●当面は従来のフォームファクタを継承するDIMM DRAMの標準規格を策定するJEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)は、7月22日から24日にSan Joseで開催されたメモリとストレージ技術のカンファレンス「MEMCON07 San Jose」で、次世代DRAMとメモリモジュールの状況を説明した。その中で、JEDECのBill Gervasi(ビル・ジャヴァーシ)氏(Vice President, Engineering, USModular/Chairman, JEDEC JC-45.3)は、DDR3では、当初は1チャネル1スロットの予定だったのが、市場の要請によって1チャネル2スロットに拡張されたため、さまざまな影響が出ていると語った。 DDR3のスロット数を増やした変更によって、もっとも影響を受けるのは、メモリモジュールだ。JEDECが標準ガーヴァーを策定するDDR3世代のメモリモジュールは、PC市場でのフォームファクタについては2008年までは大きな変更がない。下がMEMCON07 San Joseで公開されたPC向けモジュールロードマップだ。
「デスクトップは、Unbuffered DIMMでDDR2からDDR3でも移行し、ノートPCは、SO-DIMMで移行、サブノートPCはMicro-DIMMで移行する。この市場については、ラディカルなシフトは予測していない。また、スピードも典型的には1年に1度ずつ上がって行く。DDR3-1066は迅速にDDR3-1333へと移行するだろう」(Gervasi氏) OEMは、同じフォームファクタのままメモリ技術を移行できるため、メモリの移行はスムーズとなる。これが、JEDECがメモリモジュールで継続して来たことだ。実際には、DDR3ではUnbuffered DIMMはFly-byのルーティング方式に変更するなど、技術内容はかなり変更されている。だが、フォームファクタ自体とバッファチップを使わない点には変更がない。 しかし、もう少し先を展望すると、DDR3のスペック変更の影響が出てくる可能性があるという。 「業界の分岐点の1つとして出てくる疑問は、『いつデスクトップにRegistered DIMMが入るのか』という点だ。我々が(DDR3規格で)チャネルにもう1スロットを加えて、2スロット/チャネルにしたことで、タイミングバジェットはきつくなり、大きな困難となっている。そのため、Unbuffered DIMMで(転送レートの向上が)進むにつれて、壁に当たりつつある。 だから、DDR3のタイムフレームでどこかの周波数で、我々はデスクトップPCにおいても、Unbuffered DIMMからRegistered DIMMへの移行が起こるのではと考えている。その場合、歴史上で初めて(メインストリームの)デスクトップPCにRegistered DIMMが入ることになる。この興味深い(デスクトップとサーバーのメモリの)統合化が起こると、過去12年間とは、メモリの市場が一変することになる」とGervasi氏は説明する。
●限界に近づいているUnbuffered DIMM? 転送レートが上がるにつれて、メモリのタイミングバジェットは小さくなり、Unbuffered DIMMでのサポートが難しくなる。特に、現在のDDR3のように、2スロットで最大4ランク/スロット(Registeredの場合)のマルチドロップ型のバスになっていると困難が大きい。下の2005年7月の「Rambus Developer Forum(RDF) Japan 2005」でのRambusのプレゼンテーションを見るとそれがよくわかる。
理想型は、RambusのXDR DRAMのようにポイントツーポイントのデータバスでDRAMとコントローラを接続してしまうことだ。しかし、Gervasi氏が説明した通り、市場からの要請によってJEDECのメインストリームDRAMでは、そうしたアプローチは取りにくい。実際、DDR3ではポイントツー2ポイント(2ランクのDRAMをコントローラに接続する)だったのが、崩れてしまっている。そのため、しわ寄せが生じているというわけだ。DDR3では、現在はDDR3-1333までは、一応、2スロットで大丈夫と言われている。Gervasi氏の示唆するRegistered DIMMへの転換が起こるとしたら、その先のフェイズということになる。 もっとも、CPUメーカーはDIMM側のフォームファクタを変更しない方法も考えていると言われる。想定できるのは、マザーボード側にバッファアレイを並べるといった、何らかの仕掛けをする方法だ。しかし、マザーボードベンダーに対して、Intelなどは、まだDDR3-1333より先の具体的なプランを伝えていない。そのため、デスクトップでの2009年から先のメモリについては、まだ不鮮明な部分が残っている。 ●市場が急速に狭まるFB-DIMM DDR3スペックの変更の影響を受けたもう1つの要素はFB-DIMMだ。MEMCOM07でGervasi氏は次の図を示して、今後のサーバーメモリモジュールの変化を説明した。
