東芝の「dynabook SS RX1/T7A」の試作機を、この1週間ほど取材に出かける際に使ってみた。こうした仕事道具に特化した製品は、やはり実際の現場で使ってみなければ、なかなか使い勝手の善し悪しが見えてこないからだ。 試用したモデルはSSD搭載のハイエンド機ではないが、おそらく店頭ではもっとも売れるだろうHDD+光学ドライブのモデルである。バッテリ駆動時間はJEITA測定法で11時間、それでいて12.1型液晶パネルと19mmピッチのキーボードを組み合わせ重量は1,090gと、スペックの面では申し分ない。 今回はいつもとは趣向を変えて、いくつかの項目ごとに分類して書き進めていこう。 ●ユーザーインターフェイス ・キーボード しかしRX1のキーボードは、かつてのdynabook SS Sシリーズ時代に匹敵する使いやすさだと感じた。横19mmピッチのキー配置に対し、縦方向のピッチは17.5mmと変則的な形状になっている(といっても、最近はこうした扁平キーは珍しくなくなっているが)ものの、以前のモデルに比べると僅かに縦方向のピッチが伸びたこともあってか、実際の打ち心地はいい。 縦ピッチが詰まった扁平キートップは、通常の正方形キートップに比べ、ホームポジションから目的のキーへと指を運ぶ方向(角度)が変化してしまうため、特にタッチタイプで文字入力する際にはミスタッチが増える。多少ピッチが狭くとも、正方形キートップの方がミスタッチが少ないと感じる人が多いのは、このためだ。 しかしRX1のキーボードの場合、前述したように以前の扁平キーよりは正方形に近くなったことや、キートップ形状が優れていることなどが関係しているのだろう。以前の扁平キーボード(以前にテストしたのはdynabook SS MX)よりも、明らかにミスタッチは減ったように感じる。 タッチのチューニングも変化しており、軽く弾くようにキーを打てた以前のモデルに比べ、しっかりとクリック感を感じる、重さとヌケをしっかりと指先に感じるキータッチへと変化した。ThinkPad系のキーボードに慣れたユーザーなら特に何も感じないだろうが、以前の軽いdynabookキーボードに慣れている人はやや重すぎると感じるかもしれない。もっとも、キータッチはしばらくするとやや軽くなって安定し、しばらく使っていると慣れることもあって、ちょうど良くなる。その程度の重さだ。 ・タッチパッド+指紋センサー
東芝はタッチパッドを配置する際、必ずホームポジションの真下にタッチパッドが来るように設計していた。しかし本機は、おそらく2.5インチHDDと指紋センサーの干渉を防ぐため、本体の中央へと配置されている。シンメトリーなデザインを狙ったというわけではなく、あくまでも内部レイアウトの都合によるもののようだ。 実際に使ってみると、パッドが右側にシフトしている分、右手親指の付け根で誤ってタップすることが多い。デフォルトではキー入力中のタップが有効になっているため、これをOFFにしておく方が使いやすいだろう。 マウスボタンだが、ボタンサイズが小さくパームレストからは突出していないため、慣れるまではかなり押しにくい。1週間使ってキーボードには大いに満足したが、マウスボタンの押しにくさには未だ慣れていない。タップを使えばいいとはいえ、ボタンで操作したい場合も多々あるものだ。ボタンサイズ拡大などの改良が将来、施されるのではないだろうか。 なおタッチパッドのアセンブルユニットに組み込まれている指紋センサーは、読み出しの感度や精度もよく、指の腹を押さえつけなくとも軽くなぞるだけで正確に読み取ってくれた。センサー周囲の形状も適切で使いやすい。 ・液晶パネル 半透過型液晶パネルは導光板の特性を調整し、背面に反射層を設けることで、透過型と反射型の両方の特性を持たせたもの。光学特性のチューニングによって、透過型の特性と反射型の特性、それぞれの配分を決める。 以前、NECが微透過型という液晶パネルを採用したことがあったが、それは反射型を基本としながら、わずかに透過型としての特性も持たせパネルだった。半透過型液晶パネルとしてよく知られているディスプレイには、ほかにiPAQのカラー液晶ディスプレイがある。 RX1に搭載されている半透過型液晶パネルは、見たところ透過型としての特性が強いようだ。半透過型は反射型として使っている場合の明るさを引き出すためか、コントラストが低く発色も淡いものが多いが、本機は(多少、コントラストや色純度は落ちるものの)パッと見には、さほど半透過型のデメリットを感じさせない。 写真の色味を確認するなどの用途には向かないが、一般的なビジネスツールとしてノートPCを活用しようというユーザーには、デメリットよりもメリットの方が大きい。また、LEDバックライトは輝度が十分に高く、一般的な蛍光管を用いた液晶パネルよりも、明るい場所での利用は楽だ。調整幅はレベル1~8まであるが、晴れの日の電車内でも日差しが直接入る側に座っていなければ、レベル2~3で十分に作業を進めることができる。
