ASUSTeK Computerの「Eee PC 4G-X」(以下Eee PC)は、7型ワイド液晶を搭載した小型軽量モバイル端末だ。機能的にはフルスペックのモバイルノートPCだが、ASUSTeKでは、モバイルインターネットデバイスとして位置付けている。 Eee PCは、昨年(2007年)のCOMPUTEXで初めて公開され、当初は199ドルで販売されるということで注目を集めた。その後、価格は299ドルからに変更されたものの、2007年10月に台湾や米国で出荷が開始され、品薄になるほどの売れ行きとなった。 今回発売が開始された日本版Eee PCは、OSとしてLinuxを採用していた海外版とは異なり、Windows XP Home Editionを搭載していることが特徴だ。米国などで399ドルで売られている4GB SSD搭載モデルをベースにしており、国内での販売価格は49,800円となる。いわゆるUMPCとしても、この価格は非常に安い。Eee PCは、すでに予約が開始されているが、Amazon.co.jpのエレクトロニクス製品の売り上げランキングで、1位と2位(ボディカラーが2色用意されているため)を記録するなど、日本での滑り出しも上々のようだ。 その話題のEee PCを試用することができたので、早速使い勝手などをレビューしていきたい。なお、試用機は製品版とほぼ同一の仕様だが、製品版とは細部が異なる可能性があり、付属品も一部製品版とは異なるので注意してほしい。 日本版Eee PCは、パッケージやマニュアルも全て日本語化されている。ワールドワイドに展開している直販系PCなどでは、マニュアルが日本語を含む多国語表記になっていることも多いが、Eee PCのマニュアルは日本語表記のみで、図やイラストが多用されており、わかりやすい。 筐体のデザインは直線を主体としたシンプルなものだが、仕上げは丁寧で質感も良好だ。ボディカラーは、試用したパールホワイトのほかにギャラクシーブラックも用意されている。筐体サイズは225×160×20~32mm(幅×奥行き×高さ)で、フットプリントはA5用紙を一回り大きくした程度だ。重量は約0.92kgとされているが、実測したところ927gであった。
●Celeron M 353を630MHz駆動で利用 ASUSTeKのWebサイトでは、Intel製CPU採用としか記載されていないが、CPU-Zなどで調べたところ、超低電圧版Celeron M 353が搭載されているようだ。超低電圧版Celeron M 353は、90nmプロセスルールで製造されるDothanコアのCPUであり、最新CPUというわけではないが、ライバルとなるでろう工人舎の「SA5SX12F」に搭載されているAMD Geode LX800(500MHz)に比べればパフォーマンスは高い。ただし、超低電圧版Celeron M 353は、本来900MHz動作だが、Eee PCではFSBを定格の400MHzから280MHzに落としているため、CPUクロックは630MHzとなっている。クロックを落としているのは、消費電力を下げて、発熱を小さくするためであろう。 チップセットとしては、グラフィックス統合型のIntel 910GMLを搭載。メモリは標準で512MBのSO-DIMMが装着されている。マニュアルには、専用のEasy DIMMを採用していると書かれているが、実際には一般的なDDR2 SO-DIMMが採用されているため、標準装着されているSO-DIMMを外して、代わりに大容量SO-DIMMを装着することで、メモリ増設が可能だ。ただし、SO-DIMスロットにアクセスするには、ネジを隠しているシールをはがして、ネジを外す必要がある。そのため、ユーザーが自分で装着したSO-DIMMについては、メーカー保証外となるようだ。
●HDDの代わりに4GB SSDを搭載 Eee PCは、ストレージとしてHDDの代わりにSSDを搭載していることも特徴だ。SSDは、フラッシュメモリを記録媒体に用いたストレージであり、HDDと違って機械的に動作する部分がないため、衝撃に強いことが利点だ。また、ヘッドを動かす必要がないため、ランダムアクセス速度が高速であり、消費電力が小さく、騒音も発生しないというメリットもある。持ち運んで使われることの多いモバイルノートPCに適しているが、HDDに比べて、容量あたりの単価が高く、最大容量も現時点では128GB程度に限られることが欠点だ。 海外版Eee PCでは、SSDの容量は2GB/4GB/8GBの3モデルが用意されているが、日本版Eee PCでは、4GBのみとなる。また、マザーボード上に直接実装されているため、ユーザーが大容量のものに換装することはできない。コストとの兼ね合いなのだろうが、4GBという容量は決して十分とはいえず、執筆時現在のWindows Updateの全てのパッチを当てた状態での空き容量は(他にアプリケーションはインストールしていない)、845MBしかない。しかし、Eee PCにはSD/SDHCメモリーカードスロットが用意されているため、大容量のSDHCカードを装着して、データなどはできるだけSDHCメモリーカードに保存するようにするなど、運用上の工夫である程度はカバーできるだろう。ちなみに、日本版Eee PCでは、発売記念として4GBのSDHCメモリーカードが付属する(試用機には付属していなかった)。 筐体が小さいため、横方向のキーピッチは約16mmとやや狭く、右側の一部のキーのキーピッチは狭くなっている。また、縦方向のキーピッチは約13.5mmで、Let'snote R7などと同様に、キートップは横長の長方形となっている。手の大きな男性は、やや窮屈に感じるだろうが、キー配列自体は標準的であり、慣れれば十分にタッチタイピングが可能だ。キーボードの出来も、このクラスの製品としては優秀な部類といえるだろう。ポインティングデバイスとしてタッチパッドを搭載。クリックボタンは左右が分かれておらず、1つのパーツとなっているが、左を押せば左クリックとして、右を押せば右クリックとして動作する。タッチパッドのサイズは小さめだが、操作感は悪くない。また、小型の光学式マウスも付属しているので、机の上で使う場合はマウスを接続して使うのもよいだろう。