「サーバーのメモリモジュールロードマップは、分断されている。我々は基本的に2つのキャンプを構成した。1つはRDIMMアーキテクチャで、DDR2からDDR3へ、汎用のフォーマットの中で移行する。もう1つのキャンプは、より革新的なアプローチのFB-DIMMだ。 しかしながら、FB-DIMMには、何かが起ころうとしていることがわかるだろう。FB-DIMMは迅速に伸び、市場のある程度のシェアを獲得した。しかし、FB-DIMMは、また迅速に消えようとしているように見える。実際、DDR3バージョンのFB-DIMMは、たぶん実現しないだろう(may not ever come)。我々が見るところでは、DDR3世代では、FB-DIMMをRegistered DIMMが完全に置き換えてしまうように見える」 FB-DIMMの規格化は、途中からIntelが強力に主導する形で進行した。例えば、現在のIntelのデュアルプロセッサプラットフォームはFB-DIMMとなっている。また、Intelは次世代のIA-64 CPU「Tukwila(タックウイラ)」では、CPU自体にFB-DIMMのコントローラを実装する予定だ。だが、Intelは次期のCPUマイクロアーキテクチャ「Nehalem(ネヘーレン)」世代では、デュアルプロセッサプラットフォームでは、FB-DIMMをサポートしない。Nehalemは、ハイエンドデスクトップとミッドレンジ以下のサーバーでは、最大3チャネルのDDR3をサポートする。そのため、プレゼンテーションの図が示すようにミッドレンジから下のサーバーでは、IntelプラットフォームでもFB-DIMMは消える運命にあると見られる。 デスクトップでは、Core Microarchitecture(Core MA)系で一時的にFB-DIMMがハイエンドに来るものの、Nehalem世代ではUnbuffered DIMMへと移る。IntelのDPプラットフォームがFB-DIMMベースであるためだ。 実質的に現在Mac ProがFB-DIMMベースだが、これもCore MA世代では継続される。Appleは今秋のMac Proの次世代ではDDR2-800ベースのFB-DIMMを採用する予定で、そのために現世代の「AMB(Advanced Memory Buffer:FB-DIMM上のバッファチップ)」でDDR2-800をサポートしようとしている。ただし、AMBのDDR2-800バリデーションのスケジュールはギリギリで、Appleが先行し、他のIntelプラットフォームは遅れる見込みだ。 Intelはハイエンドデスクトップ向けに、主にチャネルをターゲットにしたソリューションとして「Skull Trail(スカルトレイル)」を準備している。Skull Trailは、Core MA世代で、デュアルプロセッサで最大4ビデオカード構成のシステムを可能にする。このSkull Trailプラットフォームは、Unbuffered DIMMではなく、FB-DIMMとなる。 「(Core MA世代のDPデスクトップである)Skull Trailについては、Unbuffered DIMMはサポートされないだろう。バッファドのメモリのみをサポートする。しかし、Nehalemプラットフォームでは、我々はバッファドとアンバッファドの両方のバージョンを持つだろう」とIntelのPatrick(Pat) P. Gelsinger(パット・P・ゲルシンガー)氏(Senior Vice President and General Manager, Digital Enterprise Group)は今年4月に説明していた。 また、FB-DIMMについては、「AMB(Advanced Memory Buffer:FB-DIMM上のバッファチップ)」のDDR3向けの世代であるAMB2からFB-DIMMをサポートすることを検討していたAMDも、今はFB-DIMMのプランを完全に切り捨て、2009年に「Socket G3 Memory Extender (G3MX)」を導入することを発表している。FB-DIMMの広がりの芽は、そこでも消えていた。FB-DIMMが、ハイエンドのIntelサーバープラットフォームだけに限られると、DIMMコストが高くなってしまう。 こうした背景から、FB-DIMMの展望は根底から揺らいでいた。 ●消費電力とレイテンシが問題となったFB-DIMM FB-DIMMの製品化は、スタート時点からもたついていた。RambusがFB-DIMMに絡む基本特許を抑えており、RambusがJEDECに対して特許を開示しなかったためだ。