ここ数カ月、何人かの人に何度も尋ねられることがある。「SSD、実際に使ってどう?」というものだ。 少し時間を遡るが、IDF Fall 2007の直前から東芝の“dynabook SS RX1/T9A”を使っている。当初は採用する7mm厚の松下製DVDドライブの供給が予想を大きく下回ったことで、秋には供給不足だったRX1が、その直前のタイミングにやっと届いたためだ。1.8インチHDD互換サイズの64GB SSDも含めコンポーネントも揃い始め、今では供給不足も解消されているようだ。 今回のコラムは、まずSSDを実際にWindows Vistaマシンで利用した場合の話から始めたい。 ●快適なSSD環境。しかし、心配事もある?
まず、実際にSSDモデルを入手してわかったのだが、RX1の場合、2.5インチHDDを内蔵させるため、パームレスト下にやや醜く出っ張ってしまったHDD収納部が、SSDモデルではキレイにラウンドしたシェイプになっている。 これはマグネシウムシャーシを作る金型を2ピースとし、SSDモデルは本来デザインしたかったシェイプで出すことに拘ったためだという。当然、鋳造の難度は高くなるが、見たところ金型の継ぎ目は見えず、きれいに収まっている。 ただし見た目にはとても良いのだが、容量が不足した時に後から2.5インチドライブに交換できないので注意しよう。RX1は見た目よりもずっとHDD交換が容易になっているが、基本的にはユーザーが交換することは想定していない。メーカーに文句は言えないが、自己責任での交換も1.8インチ型に限られる。 さて、最初にRX1が届く前、レビューにて掲載していたHDDモデル(T7A)を使っていた記憶がしっかりと残っていた。レビュー機の標準メモリは1GB。このとき、Ultimateより軽いVista Businessとはいえ、1GBでは“重い”と感じていたのだが、SSDモデルは標準メモリのままでも軽快に動作する。 あらかじめ1GBのSO-DIMMは用意していたのだが、試しにしばらくは1GBのままで使っていたほどだ。ノートPCでWindows Vistaが快適に動き始めるスレッショルドは1.5GBぐらいと思っていたのだが、SSDモデルならば1GBでもさほど遅いとは感じない。 それどころか、動作が重くなってしまいバージョンダウンをしようかと思っていたOutlook 2007も、ほとんど待たされることなく快適に動作してくれる。もちろん、メモリを増やしたら、さらに動作感は軽くなるのだが、その際にも軽くなっている原因と思われる「外部ストレージへのアクセスタイム短縮」の効果は、メモリ増設後にもなくなるわけではない。 そこで冒頭の話に戻ると「SSDってどう?」と質問されると、同様に快適性の高さを訴えるのだが、HDD関連のベンチマークを行なっても、この快適性というのは、なかなか理解できないのではないかと思う。 HDD比でSSDがどれだけの速度なのかは、笠原氏が行なったベンチマークなどでも数値が出ているため、ここであえてあらためて数値化するつもりはない。簡単に言えばシーケンシャルアクセスならSSDよりもHDDの方が高速で、特にシーケンシャルライトが遅い。また、ランダムアクセスは高速だが、ランダムライトに限るとHDDに対して圧倒的に高速というわけでもない。加えてドライブ単価も高い。 だからこそ「SSDってどう?」と慎重に質問が多く出てくるのだろう。しかし、上記のようなSSDの性能傾向はともかく、使用していてメモリスワップやメールデータベースの確認などで待たされることがない。非常にコンスタントに各ソフトウェアが動作するので、感覚的にとにかく気持ちいい。 “○○%高速だから、仕事がものすごくはかどる”なんてことはないし、期待していたバッテリ持続時間の延びもおおよそで20~30分程度。しかし、精神的な面でストレスが少なくなるだけでも十分に価値があると思う程度には快適性が高まる。筆者の場合、これだけでも十分に価値があると感じた。 加えてメカニカルな面での安心というのも、使っていると常に感じる。たとえばHDD内蔵機の場合、液晶パネルを閉じてサスペンドモードに入り、HDDが停止するまでは衝撃を加えることに不安がある。加速度センサーを内蔵し、HDD保護を行なう機能があることはもちろん承知しているが、それでも不安に感じるのは長い間、モバイルPCを鞄に入れて持ち歩いているが故の悪いクセかもしれない。しかし、SSDならばこうした小さな不安もない。 SSDに不安要素があるとするなら、フラッシュメモリのセルが死んでしまうことだ。筆者の場合、メール、アドレス帳、スケジュール、文書類などは、原本をすべてサーバー上に置いて複製を同期させながら持ち歩いているため、たとえ壊れたとしても大きな被害は出ないようにしている。 SSD側も同じセルが何度も繰り返し使われないよう、自動的に分散して記録する仕組みが組み込まれているが、果たしてどの程度使っていると故障する可能性が高まってくるのかまでは個人ではテストできない。HDDも壊れる可能性は常にあるのだから、さほど大きな違いはないだろうと(自分のPCに関しては)楽観的に運用している、 メーカーもSSDの寿命を延ばすための工夫を、さまざまな形で独自に盛り込んでいる。