次に反射型として使う場合。キーボード左上には、2つの特殊ボタンが配置されており、そのうちの右側がバックライトOFFとして機能する(左は外部ディスプレイ出力のON/OFF切り替え。いずれも付属ユーティリティで他の機能を割り当て可能)。 ちなみにバックライトOFFには手動でしか移行しない。ディスプレイがOFFになる前に、タイマーでバックライトだけをOFFにできれば良いと思うが、その設定は行なうことが出来なかった。 もっとも、バックライトOFF時は、かなり明るい場所でも白が十分に明るく見えず、コントラスト感は出ない。オープンカフェや電車で日差しが強い席に座った時、あるいは車を停車させてPCを開くときなどに使うことになるだろうが、明るい場所でも日陰だとバックライトをONにした方が見やすい。バックライトOFFが役立つのは、強い日差しが直接差し込む場合の時だけのようだ。 と、反射型として使った場合のコントラストの低さに、やや萎えながらここまで書き進めた後、ふと気付いて透過型液晶パネルのPCと明るい場所での見え方を比較してみた。すると、バックライトをONにして利用している場合でも、反射型の特性がプラスに働いていることが視認できた。 当然のことだが、バックライトON時でも反射型の特性が失われるわけではなく、バックライト+反射光で明るい場所でもそこそこ使えてしまうからだろうか? 直射日光が差し込むような環境でも、それなりに使えてしまう。 もちろん、限定的ながらバックライトOFFでも使えるシチュエーションはあるが、バックライトOFFボタンは電力消費を意図的に抑える目的で適時使用し、普段はバックライトONで利用(これでも透過型よりも、ずっと明るい場所にはかなり強い)するというのが、良いように思う。 なお視野角だが、半透過型という特殊な特性を持たせているためか、上下視野角は狭め。しかし、12.1型というサイズや横に長いワイド型液晶であるため、実用上の問題は感じなかった。 ●筐体構成 薄型のLEDバックライトパネルを活かし、液晶部の厚みを極限まで削っているため、剛性に疑問を持つ読者も多いだろう。しかし左右の端を折り曲げた構造になっているため、液晶パネルの開け閉めなどでは、しなりを感じることはない。横方向には剛性を向上させるメンバーは入っておらず、手で曲げてみるとしなりはあるが、下部両端のヒンジ部の剛性が高いためか、不安感はなかった。 次に液晶パネルを手で支え、後ろから指で強く押してみたが、液晶パネルの表示が乱れるようなことはなく、薄型デザインながらパネルへのストレスは最小限に抑えられているようだ。液晶パネル部の剛性は心配なさそうである。 次に気になるのが、本体部右側の剛性。この部分は7mm厚のDVDドライブが納められており、アンダーシャーシにリブを大きく立てることができない。しかし、アンダーシャーシと同じくマグネシウム製のアッパーシャーシとの組み合わせで剛性を出しているようで、さすがにしっかりと側面が立っている左側に比べれば柔らかいものの、実用上十分な剛性は出ている。たとえばパームレスト右端をつまんで本体を振ってみても、さほど不安は感じなかった。
またメカ周りの細かなところでは、SDカードスロットが使いやすい。パームレスト右端に配置されているSDカードスロットだが、入れやすく、そして取り出しやすい。かといって誤操作や持ち運び時にカードが抜けないように配慮されている。 さらに細かな点として、dynabookシリーズに好んで使われていたアナログボリュームの仕様が変化していた。従来、音声ボリュームはスピーカーあるいはヘッドフォンのアッテネータとして機能していたのだが、本機では回転量をOSに伝える機能しか持たない。Windows Vistaではアプリケーションごとにボリューム値を持つようになった関係で、マイクロソフトはハードウェア仕様にボリュームをソフトウェアコントロールにするよう求めており、それに対応する関係で変更されたものだ。 ●ワイヤレス機能 本機の無線LAN機能はIEEE 802.11a/b/g対応で、残念ながら802.11nには対応していない。実は米国向け仕様では802.11nモデルが発表されており、本体側の設計としてはきちんとデュアルバンドのアンテナを3本入れることが可能になっている。設計上の話になるが、デュアルバンドの無線LANアンテナ×3、Bluetooth、デュアルバンド(800MHz+2.1GHz)のHSDPA用アンテナが、すべて液晶部トップに同時実装可能だ。 この点について東芝に質問したところ、まだ日本向けの802.11n仕様に不確定な部分が残っているためとの回答を得た。802.11n対応は次のモデル以降には搭載されるようになるだろう。 また日本向けには(企業向けCTOモデルも含め)Bluetoothモデルが用意されていないが、これは多方面から強い要望があり、Web直販専用コンシューマモデルとして追加されるとのこと。