笠原一輝のユビキタス情報局

HDDとSSD、消費電力と性能の違いを調べる
〜SSDの今と今後




HDDの代わりにフラッシュメモリを搭載した「VAIO type U」

 2006年に発売されたソニーの「VAIO type U」には、1.8インチHDDを搭載したモデルと、ATAインターフェイスを備えたフラッシュメモリ、いわゆるSSD(Solid State Drive)を搭載したモデルも用意され、大きな注目を集めた。

 現在PCの性能向上においてボトルネックの1つになりつつあるのが、実はこのHDDなのは多くの読者に同意してもらえると思うが、SSDはそれを解決する手段の1つとして大きな注目を集めている。

 本記事では入手したSSDのサンプルを利用して、HDDとの性能の違いや、今後の展開などについて考えていきたい。

●インターフェイスは速くなれど、あまり速くならない平均シークタイム

 HDDの性能を語る上でポイントとなるパラメータはいくつかあるが、HDD内部とチップセットを接続するインターフェイス、ディスクの回転数、キャッシュ容量、平均シークタイム(ヘッドが目的のデータが記録されている位置までに移動する平均時間)などがその代表例といえるだろう。

 このうち、インターフェイス、ディスク回転数、キャッシュ容量に関しては年々数値が伸びている。たとえばインターフェイスは、'90年代の後半にUltra ATA/33(33MB/sec)の導入から始まり、Ultra ATA/66(66MB/sec)、Ultra ATA/100(100MB/sec)が導入され、最終的にはUltra ATA/133まで導入された。2000年代に入り、それまでのパラレルATA(PATA)に替わり、シリアルATA(SATA)が導入された。当初はSATA-150(150MB/sec)、そしてSATA-300(300MB/sec)と導入され高速化の一途をたどっている。

 ディスクの回転数も同様で、90年代では4,200rpmのドライブが一般的だったが、'90年代の終わりには5,400回転のドライブが普及した。2000年代に入ってからは7,200回転のドライブがメインストリームになり、10,000rpmのドライブも徐々に普及しつつある段階だ。キャッシュメモリも以前は1MBや2MBというのが関の山だったのが、今は8MBや16MBなどが当たり前に搭載されるようになっている。

 ところが、平均シークタイムは実は'90年代終わりからあまり進化していない。'90年代の終わりから平均シークタイムは速い製品でも8msで、9〜10msあたりというのが一般的になっている。

●ユーザーの体感に大きな影響を与えるのはランダムアクセス

 シーケンシャルリードやシーケンシャルライトなどと呼ばれる大量のデータを頭から順序よく読み書きする場合、性能に影響するのはディスクの回転数だ。この場合は、回転数やキャッシュメモリなどの容量が大きければ大きいほどディスクの読み書き性能は向上する。

 しかし、HDDのあちこちに点在しているデータをランダムに読み書きする、ランダムリード/ライトの場合、ディスクの回転数がいくら速くてもあまり意味がない。この場合には、ヘッドがディスクの目的の位置に移動するまでの時間、つまりシークタイムが速ければ速いほど性能は向上するのだ。

 重要なのは、ユーザーがOSやアプリケーションを起動する場合、OSやアプリケーションが行なうのはランダムリードやランダムライトであるということだ。例えば、BAPCoがリリースしているノートPC向けのベンチマークソフトに「MobileMark 2005」というものがある。MobileMark 2005はOfficeやAdobe Photoshopのような実在のアプリケーションを利用して、アプリケーションの応答速度などから処理能力とバッテリ駆動時間を計測するタイプのベンチマークで、ユーザーの体感に近い結果が出ると定評があるが、このMobileMark 2005のほとんどはランダムアクセスで行なわれている。つまり、ユーザーの実利用環境でもそうしたランダムアクセスがユーザーの体感に与える影響が大きいということだ。

 しかし、すでに述べたようにHDDは数年前からシークタイムはあまり速くなっていない。つまり、いくら回転数が速くなっても、ユーザーの体感にはあまりつながっていない、そういう状況が発生してしまっているのだ。

