11月1日からの年賀はがきの発売、そして、12月にかけてのボーナス支給によって、コンシューマ向けプリンタの年末需要が本格化してくる。 2007年度上期の国内プリンタ市場は、エプソンの調べによると、前年同期比4.7%減の205万台と前年割れとなっていただけに、年末商戦での巻き返しにかける期待は大きい。 すでに、主要各社から、複合機、インクジェットプリンタおよびフォトプリンタの新製品が出揃い、商戦本格化への準備も万全だ。 今回は、年賀状需要動向を探る第2弾として、プリンタ市場の動向を追ってみる。 ●今年も二強が激しい戦いを展開 例年、プリンタ市場は、エプソンとキヤノンの2社が熾烈な争いを繰り広げる。 BCNランキングによると、2006年実績は、インクジェットプリンタ部門では、キヤノンが46.5%、エプソンが44.3%となったほか、複合プリンタ部門ではキヤノンが46.6%、エプソンが41.3%。成長著しいフォトプリンタ部門ではエプソンの45.8%に対して、キヤノンが35.7%。どの分野でも、両社が圧倒的なシェアを誇り、僅差で首位を争っている構図だ。これは今年(2007年)に入ってからも変化がなく、年末商戦でも、やはり2社の争いになりそうだ。 前哨戦となるこの10月の動きを見ても、やはり2社の動きが突出している。 BCNランキングの今年10月の最新データによると、インクジェットプリンタ部門では、エプソンが45.7%、キヤノンが44.0%。複合プリンタ部門ではエプソンが45.2%、キヤノンが43.1%、フォトプリンタ部門ではエプソンの39.7%に対して、キヤノンが35.3%。フォトプリンタ部門において、カシオが3位に入り、16.4%と2桁のシェアを獲得しているが、それ以外は、すべての部門において、他社は1桁台のシェア。そのカシオのシェアも、1、2位との差は倍以上開いている。 昨年(2006年)実績ではキヤノンがトップシェアとなったのに対して、今年の前哨戦における出足ではエプソンが先行しているが、シェア争いという点ではキヤノンは決して焦ってはいない。十分巻き返しを図れるポジションにいるとともに、これからが本番という意識があるからだ。
そして、実は、エプソン、キヤノンの両社にとって、トップシェア争いは、それほど重要な要素ではなくなっている点も見逃せない。 もちろん、製品発表の席上では、「コンパクト、複合機、インクジェットプリンタのすべての領域で50%以上のシェアを取る」(エプソン販売 平野精一社長)、「インクジェットプリンタで48%以上、昇華型プリンタで80%以上、家庭用プリンタ全体で50%以上のシェア獲得を目指す」(キヤノンマーケティングジャパン 芦澤光二専務取締役)と、どちらもトップシェア獲得に向けての意欲を見せるが、無理にシェアを取りに行こうとすれば、無意味な価格競争を引き起こすだけで、事業という観点からは決して得策ではないことは百も承知。むしろ、営業/マーケティング費用を投下する分野は、いかに印刷機会を増やすかという点であり、その点では、両社にとって共通の課題となっている。 昨年12月の本コラムでも触れたが、ここ数年、プリンタメーカーにとっては、いかに「おうちプリント」を拡大するか、という点が大きな課題となっているのだ。 ●「おうちプリント」拡大を訴求するエプソン
エプソンは今年、カラリオのキャッチフレーズに、「じぶんを、出そう」という言葉を使った。 これまで、「つよインク」や「Epson Color」といった写真品質や高速印刷など、技術力を前面に出した訴求していたが、今年は用途や使い方を前面に打ち出したのだ。 「プリントアウトして、なにがいいのかではなく、なにをしたら喜んでもらえるのか、自分の向上のためや、自己を表現するために支援、解決するために、どんなプリンタの使い方ができるのかを訴えた。写真出力から写真活用へと、提案を進化させた」と、エプソン販売 富田隆宏取締役はその狙いを語る。 エプソン販売の平野清一社長も、それを補足するように、「プリンタのプロモーションから、プリントのプロモーションに転換する」という言葉で表現する。 9月から放映されているエプソンのTV CMには、例年以上に多くのキャラクターが登場している。これも、同様に用途を訴える狙いから起用したものだ。メインキャラクターの長澤まさみさんをはじめ、9人が登場。それぞれの立場から、カラリオの利用シーンを訴求している。
「これまでの主要顧客層に加えて、30~40代の主婦、60~80代の団塊世代男性、20~30代の独身女性を、新たなターゲット層と位置付けた」 とくに、同社が新規開拓の重要ターゲットとして位置付けているのが、20~30代の独身女性である。 同社の調べによると、最近のデジカメ購入者はプリンタ所有率が低く、その結果、写真店でプリントを利用する比率が高いという調査結果が出ている。 「従来のデジカメ購入者の中心は、PCを所有しているユーザー。同時にプリンタを所有するケースが多かった。しかし、最近のデジカメ購入者の傾向を見ると、これまでアナログカメラや使い捨てカメラを利用していた層が増加しており、PCやプリンタを所有していないユーザーが多い。結果として、プリンタでプリントアウトせずに、従来のカメラ同様に、お店に持ち込んでプリントアウトしているのではないだろうか」と、富田取締役は分析する。 エプソンでは、今年の新製品で、新たにナチュラルフェイス機能を搭載したが、これは、「写真映りが悪いことが多い」とする女性の声に対応したものともいえる。ターゲットとする20~30代の女性が、ベストショットをきれいにプリントアウトするという提案に直結するからだ。写真店での「お店プリント」に持ち込んでいた若い女性層を、「おうちプリント」に引き込むための提案ともいえよう。
