アフターマーケット向けのPC用デジタル放送チューナがついに解禁になった。これまでPC用のデジタル放送チューナは、専用マザーボードなどど組み合わせて販売しなければならなかった。そのため、自作PCやデジタル放送チューナが搭載されていないPC用、いわゆるアフターマーケット向けの製品は事実上販売できなかった。 しかし、この4月よりその要件が緩和され、周辺機器ベンダからPC用デジタル放送チューナが発売することができるようになり、各社から製品/開発発表がなされている。今回、アイ・オー・データ機器、バッファロー、ピクセラの3メーカーから発売されたデジタル放送用チューナの5製品を入手することができたので、それぞれの製品の特徴などについて迫っていきたい。 ●B-CASカード発行基準の見直しにより実現可能に PCにデジタル放送のチューナが搭載され始めたのは、実は2001年にさかのぼる。最初に搭載したのはNECで、BS放送を受信するデジタルチューナを搭載した製品をリリースした。さらに2003年には地上/BS/CSという3波を受信する製品が追加されたが、この製品では汎用バスを流れるデータを暗号化するというARIB(社団法人 電波産業会)の運用規定を満たすことができなかったため、せっかくのHD動画がSD画質に変換されてディスプレイ出力されるという状況だった。 これを解消したのは2005年にリリースされた富士通のDESKPOWER TXシリーズで、同社が開発した汎用バス上を流れるデータを暗号化するチップを搭載したピクセラのデジタル放送チューナカードを採用することで、HD解像度でディスプレイに出力できるようになったのだ。その後、同様の製品が他のナショナルブランドPCベンダから発売され、今に至っている。
しかし、アフターマーケット向けの製品がリリースされることはこれまで無かった。その理由は、B-CASカードと呼ばれるデジタル放送波にかかっている暗号化を解除するための鍵が格納されているICカードの添付条件にあった。 日本のデジタル放送では放送波データが暗号化されており、受信機側でB-CASカードに内蔵されている暗号鍵を利用して解読して受信する仕組みになっている。B-CASカードはビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(以下B-CAS)により発行されるのだが、製品に添付するには同社が提示する要件を満たす必要がある。 この要件は公表されていないのだが、業界関係者によれば、マザーボードの何らかのデータ領域(例えばBIOSなど)とチューナカードが1対1で合致するような仕組みが入っていなければ満たすことができないのだという。つまり、チューナカードを他のマシンに入れても動かないような仕掛けが必要だったのだ。このため、どのようなPCでも動かすようにする必要があるアフターマーケット向け製品では、この要件を満たすことができず、B-CASカードを発行してもらえなかったのだ。 しかし、今月に入りそれが緩和され、PCとチューナカードが一対の組み合わせでなくても、録画したデータがそのPCとチューナの組み合わせで無ければ再生できないようにすることで、要件を満たすように変更されたのだ。これにより、アフターマーケット向けのPC用デジタル放送チューナを周辺機器ベンダが販売することが可能になったのだ。 ●デジタル出力にはHDCP対応のビデオカードとディスプレイが必要 今回リリースされたデジタル放送チューナでは、いずれの製品でも以下の条件を満たす必要がある。 1. ビデオカード(もしくは内蔵GPU)がHDCPに対応し、COPPに対応したドライバを備えていること ARIBの運用規定では、外部ディスプレイに出力することができる機器が、HD出力をデジタルで行なう場合(つまりDVIやHDMI端子を利用する場合)、アクセス制御を行なうことを求めている。これは、家電製品の場合でも同じだ。言い換えると、ビデオカード(ないしは内蔵GPU)がハードウェア的にHDCP(High-bandwidth Digital Content Protection system)に対応し、かつデバイスドライバがHDCPをサポートする仕組みであるCOPPに対応している必要がある(HDCPやCOPPに関しての詳しい説明は以前の記事を参照していただきたい)。 ではどのビデオカードがそれに該当するのか。基本的にはNVIDIAであればGeForce 7シリーズ以降、AMDであればRadeon X1000以降の製品に対応製品が多い。GeForce 8、Radeon HD 2000シリーズ以降の製品であれば、GPUの内部にHDCPに必要なハードウェアが内蔵されているため、対応している製品が多いが、まれに対応していない製品があるので、購入前に確認しておくといいだろう。 統合型GPUの場合には、HDCPの実装に必要なハードウェアを持っているのが、現状ではAMD780Gぐらいで、それ以外は対応していないことがほとんどだ。なお、すでにNVIDIA、AMD、Intel、いずれののベンダの最新ドライバはCOPPに対応しているため、こちらの方は特に気にする必要はない。