RX1/T7Aの仕様をたたき台にBluetoothが追加されたモデルになるようだが、それ以上の情報は入っていない。HDD容量やオンボード分のメモリ容量など細かな点も変更される可能性はある。 HSDPA対応も気になる読者がいることだろう。本機にはminiカードスロットが2個あり、その片方が無線LAN。そしてもう一方にはBluetoothが付けられることがあるが、HSDPAモジュールを付けようと思えば付けられるわけだ。ただし、他の製品がそうであるように、HSDPA内蔵モデルはビジネスとして成立させるのが難しい。 PCへのHSDPAモジュール内蔵は欧州ですでに実績があるため、技術的な問題はないはずだが、実際に製品に搭載されるようになるまでには、いましばらくの時間が必要だろう。 なお、ハードウェアスイッチで無線LANのON/OFFを切り替えられる点や、Windows自身の無線LANサポート機能と連携して動作するConfigFreeの使い勝手の良さなどは従来機種と同様である。 ●各種付属ソフトウェア ここではいくつかの付属ソフトウェアについて触れておきたい。
東芝製ノートPCのWindows XPモデルには「東芝省電力ユーティリティ」というアプリケーションが付属している。これはRX1でも同じ(ただし企業向けモデルのみ)だが、Vistaモデルの場合はほとんどの機能をVista標準の省電力機能に譲り、東芝独自の設定項目はモビリティセンターの追加アプレットになった。 これにより、従来あったきめ細かな省電力設定が失われてしまったのは残念。Vistaが標準でカバーしている範囲内の設定項目は、Vista標準のユーザーインターフェイスで設定を行なうのだが、これがVistaユーザーならばご存じの通り、一覧性が低く設定全体の見通しが悪いなど扱いにくい。 実際の運用時には、[Fn]+[F2]で省電力プロファイルを切り替えることができるのは、従来機と同じだが、省電力プロファイルを設定し終わるまでのタイムラグが長いというのもVistaモデルならではの悩みだろう。 この点は東芝も認識しているようで、現在、Vistaの設定項目をより簡単なインターフェイスで設定するための新しいユーティリティを開発しているそうだ。ただし、新ユーティリティを利用する場合でも、設定項目そのものは変わらない。プロファイルの切り替えがやや遅く感じることも、OSの中身の問題と思われるため解決はしない。これらは東芝機だけの問題ではないため、PCベンダーは手出しできないところだ。 従来の東芝機と同じような省電力機能を使いたいのであれば、Windows XPを利用するしかない(XP用ドライバは入手可能なため、Vistaのライセンスを無駄にする覚悟ならば、XP化するのは比較的容易)。 さて、付属ユーティリティでもう1つ言及しておきたいのが、[Fn]キーとのコンビネーションで切り替えたり、呼び出したりする機能について。本機ではFlash Cardsというユーティリティがこれを担当しているのだが、半透明の表示やスムースなアニメーションなど、あまり意味もなく(というと失礼だが)凝った作りになっており、その割にはカスタマイズ性が低い上、メモリを18MBも使っている。 18MBという数字そのものは、メモリ容量全体からすればさほど大きくないと思うかもしれないが、メモリの一部はスワップ可能な属性になっていることもあり、たとえばバックライト輝度を変更するだけでも、輝度メーターが出てくるまでに時間がかかったり、呼び出し後も入力キーに対するレスポンスが遅い。 この件もやはり東芝側に問い合わせてみたが、他の問題と同じく認識はしているそうで、7月中にも軽量版のFlash Cardsがリリースされるそうだ。 さて、このFlash Cardsに関連する部分で、1つ残念な部分があった。といっても、主要な機能に影響する部分ではないのだが、Flash Cardsで実現されているホットキーでSDカードコントローラの電源をON/OFFできないのである。 RX1は内蔵するさまざまな付加デバイスの電源を、省電力プロファイルごとにON/OFFできるようになっている。たとえば通常モードのバッテリ駆動時にはi.LINK電源は落とすが、光学ドライブとSDカードコントローラは活かしておき、省電力モードのバッテリ駆動時には全部OFFにするといった具合だ。 ところが光学ドライブの電源は、[Fn]+[Tab]でON/OFF操作できるが、SDカードコントローラにはその割り当てがどこにもない。よって、出先でSDカードスロットを使う場合は常にONにしておくか、あるいはON/OFFしたい時に省電力プロファイルを切り替えてしまうか、いずれかの方法を取るしかない。 これらのデバイスは、一時的に使っても、その後、一定時間使わない場合は自動的に切り離して電源を落とすなど、もう一工夫入れればより使いやすくなるだろう。