大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ソースネクストが「Uメモ」戦略で越えなくてはならない課題




●パッケージメディアをCD-ROMからUSBメモリに転換

このUSBメモリにソフトを入れて販売する

 ソースネクストが、同社のPCソフトに、新たな販売方式を導入した。

 同社が「Uメモ(ユーメモ)」戦略と呼ぶ、この方式は、その名の通り、これまでのCD-ROMに代えて、USBメモリ(Uメモ)に、ソフトを収録し、流通させるというものだ。

 「現在、USBポートは、ほぼ100%のPCに搭載されている。しかも、今後の市場拡大が期待されるUMPCやネットブックといったノートPCには、CD-ROMドライブが搭載されていないものが多い。USBメモリであれば、ほぼすべてのPCで使える環境にあることに加え、CD-ROMに比べて、アクセスが速いこと、音が静かであること、メモリとして二次使用できるなど、さまざまな観点でメリットがある」と、ソースネクストの松田憲幸社長は語る。

 ソフトウェアが新たなメディアにシフトする場合、その多くがハードの普及と並行して、推進されることになる。Blu-rayが、ハードの普及を進めながら、ソフトが品揃えされているように、である。

 だが、USBの場合は、'98年にPCに標準搭載されはじめて以来、10年の歳月を経て、現在では、一部の企業向けPCを除き、ほとんどのPCに搭載されている。

 「メディアシフトの際に、ハードの普及が100%というケースは、極めて稀なこと。最高のタイミングで、メディアシフトができる」とする。

店頭での展示例。パッケージが小さくなるので、従来より省スペースで多品種が展示できる

 同社の調査では、CD-ROMドライブありのPCを所有しているユーザーでは、77.2%がPCソフトを購入し、インストールした経験があるとしているのに対して、CD-ROMドライブなしのPCを所有しているユーザーでは、47.8%のユーザーしか経験がない。

 「ドライブがないことで、ソフトウェア購入に30ポイントもの差が出ている。USBメモリにすることで、この問題を解決でき、ソフトの購入を促進することができるはず」と期待を寄せる。

 ソースネクストでは、これまでにも、コモディティ化戦略として、ソフトの低価格化、販売ルートの拡大、スリムパッケージの採用、自動インストール機能の搭載、更新料0円の導入といった各種施策を打ち出してきた。

 今回のUメモ戦略は、これに続く、「次の常識」として、新たに提案するものといえる。

 フロッピーディスク(FD)の販売を行なったことがないソースネクストは、これまでは、CD-ROMによる販売か、ネットによるダウンロード販売に限定して行なってきた。「当社にとっては、初めてのメディアチェンジになる。ラインアップを一気に増やし、将来的には、Uメモに一本化することも視野に入れたい」(松田社長)とする。

 まずは、ウイルスセキュリティZEROなど7タイトルを9月5日に発売。第2弾として10月3日に17タイトルを追加投入し、年内には30タイトルにまで拡大する考えだ。

●一気にUSBメモリの大手に進出

ソースネクスト 松田憲幸社長

 ソースネクストでは、今回のUメモ投入によって、これまでのPCソフト売り場だけではなく、パソコン本体売り場、周辺機器売り場でも、ソフトを販売していきたいとする。

 ここで注目したいのが、今回のUメモ戦略において、ソースネクストが、USBメモリの主要ベンダーに躍り出る可能性があるという点だ。

 2007年におけるUSBメモリの国内出荷規模は、年間1,000万本と言われている。

 同社では、初年度の計画として、100万本のUメモ出荷を予定しているが、この目標数字を当てはめると、いきなり、約1割のシェアを獲得することになる。

 しかも、「100万本は控えめな数字」と、松田社長は語る。

 「大手量販店からの事前の引き合い状況を見ると、現在のところ、約7割がUSBメモリ。CD-ROMはわずか3割になっている。我々の予想以上に、USBメモリへのシフトが早いと見られる。ソースネクストは、年間に500万本のソフトを販売している実績があるが、もし6割をUSBメモリが占めれば、年間300万本の規模になる」というわけだ。

