これまでPC本体や、TV本体、レコーダー本体に内蔵したチューナを発売するメーカーにのみ提供されていたB-CASカードが、PC用周辺機器メーカーなどにも提供される方向性が示され、いよいよ数社からPC用地上デジタルチューナ単体が製品として投入されることになる。 PC用ワンセグチューナで、高いシェアを誇るバッファローも、このタイミングにあわせて、PC用地上デジタル(フルセグ)チューナとして、PCI内蔵型の「DT-H50/PCI」と、USB外付け型の「DT-H30/U2」の2製品を投入すると発表。B-CASカードの発行認可が下りると見られる、5月中旬から発売する。 バッファローの事業本部市場開発事業部DHマーケティンググループリーダーの中村智仁氏は、「いつかは、PC用周辺機器として、地デジチューナ単体を発売できる時期がくるだろうと思い、製品化に向けた技術を蓄積してきたが、その時期が、思いのほか早くやってきた。タイミングを逸せずに、製品投入ができた」と語る。 4月8日、社団法人デジタル放送推進協会が、PC用デジタル放送チューナのガイドラインの策定を発表。同協会では、「単体のUSB接続型のワンセグチューナを買い足して、既存のPCでデジタル放送の視聴ができるのだから、フルセグの地上デジタル放送でも同様に視聴できるようにしてほしいという声が増えており、その要望に応えるべく、外付けするタイプのPC用フルセグ地上テジタル放送チューナについても、コンテンツ保護実装ができるようにガイドラインを策定した」と語る。
これにより、今後自作用PCへの搭載や、地デジチューナを搭載していないPCへのフルセグチューナの搭載が可能になるのだ。 バッファローには、PC用アナログチューナ分野においては出遅れが響き、シェアを引き上げられなかった反省がある。それを巻き返したのがPC用ワンセグチューナ「ちょいテレ」シリーズだ。量販店市場では圧倒的シェアを獲得し、まさにこの分野の代表的製品の位置づけを獲得している。そのバッファローにとって、同じデジタルチューナの延長線上にあるフルセグ(地デジ)チューナでのトップシェア獲得は至上命題。そのためには、製品化が「解禁」されたタイミングで、いの一番に製品投入しておくことが、戦略的には必須条件ともいえた。 また、バッファローを中心とするメルコグループでは、あらゆる家電製品をネットワークで結ぶデジタルホーム時代の到来を目指して、それに向けた製品投入を加速している。その観点からも、デジタル時代の中核的存在である地デジチューナへの取り組みは、避けては通れないものだったといえる。 ●OEMで培ったノウハウを品質、コストに反映 では、バッファローは、なぜこのタイミングで製品投入ができたのだろうか。それは、中村グループリーダーが言う「製品化に向けた技術を蓄積してきた」ことが背景にある。 実は、バッファローは、2006年にワンセグチューナを投入して以来、継続的にフルセグチューナの開発に取り組んできた。さらに、それを具体的なものとするために、2007年秋には、国内大手PCメーカーに、PC用地デジチューナをOEM。メーカーとの協業体制を敷くことで、技術ノウハウを蓄積してきた経緯がある。 「遠い将来の目標という観点からの開発ではなく、具体的なビジネスとして開発を行ない、さらに、PCメーカーや市場の声を反映する形での技術蓄積を可能とした。PC用周辺機器として、チューナ単体の製品化に向けた準備は万端だったといえる」というのもうなづける。 価格設定も、PCI内蔵型が23,205円、USB外付け型が22,050円と意欲的なものだ。一部量販店では先週末から予約販売が開始されているが、実売価格はいずれも2万円前後となっている。 「投入タイミング、価格設定、品質は、OEMの経験があるからこそ」と、中村氏は胸を張る。 もちろん、ワンセグチューナとは異なり、フルセグチューナならではの苦労も多い。特に、コンテンツ保護機能に関する技術的な解決には、多くの困難を伴ったという。さらに、さまざまな視聴環境での検証や、それに伴うバグの解決などにも多くの時間を割いたという。 「PCの機能を活用することで、番組検索を高速で行なったり、データ放送を活用しやすいといったメリットがある。DVDレコーダーや薄型TVとは異なる利用環境を提案できるのも強み。PC本体内蔵HDDや、USB外付けHDDへの録画も可能となっており、PCの世界と連動したソリューションを提供したい」と、中村氏は語る。 ●HDCP対応のディスプレイが必要に 今回、投入したPCI内蔵型の「DT-H50/PCI」と、USB外付け型の「DT-H30/U2」を利用するためには、いくつかの利用制限がある。