笠原一輝のユビキタス情報局

NVIDIA ドリュー・ヘンリー氏インタビュー
〜Intelによる訴訟を語る




NVIDIA MCPビジネス・ユニット、ゼネラル・マネージャー ドリュー・ヘンリー氏(写真は2008年6月のComputex Taipeiでのもの)
 先週の木曜日(2月19日)の記事ではIntelがNVIDIAのNehalem用チップセットの差し止めを求めて米国デラウェア州衡平法裁判所に提訴したニュースをお伝えした。

 今回筆者は、NVIDIAのチップセットビジネスを率いる責任者であるNVIDIA MCPビジネス・ユニット、ゼネラル・マネージャー ドリュー・ヘンリー氏に電話でインタビューする機会を得た。

 その中でわかったことは、争点になっているのは、NVIDIAとIntelが2004年に結んだクロスライセンスの中身についてであり、NVIDIAが取得したと主張しているIntel CPUをサポートするチップセットを製造する権利がどこまで適用されるのか、という点であることだ。

 また、このインタビューの中で、ヘンリー氏はNVIDIAがNehalem用のチップセットを開発していることを明らかにした。

●争点は2004年の合意に“メモリコントローラが統合されたCPU”向けチップセットが含まれるか否か

Q:まず最初に、今回の訴訟で争点となっている点に関して教えてください。

ヘンリー氏:Intelは、Nehalem世代のCPUをサポートする我々のチップセットの開発と販売を差し止めたいと考えているようです。弊社としては、我々が2004年に結んだクロスライセンスに関する合意の中に、このNehalem世代のCPUをサポートするチップセットを製造と販売をする権利が含まれていると考えています。

Q:それはQPIやDMIのバスライセンスが、そのクロスライセンスの合意に含まれるとということが争点になっているということなのでしょうか?

ヘンリー氏:Intelは今回の訴訟の中で具体的なバステクノロジに言及しているわけではありません。彼らの主張は、メモリコントローラが統合されたCPU、具体的にはNehalem、Westmere、Sandy Bridgeなどの製品向けのチップセットをNVIDIAが製造、販売することができないという点にあります。

Q:2004年に締結されたクロスライセンスの中には、現行のP4バスだけでなく、QPIやDMIなども含まれるのでしょうか?

ヘンリー氏:両社の合意に関しては秘匿条項もありますので、詳細を明らかにすることはできません。しかし、弊社の見解としては、2004年の合意に基づいて、すべてのIntel CPUに向けたチップセットを製造することが可能だということです。

Q:ということは、P4バス、QPI、DMIなどのCPUバスアーキテクチャにかかわらず、NVIDIAはIntel CPUに対応したチップセットを作れるという理解でよいのでしょうか?

ヘンリー氏:弊社の見解としては、2004年の合意のもとではCPUがどのようなバスアーキテクチャを採用しているかは問題ではないと考えています。

●IntelはIONプラットフォームのようなソリューションを恐れている

Q:今回、IntelはNVIDIAがNehalem以降の世代のチップセットを作ることはできないとして提訴したわけですが、それではNVIDIAは具体的にNehalem用のチップセットの計画をお持ちなのですか?

ヘンリー氏:ご存じのように、弊社は現時点ではそれに関する特定のロードマップを公開していません。しかし、我々がIntel社のそうした製品に向けた、GPUを統合した形のチップセットの計画を持っていることは事実です。

Q:おそらくSocket HのCPU向けのチップセットということだと思いますが、チップセットとの接続バスはDMIだけになりますので、メインメモリをビデオメモリとしてシェアする場合に帯域幅が問題になってきます。それを解決することはできるのでしょうか?

ヘンリー氏:現時点では技術的な詳細に関してはお話できません。しかし、我々は計画している製品のグラフィックスのパフォーマンスが十分なものであることに考えていますし、アーキテクチャにも自信を持っています。実際、我々のIONのような、競合他社のソリューションに比べて高いグラフィックス性能を示す製品を見ていただければ、今後もそうした製品がエンドユーザーの皆様に価値を提供できるものだとご理解いただけるのではないでしょうか。

Q:昨年御社のトム・ピーターソン氏にお話を伺った時にはNVIDIAはチップセットビジネスを諦めることはないと言っていましたが、その戦略に変わりはありませんね?

