発売中 価格:89,800~99,800円 デルのAtom搭載ネットブック「Inspiron Mini 9」登場からまだあまり時間は経過していないが、Inspiron Miniシリーズの新モデルとなる「Inspiron Mini 12」が新たに登場した。ただInspiron Mini 12は、一般的なAtom搭載ネットブックとは異なり、低価格モバイルノートという位置付けがなされている点が興味深い。今回、Inspiron Mini 12を試用する機会を得たので、ネットブックとどのように異なる製品に仕上がっているのか、見ていくことにしよう。 ●大きく、薄く、軽い Inspiron Mini 12を、まずひと目見て感じた印象は、かなり大きいな、というものだった。フットプリントは、299×229mm(幅×奥行き)と、Inspiron Mini 9の225×175.5mm(同)と比較してふた回りほど大きくなっている。箱を開けて、Inspiron Mini 12を取り出そうとしたときに、その印象を強く受けた。Inspiron Miniシリーズの製品ということから、Inspiron Mini 9のイメージと重ね合わせていたことも大きく影響していたのかもしれないが、実際にDOS/V POWER REPORT誌と比較してみても、その大きさが再認識できる。 しかし、Inspiron Mini 12を手に取った瞬間、その印象は大きく変わった。なぜなら、本体の厚さが20.9~24mmと非常に薄く、また軽量に仕上げられているためだ。 本体の厚さはInspiron Mini 9よりも薄く、かなり驚いた。MacBooK Airには負けるものの、ThinkPad X300に匹敵するほどの薄さであり、10万円を切る価格でこれだけの薄さを実現している点は特筆に値する。この薄さなら、ブリーフケースなどに入れて持ち歩く場合でも、ほぼ苦にならないはずだ。 また本体サイズの割に軽量な点も大きな魅力だ。本体重量はカタログスペックが約1.24kg、実測値では1,276gであった。重量自体は飛び抜けて軽量というわけではなく、Inspiron Mini 9よりも重い。しかし、実際に手に持ってみると、本体サイズが大きいこともあるのか、数字以上に軽く感じる。フットプリントは大きいものの、本体の薄さと重量を考えると、携帯性は全く問題ないと考えていいだろう。 本体デザインは、Inspiron Mini 9のものを踏襲。本体角は丸みを持たせた、親しみやすい印象のボディは、まさにInspiron Mini 9譲りだ。天板カラーにオブシディアンブラックとパールホワイトの2色を選択できる点も同様。どちらのカラーも光沢感が強く、見た目にも高級感を感じさせる。
●12.1型WXGA液晶を搭載 Inspiron Mini 12の最大の特徴となるのが、液晶ディスプレイだ。Atom搭載ネットブックのほとんどが、10.2型以下の液晶ディスプレイを搭載しているのは、マイクロソフトが定めるULCPCの基準をクリアするため。それに対しInspiron Mini 12では、最近になって許可されたWXGA(1,280×800ドット)表示対応の12.1型液晶ディスプレイを搭載。このサイズおよび解像度の液晶は、携帯性重視のモバイルノートに広く採用されているもので、一般的なAtom搭載ネットブックとは一線を画す表示環境を実現している。実際に使ってみても、デスクトップの狭さを感じることは全くなく、一般的なノートPCとほぼ同じ感覚で利用できた。 ただ、気になる点もある。それは、表面の光沢処理が強く、映り込みがかなり激しいという点だ。確かに、光沢処理のおかげで表示される画像は鮮やかなのだが、比較的明るい映像を表示させた状態でも、ディスプレイに映り込む自分の姿を容易に確認できてしまう。また、天井の照明もくっきり映り込んでしまう。利用する場所にもよるが、オフィスでは天井の照明が映り込む可能性が非常に高く、かなりイライラさせられるかもしれない。 Atom搭載マシンということで、パフォーマンス自体はあまり期待できず、マルチメディア系の用途での活用が厳しいことを考えると、当初からノングレア液晶を採用しても良かったのではないだろうか。また、BTOでノングレア液晶の選択肢が用意されるというのでもいいだろう。この点についての今後の仕様変更を期待したい。 ちなみに、液晶ディスプレイ上部には、130万画素のWebカメラが標準搭載される。