つまり、「DT-H50/PCI」や「DT-H30/U2」を購入しても、すべてのPCユーザーが、いま所有しているPC環境で、地デジを最適な状況で視聴できるようになるとはいえないのだ。 というのも、デジタル放送を視聴する際の最低条件として、ビデオカードとディスプレイがHDCPに対応している必要があるからだ。 また、CPU要件として、DPおよびHP画質では、Pentium D 925以上、SPおよびLP画質ではCeleron D 330以上か、Celeron M 450以上。推奨環境は、いずれもCore 2 Duo E4300以上、Intel 945チップセット以上となっているのだ。さらに、メモリは1GB以上が必要となり、1.5GB以上が推奨となる。
「3年前の最高機種程度のスペックが必要になる。それでもトランスコード機能を製品側に搭載したことで、PC本体に求められるスペックのハードルを下げることができた。Core 2 Duoでは、TV視聴時の負荷はDPでも15%程度。約5,000機種での動作が可能になると判断している」という。 だが、気になるのは、HDCP対応ディスプレイが必要になるという点だろう。 まず、メーカー製のPCに標準搭載されているディスプレイでは、ほとんどがHDCP対応をしていないのが実状だ。 そして、自作PC用や、自らディスプレイを増設したユーザーでも、だいたい2007年3月以降に購入したディスプレイに限られる。HDCP対応を意識して、ディスプレイを選択しているユーザーが少ないことを考えても、その環境が限られることが容易に想定される。 回避策としては、同製品に採用されているアナログRGB出力により、SDで出力すれば、通常のディスプレイでの視聴が可能となる。画面サイズによるが、一般的な小さなウィンドウのサイズで視聴する分には、満足できるレベルの鮮明な画像で視聴ができるとはいえる。 ただ、それであれば、ワンセグチューナでも構わない。フルセグチューナでは、やはり1,440×1,080ドットのフルセグならではのフルハイビジョン画像を楽しむのが最高の環境。そのためには、それを実現できるだけの環境整備が必要になるのだ。 バッファローでは、自らのPC環境が、「DT-H50/PCI」や「DT-H30/U2」に対応しているかどうかをチェックできる「利用環境検証ツール」を提供する考えだ。 バッファローのホームページからダウンロードして利用できるもので、「現在、急ピッチで開発を進めている。出荷開始までには利用できるようにする」という。 ●注目される今後の進化 今回の製品では、PCI内蔵型の「DT-H50/PCI」と、USB外付け型の「DT-H30/U2」を用意した。 型番からも、50が上位モデルであり、30が下位モデルということがわかる。 この上位、下位の位置づけは、PCIか、USBかというインターフェースの違いではなく、実は機能的な差にある。 例えば、DT-H50/PCIでは、DVDおよびBlu-ray(BD)へのムーブが可能だが、DT-H30/U2ではDVDにのみ、ムーブが可能となる。DVDでのムーブはSD解像度。BDにはHD解像度でのムーブにも対応している。 「この型番と機能の差から推測していただくとわかるように、今後、50シリーズの型番の中で、USB外付け型を投入していく可能性もある」と中村氏は話す。 このように、バッファローの地デジチューナは、今後、さまざまな形で製品が進化していくのは間違いないだろう。 第1号製品では、実現されなかったダブルチューナ機能や、複数のボードを搭載した利用環境(いわゆる2枚挿し)の実現。AVCRECへの対応、デジタル三波対応、録画時のCMカット機能など、期待したい要素も少なくない。 もちろん、ダビング10への対応も、現行製品では予定されている。 「ホームデジタル時代の到来に向けて、PC+フルセグチューナが果たす役割は大きい。まずは、PC用フルセグチューナにおける需要の流れを作っていきたい。今回の製品がその第1歩となる」。 同時に、フルセグチューナのOEM事業も、今後拡大していく姿勢を見せる。 製品の進化はますます進むだろう。 ただ、今回の第1号製品では、バッファローが、ワンセグチューナでの実績、フルセグチューナにおけるOEM実績をベースに、本気でPC用フルセグチューナ事業に挑む考えであることが伝わってきたのは事実だ。 □関連記事 (2008年4月22日) [Text by 大河原克行]
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