ヘンリー氏:もちろんです、それに関しては何ら揺らいでおりません。

Q:それは良いニュースです。エンドユーザーはより高性能のGPU統合型チップセットを必要としていると私は思っています。

NVIDIAのIONプラットフォームによる超小型デスクトップPC
ヘンリー氏:私も同感です(笑)。我々はAppleとのパートナーシップで、大きな成功を収めました。MacBookのフルラインナップに我々のチップセットが利用されています。

 また、昨年の末にはIONプラットフォームを発表しました。IONではAtomとGeForce 9400M Gを組み合わせて、非常に高いパフォーマンスを発揮できています。HDビデオの再生やトランスコード、3Dゲームなどの、フルPCに負けない体験を、リーズナブルな価格で楽しんでいただくことが可能なのです。おそらく多くのエンドユーザーの方はこうしたソリューションを必要とされているのではないでしょうか。

 おそらくIntelはマーケットのトレンドがそうした方向に行ってしまうことを恐れているのだと私は考えています。だからこそ、我々をブロックするという挙に打って出たのではないでしょうか。

Q:確かに技術的にはIONはすばらしいと私も考えています。しかし、マーケティング的には別の議論もしなければなりません。IONについてOEMベンダーと話をしましたが、やや高いのではないかという意見もありましたが。

ヘンリー氏:それには同意できかねます。事実をお話しますと、ここ数カ月のうちにティアワンの大手OEMメーカーが、IONを搭載したデスクトップPCをリリースする予定です。このPCは300ドル以下で提供されることになると思います。また、我々はすでにIONのドライバをMicrosoftから認証してもらっていますし、先週にはWindows 7との組み合わせのデモも行ないました。順調に立ち上げが進んでいると考えています。

Q:IONはすばらしいと思いますが、他のCPU、具体的にはVIAのC7やNanoですが、それらをサポートするというのはいかがでしょうか?

ヘンリー氏:VIAのCPUをサポートするというのは非常に良いアイデアだと考えています。我々はVIAのC7やNanoを将来のIONプラットフォームでサポートすることを検討しています。

Q:NVIDIAはどうしてx86プロセッサを持たないのでしょうか? というのは常にでてくる疑問です。私も何度もジェンスン氏にも質問していますし、その度にその計画はないという答えを頂いているので、再び質問するのもなんですが、それでも業界の関係者がなぜと思うのも無理はないと思っています。どうでしょうか。

ヘンリー氏:我々の考え方は、すべてのCPUと接続できれば良いというものです。それがIntelでも、AMDでも、VIAでも、ARMでも。すでに市場には優れたCPUが多数存在しており、どんなCPUでもサポートできるということは、逆に我々のアドバンテージでもあるのです。

Q:統合型CPUが登場することは、NVIDIAのビジネスにどういう影響を与えますか?

ヘンリー氏:Intelの最初の製品はダイレベルでの統合ではなく、サブ基板上にMCPとして2つのダイが統合される形になっています。そして、その統合されるGPUの性能が充分かどうか、それがポイントになるのではないでしょうか。1つ確実に言えることは、その内蔵されているGPUをOFFにすることで、我々のGPU統合型チップセットと組み合わせて利用することは技術的には可能です。そしてグラフィックス性能として、どちらの方が優れているか、それは皆さんがすでにご存じではないですか。

Q:しかし問題はコストではないですか? 現在CPUが60ドル、ノースブリッジが40ドル、サウスブリッジが20ドルだとして、統合型CPUではCPUが80ドル、サウスブリッジが20ドルという価格体系になるかもしれない。そのときに、NVIDIAはビジネス的に対抗していくことができるのでしょうか。

ヘンリー氏:Intel社の価格戦略についてコメントすることはできませんが、重要なことは何がエンドユーザーにとって優先すべき事かという点です。現在は高価なCPU+非力な統合型GPUという組み合わせですが、エンドユーザーの考え方が変われば安価なCPU+強力な統合型GPUをという形もあり得るのではないでしょうか。どちらの方がエンドユーザーがより良い体験をできるのか、それこそが重要なことではないでしょうか。

●訴訟にあたりIntelからの事前連絡はなく、祝日の月曜日に“奇襲”

Q:最後になりますが今回の訴訟について、Intelから事前に連絡はありましたか?