●800×480ドット表示対応の7型ワイド液晶を搭載 液晶パネルは7型ワイドで、解像度は800×480ドット(WVGA)である。サイズと解像度のバランスはよく文字は見やすいのだが、やはり実解像度が狭いことが気になる。付属のユーティリティで、800×600ドット(SVGA)モードへの切り替えが可能だが、その場合、縦方向はスクロール表示となる。1,024×768ドット(XGA)以上の解像度を前提にデザインされているアプリケーションもあるので、そのあたりも注意が必要だ。バックライトの輝度は17段階に変更が可能である。なお、日本版だけの特典として、液晶パネルに輝点(常時点灯ドット)がある場合、購入後30日以内なら無償で液晶パネルの交換を行なう「ZBDサービス」(Zero Bright Dot)が実施されていることも評価できる。 インターフェイスも、サイズの割に充実しており、USB 2.0×3、ミニD-Sub15ピン、LAN、マイク入力、ヘッドフォン出力が用意されている。モデムは省略されているが、モデムを必要とする場面もかなり少なくなっているので、それほど問題はないだろう。カードスロットとして、SD/SDHCメモリーカードスロットを搭載する。最近は8GBのSDHCメモリーカードも、リーズナブルな価格で購入できるようになっているので、大容量SDHCメモリーカードをストレージ代わりに使えば、SSDの容量が小さいことをある程度カバーできる。 無線LAN機能として、IEEE 802.11b/g無線LAN機能を搭載。無線LAN切り換えのハードウェアスイッチは用意されていないが、Fn+F2キーによって無線LANのON/OFFを切り換えることができる。 また、液晶パネルの上部には30万画素Webカメラを搭載しており、ビデオチャットなどに利用が可能だ。
●バッテリ駆動時間は公称約3.2時間とやや短い バッテリは4セル仕様で、バッテリ駆動時間は公称で約3.2時間とされている。モバイルでの利用が主となることを考えると、駆動時間は十分とはいえない。本体のサイズは一回り異なるが、重量約940gの「Let'snote R7」が約7.5時間駆動を実現しているので、5時間程度の駆動時間を実現してほしかったところだ。また、現時点では大容量バッテリなどは用意されていない。 ACアダプタはコンパクトで軽い。ACプラグを折りたためるようになっていることなど、携帯性に配慮されていることは嬉しい。ACアダプタと本体を合わせた重量は、実測で1,098gと軽いので、ACアダプタも一緒に持ち歩いてこまめに充電するといった使い方になるだろう。 また、専用ソフトケースが付属しているので、インナーバックとして使えば、大きなカバンやバックパックなどに他のモノと一緒に入れても本体に傷がつくことを防げる。
●割り切って使えば十分実用的。完成度とコストパフォーマンスは高い 参考のために、ベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark05(Build 1.2.0)」と「3DMark03(Build 3.6.0)」の2種類だ。比較対照用に、ソニー「VAIO type G」とGateway「MX1020j」の結果もあわせて掲載している。 結果は表にまとめた通りだ。液晶解像度が低いため、いくつかのテストは実行できなかった。Core Solo U1300を搭載しているVAIO type GやGateway MX1020jに比べると、CPU ScoreやMemory Scoreは半分強の値しか出ていないが、HDD Scoreの値は健闘している。実際のWindows XPの使用感は、このベンチマーク結果から想像されるよりもはるかに軽快で、実用的なパフォーマンスだと感じた。ちなみに、電源オフからWindows XPが起動するまでにかかった時間は約36秒で、SSDを採用しているためか、アプリケーションの起動なども高速である。メモリを1GBや2GBに増やせば、さらに快適に動作するだろう。 また、YouTubeなどの動画配信サイトの動画を表示させてみたが、コマ落ちもなく、滑らかに再生が可能であった。
【表】ベンチマーク結果
Eee PCは、SSDの容量が小さく、画面解像度も狭いため、メインマシンとして使うには適さないが、インターネットアクセスやメモ用など、サブマシンとして割り切って使えば十分実用的である。米国との価格差も(現在はやや円高に振れているが)、Windows XPを搭載していることや4GBのSDHCメモリーカードが付属していること、日本版では価格に消費税が含まれていることなどを考えれば、高いとはいえない。また、CPUファンを搭載しているが、クロックを下げているためか、通常の利用ではファンが停止していることが多く、静音性も優秀だ。 モバイルインターネットデバイスとしては、必要にして十分な性能を備えており、製品としての完成度は高い。なにより、Windows XPを搭載したことにより、普段使っているアプリケーションをそのまま利用できるということは大きなメリットだ。5万円未満という価格は、PDAやスマートフォンに近い価格帯であり、この価格でWindows XPが問題なく動作する端末が購入できるというのは、やはりコストパフォーマンスは優秀だといえる。1台目のPCとして買うことはお勧めできないが、旅行時などに持ち歩く小型軽量なセカンドマシンが欲しいという人にはお勧めだ。 ただし、2008 International CESで、第2世代Eee PCに関する情報が明らかにされている。第2世代Eee PCは、液晶パネルが一回り大きくなるほか(解像度も1,024×600ドットになると思われる)、Intelの最新モバイルプラットフォームである「Menlowプラットフォーム」を採用するとのことだ。Menlowは、平均消費電力が非常に小さいことが特徴であり、Menlowの採用によってパフォーマンスの向上とバッテリ駆動時間の延長が期待できる。第2世代Eee PCは、2008年第2四半期の出荷開始を予定しているとのことで、第一世代Eee PCと同程度の価格で販売されるのであれば、さらに魅力的な製品になるだろう。
□ASUSTeKのホームページ (2008年1月25日) [Reported by 石井英男]
【PC Watchホームページ】
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