もちろん、これらはソフトウェアで実装しているのだから、ある程度は後からのアップデートで対応が可能だろう。今後のアップデートに期待したい。 ●バッテリ持続時間 カタログスペックでは11時間使えることになっている本機だが、これはあくまでもJEITA測定法での話だ。JEITA測定法は、何もせずに最小のバックライト輝度のまま放置した場合の駆動時間と、100cd/平方mのバックライト輝度でMPEG-1の動画を繰り返し再生させた場合の駆動時間の平均を取るというものだ。東芝に確認したところ、動作に必須ではないデバイスをすべてOFFにした上で、さらにバックライトをOFFにしてから最長駆動時間の計測を行なっているという。これに加えて、LEDバックライトの進化などもあり、11時間という駆動時間が達成されているようだ。 しかし実用的には、ほとんどの場面でバックライトの点灯は必要になる。このため、筆者が使っている範囲では、同様のプラットフォームに構築した他のモバイルPCに比べ、特に長時間駆動できるわけではないと感じている。 参考までに、この1週間使っていたバッテリ駆動時の設定は、CPUが自動、iLINKとSDカードコントローラと光学ドライブの電源OFF、無線LAN電源ON、バックライトの明るさレベル3(暗い方から3番目)といった設定で、こうして原稿を書き続けていると5.5~6時間ぐらい使える感触だ。休みながら使ったり、バックライトOFFを積極的に行なえば8時間ぐらいはカバーできるかもしれないが、10時間の駆動は難しいだろう。 おおむね1セルあたり1時間ほどと考えておけば、たいていの場合、大きく予想駆動時間としては外さない数字になる。悪い数字ではないが、さりとて特別優れているというわけではない。これがSSDモデルでどう変化するかが気になるところだが、SSDモデルの出荷はHDDモデルよりも遅い。実際に製品に触れることができれば、その際に印象をこの連載の中で伝えることにしたい。 ●まとめ まとめとして、個々のパートではなく、製品全体に感じた印象などを書いて終わりにしたい。 スペックという点において、本機は紛れもなくモバイルPCの中でナンバーワンの製品だ。1,280×800ドットという解像度と12.1型サイズはよくマッチしており、人によっては横幅が広すぎると感じるかもしれないが、操作性と見やすさ、解像度のバランスがいい。その上、薄さはともかく、この大きさで光学ドライブと6セルバッテリを搭載し、1,090g(HDD+光学ドライブモデル)という軽さを実現している。
分厚くて軽いというのは、アプローチとしてはやりやすいが、薄くて剛性を十分に確保しながら、しかも軽いというのは、技術的には相当難しい。ノンラッチで可変トルクのヒンジだけで液晶パネルを閉じた状態に保つメカも、動きや操作感がスムーズでよくこなれた印象を持たせる。半透過型液晶パネルも、思ったよりも見やすく、またバックライトONの場合でも、明るい場所で見やすいことなどを確認できた。 キーボードの操作性を含め、仕事道具としてのモバイルPCを探しているならば、一度は触れておきたいマシンである。モバイルPCの理想像は、ユーザーそれぞれの利用スタイルに依存する。よって究極や万能のモバイルPCは存在しないと思うが、PCを持ち歩かなければ仕事にならない人たちにとって、本機は現時点で理想的な製品の1つといえるだろう。 ただし、残念ながらユーザーの幅を広げるような製品ではない。ユーザーの幅を広げるというのは、従来はあまりPCそのもの、あるいはPCを持ち歩いて使うことに興味を持っていなかった人たちに、プラスアルファでもう1台のPCを買おうという気持ちにさせる製品かと言えば、そうではないと思う。この製品は、従来のビジネス系モバイルPCを愛するユーザーが、既存マシンの置き換えとして喜ぶ製品だろう。 しかしこれだけの製品を作る技術力があるということは、別の商品として、もっと新しいユーザーの心を揺さぶる、あるいはPCを持ち歩こうと考えていなかった人たちに、持ち歩こうという意欲を沸かせる製品を開発できる下地はあるのだと思う。 本機に関しては価格面で高いという声も聞くが、スペックや作りを考えれば、高い値段を付けるのも当然と思わせる出来映えだ。SSDモデルは高価だが、HDDモデルならば、それほど高いわけではない。 このところの東芝は、モバイルPCのコンセプトがモデルチェンジごとに変化し、狙いが定まっていない印象があった。薄くなったり、厚くなったりを繰り返し、コンセプトが二転三転といったイメージがある。しかし、今回はこれだけ良いプラットフォームができたのだ。久々に復活したともいえるdynabook SSの精神を、今後改良を実施しながらRX2、RX3、RX4と進化させていくことを期待したい。
□東芝のホームページ (2007年7月2日) [Text by 本田雅一]
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