ヘンリー氏:いいえ、Intelから事前に連絡はありませんでした。しかも、今回の訴訟は、米国では休日になる先週の月曜日に行なわれました。我々も休日に出かけており、夜に帰ってきたら、Intelが我々に対して訴訟を起こしたという連絡がきたのです。このため我々の方でも、どういうアクションをとったら良いか全く白紙の状態で、それからざまざまな議論を重ね、水曜日にプレスリリースという形で発表させていただきました。

 まさに“奇襲攻撃”にあったようなもので、そのやり方にはびっくりさせられましたよ。やはり彼らにとっても、IONプラットフォームのような製品はショックだったのでしょう。ともあれ、我々に出来ることはエンドユーザーの皆様により良いソリューションを提案していくことです。そうして選択肢を提供することが、エンドユーザーの皆様の利益にもかなうことだと我々は考えています。

●争点は公開されていない2004年の合意の中身

 今回ヘンリー氏に直接話を伺ってわかったことは、訴訟の争点はバスアーキテクチャのライセンス問題ではないということだ。ヘンリー氏は詳細こそ話さなかったものの、NVIDIAは2004年の合意により、チップセットと接続するバスアーキテクチャの種類にかかわらずIntel CPUをサポートするチップセットを製造する権利を有しているようだ。だからそれが、P4バスであろうが、DMIだろうが、QPIだろうが問題ではないというヘンリー氏の発言につながるのだろう。

 だとすると問題になっているのは、2004年の合意の中での“CPU”の定義にあるのではないだろうか。おそらくIntelとNVIDIAが交わした合意書には、かなり詳しく両社の権利についての規定がされているのだろう。当然難しい法律用語で、CPUとは何かという定義がされているはずで、その解釈を巡って争いが起きていると考えるのが正しそうだ。

 というのも、NVIDIAによればIntelが主張しているのは「メモリコントローラが内蔵されたCPU向けにNVIDIAはチップセットをつくれない」ということであるとのことなので、例えば合意書の中のCPUという言葉の定義に“メモリコントローラを内蔵していないもの”に近い表現が入っているか、あるいはどっちとも読めるような一文が入っていて、その解釈を巡って争いが起きているのではないだろうか。もっとも、ヘンリー氏も認めているように、この2004年の合意に関しては両社だけが知っているものであり、外部から見ている我々としては両社(とはいえIntelからのコメントがない現状では、NVIDIA側だけの言い分となるが)の話を総合して考えるしかない。

 逆に言えばそこが争点であるのであれば、現行のP4バス用のNVIDIAのチップセットビジネスには何の影響も及ぼさないというNVIDIAの主張はかなり説得力があるものだと言っていいだろう。なぜなら、問題になっているのは“メモリコントローラが統合されたCPU”向けのチップセットだけであり、現在のCore 2 Duo/Quadなどには何の影響も及ぼさないと理解できるからだ。従って、現在NVIDIAのチップセットを利用しているOEMメーカーも訴訟リスクについて心配する必要はほとんど無いと考えることができるのではないだろうか。

□関連記事
【2月19日】【元麻布】IntelとNVIDIAがクロスライセンス問題で衝突
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0219/hot599.htm
【2月19日】【笠原】IntelがNehalem用チップセットの差し止めを求めNVIDIAを提訴
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0219/ubiq247.htm
【2月19日】NVIDIA、Intelのチップセットライセンス訴訟に返答
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2009/0219/nvidia.htm

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(2009年2月24日)

[Reported by 笠原一輝]


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