にはバリデーションのプロセスがより複雑になり、時間もかかることになる。そこで、クアッドコア版のLynnfiledに必要なP55だけを先行させ、残りはGPU内蔵版にあわせて2010年の第1四半期にリリースするという形にすることで時間を確保したのだ。

 なお、2010年の第1四半期にリリースされるClarkdaleはメインストリーム向けだけでなく、バリューセグメント向けの製品となっているPentiumやCeleronといったセグメント向けにも同時に投入される予定になっている。Celeronでもより低価格なセグメントに関してはLGA775のSKUも残ることになるが、基本的には上はLynnfiledで、下はCeleronまでをClarkdaleで一挙にLGA1156に置き換えることを狙っている。

●マザーボード上に搭載されるチップは減るが価格帯はLGA775と同じレンジに

 LGA1156世代に入ると、ノースブリッジ相当のチップがCPUの内部に入ってしまい、マザーボードに搭載されているチップは1チップになってしまうが、かといってマザーボードが低価格になるのかと言えば、そういうわけでもなさそうだ。

 Intelの現在のリストプライスベースで考えていくと、3つのパーツ(CPU、ノースブリッジ、サウスブリッジ)はそれぞれ以下のような価格体系になっている。

【図1】CPU、ノースブリッジ、サウスブリッジの価格モデル

 CPUにはどのSKUを選択するかによるが最低価格が40ドル前後。これに対してチップセットの方は、ノースブリッジが30ドル、サウスブリッジが10ドルぐらいで合計40ドルという価格体系になっている。問題は、LGA1156に移行した後の価格体系がどうなるかだ。Ibexpeakがサウスブリッジの代わりという位置づけのチップである以上、素直に考えれば、CPUが70ドル、PCHが10ドルと考えることができるだろう。

 ただ、これはIntelのさじ加減次第だ。というのも、現時点ではLGA1156向けのチップセットで現存しているものはIntelの製品しかないからだ。NVIDIAもLGA1156用チップセットの計画は持っているが、現時点では実際のチップはおろか、デザインガイドどころか具体的な計画をOEMメーカーに対してさえ伝えていないのが現状だ。また、先月にIntelがNVIDIAに対して起こした訴訟も、OEMメーカーをNVIDIAのLGA1156チップセットから遠ざける効果があるだろう。そう考えれば、事実上ライバルはいないに等しい。

 Intelには3つの選択肢が考えられる。

  1. PCHの価格は、現行のノースブリッジ+サウスブリッジと同じような価格に設定し、CPUの価格は維持する
  2. PCHの価格は現行のサウスブリッジと同じような10ドルに設定し、CPUの方にノースブリッジ分をのせる
  3. CPUの価格も、PCHの価格も据え置く

 このうち、3つ目の選択肢をとることはおそらくあり得ないだろう。というのも、すでに減価償却が終わったような古いラインで作るチップセットは低い原価で製造することができるのに、高いマージンをつけて販売することができる高収益な製品だ。従って、それをわざわざ値段を下げるような選択肢をIntelが選択するとは考えられない。少なくとも現行のノースブリッジと同じ程度の価格設定になると考えるのが妥当だろう。

 とすると、1番目か2番目の選択肢を考えることになるが、2番目の設定もはやはりあり得ないと考えるのが妥当だろう。というのは、Intelは裁判を起こしてでもNVIDIAのNehalem世代用チップセットを止めようとしているからだ。

 仮に2番目の価格体系にすると、NVIDIAがNehalemチップセットを作ることが、価格モデル的にできなくなる。というのも、IntelのPCHの方はGPUを内蔵しておらず非常に低コストで作れるため、10ドルでも充分ペイする可能性があるが、GPUを内蔵する巨大なダイを製造する必要があるNVIDIAのNehalem用チップセットは、10ドルでは全くビジネスにならない可能性が高いからだ。であれば、Intelがわざわざ裁判に訴える必要もなくNVIDIAはチップセットビジネスを諦めることになるだろう。