 2008年はUSBメモリの市場規模そのものが、さらに拡大するだろうが、300万本を出荷すれば、USBメモリ市場における存在感が大いに発揮されることになる。

 松田社長は、「これを機に、サプライ市場に参入するつもりはまったくない」とするが、ソフトのラインアップ拡充にあわせて、周辺機器売り場において、ソースネクストブランドの製品展示が広がる可能性は捨てきれない。

●原価上昇、調達など新たな課題

「次の常識」と新しい試みを訴求する

 もう1つポイントとなるのは、粗利率の問題だ。

 Uメモ戦略では、CD-ROM版の価格を据え置き、同じく4,980円で販売する。

 CD-ROMとUSBメモリでは、当然のことながら、調達原価に大きな差がある。もちろん、USBメモリの方が高いのだ。

 だが、松田社長は、調達コストの大きな差を認めながらも、「仮に、1本あたりの粗利率に10%以上の開きがあったとしても、売り上げが20%増加すれば、これを相殺できる」と語る。

 Uメモのソフト1本あたりの利益率は明らかに減少している。だが、USBメモリへと媒体を変更することで、販売数量を増加させ、全社規模での利益は減少させないというのが松田社長の考え方だ。

 「これまでにも、1万円以上したソフトを1,980円で売るということに取り組んできた。これと同じこと」として、収益確保にも自信を見せる。

 もう1つのポイントは、USBメモリの調達という、新たな舵取りが求められていることだ。

 CD-ROMメディアの場合には、安定的な調達がしやすいが、メモリの場合は、需要変動にあわせた安定的な調達や、調達価格の変動といった要素が加わることになる。

 「確かに、その点ではこれまでとは違う仕組みが必要になる」と松田社長も語る。

 9月5日に発売日を設定したのも、実は、一定数量のUSBメモリを調達するという準備に時間がかかったためだ。

 「メモリの調達価格は上昇するということは、まず考えられないだろう。だが、値下がりの動向を見極めながら、どのタイミングで、どの程度、メモリを調達するのかといったことは視野に入れなくてはならない」

 USBメモリそのものがコモディティ化していることから、調達ができなくなるといったことはないだろうが、CD-ROMメディアの調達よりも、神経を使った形で調達していく必要がある。そして、メモリ不足で、ソフトが出荷できないということがないように、急激な需要増に柔軟に対応できる体制づくりは、不可欠となるだろう。

 なお、当初のUSBメモリは、トランセンドジャパンが供給しているが、同社のサイトでは「ハードウェアの提供元は、状況に応じて変更する可能性があります」と記述されている。

 また、CD-ROMメディアの場合は、プレスによる量産ができるが、USBメモリの場合は、一本ずつ書き込む必要があり、量産するのに時間がかかるという欠点もある。

 同社では、「これまでとは異なる納期管理が必要になる」として、長期で生産スケジュールを敷いていることを明かす。

 ソースネクストの生産委託先では、1台で10本のUSBメモリへの書き込みができるデュプリケータを納入。当初は10台だったものを30台体制に拡大し、量産対応を図っている。

 「一本あたりの書き込みにはそれほど時間はかからない。今後、需要増加にあわせて、デュプリケータを増設していくことになる」と同社では説明する。

 Uメモ戦略は、いつくかの観点から、これまでのソフトメーカーとは異なる要素が求められる。

 今回の製品発表で、松田社長は「次の常識」という言葉を使った。

 それはソフトメーカーに求められる要素が変わるという点でも、「次の常識」といえるかもしれない。

□ソースネクストのホームページ
http://www.sourcenext.com/
□製品情報
http://www.sourcenext.com/titles/usb/
□関連記事
【8月27日】ソースネクスト、PC用ソフトをUSBメモリで販売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0827/sourcenext.htm

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(2008年8月28日)

[Text by 大河原克行]


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