●Vistaに実装されたWindows Ready BoostとWindows Ready Drive

 特にノートPCに採用されている2.5インチや1.8インチのドライブは、回転数もシークタイムもデスクトップPC向けの3.5インチドライブ比べて遅くなっている。このためノートPCを使っていると、なんかデスクトップPCより遅いなと感じることは少なくないだろう。実際筆者もそう感じるのだが、多くの人はCPUがデスクトップに比べると遅いからと思っているのだが、実のところHDDの性能が与えている部分が多いのだ。

 そこで、現在この問題を解決すべく、業界を挙げての取り組みが始まっている。その代表例はMicrosoftが取り組んでいる、USBフラッシュメモリなどを利用する「Windows Ready Boost」と、フラッシュメモリを内蔵したハイブリッドHDDを利用する「Windows Ready Drive」という、Windows Vistaで実装された機能だ。

 Ready Boostはすでにあちこちで取り上げられているので、ご存じの方も少なくないだろう。Ready Boostは、HDD上に展開されるメモリページ(いわゆるスワップファイル)を一時的にUSBフラッシュメモリなどにリードキャッシュする機能で、HDDだけにメモリページを展開する場合に比べて高速にシステムを実行できる。メモリページへのアクセスは、やはりランダムアクセスになるので、HDDだけにメモリページを展開する場合に比べて遙かに高速にアクセスできるようになるので、結果としてシステム全体を高速化することができるのだ。なお、Ready Boostはリードキャッシュとしてだけ利用されるので、間違って抜いてしまったりしてもWindowsは何の問題もなく動作する。

 余談になるが、Ready Boostに利用できるフラッシュメモリを接続するバスはUSBに限らない。PCI Expressであろうが、ExpressCardであろうが、どんなインターフェイスでもかまわないのだが、ある程度の転送速度を上回っている必要がある。これは、インターフェイスが原因で、HDDと同じ程度、もしくはそれ以下の速度でしかアクセスできないなら、メモリページのキャッシュとして意味がないからだ。

 これに対してReady Driveに利用されるハイブリッドHDDは、HDDの内部にNVキャッシュと呼ばれる形でフラッシュメモリを内蔵する。Ready Driveでは、HDD内部のDRAMキャッシュとは別の形で利用されるようになる。NVキャッシュはDRAMキャッシュに比べて容量が大きいので、DRAMキャッシュには入りきらないような巨大なデータもキャッシュできるほか、電源を切っても内容を保持できるという特性を利用して、ハイバネーションのファイルをNVキャッシュに格納し、ハイバネーション、そしてレジュームの速度を、従来よりも圧倒的に高速に行なうことが可能だ。通常のHDDでは、スピンアップ(ディスクが回転して、ヘッドがデータを読めるようになるまでの時間)にかなり時間がかかるが、ハイブリッドHDDではHDDがスピンアップしていてもその間にNVキャッシュからハイバネーションのデータを読み込むことができるので、復帰までにかかる時間を短縮できる。

 なお、IntelがSanta Rosaプラットフォームで導入を予定している「Intel Turbo Memory」は、Ready BoostとReady Driveの両方に対応しており、設定でどちらかだけあるいは両方を有効にすることができる。ただし、ハイブリッドHDDとは異なり、フラッシュメモリはPCI Express上にあるため、若干ハイブリッドHDDに比べると性能は劣る可能性は高いが、両方に利用できるというのはメリットといえるだろう。

●HDD自体をフラッシュメモリにしてしまうSSD

 Windows Ready BoostもWindows Ready Driveも、シークタイムの遅さを隠蔽し、システムの性能を上げるという目的のためには十分意味がある取り組みなのだが、それでもHDDは存在し、キャッシュに入りきらないデータの場合、対応できないことにはかわりがない。例えば、Intel Turbo Memoryは、1GBと512MBのSKU(製品種別)が用意されているが、仮にメインメモリが2GBである場合、Ready Driveとして利用してもハイバネーションのキャッシュとしては入りきらないのでので、結局HDDを起動せざるを得なくなる。それならHDDそのものをフラッシュメモリにしたらどうか、という考え方で作られた製品が、SSD(Solid State Drive)なのだ。

 SSDは、ATAの仕様に準じたディスクコントローラが搭載されており、PCやBIOSからはHDDとして認識されるようになっている。また、物理的な形状に関しても2.5インチや1.8インチのノートPC用のHDDと同形になっているものもあり、そのまま従来タイプのPCに交換して利用できるほか、マザーボードに直接実装して利用するという使い方も可能だ。