●キーボードの使い勝手は申し分なし Inspiron Mini 9での最大の欠点であったキーボードは、本体サイズの大きさもあり、Inspiron Mini 12では完全に解消されている。 キーピッチは約17.5mmと、サブノートクラスのノートPCのキーボードとほぼ同等。Enter付近の一部のキーピッチが狭くなっている点はやや気になるものの、適度なストロークやクリック感があり、キーボード自体のたわみもほとんど感じない。もちろん、Inspiron Mini 9で問題とされた、いびつなキー配列も一切なく、全体的な使い勝手は申し分ない。今回試用したのは日本語キーボードが搭載されているモデルだったが、BTOで英語キーボードの選択も可能となっている。 ポインティングデバイスのタッチパッドも、申し分ない使い勝手だ。本体サイズが大きい分、タッチパッドの面積も広く、操作時に窮屈さを感じることは全くない。クリックボタンも適度なクリック感があり、扱いやすい。 本体サイズを考えると当然ではあるが、キーボードとポインティングデバイスに関しては、サブノートまたは一般ノートと遜色のない操作性が実現されており、テキスト入力など入力作業が中心の用途でも全く問題なく利用できると考えていい。
●メインメモリは1GBで増設不可能 では、Inspiron Mini 12の基本スペックを確認していこう。 CPUは、Inspiron Mini 9にも搭載されているAtom Nシリーズではなく、Atom Zシリーズとなる。今回試用した製品は、1.6GHz動作のAtom Z530を搭載する上位モデルだったが、1.33GHz動作のAtom Z520を搭載するモデルも用意される。チップセットはIntel System Controller Hub(SCH)で、仕様はMID向けプラットフォーム(Centrino Atomプラットフォーム)相当となる。 メインメモリは、標準で1GBのDDR2 SDRAMを搭載。メインメモリはSO-DIMMなどのメモリモジュールによって取り付けられているのではなく、CPUやチップセットが搭載されるモジュールに直接搭載されている。増設用のメモリスロットも用意されていないため増設は不可能だ。 内蔵ストレージは、60GBまたは80GBのHDDが搭載される。試用機では80GBのHDDが搭載されていた。ちなみに、本体底面はメモリ増設用などの窓は用意されておらず、内部を確認できなかった。デバイスマネージャによると、Samsung製の1.8インチドライブ「HS082HB」であった。速度はSSDよりも遅いが、容量ははるかに多く、アプリケーションのインストールやデータの保存にも心強い。 無線機能は、IEEE 802.11b/g対応の無線LANとBluetooth V2.1+EDRを標準で搭載する。拡張性が低いことを考えると、Bluetoothが標準で搭載されている点は嬉しい。また、無線LANに加えて、100BASE-TX対応の有線LAN機能も搭載する。 本体側面には、USB 2.0×3と、SDカード/SDHC/メモリースティック(PRO)/MMC対応の5-in-1カードリーダー、アナログRGB出力などを備える。拡張性自体は乏しいものの、USB 2.0が3ポート用意されている点は評価できる。 ●OSはVistaを採用し、やや動作が重い OSは、Windows Vista Home Basic SP1を採用する。SCHのWindows XP向けドライバが用意されていないことを考えると仕方のない選択なのかもしれないが、実際に使ってみると、メインメモリ搭載量が1GBということもあり、動作はかなり重く感じてしまう。ウィンドウやアプリケーションを開くときなど、常に1テンポ待たされるという印象だ。 当初、SCHはメインメモリの搭載量が1GBまでの対応であったが、9月に仕様が改訂され、2GBまでの対応へと拡張された。つまり、Inspiron Mini 12でも2GBのメモリを搭載して登場してもおかしくない状態だ。開発のタイミングが絡んでいるのかもしれないが、OSにWindows Vistaを採用するのであれば、やはり2GBのメインメモリを搭載してもらいたかった。 ただ、動作がやや重いという点以外は、特に大きな問題は感じない。SD解像度のWMVファイルの再生は特に問題を感じることはなく、YouTubeやニコニコ動画などの動画サイトにアップロードされている動画再生も問題はなかった。 また、HDクオリティの動画ファイルに関しても、30fpsのものであれば、H.264およびWMV9ともに比較的スムーズに再生できた。これは、SCHが持つ動画再生支援機能によるものだろう。ただし、全画面表示を行なったり、60fpsの動画ファイルを再生させた場合には、コマ落ちや映像と音声のずれが激しくなるようだ。このあたりは、SCHの動画再生支援機能の制限、またはパワー不足によるものと考えられる。このように、ある程度スムーズに再生できるファイルが限られるものの、HDクオリティの動画ファイルの再生も視野に入れられる点は嬉しい。 ところで、Inspiron Mini 12は、Inspiron Mini 9同様ファンレス仕様となっている。HDDは搭載しているものの、HDDの動作音もほとんど確認できないほどで、ほぼ無音に近い。これなら、図書館などちょっとした音でも気になる場所での利用も全く不安がない。また、ファンレスとはいっても、使用時に本体底面やキーボードなどが熱くなることもない。実際、ベンチマークテストを行なったり、動画ファイルを再生させるといった、比較的重い作業を行なっている場合でも、本体底面がほんのり温かくなる程度でしかなかった。