 しかしながら、そうした状況があるのにIntelがNVIDIAを「NVIDIAにはメモリコントローラを統合したCPUを作る権利はない」と訴えたということは、Intelはこの価格モデルを考えてはいないということだ。従って、この場合には1番目の価格設定、つまりCPUはそのままで、PCHの方の価格をノースブリッジ+サウスブリッジという価格帯を維持すると考えるのが妥当だろう。実際、CeBITの会場でマザーボードベンダーの関係者に取材してみると、みなIntelからは現在のチップセットと同じような価格モデルになると説明を受けている、と証言していた。

 従って、マザーボード単体の価格というのも、現行のIntel 4シリーズチップセットを搭載したマザーボードなどに近い価格帯になると考えることができるだろう。なにせ、マザーボードでもっともコストがかかっているパーツはチップセットなのだから。

●自作PC市場では第3四半期のLynnfiled+P55から移行が進む

 すでに述べたように、Intelは2010年の第1四半期にClarkdale、P57/H57/H55/Q57の各チップセットを投入することで、メインストリーム市場からバリュー市場までほとんどすべてのセグメントにLGA1156製品を投入することになる。

 しかし、だからといってPC市場全体ががいきなりLGA1156へ移行するというわけではない。例えば、今の段階(2009年第1四半期)でも、Intelで最も売れているチップセットは2年前の製品であるG31/P31だ。それが2009年の末にはG41/P41に移りゆくぐらいで、いきなり売れ筋がLGA1156になるということはないだろう。市場全体で見れば2010年中は、依然としてLGA775がメインストリームであり続け、2011年になり次のチップセット(Intel 6シリーズチップセットか?)が出る頃にLGA1156へのシフトが起こると考えた方がよい。

 もっともそれはローエンド製品が中心となる中国などの成長市場などを入れた話で、日本のような成熟市場ではもう少し早いシフトが予想されるだろう。特にハイエンド志向の自作PC市場では、デュアルコアよりもクアッドコアというユーザーも少なくないと考えられるため、第3四半期にリリースされるLynnfiled+P55という組み合わせも充分ユーザーの視野に入ってくるだろう。実際、P55とP57の違いは非常に小さい(BrainwoodのサポートとQST程度)ので、わざわざP57を待つ必要性はあまりないだろう。

●Computex Taipeiで、現行プロセッサの上位SKUが投入される

 最後にCeBITの会場で手に入れたIntelの最新プロセッサのリリース時期について触れておきたい。時系列順にいくと、4月にプロセッサ・ナンバーの末尾にSがつくTDP 65Wのクアッドコアの若干の価格改定とQ8400s(2.66GHz、L2キャッシュ4MB)が追加が行なわれる。なお、Q8400はsが付かないTDP 95Wの通常版もラインナップされ、こちらはTDP 65W版のsよりもやや安価な価格設定がされることになる。

 そして、Computexのタイミングに合わせて、新しいCore i7のSKUが追加される。具体的にはエンスージアストセグメント向けのCore i7-975(3.33GHz、QPI 6.4GT/sec)とパフォーマンスセグメント向けのCore i7-950(3.06GHz、QPI 4.8GT/sec)の2製品が追加される。いずれも現行のCore i7-965とCore i7-940を置き換える製品で、価格設定は現行製品と同じ設定になる。

 また、ComputexではCore 2 DuoとCeleronにも新しい製品が投入される。Core 2 DuoではE7600(3.06GHz、L2キャッシュ3MB)が、現行のEシリーズの最高峰であるE7500と同じ価格帯で投入され、CeleronではE1600(2.4GHz、L2キャッシュ512KB)が現行のE1500と同じ価格帯で投入される。

□関連記事
【2月6日】【笠原】45nmデュアルコアNehalemをキャンセルし、32nmを加速するIntel
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0206/ubiq245.htm
【3月5日】CeBIT 2009レポート【Intelマザーボード編】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0305/cebit05.htm

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(2009年3月6日)

[Reported by 笠原一輝]


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