 今回筆者が入手したのは韓国のSamsungからお借りした1.8インチ型のSSDで、OEMベンダなどに出荷している製品と同等のサンプルだ。容量は32GBで、東芝がOEM向けに出荷している1.8インチHDDと形状は同じだ。

 利用したのは、筆者の手持ちの1.8インチHDD搭載PCとして、富士通のLOOX Q(FMVLY7TN13)で、18.3mmという薄さと999gという軽量を実現しながら12.1型のWXGA(1,280×800ドット)液晶を搭載したモバイルノートPCだ。ちょうどこの製品には東芝の30GBが搭載されていたので、これと入れ替えて性能を比較してみることにした(なお、LOOX Qに関してはこちらも関連記事を参照していただきたい)。

 LOOX Qは、1.8インチドライブを採用した製品としては珍しく、HDDは手軽に交換できるようになっている。底面にあるネジを外すだけで、HDDにアクセスすることができる。もともと入っていた「MK3006GAL」は厚さが5mmの薄型タイプだが、LOOX Qは8mmのタイプも入るように設計されており、Samsungの厚さ8mmのSDDと入れかえて利用できる。

 LOOX QにはSSDを搭載したラインナップは用意されていないが、入れ替えてOSをリカバリしただけで、何の問題もなく動作した。驚いたのは、LOOX QにはHDDの揺れを感知してヘッドを待避させるソフトウェアが入っており、HDDを故障から防ぐことが可能なのだが、そのヘッドを待避させるソフトウェアでさえ問題なく動作した(むろん、SSDでは意味がないが)。こうしたソフトウェアはATAのコマンドを利用して動作しているので、そうしたところまでATAと互換性があるということがわかる。

LOOX Qは18.3mmという薄型ボディと999gの軽量を実現した薄型ノートPC。12.1型のWXGA液晶を搭載している HDDは底面のネジを外すだけで簡単に交換できる
上が東芝の1.8インチHDD(MK3006GAL、厚さ5mm)で、下がSamsungのSSD(MCAQE32G8MPP-0XA、厚さ8mm) 厚さの比較、上がSSD(厚さ8mm)で下がMK3006GAL(厚さ5mm)。5mm厚のドライブしか入らないノートPCには利用できないが、厚さ8mmのドライブが入るノートPCでは問題なく利用できる

●低消費電力で高いランダムアクセス性能を実現

 それでは、LOOX Qを利用して東芝のMK3006GALとSamsungのSSDをベンチマークプログラムを利用してパフォーマンスや消費電力などを比較していきたい。比較に利用したのは、BAPCoのMobileMark2005に含まれるProductivityテストと、FutureMarkのPCMark05 V1.2.0を利用し、さらにWindowsの起動時間に関しても計測した。

 なかでも、MobileMark2005のProductivityテストは、OfficeやAdobe Acrobat/Photoshopなどの実アプリケーションを利用してPCの応答速度などを計測し、それによりスコアを出すので、ユーザーの体感に近い結果がでると定評があるほか、同時にバッテリによる駆動時間を計測することもできる。LOOX Qのバッテリ容量は12.42Wとわかっているので、これを利用して、1時間あたりの平均消費電力を計算して出すことが可能だ。また、PCMark05はコンポーネント単位での性能を計測するのに適したベンチマークテストで、主にドライブ周りの性能を単体でみるのに利用した。結果はグラフ1〜4の通りだ。

【グラフ1】MobileMark2005/Productivity
【グラフ2】MobileMark2005/平均消費電力
【グラフ3】Windows起動時間
【グラフ43】PCMark05/HDD関連

【テスト環境】
PCFMV LOOX Q(FMVLY7TN13)
CPUCore Solo U1400(1.2GHz)
メモリ512MB
チップセット/GPUIntel 945GMS
バッテリ10.8V 1,150mAh
OSWindows XP Service Pack 2(日本語版)

 グラフ1の結果は、まさに驚異的な結果だと言っていいだろう。SSDの結果はHDDの実に1.5倍のスコアをたたき出している。CPUの差でここまで差を出すことは難しいので、効果は絶大ということができるのではないだろうか。

