山田祥平のRe:config.sys

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花




 ネットブックの勢いが止まらない。それはそれで悪くはないトレンドなのだが、どうにも複雑な想いにかられる。手元でも何機種が試用してみたが、何かこう、ワクワクする何かが感じられなかった。でも、最近ちょっと考えが変わってきた。

●人に見せたくなるパソコン

 日本HPが有名ファッションブランド「Vivienne Tam(ヴィヴィアン・タム)」とのコラボレーションモデル「HP Mini 1000 Vivienne Tam Edition」を発表した。「HP Imprint」テクノロジーを使い、真紅の筐体に芍薬(しゃくやく)の花をあしらった鮮やかなデザインが目を惹く。日本での発売は来年の2月以降を予定しているそうだが、米国では699ドルの価格設定がされているので7万円前後。つまり、ヴィヴィアンデザインという付加価値によって、通常モデルより2万円程度高くなるという設定だ。

 ネットブックの取り柄の第一は安いということだ。おそらく一般コンシューマーにとっては、パソコンの価格破壊と感じるだろう。今は、パワーユーザーの2台目ニーズがほとんどだそうだが、これからクリスマスシーズン、ボーナスシーズンを迎えて、トレンドがどのように動いていくかが興味深い。ヴィヴィアンモデルがクリスマスシーズンに間に合わないのが残念だ。

 2万円高というのは微妙な価格設定だが、安いのが取り柄のネットブックだから、その付加価値によって2~3割高の価格をつけることになる。それをコンシューマーはどうとらえるのだろうか。ちなみに、ちょっと調べてみたところ、ヴィヴィアン・タムのワンピースは約5万円、ブラウスやスカートが4万円程度といった値付けになっているようだ。

 それに比べれば、ヴィヴィアン・タムを手に入れることのできる価格としては2万円は安い。そう考える女性もいるらしい。洋服は2シーズンも着たら飽きてタンスのこやしになるか、オークション行きの運命だろうけど、ネットブックは、事実は別問題として、もう少し長く使えると考えるかもしれない。

 いずれにしても、人に見せたくなるパソコンであることは間違いない。そういうパソコンは、今まであまりなかったように思う。自分では人に見せたくなるほど魅力を感じていても、普通の人に見せれば、それがどうしたという反応しかなかったんじゃないだろうか。でも、この製品なら、インパクトは大きいはずだ。今までのパソコンが「立てばビヤ樽、座ればタライ、歩く姿はドラム缶」だったことを考えれば、何かが変わったことは間違いない。

●Widnows 7の軽さが何かを変える

 一方、目下、手元ではデルのInspiron Mini 12を試用している。いわゆるネットブックカテゴリではないが、ULPCとして価格が低く抑えられた製品だ。

 出荷時のOSはWindows Vista Home Basicで、ディスプレイは12型ワイド、解像度は1,280×800ドットと、いわゆるXP搭載のネットブックよりも、ワンランク上のスペックだ。

 ものは試しにと、Windows 7のプリベータを入れてみた。さすがにプロセッサが非力で、インストールには1時間近くかかったが、特に問題なくインストールができ、Vista用に提供されているドライバ類を導入したらまともに使えるようになった。

 起動時にDesktop Windows Managerがエラーを出し、Aeroがオフになってしまうが、これはプリベータということもあるのであまり気にしないことにする。

 意外に使えそうなので、調子に乗って、普段持ち歩いているレッツノートとほぼ同じ環境を作ってみた。Aeroがオフなので、プロセッサパワーを消費しやすくなるが、現行のVistaよりも明らかに軽いことがわかる。また、消費メモリも起動直後で640MB程度、Outlookなどを動かした状態でも、800MB程度で、1GBしかメモリがなくても、スワップに悩まされるような印象はない。1GBではとても使う気になれないVista機とは大違いだ。Vistaではフルスクリーンでコマ落ちしていたMPEGファイルの再生も、CPUパワーを消費しながらもスムーズだ。

 ただ、プロセッサの非力さはいかんともしがたく、やはり、反応は鈍い。特に、プログラムの起動で待たされる感じが強い。そのストレスを回避するには、いったん起動したプログラムは終了させない使い方がいいみたいだ。

 今回配布されたWindows 7は、VistaでいうところのUltimateエディションだが、これをBusiness、さらに落としてHome Basicにしたら、もっと軽快に使えるかもしれない。少なくとも、Menlow環境下ではWindows 7でも、工夫を重ねればそこそこ使い物になるという印象だ。

 おそらく、Windows 7のリリース時には、ワンランク下のネットブックにも同程度の処理能力が備わっているかもしれない。あるいは、現行のネットブックでもそれなりに動いてしまうかもしれない。

 だとすれば、Microsoftが、たとえXPを捨て値でライセンスしたとしても、結果としてものすごい量のオプショナルアップグレードユーザーを、現時点で抱えていることになる。5万円で購入したパソコンに、2万円といった価格のアップグレードコストを投じてXPからWindows 7にアップグレードするかどうかは難しい話かもしれないが、そんなことなら本体ごと買い換えてしまえと思うユーザーもいるだろう。いずれにしても、市場は必ず動くことになる。

●かわいいから買うというパソコンの選び方

 ネットブックは軽自動車にたとえられることもあるようだ。軽自動車は価格も安いが、乗り心地という点ではけっこうつらい。それに車中の騒音もすごい。でも、それをわかった上で、ガマンができるのなら、道路を走るという点では制限速度もあるので、高級乗用車とあまり変わらない時間で目的地に着ける。高速道路ではなく、街中の走行であれば、その機動力は大きなクルマよりも高いかもしれない。

 ネットブックは、価格の点で、これまで高嶺の花だった2台目のパソコンを個人が所有しやすくした。そして、小型化したことで、今までパソコンを使わなかった場所でパソコンを使う気になる可能性を拓いた。

 バッテリの持ちなどを考えると、モバイルというのはおこがましいかもしれないが、携帯電話と従来型パソコンとの狭間で、新しいユセージモデルを開拓していく使命も担っていけそうだ。

 パソコンには制限速度がない。だから、処理速度は高ければ高いほど快適だ。でも、そこを少しガマンすれば、破格値で目的を果たせるマシンが手に入る。その目的が、芍薬のプリントだっていんじゃないか。そういうパソコンの買い方をするユーザー層の登場には大きな意味があるように思う。少なくとも、パソコンなんていらないというトレンドが蔓延するよりは、はるかにいい。

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(2008年11月28日)

[Reported by 山田祥平]


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