米Appleが現地時間7月21日に発表した2008年度第3四半期の業績は、売上高が74億6,000万ドル。発表文の中に、スティーブ・ジョブズCEOのコメントとして、「Appleの歴史の中で最高の4~6月期売上高と利益を報告できたことを誇りに思う」と記載されたように、好調な結果となった。 それを支えるのが、Macintoshの売り上げだ。日本でも発売になり、大きな話題を集めたiPhoneの販売台数も前年同期の27万台から71万7千台、iPodの出荷台数も前期比12%増の1,101万1千台と伸張しているが、Macintoshの出荷台数は41%増の249万6千台。四半期の出荷実績としては過去最高となった。 Macの出荷が好調な要因はどこにあるのか。iPhone、iPodといった機器の売り上げが好調であることが要因となっているのか? それとも別な要因があるのか? 販売店、販売データからその要因を探った。 ●売り上げ好調の要因はBoot Camp 最初に紹介したAppleの最新業績は、2008年4月~6月のもので、7月に全世界で発売になったiPhone 3Gの販売データは含まれていない。最新の販売動向を知るために、販売店で顧客の動向を聞いてみた。 秋葉原にあるヨドバシカメラ マルチメディアAkibaは、7月11日のiPhone販売開始の際には、東京地区の基幹店舗の1つとなった。
「Macの売り上げは好調です。伸張しています」と断言するのは、高橋克仁マネージャ。ただし、その要因は「iPhoneではありません」という。ではMac伸張の要因はどこにあるのか。 「昨年(2007年)10月、Mac OS X Leopardが発売されて以来、売り上げが大きく伸びています。それまでベータ版だったBoot Campが、正式な機能の1つとして提供されるようになった。これをきっかけにMac購入者が増えたのです」。 ご存知の通り、Boot CampはIntelベースのMacでWindowsを利用可能にするソフトウェア。2006年4月時点でベータ版が公開されていたが、「自分でダウンロードしてインストールしなければならなかったため、利用するにはハードルが高いと感じていたユーザーが多かったようです。それがLeopard発売によって、あらかじめOSの機能の1つとして提供されるようになり、利用者が急増したのです」と高橋マネージャは説明する。 Leopard発売直後、Boot Campの影響でMacの売れ行きが伸びたことは明らかになっていたが、その傾向は現在でも継続しているようだ。 「Leopard発売直後はビジネスマンが目立ちましたが、今春には学生の購入者も多かったです。大学の授業内でPCが必要になり、Windowsも動作することからMac購入を決める学生さんも多かったですね」(高橋マネージャ)。 ヨドバシカメラでは、代表的なWindowsソフトがBoot Camp上で問題なく動作するのか確認しており、「Word、Excelといった基本的なソフトはもちろん、学生さんから要望があるアドビのソフトも動きます。グラフィックボードとチューナに関しては、合う、合わないがあるため確認が必要ですが、それ以外に関しては問題はほとんど起こっていません」という。 もちろん、企業の独自ソフトなど検証が必要なものはあるだろうが、特別なソフトを使わない場合、問題は少ないようだ。こうした現状を把握し、自宅に置くマシンとして問題はないと認識したユーザーが多いことがMacの売れ行き好調を支えているようだ。
●シェア向上の課題はノートの品揃えか 全国の量販店、PC販売店のPOSデータをまとめ、販売データを算出するBCNランキングでは、Macの売れ行きはどうか。 前年同月の比較で見ると、デスクトップに関しては既報通り、2007年8月から2008年7月まで12カ月間連続で2桁増が続いている。ノートはデスクトップには及ばないものの、2007年7月から2008年7月までの13カ月間で前年を割ったのは2007年9月と2008年6月の2回のみ。 Windowsデスクトップ、Windowsノートに比べると売れ行きが好調なのは明らかだ。 特に数字が大きく躍進するのは、新製品発売直後。