1月の発売と同時に、日本でも低価格ミニノートのブームを巻き起こしたASUSTeK Computerの「Eee PC 4G-X」。その後、台湾や米国などでは、8.9型ワイド液晶を搭載し、SSDを大容量化した第2世代モデル「Eee PC 900」が登場しているが、日本では発売が見送られていた。 このたび、日本におけるEee PX 4G-Xの後継モデルとなる「Eee PC 901-X」がついに登場することとなった。Eee PC 901-Xの製品版をいち早く試用できたので、従来モデルとの比較を中心に仕様をチェックしていくことにしよう。 ●CPUにAtom N270を採用し、パフォーマンスアップ Eee PC 901-Xは、COMPUTEX TAIPEI 2008に合わせ、6月3日に発表されたEee PCの最新モデルだ。COMPUTEXのレポート記事でも紹介しているとおり、Eee PC 901-Xの最大の特徴となるのが、CPUにIntelの省電力CPU 「Atom N270(1.6GHz)」を搭載する点だ。 Eee PCにAtomが採用されたことで期待されるのが、パフォーマンスとバッテリ駆動時間の向上だろう。というわけで、今回は始めに、この点をチェックしていきたいと思う。 まずはパフォーマンスだ。最初に、ベンチマークテストの結果からチェックしていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と、HDBENCH.NETの「HDBENCH Ver3.40beta6」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」の3種類。各テストは、ASUS独自の省電力機能「Super Hybrid Engin」の設定を、最大パフォーマンスとなる「Super Performance Mode」に設定した上で実行している。また、比較として、従来モデルであるEee PC 4G-Xと、台湾版Eee PC 900の結果も掲載する。 結果を見ると、Eee PC 4G-Xに対して大幅なパフォーマンス向上を実現していることがわかる。CPU単体のパフォーマンスはもちろん、チップセットがIntel 945GSE Express+ICH7Mとなったことで、メモリ、グラフィックなども1.5~2倍ほどパフォーマンスが向上している。CPUの動作クロックが向上しているEee PC 900との比較では、その差はそれほど大きなものではないものの、メモリやグラフィックなど、確実にパフォーマンスが向上していることがわかる。 ただし、実際にマシンを使ってみた時の体感では、ベンチマークテストの結果ほどのパフォーマンス向上は感じられなかった。もちろん、Windowsの起動やアプリケーションの起動が従来よりも確実に速くなっているだけでなく、操作中のもたつきもかなり減っている。また、AtomがHyper-Threading Technologyに対応しているため、ファイルコピー中にアプリケーションを利用するなど、複数の作業を同時に行なうときの快適さもかなり向上している。それだけでもAtom搭載の効果が十分に発揮されていると言えるのだが、もともとの期待が大きかったせいか、この程度かといった印象の方が強かったのだ。 とはいえ、従来モデルに比べてパフォーマンスが向上し、何か作業を行なおうとするとしばらく待たされるというような、イライラする感覚は確実に減っている。コストとパフォーマンスのバランスは確実に向上したと考えて差し支えない。 【Eee PC 901のベンチマーク結果】
●バッテリ駆動時間も向上 次にバッテリ駆動時間だ。Eee PC 901-Xのバッテリ駆動時間は、カタログ値で約8.3時間と、従来モデルの2倍以上に向上しているとされている。実際に計測してみた。 計測は、Eee PC 900のレビューで行なった方法と同じで、動画ファイル(WMV9/ビットレート1,156kbps/640×480ドット)をWindows Media Player 11で連続再生させることで行なった。液晶輝度は最大に設定し、無線LANおよびBluetoothも動作させた状態、かつ省電力機能「Super Hybrid Engine」の設定も最大パフォーマンスとなる「Super Performance Mode」に設定した状態と、最も厳しい設定で計測している。ちなみに、この状態でのCPU使用率は、常に55~65%を推移していた。比較として掲載したEee PC 4G-XおよびEee PC 900も、ほぼ同等の設定で計測したものだ。 結果は、Eee PC 901-Xは約3時間26分と、Eee PC 900に対して約44分、Eee PC 4G-Xに対して約51分のバッテリ駆動時間延長を確認した。 【Eee PC 901のバッテリ駆動時間】