●バッテリ駆動時間は2時間前後 では、いつものようにベンチマークテストを、と言いたいところではあるが、Inspiron Mini 12はOSとしてWindows Vistaが採用されているため、他のAtom搭載ネットブックと直接ベンチマーク結果を比較できない。そこで、ベンチマークテストの結果は参考値としたい。利用したベンチマークソフトはFuturemarkの「PCMark05(Build 1.2.0)」と、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」だ。また、Inspiron Mini 12では、Windows Vistaパフォーマンス評価の結果も掲載しておく。 この結果のうち、Windows Vistaパフォーマンス評価の結果が、体感に近い値かもしれない。とはいえ、メインメモリが1GBしか搭載されていないことによる体感の重さが数値に表れていない点は考慮する必要がある。
*1:外部ディスプレイを接続し、表示解像度1,024×768ドットで測定
次に、バッテリ駆動時間の検証だ。こちらは、Inspiron Mini 9と同じように、液晶輝度は最大に設定し、無線LANおよびBluetoothも動作させた状態で、動画ファイル(WMV9、ビットレート1,156kbps、640×480ドット)をWindows Media Player 11を利用して連続再生させることで行なった。 結果は1時間42分と、Inspiron Mini 9よりもかなり短い数字であった。ただ、Inspiron Mini 12の標準バッテリは、容量24Whの3セルバッテリで、Inspiron Mini 9の4セルバッテリよりも容量が少なく、この結果も当然だろう。また、バックライト輝度を最低にし、無線LANとBluetoothをオフにして計測してみたところ、約2時間24分と40分ほどの延長が確認された。テスト条件が比較的過酷なこと、またバッテリ駆動時間のカタログスペックが最大3時間32分とされていることを考えると、ある程度納得できる数値ではあるが、これでもまだ少ないと感じる。本体重量がもう少し増えてもいいので、6セル大容量バッテリが用意されれば魅力が大きく向上すると思うので、今後のオプションの充実を期待したい。
●モバイル用途中心のサブマシンとして魅力 Inspiron Mini 12は、WXGA表示対応の12.1型液晶を搭載するとともに、扱いやすいキーボード、フットプリントは大きいものの薄く軽いボディと、モバイルノートとしての魅力はかなり大きい。OSとしてWindows Vistaを採用し、メインメモリが1GBしか搭載されないため動作が重いという弱点はあるものの、テキスト入力やWebアクセス、メールチェックといった比較的軽い作業であれば不満を感じることなく利用できるため、用途を絞れば問題ない。ただ、メインメモリを2GB搭載していれば、パフォーマンス的にもより満足できたはずであり、残念な部分だ。 また、上位モデルで99,800円、下位モデルで89,800円という価格(どちらも店頭先行販売モデルの価格)も議論となる部分だろう。比較対象をネットブックとした場合には、基本スペックがほとんど同じで液晶を大きくしただけに映り、かなり高く感じてしまうはずだ。しかし、比較対象を携帯性重視のサブノートとした場合には、Atom採用によってスペックや機能を抑え価格を半額近くまで下げている、と映る。どう捉えるかはユーザーによって変わってくるとは思うが、筆者としては後者の印象が強い。欲を言えば、あと1万円安いと魅力も一気に高まるが、今後デル直販サイトで購入できるようになれば、割引きキャンペーンが行なわれる場合もあると思うので、そちらを狙うのがいいかもしれない。 Inspiron Mini 12は、外出時のテキスト入力やメールチェック、Webアクセスなどに利用する、ビジネスモバイル用途のサブマシンとして捉えると、かなり幸せになれるマシンだ。液晶を拡大したことで、いわゆるネットブックとは異なる位置づけのマシンになったと考えるべきだろう。 □関連記事 (2008年11月7日) [Reported by 平澤寿康]
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