●IBM製PCにLinuxを搭載
日本IBMの中古パソコン「IBM RefreshedPC」に、ノベルの「SUSE Linux Enterprise Desktop 10」を九十九電機が導入および初期設定し、最も安価なもので19,800円という値付けで販売する。 6月1日の午前中、ツクモDOS/Vパソコン館4Fフロア長の村島隆之氏に店頭の状況を尋ねてみた。「予想以上の反響です。30日に展示を開始以来、この製品を目当てに来店する人がかなり来ています」 かつてLinuxブームが起こった際、秋葉原がその発信源となった時期があった。しかし、Linuxのビジネス需要が拡大したのに伴い、秋葉原とLinuxの関係は薄らいだ印象がある。九十九電機では、「それを変えたい」という。 「個人にも購入しやすい中古パソコンにLinuxを搭載し、販売することで、これまでLinuxは自分には関係がないと思っていた層を獲得したい」(九十九電機 商品部 リユースPC課 福地淳郎課長)
果たしてその狙い通り、秋葉原が新しいLinuxブームの発信地となっていく可能性はあるのだろうか。 ●想定されるのはビジネス系と学生需要
九十九電機では2003年から日本IBMとパートナーシップを結び、IBMのRefreshed PC販売をスタートしている。メーカー自身が整備するRefreshed PCは中古の中では信頼性が高いといわれるが、なかでもIBM製のものはコアなユーザーがついている。コンシューマユーザーだけでなく、ネクタイ姿のビジネスマンの購入も多い。 「おそらく、Linux搭載モデルについても、ビジネス系の利用は結構あるんではないかと思います。これをきっかけに、来店するビジネスユーザーを増やすことができればということも、当然狙いの1つです」と九十九電機で今回の事業を担当した商品部リユースPC課の福地淳郎課長は説明する。 さらに、「理系の学生さんもターゲットです。新しいパソコンを購入するのに比べ、はるかに安くマシンを手に入れることができるので、勉強のために1台というケースも多いと思います」(福地課長)と学生需要も想定できるとする。 学生需要を想定し、当初の製品販売は秋葉原の2店舗のみだが、北海道大学に近い札幌店での販売も予定している。 学生需要については、実際に5月30日に店頭でのマシン展示を始めたところ、「学校でLinuxを勉強している学生さんの来店も多かったです」と村島フロア長も指摘する。 すでにLinuxを勉強している人だったら、わざわざ店頭でインストールモデルを買わなくても、自分でネット上からLinuxをダウンロードしてセッティングすることも技術的に十分可能なはずだ。 「確かにその通りなんですが、自分で全てをセッティングするのは面倒なので、インストールモデルが欲しいということでした。価格的にも新品を購入するよりも、Refreshed PCは魅力的ということでした」と村上フロア長は実際に店頭にやって来た人の声を紹介してくれた。 確かに価格としては、Refreshed PCの中でもWindows搭載モデルよりも安価な値付けにできることがLinux搭載機の特徴のひとつとなっている。九十九電機では、当初はOSなしのモデルを販売していたが、その後、Windows搭載モデルの販売を開始した。その中で、福地課長は日本IBMの担当者とこんな話をするようになったそうだ。 「Refreshed PCの価格は、スペックやマシンの状態によって異なるため、値段がこれくらいと一概にはいえないが、Windows搭載モデルと、非搭載モデルでは価格に1万円から2万円の差が出ます。『Windows搭載モデル、非搭載モデルの中間くらいの価格帯で販売できるといいんだけど』という話を日本IBMの担当者にしたんです。そうしたら、『SUSE Linux Enterprise Desktop 10をバンドルすれば、その要望を実現できますよ』と提案されたんです」 つまり、手軽さと低価格を実現することがLinux搭載のRefreshed PC販売を開始した狙いの1つであった。発売当初から、学生マーケットはその狙い通りに動き出したというわけだ。
●薄らいだ「秋葉原でLinux」のイメージ
取材前にはLinux搭載マシンの担当と聞いて、さては福地課長自身がLinuxの伝道師なのか、と思っていたがさにあらず。「実は今回の製品を発売するにあたり、はじめて自分の手でLinuxをインストールした」という。 自身が初めてLinuxに触れたからこそ、コンシューマユーザーがLinuxを選択する可能性があると感じたそうだ。 「実際にやってみると、インストール作業は決して難しくない。メディアをセットすると自動的にインストールが始まります。専門知識がないとインストールもできないというのは過去の話で、Windowsを使えるレベルの人であれば、問題なく利用できると感じました。Linuxは難しいと考えている人にこそ、店頭に来てもらいたいですね」と福地課長は期待する。 意外な感じもするが、ここ数年、秋葉原のパソコン販売店で、「Linux」を前面に押し出してアピールする店舗は決して多くはない。 '90年代後半、日本でのLinux普及時に大きな役割を果たしていたのが、ツクモDOS/Vパソコン館の並びにあった「ぷらっとホーム」の店舗である。当時、Linuxはビジネス需要が立ち上がる前の時期であり、Windowsの深夜発売にあわせぷらっとホームでもLinuxイベントを行なうことが当たり前となっていた。 しかし、ぷらっとホームの店舗は2005年に閉店している。これは同社のビジネスが店頭でビジネスを行うコンシューマ向けのものから、法人向けにシフトしたためだ。そしてLinux自身もコンシューマ用というよりも、企業向けの需要が増加。コンシューマユーザーが遊びで利用するLinuxというイメージは確かに薄れていった。 今回、九十九電機では、初めてLinuxを触る人でも利用できるように、Officeスイート「OpenOffice.org2.0 Novell Edition」、写真管理用ソフト「F-Spot」、グラフィックエディタ「GIMP」などのアプリケーションもバンドル。購入後、すぐに利用できる仕様となっている。 「まず、このマシンからLinuxを使い始めてもらって、その後、自分でサーバーを立てるためにLinuxを利用するといったことまで、スキルが上がるお客様もきっといると思います。そうしたケースに対しては、Refreshed PCだけでなく、当社のオリジナルパソコンを利用するといった需要も出てくるでしょう。そういうビジネスにも期待していきたい」と福地課長は語る。秋葉原の店頭におけるLinuxビジネスの可能性は十分にありと見込んでいるのだ。
●顧客と共にどれだけ成長できるかが鍵
今後、利用者のスキルアップをどれだけ支援していけるのかは、スタッフのスキルアップにかかってくる。どれだけスタッフが頑張っていくのかもこのビジネスの鍵となりそうだ。 また、搭載するLinuxも現在はSUSE Linuxだが、「お客様の要望に応じて、RedHat LinuxやTurbo Linuxといった品揃え強化も必要になってくると思います」と村島フロア長は話す。 秋葉原発でLinux需要が再活性化するか、否かは店員及び店頭の充実ぶりにかかっているといえそうだ。
□九十九電機のホームページ (2007年6月5日) [Reported by 三浦優子]
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