Eee PC 901では6セル仕様の大容量バッテリ(容量6,600mAh)を標準採用している。これは、Eee PC 4G-Xのバッテリ容量5,200mAhと比べると、1.27倍の容量増だ。バッテリ駆動時間の比率は約1.33倍。Eee PC 901-Xでは液晶の大型化に加え、無線LANとBluetoothも動作させた状態なので、バッテリ容量増以上の伸びを実現していると考えていいはずだ。 今回計測したバッテリ駆動時間を長いと見るか短いと見るかは判断の分かれるところかもしれないが、筆者は十分長いと感じる。それは、伸びしろがEee PC 4G-XやEee PC 900よりも大きいと判断できるからだ。
ASUS独自の省電力機構であるSuper Hybrid Engineでは、計測時に設定した最大パフォーマンスモードとなる「Super Performance Mode」に加え、パフォーマンスとバッテリ駆動時間のバランスを重視した「High Performance Mode」、最大のバッテリ駆動時間を実現する「Power Saving Mode」、動作状況に応じて設定を自動的に変化させる「Auto Mode」が用意されている。当然、Super Hybrid Engineで省電力モードに設定したり、液晶輝度を落とせば、より長いバッテリ駆動時間を実現できることになるのは間違いない。また、無線LANやBluetoothを切ったりすれば、バッテリ駆動時間はさらに延びるはずだ。 動画ファイルを連続再生させるという過酷な使い方でなければ、無線LANやBluetoothを切り、省電力機能を有効に活用することで、少なくとも5時間は余裕でクリアするものと思われる。そう考えると、バッテリ駆動時間は十分に満足できる数字が実現されたと言っていいのではないだろうか。 ●Eee PC 900と同じ8.9型ワイドTFTを搭載
Eee PC 901-XのAtom採用に並ぶ特徴となるのが、8.9型ワイドTFT液晶を搭載しているという点だろう。これは、Eee PC 900に搭載されているものと同じもので、フタの中央に小さく取り付けられていたEee PC 4G-Xの液晶パネルと比較すると、サイズ以上に大きくなったという印象だ。 表示解像度は1,024×600ドットと、こちらもEee PC 900のものと同じだ。Eee PC 4G-Xでは、液晶の表示解像度が800×480ドットと狭く、画面表示に関して妥協しなければならない点が非常に多かったが、Eee PC 901-Xでは多くの作業を快適に行なえるようになった。特に、Webアクセス時に水平方向のスクロールを多用しなくて良くなった点はかなり嬉しい。 また、表示品質もかなり改善されている。台湾版Eee PC 900のレビューでも表示品質の向上をお伝えしたが、Eee PC 901-Xの液晶も同等の表示品質を備えている。より自然な発色を実現しているだけでなく、視野角も向上しており、ぱっと見比べただけでも明らかに表示品質が向上しているとわかるほどだ。個人的には、液晶の大型化と高解像度化、表示品質の向上は、パフォーマンスの向上よりも魅力に感じる。サブノートクラスの一般ノートPCにも匹敵する、十分満足できる表示環境を手に入れたと言っていいだろう。 しかも、日本向けのEee PC 901-Xには、液晶に輝点があった場合にパネルを交換してもらえる「ZBDサービス」が付与されている。ノートPCを買って、液晶に輝点やドット欠けがあると非常に悲しい気分になるが、Eee PC 901-Xならそのような心配は一切ないというわけだ。これは非常に嬉しいサービスといえる。