●団塊デジカメユーザーの増加で懸念されるおうちプリント需要 キヤノンでも、同様に、「おうちプリント」の提案に余念がない。 「インクカートリッジの消費量が年々増加傾向にあるが、デジカメのショット数はそれを上回る勢いで増加している。家庭でプリントするという使い方をさらに訴求する必要がある」と、キヤノンマーケティングジャパンの芦澤専務取締役は語る。 とくに、芦澤専務取締役が懸念しているのは、デジタル一眼レフの市場拡大に伴う動きだ。 「来年(2008年)は、デジタル一眼レフカメラが27年ぶりに年間100万台の出荷を達成する記念すべき年になる。新たな需要層を開拓しており、それを裏付けるように、先頃発売した「EOS 40D」は、団塊の世代を中心に好調な売れ行きを見せている。だが、熟年層は、お店に持っていき、プリントする傾向が強い。熟年層へのデジカメ普及にあわせて、家庭におけるプリントのメリットをもっと伝える必要がある」 同社では、“ENJOY PHOTO”のキャッチフレーズで、デジカメによる撮影から、プリンタでのプリントアウトまでの一貫したソリューションを提案する施策を展開。イベント開催や、ユーザー向け教育体制の強化、店頭展示の強化によって、おうちプリントの良さを訴求していく考えだ。
●個人向けプリンタ市場に初参入した富士フイルム 一方で、お店プリントの雄である富士フイルムが、今年は初めて個人向けフォトプリンタ市場に本格参入した。 富士フイルムが投入したのは、「FinePix Printer QS-70」および「同QS-7」の2機種。Lサイズとポストカードサイズの用紙に対応したコンパクトフォトプリンタ。用途としては、キヤノンの「SELPHY」、エプソンの「カラリオ ミー」などと同じだ。 大量のTV CMで、「お店プリント」の良さを訴求する富士フイルムが、なぜ、対峙する「おうちプリント」の市場に参入したのか。 富士フイルムイメージングの杉原和朗社長は、「デジカメの累計稼働台数は3,000万台規模が想定され、総ショット数は225億ショットにものぼる。しかし、そのうちプリントされるのは約40%。まずは、お店プリント、おうちプリント、ネットプリントに関わらず、プリントする習慣をつけてもらうことが必要。そののちにお店プリントの良さを訴求する」と、あくまでもお店プリントが主軸であることを強調する。
だが、その一方でこうも語る。 「簡単に、手軽に、家でプリントアウトしたいという需要があるのは確か。そうしたニーズに対して、富士フイルムのミニラボで培った技術を活かすことができる」
かつて、フイルムメーカーの同社が、デジカメ市場に参入することは、同社事業の縮小を加速するとの指摘に対し、「市場性のある分野を見過ごしている方が問題」として、果敢にデジカメ市場参入を果たした経緯があった。結果は周知の通り、デジカメメーカーとしての業績を拡大している。今回の市場参入も、おうちプリントという市場が明確に存在し、そこに自らの技術が活かせるのであれば、そこに参入すべきとの同社ならではの発想が見え隠れする。 「プロの技術で仕上げるお店プリントとはバッティングしないと考えている。フォトプリントで実績をあげれば、次の商品展開も視野に入れたい」と、プリンタの製品ラインアップの強化につなげたい姿勢を見せる。 富士フイルムでは、同社がデジカメで得意とする、20~30代の女性ユーザー層のプリント数量が少ないことに着目。新製品の「QS-70」では、FinePixで女性に人気のピンクと同色の製品を用意するという戦略的提案で、フォトプリンタ需要の顕在化に挑む。 ●共通の課題はプリント枚数の増加 実は、富士フイルムが、おうちプリントを推進する一方で、これまで、おうちプリントを推進してきたエプソンが、ミニラボ向け機器を投入するといった動きも出ている。 この動きは、エプソンが、対峙するお店プリント領域に進出したと捉えることができよう。インクジェット技術の産業利用に取り組むエプソンが、富士フイルムの判断と同様に、市場性のある分野に自らの技術を活かして参入していくという、ビジネス的観点からのものといえる。 かつては、プリンタメーカー同士の戦いとなっていた市場が、ここ数年は、おうちプリント対お店プリントの戦いへと転換してきた。しかし、富士フイルムのコメントからも明らかなように、プリントアウトされずに保存される写真は6割を占め、プリントアウトされているのは4割しかない。アナログカメラ時代には考えられなかった構成比だ。これからしばらくの間は、プリント枚数増加に向けた共同戦線が1つの鍵になるかもしれない。
□関連記事 (2007年11月7日) [Text by 大河原克行]
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