ディスプレイの方も、最近販売されているワイド液晶の多くはHDCPに対応していることが多い。 残念ながら、HDCPに対応していないディスプレイの場合にはデジタル出力で楽しむことはできない。HDCPに対応していないディスプレイに表示させても、画面は黒く表示されるだけだ。アナログ接続できる製品もあるが、その場合にはSD解像度でしか表示されない。従って、HDCPに対応したディスプレイを用意するのがいいだろう。 また、デジタル放送ではMPEG-2 HDと呼ばれる1,440×1,080ドットのMPEG-2形式を採用している。解像度が高いため、CPUにかかる負荷が高く、安定して再生するにはそれなりのCPUパワーを必要とする。いずれのチューナも1.8GHz以上のCPUという条件をつけており、できることなら2GHz以上のCPUと2GB以上のメモリあたりをベースラインにハードウェアをそろえておく必要がある。 ●3メーカーから5製品が発売される予定 それでは、先陣を切って発表された3メーカーの5製品を見ていこう。 ・アイ・オー・データ機器 GV-MVP/HS アイ・オー・データ機器のGV-MVP/HSは、今回取り上げた5製品の中で唯一のPCI Express x1に対応した拡張カードだ。コントローラチップにはNXP(以前のPhilips Semiconductor)SAA7163FE/2が採用。B-CASカードリーダを内蔵し、1スロットのみで収まる構造になっている。付属ソフトウェアはmAgicTV Digitalで、専用のEPGソフトウェアmAgicガイドDigitalを利用して予約録画やおまかせ録画などを行なう仕組みになっている。
・バッファロー DT-H50/PCI バッファローのDT-H50/PCIはPCIバスの拡張カードとなっている。B-CASカードのスロットはボード上に用意されており、1スロットで済むようになっている。コントローラチップにはカナダViXSのXcodeー2111が採用されている。Xcodeー2111はハードウェアトランスコード機能を備えており、DPというMPEG-2-TSをそのまま記録するモードのほか、HP(720×1,080ドット/8Mbps)/SP(720×480ドット/6Mbps)/LP(720×480ドット/4Mbps)へリアルタイムトランスコードして格納できるようになっている。SPやLPなどで記録することで、CPUパワーが充分ではないPCでも再生することができるようになっている。 ・バッファロー DT-H30/U2 バッファローのDT-H30/U2は、DT-H50/PCIのUSB版という趣の製品だ。コントローラチップなどはわからないが、おそらくDT-H50/PCIと同じViXS社のチップが利用されているのではないだろうか。その証拠にDT-H50/PCIと同じくハードウェアトランスコードの機能が用意されており、DP/HP/SP/LPで表示できる。DT-H50/PCIとのハードウェア的な違いは、BDへのムーブ機能が省略されている点のみだ。
・ピクセラ PIX-DT012-PP0 ピクセラのPIX-DT012-PP0は地上デジタルだけでなく、BSデジタル、110度CSデジタルの3波対応になっている。このため、アンテナ端子は2つなり、B-CASカードスロットは、別モジュールに別けられ、拡張スロットを2つ消費するようになっている。本製品は、富士通の暗号化チップを採用するなどナショナルブランドのPCベンダで採用されているピクセラのOEM向けチューナカードの特徴を受け継いでおり、ソフトウェアは「Station TV Digital」という、やはりOEM向けと同じ系統のソフトウェアを採用している。 ・ピクセラ PIX-DT050-PP0 ピクセラのPIX-DT050-PP0は、PIX-DT012-PP0からBSデジタル/CSデジタルのチューナを取り払い、地上デジタルのみにした製品となる。こちらはB-CASカードスロットがカード上に統合されており、1スロットのみで済む。基本的なスペックはBS/CSに対応していない以外はPIX-DT012-PP0と同等になっている。
●HDDレコーダとの違いはマウスによる操作とHDDの追加 いずれの製品も基本的な機能は、デジタル放送の録画/視聴/再生ということになる。基本的なデジタル放送の機能はほとんど網羅されている。例えば、放送波データに含まれるEPG(電子プログラムガイド)機能やデータ放送などの機能も実装されている。 TVやHDDレコーダーなどとの大きな違いは、ユーザーインターフェイスがマウスでの利用を前提にしていることだろう。データ放送などリモコンを利用する機能の場合には仮想的なリモコンが表示され、マウスで操作するようになっている。 もう1つの大きな違いは、録画に利用できるHDDを増設したり交換できることだ。今回利用したいずれの製品も複数のHDDにデータを保存することが可能だった。例えばリムーバブルケースのように取り外し可能なケースに入れておいたHDDに録画して、HDDの容量がいっぱいになったら、新しいドライブと交換するという使い方も可能だ。