●本体はやや大きく重くなった 今回試用したEee PC 901-Xは、本体カラーがファインエボニー(光沢ブラック)のモデルだ。Eee PC 4G-Xのギャラクシーブラックモデルは、プラスチック感満点のボディだったが、Eee PC 901のファインエボニーモデルは、本体表面が光沢処理されていることもあり、見た目にかなり高級な印象を受けるようになった。光沢処理が施されているのは天板とキーボード面のみで、液晶面と底面はつや消しとなっている。 また、天板部分と液晶下部にあった「ASUS」ロゴがなくなり、天板の隅に「Eee」、また液晶下部には「Eee PC」と表記されるように変更されている。 本体サイズは、225×175.5mm×22.7~39mm(幅×奥行き×高さ)と、横幅こそ同じだが、Eee PC 4G-Xより奥行きが11.5mm、厚さが2mmほど増え、若干サイズが大きくなっている。といっても、コンパクトさが大きく損なわれたというほどではない。 本体サイズの大型化に加え、本体重量も重くなっている。Eee PC 4G-Xでは、約920gと1kgを切っていたが、Eee PC 901-Xでは1,128g(実測値)と200gほど重くなり、1kgを大きく超えてしまっている。Eee PC 4G-Xと手に持って比較しても、明らかにずっしりと重くなっている。 この重量増の要因のひとつは、搭載バッテリの大容量化だ。既に紹介したように、Eee PC 901-Xのバッテリは6セルタイプと大容量化を実現しているのと同時に、重量も325.5g(実測値)とEee PC 4G-Xのバッテリより100gほど重くなっている。それ以外にも、液晶や本体の大型化によって、トータルで200gほどの重量増となっているわけだ。 確かに本体サイズが大きく重くなった点は、少々残念ではある。とはいえ、軽量なバッテリを搭載することで本体の軽量化を優先し、逆にバッテリ駆動時間が短くなってしまっては使い勝手も大きく損なわれる。200gほどの重量増で、パフォーマンスの向上や液晶の大型化、バッテリ駆動時間の向上を実現していると考えれば、十分納得できる範囲内ではないだろうか。 本体に用意されているインターフェイス類は、若干配置が変更されている部分があるものの、基本的に変更点はない。本体左側面には100BASE-TX対応のLAN端子とUSB 2.0×1、マイク/ヘッドフォン端子が、本体右側面にはSDカードスロットとUSB 2.0×2、ミニD-Sub15ピン、電源コネクタがそれぞれ用意されている。 ●SSDは標準12GBに CPUやチップセットは、既に紹介したようにAtom N270とIntel 945GSE Express+ICH7Mに変更。メインメモリは従来通り標準でPC2-3200 DDR2 SDRAM(DDR2 400)を1GB搭載し、最大2GBまで搭載可能。そして、SSDはEee PC 900同様に12GBに増量されている。ただし、12GBが1ドライブで提供されているのではなく、4GBのCドライブと8GBのDドライブの2ドライブ構成になっている点もEee PC 900同様だ。 ちなみに、Eee PC 901-Xには、20GBのWebストレージサービス「YoStorage(Eee Storage)」を無料で利用できる権利が付属している。もし12GBの容量で足りないようなら、こちらを活用するのもいいだろう。 無線機能は、IEEE 802.11b/g/n(ドラフト2.0)対応の無線LANとBluetooth 2.0+EDRを標準搭載。無線LANがIEEE 802.11nドラフト2.0に対応した点は、速度の面で魅力が大きい。また、Bluetooth 2.0+EDRも、キーボードやマウス、ヘッドセットなど各種周辺機器を利用しやすくなったという点で嬉しい変更点だ。 キーボードは、従来モデルと全く同じ仕様の日本語キーボードを搭載。配列やピッチなどに変更はなく、従来モデルを使っていた人なら違和感なく移行できるだろう。 それに対しポインティングデバイスのタッチパッドは、面積が2倍近くに大型化されている。また、クリックボタンが左右に分割されたことで、使い勝手も向上している。スクロールは、指2本をパッド上で動かすことで行なうようになっている。 ただし、パームレストとタッチパッドがほぼ段差なく配置されているため、クリックボタンに置いた指がタッチパッドに触れやすく誤操作を起こしやすい点は少々気になった。また、Eee PC 900に搭載されていた、複数の指を使って操作するマルチフィンガー・ジェスチャーが搭載されていない点も残念だ。ちなみに、ASUSのサポートサイトで配布されている、Eee PC 900用のタッチパッドドライバをインストールすると、マルチフィンガー・ジェスチャー機能も利用できたが、保証外の利用となるため、自己責任で試してもらいたい。 付属品は、ACアダプタとUSBマウス、キャリングケース、そしてクリーニング用のクロスだ。このうちUSBマウスは日本向けモデルのみの付属品で、Eee PC 4G-Xに付属していたものと同じものだ。 ●分解してみました
