第433回
Netbookで動くWindows 7に見るMicrosoftの変化



 このところPC業界ではWindows 7とNetbookばかりが話題になっている。Netbookに関しては、思うところ(決して否定的というわけではない)もあるのだが、それは別の機会にして、今回はMicrosoft上級副社長のスティーブン・シノフスキー氏曰く「Windows 7は最近流行の低価格ノートPCでも動く」というコメントを拾って、実際にNetbookで動作させた話から始めることにしたい。

 加えてシノフスキー氏と共にWindows 7の開発を率いているWindowsコアオペレーティングシステム部門・上級副社長ジョン・デバーン氏へインタビューした内容も加えつつ、「Windows 7の印象がなぜ大きく改善されたのか」を考えてみることにしよう。

●UltimateでもHome Basicと変わらない操作レスポンス

 NetbookへのWindows 7のインストールは、ちょっとした工夫が必要になることもあるが、基本的にはとても簡単だ。それも当然で、Windows 7はWindows Vistaと基礎的なアーキテクチャがほとんど同じだからだ。

 前出のデバーン氏も話していたが、各種デバイスとの互換性や既存アプリケーションとの互換性などはVistaと基本的に同じだ。Vistaが発売された当初は、いくつかの新しい要素が原因で互換性に問題が発生することもあったが、現在はそのときよりもうまく動き始めている。今後、ドライバ、アプリケーションの両方でVistaとの互換性がさらに高まっていくことを考えれば、Windows 7の互換性はさらに高まっていくだろう。

 デバーン氏は「Windows 7は発売されたその日から、Vistaを引き継げる互換性がある」と話していた。つまり、現時点でVistaが動くPCは、そのままWindows 7も問題なく動くということだ。

Wind Netbook U100と2133 Mini-Note PCにWindows 7を入れたところ

 今回、MSIの「Wind Netbook U100」(Atom 1.6GHz、メモリ1GB、160GB HDD)と「HP 2133 Mini-Note PC」(C7-M 1.6GHz、メモリ2GB、160GB HDD)の2台を用意してWindows 7をインストールしてみた。使ったのはPDCで配布されたプリベータ版で、ビルド番号は「6801」。

 いずれもUSB DVDドライブからのクリーンインストールを実行した。両製品とも無線LANドライバが標準では組み込まれず、さらにMSIはRealtekのLANインターフェイスが動かないというトラブルがあった。

 とはいえ、HP 2133は有線LANを接続してWindows Updateをかけることで、MSI U100も本体付属CDのWindows XP用有線LANドライバを組み込んでWindows Updateを実行することで、充分に使えるレベルにまでドライバが自動で組み込まれた。組み込まれなかったのはMSI U100のBluetoothドライバだけだ。これも添付CDから組み込むことで動作した。(HP 2133のグラフィックスでAeroが半透明にならないのは、GPUが変わっていない以上、Windows 7でも同じだが)。

 ただしHP 2133はドライバはすべて組み込まれたものの、ACPIファンクションの非互換があるのだろうか。スリープ(Suspend to RAM)が利用できず、サスペンドする場合はハイバネート(Suspend to Disk)させなければならない。このあたりは来年末を目指している発売までには、当然、摺り合わせが進むに違いない。

 現在、我々に配布されているのは拡張Aeroが動作しないUltimate版、つまり既に完成しているサービスはすべてデフォルトで組み込まれるバージョンだが、Vista Ultimateに感じるような重ったるさはない。

 もちろん、Vistaを7にしたら、急にパフォーマンスが向上するといった魔法のような現象は起きないから、HP 2133でYouTubeを見ると、たまにコマ落ちしたり音にプツプツというノイズが伴うこともある。アニメーションの激しいFlashも重くは感じる。

 ただ、それはHP 2133にインストールされているVista SP2のHome Basicでも同じことだ。前述したようにUltimate相当のパッケージにもかかわらず、Vista Home Basicとさして変わらないと感じるのだから、何かしら改善が施されているのだろう。

 Windows 7が軽いと感じられるのは、おそらくメモリ管理が改善されているのと、操作レスポンスを向上させるためのチューニングが図られているのだと感じた。繰り返しになるが、Windows 7になったからと言って、非力なNetbookが軽々とメディア処理をこなすようになるわけではない。グラフィックスのパフォーマンスも同様だ。しかし、操作に対してレスポンスが機敏になり、結果として高速に“感じる”のだろう。

Atom N270のMSI U100なら、メモリは1GBでも大きなパフォーマンス上の障害も無かった U100のエクスペリエンス・インデックスの結果。この画面からは分からないが、従来の最高値5.9を超え、少なくとも7.9まで出るようになった。ハードウェアの進歩に合わせて上限値を変更した模様だ
現時点ではVistaと大きな違いは見られないWindows 7 の「Turn Windows features on or off(Windows機能の有効化もしくは無効化)」だが、コンポーネントの構成をユーザーごとにより深くカスタマイズ可能になるという システムチップセットがやや古いHP 2133では、さすがにグラフィックスのパフォーマンスが低くなるが、実際にはVista Home Basicを使っている場合と、さほど体感は変わらない