そのため、FB-DIMM製品では、Rambusからの特許ライセンス取得が必要になり、ライセンス交渉のために、FB-DIMMの立ち上げがずれ込んでしまった。 しかし、実際にはFB-DIMMについての揺れは、それ以前から始まっていた。FB-DIMMはDDR2世代で導入されたが、もともとはDDR3のために提案された。「Hub on DIMM(HoD)」という名称でこのアイデアが紹介された時はDDR3とセットだった。DDR3向けの技術を、前倒しでDDR2に持ってきた“DDR2.5”的なアプローチがFB-DIMMだった。その意味では、DDR3をサポートするAMB2からが本当のFB-DIMMになるはずだ。 FB-DIMMの話が出てきた2003年頃は、DDR3世代ではRegistered DIMMはなくなり、バッファタイプのDIMMはすべてFB-DIMMになると言われていた。ところが、途中からDDR3でもRegistered DIMMの規格化がスタートし、FB-DIMMと併存することになって、雲行きが怪しくなり始めた。 Gervasi氏は、FB-DIMMが揺れ始めた理由を次のように説明する。 「我々が2002年に(FB-DIMMの議論を)スタートした時点では、(DDR3の)1チャネルに1スロットの環境を考えると、FB-DIMMは非常に意味のある技術だった。通常、転送レートが向上するにつれて、1チャネルのスロットの数が減ってゆく。それに対して、FB-DIMMは、どれだけのスロットがあってもスピードを維持できる。FB-DIMMでは原理的には1チャネル当たり8 DIMMまでの接続が可能だ。FB-DIMMでは片方向の偽シリアルバスによって、スタブバスの問題を完全に解決した。 では、何がFB-DIMMでまずかったのか。 まず、第一の問題は熱だ。「AMB(Advanced Memory Buffer:FB-DIMM上のバッファチップ)」は熱すぎて、非常に深刻な熱設計の問題を生じさせた。FB-DIMMでは、街の中心にチェルノブイリ原発(AMB)を据えたようなもので、風が吹けば、誰か(DRAMチップ)が死んでしまう(笑) もう1つの問題は、現実的には1チャネル当たり4スロットに限定されてしまったことだ。その理由は、FB-DIMM間のデイジーチェーン接続のシリアルチャネルのレイテンシが長いためだ。1チャネル8スロットは夢のようだったが、やはり現実ではなかった。 その一方で、我々はDDR3を1スロット/チャネルから2スロット/チャネルへと切り替えた。そのため、突然、Registered DIMMソリューションが、FB-DIMMソリューションに対してコンペティティブになり始めた。Registered DIMMのレジスタは、AMBより基本的に安価なテクノロジでコストも抑えられる。こうした事情から、私の予測では、DDR3のFB-DIMMはおそらく実現しないだろう」
●岐路にさしかかるメモリモジュール 確かに、従来ソリューションが1チャネルに1スロットのままだったら、FB-DIMMへの移行は納得できるストーリーだった。しかし、DDR3が2スロットとなる一方、FB-DIMMの長レイテンシによるスロット数の制約が見えてきたことで、FB-DIMMとRegistered DIMMの間での、システムのメモリ搭載容量での差が小さくなってしまった。そのため、FB-DIMMへと移行するモチベーションが薄れてしまったわけだ。 FB-DIMMのAMBは、非常に消費電力が大きく、それが熱に弱いDRAMチップのそばに設置されるFB-DIMMの構造が難しいことは確かだ。しかし、FB-DIMMの製品化時の説明では、この問題はある程度まで解決が可能だとされていた。最初の世代のAMBは電力消費が大きいが、AMBベンダーが経験を積み、より電力の少ないAMBチップを開発することで、将来は問題のないレベルまで落とし込まれるというストーリーだった。しかし、実際にはFB-DIMMが揺れたことで、AMBベンダーは消極的になった。そのため、AMBの改良も、当初の期待通りには進まず、電力の問題が解決しにくい状況となっている。こうした状況の変化によって、FB-DIMMは追い込まれつつあるようだ。 このように、JEDECの発表によって、DDR3世代ではこれまでとは若干流れが変わる可能性が出てきた。もっとも、JEDECは企業ではないため、登壇するメンバーによって意見が異なる場合も多い。しかし、デスクトップでのUnbuffered DIMMと、サーバーでのFB-DIMMが、岐路にさしかかったことは確かだ。 □関連記事 (2007年8月7日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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