では、本体の内部を見てみることにしよう。まず、底面のフタを外すと、SO-DIMMスロットとSSDカード、無線LANモジュールが見える。SO-DIMMモジュールとSSDカードは簡単に取り外しが可能。ちなみに、SSDモジュールが取り付けられている部分には、1.8インチHDDを搭載できると思われる凹みがあるとともに、マザーボード側にも1.8インチHDD用と思われる接続端子が存在している。1.8インチHDDを搭載してストレージの大容量化を実現できる可能性が高く、試してみる価値は大いにありそうだ。 次に、本体カバーを外してマザーボードを取り出してみた。マザーボードのキーボード面中央付近には、Atom N270とIntel 945GSE Express、ICH7Mが並んで搭載されている。また本体手前部分にはBluetoothモジュールが搭載されている。 裏面は至ってシンプルで、SO-DIMMスロットと無線LANモジュールが取り付けられているMini PCI Expressコネクタ、SSD用のコネクタなどがある。ちなみに、Eee PC 4G-XではSSDはオンボード搭載、Eee PC 900ではCドライブがオンボード、Dドライブがモジュール形式での搭載だったが、Eee PC 901-Xでは、Cドライブ用、Dドライブ用ともにモジュール型のSSDとなっている。双方ともPhision製のCF/IDE-NAND Flashコントローラ「PS3006-L」を搭載するが、NANDフラッシュメモリはCドライブ用モジュールにはSamsung製SLC(シングルレベルセル) NANDフラッシュ「K9K8G08U0A」が、Dドライブ用モジュールにはSamsung製の「K9LAG08U0A」がそれぞれ4チップずつ搭載されていた。 SSDのアクセス速度は、Eee PC 4G-Xとの比較においては読み出し速度が速くなっているものの書き込み速度はかなり遅く、またEee PC 900との比較ではDドライブはほぼ同じだったがCドライブは読み出し/書き込みともに遅くなっている。これは、Cドライブ用SSDもモジュール化されたことが影響しているものと考えられる。 ●割り切る必要のある部分が減り、魅力は大幅に向上 Eee PC 901は、Atom N270の採用によるパフォーマンスの向上や、8.9型ワイド液晶搭載による使い勝手の向上、バッテリ駆動時間の向上、SSD容量の増量など、さまざまな面で従来機種のEee PC 4G-Xよりも魅力が増している。 もちろん、Core 2 Duo搭載のミニノートと比較するとパフォーマンスは低いが、Webアクセスやメール送受信などの利用なら重さを感じることはほとんどなく、YouTubeなどの動画配信サイトの動画もコマ落ちなくスムーズに再生できた。また、手持ちのMPEG-2形式やWMV形式の動画ファイルも、VGAサイズ程度なら余裕で再生できた。とにかく、ネットアクセス中心の利用であれば、高価なミニノートと比較しても不満を感じる場面はそれほど多くないはずだ。 SSD容量は増量されたとはいえトータル12GBとまだまだ少なく、アプリケーションをインストールするにも厳しい容量だ。しかし、SSD容量に割り切りが必要なのは変わっていないものの、Eee PC 4G-Xとの比較で容量が3倍となったことで、自由度は増している。 しかも、価格は59,800円と6万円を切っている。すでにHP 2133 Mini-Note PCなど同価格帯のミニノートが登場した今となっては、飛び抜けた安さというイメージは薄らいでいるが、それでも優れたコストパフォーマンスに変わりはない。 従来モデル同様に2台目用途が基本となるマシンであり、1台目のメインマシンとしてはお勧めしづらい。だが、初代モデルで妥協しなければならなかった部分の多くが解消されたことで、従来モデルよりも扱いやすくなっているのも確かだ。常に持ち歩いて快適に利用できる、コストパフォーマンスに優れた2台目ミニノートを探している人なら、間違いなく満足できるはずだ。 □ASUSTeKのホームページ(英文) (2008年7月11日) [Reported by 平澤寿康]
【PC Watchホームページ】
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