 グラフ2の平均消費電力に関してだが、こちらも0.5W/hもの差がでている。今回のLOOX Qのような超低電圧版CPUを採用したシステムは、HDDの場合でもシステム全体で6.4W/hに過ぎないので、それから0.5Wも下がることになると、全体の10%近くになるのため、効果は大きいだろう。

 グラフ3のWindowsの起動時間に関してもHDDの50秒からSSDは35秒に縮まっている。Windowsの起動に関してもドライブへのランダムアクセスが多くなるので、SSDにすることで大きな恩恵を受けることができるのだ。

 グラフ4のPCMark06のHDD関連テストの結果だが、このテストのほとんどはランダムリード/ライトが多くなっているので、SSDがHDDを上回っている。ただし、ファイルの書き込みのみ、HDDが上回っている。これは、現在のパラレルATAインターフェイスのSSDは、書き込み用のDRAMキャッシュを搭載していないことが1つの要因になっている。Samsungによれば、次世代のシリアルATAのSSDに関してはDRAMキャッシュが搭載されるとのことなので、今後解決されるだろう。

●倍々で増えていくフラッシュメモリの集積度、今後はバイト単価も低下していく

 低消費電力で高いランダムリード性能を持つという、言ってみればいいことずくめに見えるSSDだが、今のところ急速にHDDを置き換えているという状況ではないことからもわかるように、いくつかの課題を抱えている。

 1つは容量の問題だ。現在市場に流通しているSSDは、Samsung、そして先日発表したSandiskともに最大容量は32GBとなっている。これに対して、HDDは2.5インチなら200GBがすでに出荷済みだし、1.8インチなら80GBが市場に登場している。そうした製品に比べると、容量の点で見劣りがするのは事実だ。

 もう1つの課題はコストだ。現在32GBのSSDはOEMメーカー向けの価格で数百ドル程度になっており、たとえば同じ30GBの1.8インチHDDや2.5インチHDDは100ドル以下で入手することができることを考えると、かなり高いのは事実だ。つまり、1MBあたりの単価がHDDにくらべてきわめて悪い。従って、PCメーカーとしても、通常の製品ラインに採用するのは難しく、今のところモバイル向けでかつプレミアムがつけられる製品にのみ採用される状況だ。

 ただし、今後状況は徐々に改善されていく可能性が高い。1つには、NAND型フラッシュメモリの技術革新が、ムーアの法則を超える勢いで進んでいるという事実だ。Samsungのフラッシュメモリは、ここ数年、1年で倍の容量を実現する勢いでプロセスルールの微細化が進んでいる。ムーアの法則が18〜24カ月で半導体の集積度が倍になるというものだから、12カ月で倍というのはそれを上回る勢いだ。そうした動きはSamsungだけでなく、他のフラッシュメモリベンダも同様で、今後もその勢いはしばらく止まらないとみられている。

 iPodのストレージを例に挙げると、4年前にリリースされたiPod miniではMicrodriveという1インチHDDが利用されていたのに、2005年発表されたiPod nanoではフラッシュメモリに置き換えられている。これは、フラッシュメモリの集積度が上がったことで、バイトあたりの単価がMicrodriveを下回ったためとみられている。今後もフラッシュメモリの集積度が倍々で上がっていくのであれば、今後数年で1.8インチのバイト単価を追い抜いても不思議でもなんでもない。

 Samsungの関係者によれば、2007年の半ばまでに64GBのSSDの製品化を実現できる見通しであるという。となれば、32GBの価格も下がってくることが予想されるため、バイト単価はさらに下がることになるだろう。となれば、特にモバイルユーザーのような、高性能や低消費電力といったことにコストを払ってもよいというユーザーにとって、SSDはさらに現実的な選択肢となるのではないだろうか。

 個人的には、ぜひ秋葉原などでバルクとして売ってもらえると、今手持ちのHDDと交換して使うことができるので嬉しいのだが、どこかの代理店の方、いかがだろうか?

□関連記事
【3月20日】【CeBIT】読み書きとも20倍速のDVDドライブや128GBのSSDなど
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【2006年10月20日】【Hothot】富士通「FMV-BIBLO LOOX Q70TN」
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【2006年6月12日】マイクロソフト、Vistaのビジネス利用における新機能を紹介
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0612/ms.htm

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(2007年3月23日)

[Reported by 笠原一輝]


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