Macの場合、スペックに対して思い切った価格設定となっているため、発売直後から販売台数が急増する傾向がある。製品によっては供給数が足りずスタートダッシュとならないものもあるが、数字が大きく伸びた月のほとんどが新製品発売月と重なっている。 ただし、メーカー別シェアはそれほど大きな成果は残せていない。 デスクトップに関しては、2008年5月、6月、7月と3カ月連続で2桁シェアを獲得しているものの、ノートは2007年7月から2008年7月までの13カ月間で、最大シェアは2007年11月の4.7%。5%を超すシェアを獲得した月はない。 このノートのシェアが伸び悩んでいることが影響し、デスクトップ、ノートを合算したシェアは2桁に届かない。今後、シェアを拡大するためにはノートでのシェア拡大が必要となる。 米国メーカー別PCシェアは、2008年第2四半期にAppleがシェアを伸ばし、3位に躍進したという調査会社の速報も出てきているが、BCNランキングのデータでは、日本のアップルのシェアはそこまでは伸びていない。シェアの躍進という点では、アップルよりもASUSの動きの方が目覚ましいくらいだ。 もっともBCNランキングのデータには、アップルストアの販売データは含まれていない。アップルストアの数値が加わればアップルの国内シェアはもう少し上昇する。
●個人向けは少ないPCと携帯端末との連携サービス
ところでMacとiPhoneとの連動だが、両方を販売するヨドバシカメラでも、「現段階ではMacとiPhoneのセット販売を促進するような売り方は考えてない」という。 iPhoneはアップルが作ったハードウェアとはいえ、iPhoneはソフトバンクモバイルが販売する商品。PCとセットで売るといった仕掛けはしにくいところもあるようだ。 また、「そもそも、iPhone以外の携帯端末、例えばウィルコム製品などについても、PCとの連携を目的にPCを購入するというお客様はまだ少ないように感じています。携帯端末単体の機能で十分と考える人が多いようです」(高橋マネージャ)と、ユーザー側がPCとの連携を望んで購入する例が少ないという販売現場の声もある。 この背景としては、個人が利用できるPCと携帯端末の連動サービスがまだまだ少ないことが挙げられる。 アップルは個人でも利用できるサービス「MobileMe」を開始した。このサービスの発表文には、「家庭ユーザー向けMicrosoft Exchangeサービス」とある。この説明からもわかるように、PCと携帯端末を連動するサービスは企業向けのものが中心。アップルがiPhone 3G発売とほぼ同じタイミングで個人が利用できるMobileMeをスタートしたのはまさにグッドタイミングといえる。こうしたサービスの種類がもっと増えて、単にPCのメールを携帯端末に転送するのではなく、同期させるということが認識されるようになった段階になってはじめて、PCとiPhoneのような携帯端末との連動を行なうユーザーが多くなるのかもしれない。
ところで、ソフトバンクの孫正義社長は8月5日に開催された決算会見で、「中国出張に行った際、メールは全てiPhoneで処理し、ノートPCは一切開かなかった」と豪語した。だが、会場内でiPhoneを持っている人は相当数いたが、「私のように、会社のメールとiPhoneを同期させて使っている人は?」という孫社長の問いに手を挙げたのはわずか2人。孫社長は、「この状況はこれからどんどん変わる」と言い切ったが、そのための準備はソフトバンク自身の手でもっと進めていかなければならない。 個人で買ったiPhoneを会社のシステムと同期させるためには、情報システム部門の了承などいくつかの障壁を乗り越える必要があるためだろう。ソフトバンクモバイルが、「8月中には開始予定」という法人販売開始後、本格的な企業導入が始まらなければ、会社のメールとの同期を行なうユーザーも増えることはないだろう。 iPhoneをPCと連動し利用するユーザーが増えるか否かも、こうしたサービスの充実と普及にかかっている。 □Appleのホームページ (2008年8月12日) [Reported by 三浦優子]
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