大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Vista時代の富士通のPC事業戦略とは
~出足で誤算も、着実なリカバリー




1月30日、正式発売を開始したWindows Vista

 富士通のPC販売が、1月30日のVista発売以降、順調な出足を見せている。

 BCNランキングの調べによると、富士通製PCの販売実績は、発売第1週目には前年同週比12.8%増、第2週目は6.6%増。市場全体が、第1週目に6.1%増、第2週目に3.4%減のマイナス成長となったことと比較すると、それを上回る実績で推移。Vista発売以降、シェアを引き上げたことになる。

 Vista発売2日間の機種別販売シェアでも、デスクトップ市場では上位5機種中4機種を富士通が独占。ノートPCでも上位5機種中2機種が富士通となるなど、まさに順調な出足だ。

 だが、すべてが順風満帆だったわけではない。初期出荷において、富士通には大きな誤算があったのだ。

●富士通が出足で見せた誤算とは

 では、富士通の誤算とは何か。

 富士通の個人向けVista搭載PCのラインナップを見るとそれがわかる。

 富士通は、Vista発売にあわせて投入した個人向け春モデル、30モデル中11モデルで、Vista Home Basicを搭載。さらに、初期出荷の構成比では約6割がHome Basicになると読んでいたのだ。

 NECは、個人向けPCとして投入した27モデル中23モデルにVista Home Premiumを搭載し、主力モデルでは、Vista Premiumロゴを取得。Home Premium中心の戦略を徹底したのと比較すると、まさに対照的な手の打ち方だった。

富士通経営執行役 パーソナルビジネス本部長 山本正己氏

 富士通経営執行役 パーソナルビジネス本部長 山本正己氏は、その理由を次のように語る。

 「Vista搭載PCを購入する初期需要を考えると、まずは、PCを買い控えていたユーザーの購入が中心となる。その点では、Windows XP搭載PCと大きな価格差を感じさせないような、継続性のある価格設定が必要だと考えた。Home Premiumでは、必要となるスペックがどうしても価格に転嫁されることになる。Home Premium搭載モデルよりも、2~3万円安く価格設定できるHome Basicを先行させたのはそうした理由からだった」

 同社では、Vistaに対する認知度が高まり、そのメリットなどが浸透するであろう、3月以降の夏モデルにおいて、Vista本来の機能を楽しむことができるHome Premium搭載モデルの構成比を、一気に引き上げるつもりだったのだ。

 だが、市場は初期出荷分から、Home Premiumを中心に動いた。BCNランキングの調査では、Home PremiumとHome Basicの販売比率は6対4。富士通の読みとは、まったく逆の売れ行きを示したのだ。

 「予想以上に、Home Premiumに搭載されている機能を使ってみたいというユーザーが多かった。ここは確かに誤算だった」と、山本本部長は正直に認める。

 マイクロソフトWindows本部のジェイ・ジェイミソン本部長は、Vistaのプロモーションキーワードの1つに、「プレミアムデジタルライフ」という言葉を使い、一歩進んだデジタルライフスタイルの提案とともに、日本の市場ではHome Premiumをマジョリティとする施策を打ち出すことを示していたが、これも販売店店頭の動きに影響を及ぼしたといえよう。

 だが、富士通は、この誤算を見事に吸収してみせた。生産計画を一気に見直し、Home Premium搭載モデルの生産比率を短期間に引き上げたのだ。

 島根富士通、福島アイソテックという国内生産体制を背景にした柔軟な対応力の強みが、ここでも発揮されたことになる。冒頭に示したように、富士通の販売台数が、業界全体よりも伸び率が高かったことを見ても、その誤算からのリカバリー策によって、実売にはまったく影響しなかったことがわかる。

●MyMediaにこだわった意味とは

 富士通は、Vista搭載PCでもう1つのこだわりを見せた。それは、富士通独自のコンテンツ操作アプリケーション「MyMedia」を、メディアセンターに統合しなかったことだ。NECが「SmartVision」を、日立製作所が「Prius Navistation」を、それぞれメディアセンターと統合したのとは一線を画する取り組みだといえる。

 山本本部長は、「メディアセンターが将来的には本命になると思っている」と前置きしながらも、「Vistaで地デジがサポートされていないなど、まだ過渡期であるのも事実。富士通は、MyMediaによって、ワンセグを含めた形で、地デジをPCで視聴するという提案や、デジタルコンテンツを管理するという提案を、他社に先駆けて取り組んできた自負がある。Vista搭載モデルでも、地デジ機能を搭載したモデルが出荷数量の半分以上を占めているのが富士通の特徴。過去からのオペレーションの互換性、MyMediaで先行した地デジの視聴/管理ノウハウを、当社自らが、投資を継続し、環境を保証していくことが、今はユーザーの利益につながる」と語る。

 PCでTVを視聴するという使い方は、Vistaの時代になってさらに増加するだろう。

 「PCでTVを視聴したいという人が増加すれば、当然、PCはTVと同じ操作環境に進化しなくてはならない。リモコンで操作できたり、直感的にHDDに録画できたりといったこともできなくてはならないし、ゲーム専用機の使い勝手や、携帯電話の利便性といったものも取り込んでいく必要がある。これまでは、何でもできるということがPCの特徴となっていたが、いまは、それぞれの機能が、1つの製品として完結するだけの高い完成度が求められている。そうした意味で見た場合、MyMediaについては、しばらくの間、当社が自ら投資をして、地デジをはじめとするデジタルコンテンツを、使いやすくする環境を提供していくことが必要だと考えている」と語る。

