国内におけるアップルのシェアが、着実に上昇している。 全国2,300店舗の量販店およびPC専門店のPOSデータを集計しているBCNの調べによると、2007年第4四半期のデスクトップPC市場全体では、前年同期比13.6%減と、2桁のマイナス成長となっているのに対して、アップルのデスクトップは42.9%増という高い伸びを見せている。また、ノートPCの販売台数は、PC市場全体が3.6%増となっているのに対して、対前年同期比20.9%増。いずれも、特筆できる伸び率となっているのだ。 この勢いは、今年に入ってからも継続している。さらに、BCNの集計には含まれていない直営店舗のアップルストアや直販サイトの数字を含めると、その勢いはさらに加速しているとも見られる。 話題のMacBook Airは、品薄の影響もあり、それほど、シェア向上に寄与しているわけではないが、個別製品による瞬発的なシェア上昇ではないところに、むしろ、アップルのシェア向上が、大きな流れとなっていることを感じざるを得ない。 ●東京圏での動きが「飛躍の方程式」 BCNのデータを細かく見てみると、さらに興味深い動きを捉えることができる。 東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)というカテゴリーでは、アップルのシェアがさらに上昇するのだ。 2007年10月の東京圏におけるデスクトップPCのシェアをみると、19.2%を獲得したアップルがトップシェア。11月には、富士通に0.1ポイント差で首位を奪われたものの、年末商戦が本格化した12月には、19.0%となり再度トップシェアを獲得。1月も18.2%のシェアを獲得し、2位を確保している。東京圏のデスクトップPC市場では、アップルが首位を争う位置づけなのだ。 もちろん、この数字は、かなり絞った領域におけるものだ。 だが、かつてのiPodの広がりが、東京圏で盛り上がったあとに、地方へと広がっていった経緯があり、アップルにとって、東京圏でのシェア上昇は、いわば飛躍の方程式ともいえるもの。Macintosh本体でも、iPodと同様の傾向が出ていると、日本法人社内では判断しはじめている。
●BootcampでWindowsユーザーを取り込む
アップルの動きが好調な背景にはいくつかの理由がある。 1つは、Mac OS X Leopardから標準搭載されたBootcampによって、Windows環境がMacintosh上でも実現できるようになった点だ。 かつて、アップルは、「MacintoshはPCとは異なる製品」ということを積極的に訴えていた時期があった。だが、ここ数年は、Windows PCで使用していた周辺機器が利用できることや、BootcampによるWindows利用など、Windows環境と差がないことを訴え始めている。 言い換えれば、WindowsユーザーがMacintoshに移行しやすい環境が整い、それを前面に打ち出しているのである。 WindowsユーザーのMacintosh購入が増加していることが、シェア拡大につながっていると、アップルでも判断している。 2つめには、ExcelやWordというマイクロソフトのOfficeアプリケーションがMacintosh上でも動作することが、認知されてきたことだ。Macintoshユーザーや、PCに詳しいユーザーならば、周知の事実ではある。 しかし、アップルストアや量販店店頭では、マイクロソフトがMacintosh用にOfficeパッケージを用意していることに驚く来店客は多い。また、互換性があるとは言っても、Officeのファイルを開くといった程度だと誤解しているユーザーも少なくない。実際にはファイルの編集も可能で、ある程度、MacintoshとWindowsで相互運用が可能になっている。 店頭に、Macintosh用Officeパッケージを展示したり、店員が説明するなどの仕掛けが、誤解の払拭に役立っている。量販店店頭に、アップル製品の説明を行なえる店員が増えていることも、これを後押ししている。 ●Macintoshは安いか、高いか
そして、3つめには、同等性能のWindows PCに比べて、Macintoshの方が安いという事実が、少しずつではあるが伝わってきたことだ。 ある調査によると、Macintoshの新製品に対しては、機能、デザイン、ライフスタイルの提案においては、他社のPCに比べても高い評価を得ているものの、価格については、最も評価が低い。 だが、最近のMacintoshを、同等性能のWindows PCと比較してみると、Macintoshの方が安いことがわかる。しかも、MacintoshがIntel CPUを搭載しはじめてから、その比較がしやすくなり、より低価格ぶりが明らかにしやすくなっているのだ。 例えば、2月26日から出荷を開始した新MacBookは、国内大手PCメーカーのCore 2 Duoを搭載したWindows PCと比べても、数千円から数万円も低価格となっている。 それに気がつきはじめたユーザーが、Macintoshを選択肢のなかに入れ始めているのは明らかだ。 しかし、アップルにとって、「Macintoshは高い」という印象を払拭する努力はこれからも必要だろう。 ●学生向けにiPod分をキャッシュバック