BDのメディアがまだまだ高い現状では、500GBで1万円を切るという低価格なHDDにどんどん保存していくというのが現実的だろう(むろん、光ディスクに比べれ信頼度は下がることになる)。 ただし、録画したファイルの取り扱いに関しては若干の違いがある。ピクセラの製品は同じPC上のHDDならデータを移動しても再生できるが、バッファローとアイ・オー・データ機器の製品は他のHDDへデータを移動すると再生ができなくなった。ただし、録画に利用したHDDにデータを書き戻したら元のように再生できた。 なお、いずれの製品でも特徴的なこととして、視聴ソフトウェアを起動すると、Windows AeroがOFFになるということを指摘しておく必要があるだろう。Windows VistaではWindows AeroをONにするとDirect3Dエンジンを利用してユーザーインターフェイスを描画するのだが、オーバーレイとDirect3Dは同じレイヤーで描画されるため、どちらか1つしか描画できないのだ。このため、オーバーレイ再生を行なうと、Windows Aeroが無効になり、GDI経由で描画されるようになってしまうのだ。視聴ソフトを最大化して放送を視聴するだけであれば問題ないが、視聴ソフトをウインドウ化してながら視聴したいユーザーの場合には要注意だ。
●製品により機能には若干の違いが 実際に筆者が利用してチェックした各製品の機能などを表にしたものが下表だ。
【表】各社デジタル放送チューナの機能(筆者作成、Windows Vista環境)
注:今回使用した製品はいずれも試作機であり、実際の製品とは異なる場合があります。 基本的な機能はおおむね同じだが、いくつかの点で違いがある。機能面での最大の違いは、ピクセラのPIX-DT012-PP0だけが地上デジタル放送だけでなく、BSデジタル/110度CSデジタルにも対応している点。BSデジタル放送や、e2 by スカパー! などのCS放送を楽しみたいのであれば、今のところ選択肢はこれだけになる。 アイ・オー・データ機器のGV-MVP/HSの特徴的な機能として、おまかせ録画機能がある。HDDレコーダーなどでお馴染みのこの機能は、あらかじめキーワードを設定しておくことで、それに引っかかった番組を自動で予約し、録画しておいてくれる。EPGから予約するのは面倒だというユーザーには要注目と言える。バッファローのDT-H50/PCIとDT-H30/U2もテレビ王国のおまかせ録画を使えば利用できる。 また、アイ・オー・データ機器のGV-MVP/HSとバッファローのDT-H50/PCIおよびDT-H30/U2は、iEPG(インターネット電子プログラムガイド)に対応している。具体的にはGガイド.テレビ王国のiEPGが利用可能で、WebブラウザでGガイド.テレビ王国のサイトにアクセスすることで、Webブラウザから予約録画の設定を行なうことが可能だ。 実際に利用してみたところ、オーディオへの対応に違いがあった。バッファローとアイ・オー・データ機器の製品はUSBオーディオやデジタル出力に関して問題なく出力できるのだが、ピクセラの2製品は、アナログオーディオ出力しかできなかった。なお、いずれの製品も公式ではUSBとデジタルから出力することは非サポートとなっているので、あくまでも今回の試作機の場合と考えていただきたい。 【訂正】記事初出時、バッファローとアイ・オー・データ機器の製品はUSBとデジタルから音声出力できるとしておりましたが、公式には非サポートです。お詫びして訂正します。 ムーブ周りの機能では、今のところバッファローのDT-H50/PCIが最強だ。DT-H50/PCIはDVDへのムーブだけでなく、BDへのムーブにも対応しており、DPモードで録画した場合、HD解像度のままムーブできる。アイ・オー・データ機器のGV-MVP/HSとバッファローのDT-H30/U2はSD解像度でのDVDへのムーブのみに対応だが、将来的にBDへのムーブも対応する予定。ピクセラの2製品は、将来のバージョンアップでDVDとBDへのムーブに対応する予定となっている。
●BS/CSならピクセラ、BDムーブならバッファロー、おまかせ録画でアイ・オー 以上のように、3つのメーカーの製品をぞれぞれ見ていくと、現状ではBS/CSも録画したいのであればピクセラのPIX-DT012-PP0、おまかせ録画などEPGやiEPGなどの使い勝手ならアイ・オー・データ機器のGV-MVP/HS、BDへのムーブを重視するならバッファローのDT-H50/PCIというのが妥当な選択となる。 今回紹介した製品はいずれも第1世代というべき製品で、正直言って改善の余地はまだまだあると思う。今後のソフトウェアのバージョンアップに期待したい。 いずれにせよ、これまではデジタル放送から意図的に仲間はずれにされていた自作PCの世界でもデジタル放送を楽しめるようになったことは歓迎すべき事で、ユーザーとしてそれは素直に喜びたいと思う。ただ、ここまで来るまでが長かったという筆者の偽らざる感想をまとめの言葉としたい。 □関連記事 (2008年4月24日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
|