各社、手法を模索している段階でノウハウ流出を避ける意味で詳しい対策は公開していないが、たとえばRX1の場合はファームウェアでSSDの状態を監視している。たとえば一度書き込んでから長期間放置したままのセルがあると、ある頻度でそのセルをリフレッシュするといったことも行なっているという。このあたりの対策は将来、MLC型のフラッシュメモリを用いたSSDが登場してくると重要になってくるはずだ。 また東芝はNAND型フラッシュメモリをグループ会社の東芝セミコンダクタが製造しているが、将来は東芝製SSDを用いて、独自ファームウェアとのコンビネーションで性能や寿命の問題に取り組むべく開発を行なっている。 いずれにしろ「最低、5年以上は毎日使っても壊れないことが前提(東芝関係者)」と話しており、SLC型のSSDを用いている現行機種は問題ないとのことだ(SSD未対策機に自分で換装した場合の結果はわからないが)。 とはいえ、それでも不安という人はいるはず。バックアップを定期的に取るなどの原始的な解決策しか思いつかないが、SSDが使われている状態(利用頻度の高いセルの分布と、書き換え回数などの統計)を監視できるような、ヘルスメーターのような仕組み、ソフトウェアは欲しいところだ。 SSDにOSが対応する第1段階として、ストレージがHDDではなくSSDの場合はデフラグを自動的にかけないなど、Vista SP1ではSSD対応機能が導入されるという。まずはこれに期待しよう。 少なくとも筆者の環境においては、SSDを使うことのリスクよりも、SSDを使うことのメリットの方が大きく、もう離れられないというのが正直な感想だ。 ●“ファンレス”ではなくなった"は残念なこと? モバイルノートPCという小さなカテゴリの中で人気の機種は、と言えば、間違いなくパナソニックの「Let'snote」シリーズがトップに並ぶ。都内でインターネットが使えるカフェに入れば、誰か1人は使っている。それぐらい“Let'snote密度”は高い。 “すべてのビジネスマンの鞄にLet'snoteを!”と目標を掲げて開発を行なっていたのが'90年代後半のこと。その後、一時は苦境に陥りながら、超軽量、長時間バッテリ駆動、そして丈夫さの3つに徹底的にこだわることで、かつて掲げた目標に近付いている。 もっとも、Let'snote CF-R1から始まる一連のシリーズに関して、個人的には残念に思っている部分があった。松下電器の関係者に「本田さんはLet'snoteに冷たすぎる」と言われたことがある。これだけ素晴らしいデキなのだから、決して冷たくするつもりなどないのだが、納得できないポイントが2つあり、何度もその理由について質問し、記事でも触れていた。
1つは丸形のタッチパッド。これについては当初からデザインアクセントとして、遠くから見ても一目でLet'snoteとわかるように……と説明されていた。もちろん、デメリットが無ければいいのだが、円形パッドは横と縦のサイズが同じになることもあり、パッドの縦サイズを削ることができない。このため、小さな機種ほどパームレストがキーボードを圧迫し、扁平形状のキートップにならざるを得ない。 もう1つはファンレスにこだわりすぎていたことだ。普段はファンが回らないよう、可能な限り自然放熱で運用可能な設計にすることは素晴らしい。しかし、高負荷がかかってプロセッサが熱くなった時には、性能と快適性を維持するためにファンで排熱してほしい。ところが、従来のLet'snoteシリーズはシステムの性能を抑えて熱発生量をコントロールしていた。 これも“超軽量、長時間バッテリ駆動という要素を満たすため”という観点からすれば、しっかりとした信念の元に作られており一概に悪いとは言わないが、昨今のプロセッサ事情を考えれば、もっと早くから冷却ファンを用いておいた方が良かったのではないだろうか。 この2つは何度か開発者にも話を伺ったことがあったが、どうも納得できる回答が得られなかった。だから、新型がファン搭載になったと聞いて、私は“改善された”、“気になっていた点が解消された”と感じた。 ところがLet'snoteシリーズユーザーが半分近いある編集部(PC Watchではない)では、“とうとうLet'snoteもファンレスではなくなってしまった”とネガティブな評価の声が上がっているのだという。 前者のキーボードの縦サイズとパッドの関係にしても、ここまでモバイル機のデファクトスタンダードになっていることを考えれば、必要悪として認められているということだろう。実際に購入するモバイルPCを選ぶバイヤーの判断は絶対だ。 とはいえ、冷却ファンの搭載は朗報と見るべきだろう。これでプロセッサへの負荷や気温が高い場合の性能と快適性が向上するはず。もちろん、一度ファンが回り始めると静かさは犠牲になるが、その際にはファンで冷却することが必要だったのだ。 Let'snoteシリーズのアイデンティティとして守り続けてきたファンレスをやめ、冷却を行なうことで本来の性能を発揮させることを選んだ判断に拍手を送りたい。
□関連記事 (2007年12月12日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
|