一方で、アップルの営業施策、マーケティング施策の成果も、シェア拡大の要素として見逃せない。 なかでも、アップルが、全国の量販店と組んで展開している「AppleのShop」は、国内におけるシェア拡大を下支えしている。 2007年3月に、ビックカメラ有楽町店に第1号店をオープンしたAppleのShopは、インショップ形式のアップル専門コーナー。直営店のアップルストアと同じ展示用什器を使用し、トレーニングされた店員が対応するという仕組みを採用している。これが店頭でアップルの製品にじっくり触れる場の提供につながっている。 現在、「AppleのShop」は、北海道から沖縄まで19店舗を擁し、今後も拡大していく予定だという。 さらに、各種キャンペーンによる販売促進も見逃せない。 例えば、アップルが2月6日からスタートしている教員、学生を対象にしたキャンペーンでは、Macintoshを学割で購入できるのに加えて、iPodを一緒に購入すると17,800円がキャッシュバックされる。この17,800円という金額は、iPod nanoの4GB版の価格と同じ。つまり、iPodが無料でついてくるのと同じ計算になる。 メーカーが直接、学割を用意しているケースはアップル以外にはない。こうした施策もシェア拡大に少なからず影響している。 ●影響力が少ないMacBook Airの動き
ところで、注目を集めるMacBook Airの動きはどうなのか。 BCNの調べによると、ノートPCにおける機種別シェアでは1%以下で推移。順位も毎週40~50位台に留まっており、決して市場への影響力が高いというわけではない。 しかも、2月中旬までは2週間待ちという状況が続き、ここにきて、ようやく5~7日待ちの状況に改善されてきたばかり。他の製品が「24時間以内」などとなっていることに比べると、まだ品薄が続いているといわざるを得ない。この品薄が解消されれば、もう少しシェアが拡張するだろうが、市場が思っているほど売れてはいない。 ただし、注目しておきたいは、Windowsユーザーからの移行が目立つことだ。 アップルによると、「アップルストアでMacBook Airを購入しているユーザーの約半分がWindowsユーザーの新規購入。残りがMacintoshユーザーという感触がある」という。 大量のテレビCMによるインパクトが大きく、一度MacBook Airを見てみたいというユーザーがアップルストアや量販店を訪れ、その薄さを体感。さらに、先に触れたように、Windows環境を実現できることなどを知って、Windowsユーザーが購入していくという例が増加しているのだという。 「Macintoshワールドで、CEOのスティーブ・ジョブズが茶色の封筒から出したシーンを見ている方々にとっては、あのCMが、それを真似たものであることを知っているが、一般視聴者にとっては、本来、PCが入っていないと思われる封筒という意外なところから登場するインパクトがあまりにも強いようだ」と、テレビCMが、MacBook Airの注目度を高めていることを強調する。 ●世界的に好調なMacintoshの動き 1月に米国本社が発表した同社2008年度第1四半期(10~12月)の業績によると、同四半期のMacintoshの全世界の出荷台数は231万9千台、前年同期比44%増という高い伸びとなっている。日本でも、BCNのデータからもわかるように、市場全体がマイナス成長であるにも関わらず、Macintoshは30%以上の高い伸びを達成している。 アナリストなどの予想によると、第2四半期にはMacintoshの生産台数が減少する見通しが出ているが、日本法人においては、10~12月に前年同期比30%以上という成長を達成した勢いを、そのまま継続的に維持していきたいとの雰囲気が広がっている。 アップルの飛躍の方程式ともいえる東京圏での成功をベースに、今後は、どんな成長曲線へとつなげていくつもりなのか。今後の日本での施策が注目されるところだ。 □関連記事 (2008年3月3日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
|