●動作させるコンポーネントをユーザーが選択可能に

ジョン・デバーン氏

 さて、デバーン氏には次のようなことも尋ねてみた。

 本誌の読者ならご存知の方も多いだろうが、実はWindows Server 2003以降、MicrosoftのサーバーOSはデフォルトで動作するサービスの数が絞り込まれ、インストール直後はとても軽々動作する。実際には試していないが、Netbookでも軽々と動作するだろう。

 Vistaでもデフォルトでスタートするサービスは吟味されているものの、思わぬところでバックグラウンドのサービスが動き始めることがある。たとえばWindows Media Playerを起動すると、背景でMediaサーバーのサービスが動いてしまい、再起動するまで動きっぱなしになるといったようなことだ。

 本来はVista Businessで充分な作業しかしないのに、Home Premiumが持つ機能の一部を使用したいからとUltimateにすると、全部のサービスがインストールされて、適時不必要なサービスまで動く。

 こうした事態を防ぎたいのだろう。インターネットには「不必要なサービスを止めて動作を軽くする」といった情報を掲載しているWebサイトがいくつも見られる。ところが、実際にこれらのWebサイトを見ていると、止めると将来的に困るのではないかと思われるサービスまで止めることを推奨しているケースがある。

 もし、Microsoftがユーザーに必要な機能/サービスを選択させるツールを提供すれば、必要なサービスを誤って止めてしまうことによるトラブルも少なくなり、OSが占有するメモリなども必要最小限にできる。

 エンドユーザー向けにいくつかのパターンをスキームとして提供し、OEMに対してはより細かなカスタマイズを行なえるツールを出して、インストールする機器ごとに最適化するといったアプローチがあってもいいかもしれない。

 これに対してデバーン氏は「ひとつにはメモリやCPUクロックを不必要なサービスが消費することに対する抵抗感はあるのでしょう。別の視点では、それら不要なものがストレージを消費してしまい、初期のNetbookのような小容量ストレージしか持たないPCで使いにくいという問題もあります。これらに対しては取り組む用意があります。すでに一部の考え方は、現行のWindows 7にも反映されています」と話した。

 Windows 7では、Vistaから変更されているWindows機能の有効化または無効化の機能へのアクセスがシンプルになっている。内容自体は変化していないが、この中で選べる機能グループを増やしていくアイディアがあるという。

 最終的にどこまでカスタマイズ可能になるかまでは言及しなかったが、常にユーザーが必要とする機能のグループ分けについては開発チームで議論しているとデバーン氏は答えた。

●Windowsのエコシステムを大切に

 NetbookでWindows 7がどこまで快適に動くかといったことは、あくまでもWindows 7の一面でしかないわけだが、デバーン氏と話していて感じたのは、MicrosoftがWindows 7の開発を行なう上で、実に謙虚に周りの意見を聞き始めたということだ。

 デバーン氏は「我々はWindowsのエコシステムを大切にしたい。Windowsを中心にして、Microsoftだけでなく、ソフトウェア、ハードウェアのベンダー、Windowsを対象としたネットワークサービス、それにさまざまな使い方をするエンドユーザーがエンタープライズからコンシューマまで幅広く存在する。関係する全員の利益となることを考えていかなければならない。これが私とスティーブン(シノフスキー氏)の基本的な考えです」と語りかけた。

 話をLonghorn時代に遡って、Longhornで掲げた理想をいったんは捨ててVistaになった経緯、Longhornの理想は今後、Windows 7よりも後のOSで実現しようと考えているのかといった話に水を向けると、デバーン氏は次のようにも話した。

 「Longhornでの失敗は、Microsoftの視点であらゆる新しい要素を取り込み、全く新しいコンピューティング環境を作ろうとしたことです。アイディアの中には一朝一夕には解決しない問題や、メモリ容量の増加やCPU、GPUの高速化といったハードウェアの進化を待たなければならない部分もあった。その面での予測が甘く、実現不可能なことをやろうとした。

 しかしWindows 7での我々のアプローチは違います。すでに多くの人たちがWindowsを使っている。そのユーザーの体験を壊してはいけませんし、新しい機能を無闇に追加することでパートナーのビジネスを壊してもエコシステムはうまく機能しません。Windowsに関わるすべての人に利点のある改良を、今後もしていきます。その中にはLonghornで検討していた機能、アイディアが別の形で実現されることもあるでしょう」

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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1029/mobile429.htm

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(2008年11月20日)

[Text by 本田雅一]


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