 MyMediaとメディアセンターの2本立て戦略は、富士通のこだわりの結果というわけだ。

●Vista時代の2つの挑戦

 富士通は、Vista時代に突入したのにあわせて、2つの挑戦を開始している。

富士通のリビングPC「FMV-TEO」

 1つは、新たな製品として投入したリビングPC「FMV-TEO」である。具体的な機能については、他稿に譲るが、ディスプレイを持たないTEOは、リビングに設置される大画面薄型TVなどと、HDMIで接続して利用するという、新たなPCの世界を提案する製品だ。

 「TEOは、Vista時代の新たな使い方の提案。だが、すぐに実績につながるとは思っていない。Vistaそのもののメリットや機能が認知されるようになれば、自然と注目を集めることになる製品。長い期間をかけてじっくりと育てていく製品だ」と山本本部長は語る。

 TEOは、ようやく店頭展示が開始されたところだ。まだ、一部店舗の展示だが、「最終的には2,000店舗での展示を見込みたい」と語る。

 ただ、ソニーの「VGX-TP1」同様、これまでにない製品だけに売り場への展示に苦労する販売店も少なくない。薄型TVのコーナーに展示すれば、商品の存在感を示しにくく、PCの専門知識を持たない薄型TV売り場の店員も説明に苦労する。一方、PC売り場に展示すると、TEOならではの特性が表現しにくくなってしまう。

 山本本部長は、「まずはPC売り場への展示が先決」と語り、PC売り場に、大画面薄型TVを持ち込んだ展示提案を先行させる考えだ。だが、山本本部長が指摘するように、長期戦となるのは明らか。この挑戦の成否は、1年以上の期間を見て判断すべきだろう。

液晶一体型の「EK」シリーズ

 もう1つの挑戦が、DESKPOWERで用意した「EK」シリーズだ。

 EKシリーズは、2006年秋から投入している液晶一体型の新シリーズだが、Vista時代にも同製品は引き続きラインアップされている。この製品は、機能面での挑戦というわけではない。むしろ、営業、マーケティングの観点からの挑戦だといえる。

 EKシリーズの特徴は、富士通が得意とする地デジなどの機能を排除し、インターネットやメールを楽しむ、あるいはOfficeなとの基本的なアプリケーションを利用するといった使い方に特化したものだ。

 コストパフォーマンスを追求することを前提とした製品で、いわば、eMachinesなどが得意とする領域。「言い換えれば、国産大手メーカーが、回答を用意していなかった領域」(山本本部長)ともいえる。

 価格設定を低価格とする一方、値引き幅が少なく、常に一定の価格で販売されるというビジネスモデルとなっているのが特徴だ。Vistaの高機能性とまったく対極の製品とはいえるが、ここではVista Home Basicを軸として、富士通は継続的に機能強化を行なっていくという。

 「2006年秋からの成果を見れば、予想以上の売れ行きを見せている。こうした市場が明らかに存在することを認識している」と、今後も、この領域に挑戦していく姿勢を見せる。

●夏モデルはどうなるのか?

 富士通社内では、早くも夏モデルの準備が佳境に入ろうとしている。これは各社とも同じ状況だ。

 では、富士通の夏モデルはどうなるのだろうか。山本本部長は、いくつかのヒントをくれた。

 1つは、「元祖」地デジPCのメーカーとしての進化だ。「ワンセグ、フルセグを楽しめる環境をさらに進化させたい。地デジPCメーカーの元祖として、こだわりの進化が鍵になる」と語る。

 2つめは、セキュリティ機能の作り込みだという。指紋認証機能などの同社が持つセキュリティ技術を、Vistaにあわせて進化させたいという。

 そして、3つめがVistaで何ができるかという提案にあわせた機能強化である。「夏モデルの発売時期になると、Vistaでこんなことができる、こういう機能があるという認知が、多くのユーザーに広まっているだろう。そのタイミングにあわせたVistaの利用提案と、それを具現化する製品の機能強化を図っていく」と語る。

 Vista時代の富士通のPC戦略は、地デジとの連動が1つの軸となるのが明らか。また、携帯電話の事業部門と同一の体制としている強みも、なんかしらの形で発揮されることになるだろう。さらに、メインストリームの製品だけでなく、TEOやEKシリーズなどの幅広いラインアップで、多くのユーザーニーズに対応していく姿勢も見せている。

 Vista時代の富士通PCの進化が楽しみである。

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□関連記事
【2月7日】Vista発売から1週間、上向いた市況に喜べない実状とは
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0207/gyokai195.htm
【2月5日】マイクロソフト、デジタルライフを紹介するイベントをHMVと共同開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0205/ms.htm
【1月15日】富士通、HDMIで大画面TVと接続するリビングPC「FMV-TEO」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0115/fujitsu1.htm
【1月15日】富士通、Vista搭載の「DESKPOWER」シリーズ春モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0115/fujitsu3.htm

バックナンバー

(2007年2月19日)

[Text by 大河原克行]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.